Hand cream & Candle
旅のおともに香りを
身支度を済ませスーツケースを持って玄関に向かうと、しっとりした木々の香りが身体の緊張をほどいてくれた。
久々の一人旅。危険な目に合うことはないだろうか、現地の人とうまくコミュニケーションはとれるだろうか……なんて、昔の自分が聞いたら笑っているかも。学生の頃は暇さえあれば旅ばかりしていた。行き先だけ決めて航空券を買って、一人でひょいと旅に出る。何をするかもどこへ行くかも気分で決めるという、いきあたりばったりの旅。宿泊もドミトリーが定番の貧乏旅行だ。でも、長く勤めた会社を退職して行く、今度の旅はちょっと違う。今は恋人もできたし、大好きな猫もいる。日曜の朝にはお気に入りのアンティークの白いお皿でゆっくりとるブランチも大切だし、仕事が早く終わった夜は洗面器にお湯をためて、足湯をしながら読書をするのも格別なリラックスタイム。強いて言うなら、昔より地に足がついてきた感じ、かな。
だからせめて心を落ち着けようと、SKANDINAVISKのキャンドルを焚いておいてよかった。その横にある同じ香りのハンドクリームを無造作にポケットにつっこんだ。大きく深呼吸。この香りが旅のお守りになってくれるはず。キャンドルの火を吹き消し、扉を開けた。