Entrance
「いってきます」と「ただいま」の言葉が行き交う玄関は、家の内と外をつなぐ空間。その象徴はONとOFFのスイッチではなくて、“あちら側”へのスムーズな入り口としての扉だ。
家からコートを羽織って扉を開ければ、外の世界にぴりっと身が引き締まり、逆に出先から帰ってルームシューズに足を通せば、ほっと一息気持ちがほぐれる。
玄関という場所が内からも外からも“ウェルカム”な状態ならば、心なしか扉も軽く、気持ちが良いものだ。
Key Items for Entrance
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冬の外出は楽しい?
好きな季節を問われたら、春か秋。暑すぎず、寒すぎず。風が心地よく感じられる季節が好きだ。結果、酷暑の夏や極寒の冬は室内で過ごすことが多くなる。本を読み、映画を観て、ギターを練習したり、ふだんはしないお菓子作りに挑んでみたり。
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旅のおともに香りを
身支度を済ませスーツケースを持って玄関に向かうと、しっとりした木々の香りが身体の緊張をほどいてくれた。久々の一人旅。危険な目に合うことはないだろうか、現地の人とうまくコミュニケーションはとれるだろうか……なんて、昔の自分が聞いたら笑っているかも。
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明日を想像する
泥棒がくるから夜は口笛を吹いてはいけない、という迷信同様に、夜は靴をおろしてはいけないという母親の言葉は、大人になった今も耳に残っている。泥棒がやってくるのも、何か不吉なことが起こるのも、運と確率の問題だ。
select:TAKANORI KURODA
コートの襟を立てて
颯爽と歩きながら聴きたい5曲
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MUSIC_01 Walk Out to Winter
1980年、グラスゴー出身のロディ・フレイムを中心に結成されたバンド。彼らのファースト・アルバム『High Land、Hard Rain』(1983年)に収録の曲。アコースティックなサウンドは、パンク・ムーヴメントが去った後の殺伐とした空気の中、新鮮に響きました。“ジョー・ストラマーのポスターが壁から剥がれてる”という一節は、当時17歳のロディにとって『パンクからの決別』を意味しており、『寒い季節』に向かって歩き出す強い意志を感じます。
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MUSIC_02 ドアをノックするのは誰だ?
フリッパーズ・ギターを解散した小沢健二が、ソロ名義でリリースしたセカンド・アルバム『LIFE』(1994年)からのシングルカット。またの名を、横恋慕ソング(笑)。駆け上がるストリングス・セクションや、弾むようなモータウン・ビートに心がウキウキすること必須(ジャクソン5の「I Will Find A Way」に歌い出しがソックリなのはご愛嬌?)。“寒い冬にダッフルコート着た君と 原宿あたり風を切って歩いてる” 冬といえばこの一節を必ず思い出します。
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MUSIC_03 Let's Go Out Tonight
『ムーラン・ルージュ』や『ラブ・アクチュアリー』などを手がけた映画音楽家、クレイグ・アームストロングがソロ名義でリリースしたファースト・アルバム『The Space Between Us』に収録。カナダの映画監督グザヴィエ・ドランによる『わたしはロランス』(2012年)のエンドロールで流れて一躍有名に。コートを着た主人公ロランスが、万感の思いを胸に歩くラストシーンが浮かんできます。冬の道をしんみり歩くときに思わず聴きたくなる曲。
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MUSIC_04 みんな急いでいる
フィードバック・ノイズを美しくデザインし、ロックンロールのフォーマットで鳴らすバンドとしては日本で最高峰に位置するTHE NOVEMBERS。2017年、ベスト・アルバム『Before Today』をリリースして、自らの活動の総決算を行った彼らが次にたどり着いた境地といえるのが、新作EP『TODAY』に収録されたこのリード・トラック。これまでになく静謐で美しいメロディと、音数を削ぎ落としたバンドのアンサンブルは、冬の景色に溶け込ませながら聴きたい。
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MUSIC_05 Jesus Was A Cross Maker
ジュディ・シルは、1970年代に活躍したシンガー・ソングライター。薬物のオーバードーズによって命を落とすまでに、2枚の素晴らしいアルバムを残している。キャロル・キングやジョニ・ミッチェルの系譜に連なるアコースティックなアレンジの中に、バッハから多大な影響を受けたホーリーな響きが内包されているのが特徴。冬といえば、クリスマス、クリスマスといえばジーザス(キリスト)…というわけでもないが、クリスマスにもぴったりの美しい楽曲だと思います。
PROFILE
- 黒田隆憲
- ライター/カメラマン。ビートルズとマイ・ブラッディ・ヴァレンタインとビールをこよなく愛するフリーランスのライター/カメラマン。2013年のマイブラのツアーでは、世界唯一のバンド公認カメラマンとして世界中を回りました。共同編集に『シューゲイザー・ディスク・ガイド』、『ビートルズの遺伝子ディスク・ガイド』。著書に『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』ほか。