毎号、各ジャンルで活躍されているゲストをお招きし、その生き方を訊く本連載。今回は、ピンクを基調とした世界に少女を描き、それらを空間いっぱいに貼り付けたインスタレーションで話題のさいあくななちゃんが登場。2018年には、岡本太郎現代芸術賞(通称TARO賞)にて大賞である岡本太郎賞受賞。そのパワーの源泉やロンドンでの驚くべき出来事など、元気になれるお話がたくさん聞けました。
ぶっ壊せないアートは、アートじゃない!
桑原茂一(以後、桑原) さいあくななちゃんの作品に出会ったのはまさにこの場所、オン・サンデーズなんです。ワタリウム美術館に『ジョン・ルーリー展』を観にきて、階段を降りたら「なんじゃこりゃ!」って。以前、パリのギャラリーで似たような作品を観たことがあったので、「こういうの流行ってるのかな〜」と最初は思ったんです。でも、彼女の本『芸術ロック宣言』を読んだら、その赤裸々な言葉に胸を打たれて。それ以上に、絵が年々上手くなるプロセスが見えて「これはすごい人だぞ」と。
さいあくななちゃん(以後、ななちゃん) ありがとうございます。
桑原 我々の世代の悪い癖かもしれないけど、何か新しいものを見ると「今、こういうのが流行ってるのね」と安易に思ってしまう。外国の文化を真似してきた時代が長かったからか、何かしらのソースが外側にあるとつい思ってしまう。自戒を込めて言いますけど、「それが一番ダメ!」なんです。
ななちゃん (深く頷く)
桑原 我々が作ってしまった価値観は、音楽でもアートでも食でもなんでも、とてもいい加減なものだと自覚しないといけない。そういう意味で、「皆さん! さいあくななちゃんという名前や作品を一瞥しただけで、勝手に何かを想像してカテゴライズしていませんか?」と問いかけたい。それをやってしまうと、本当の意味で「絵を観る」という立ち位置には立てないんですよね。日本人の多くは、「村上隆さんの作品は3億もするんですって」で止まってしまう。本質を見ようとしないから、アートを見ているのかお金を見ているのかわからなくなる。
ななちゃん とっても嬉しいです。まさにそういう風にお客さんから見られることが多くて。自分のやりたいことが届く人には届いているんですけど・・・、本当は届くはずなのになぁ〜と思ってしまう場面は多いですね。
桑原 誰もが「アートの世界で食べていくのは大変だ」とか、「できるわけない」と思い込んでいるガチガチの世界を、ななちゃんは簡単にぶっ壊していく。でも、本来ぶっ壊せないアートなんて、アートじゃないんですよ。
ななちゃん そうなんです! アートとか芸術のくせに予定調和なものが多いし、私の欲しいものはなかなか日本にはない。だからこそ、「私がやってやりますよ!」と思っていて、毎日絵を描き続けていて、そのワケのわからないパワーで生きているんです。もう7〜8年は毎日描いていますし、ロンドンから帰ってきた日も描いていました。
私がやろうとしているアートは「生き様!」なんです
桑原 そうだ、先日ロンドンから帰ってきたばかりでしたね。何のコネクションもなく行って、しっかり個展まで開いて帰ってきたんですよね? 僕からしたら驚異でしかないんだけど。
ななちゃん 本当に知り合いも誰もいなくて、ロンドンも初めてだから土地勘もまったくなくて。でも、夏頃からずっとムズムズしていたんですよ、美術関連のトラブルが起きたあたりから。
桑原 表現の不自由展ですね。
ななちゃん 私は参加していないですし、何の関係もないですけど、ものすごくショックだったんです。ネットを開くたびに生きた心地がしなくて、どん底な気分になって、他の人の絵を観ても元気になれなかった。でも、オアシスの音楽を聴いているときだけは幸せだったんです。
桑原 うん。
ななちゃん 彼らは個人的なことを歌っていて、自分が信じていることを音楽にしていて、それが私に響いた。「とりあえず描きたい!」「生きている毎日を描きたい!」。つまり、「ロックンロールみたいなものをやりたいんだぜ!」という気持ちがすごくあって、それを夏に再確認したんです。
桑原 ロックンロールなんだ。
ななちゃん そう、ロックンロールなんです。うまく言葉では説明できないけど、「やってやるしかないんだよ!」という気持ちで、ひとりロンドンに行ったんです。知り合いもいないし、どんなところかわからないけど、生き様なんです。自分がやってやろうとしているアートは。
血を吐いて死ぬなんてロックじゃん!
桑原 ロンドンに行ってみてどうでした?
ななちゃん 到着してすぐに風邪をひいて(笑)。「なにやってるんだろう」って、哀しみに暮れながら毎晩泣いていました。
桑原 そのヴィジュアルでひとり泣いていたら、絵になりますよ。
ななちゃん いやいや、お部屋でじっと泣いてみたり、テムズ川を眺めて途方にくれたり・・・。テムズ川はゴミだらけで濁っていて、それを見ていたらさらに泣けてきて。
桑原 若いときは、「明日のことなんてどうでもいいんだ」という瞬間が誰にでもある。なのに、社会で揉まれているうちに、その感覚が戻ってこなくなる。アートを生み出す人は、そうはならない人でないと存在理由がないんですよ。「自分にはできないけれど、こんなふうに生きている奴がいるんだ!」「くそー! いいなー!」って思われる存在にならないと。音楽でもアートでもスポーツでも、その一瞬に生きている人を見ると「俺も頑張らなきゃ」と思うわけで。そういうピュアな感覚を、お金や権威に置き換えて理解しようとするからわからなくなる。
ななちゃん う〜ん、それはどうすればいいんだろう・・・。
桑原 いやいや、ななちゃんはそこを頑張らなくていいんですよ(笑)。ななちゃんは、今日は明日も何も考えずに絵を描きまくればいい。そうしているうちに、「1年に1回くらい私もこうなりたい!」という人が出てくる。それこそ最高じゃない?
ななちゃん 本当におっしゃるとおりで、私は死んでもいいんですよ。ロンドンに行って具合いが悪くなって血まで吐いて。救急車で運ばれて、ロンドンの病院で点滴を打たれながら「血を吐いて死ぬなんてロックじゃん! これがやりたかったよ!!」って思いましたから。
悲しみや苦しみ、怒りはネガティブなものではない
桑原 ほとんどセックス・ピストルズの世界に入ってる(笑)。破滅的な美学をパワーに変えるのは昔からなの?
ななちゃん う〜ん、なんでこういう気持ちになったんだろう・・・。昔からロックは好きだったんです。すごく悲しいことを歌っていたり、すごく怒ったりしていても、最後には「明日頑張ってやるんだ!」という気持ちになる。そういう表現をしたいというのは、たぶん小さい頃からあったと思うんです。
桑原 それがようやく表現できるようになったんですね。
ななちゃん 悲しみや苦しみ、怒りって日常に溢れていますよね。でも、それはネガティブなものではないと思っていて、美しさを感じるときもある。とはいえ、さすがにネットの世界は邪悪過ぎます。あの世界と、私が感じる悲しみや苦しみはどこが違うのかと考えると、彼ら彼女らは「この国は終わってる」「この国は変わらない」で完結させてしまっている。そうじゃなくて、「この国をどう面白くするのか」「毎日をどう面白くしてやるのか」、その姿勢こそがロックなんですよ。私はそれを絵でやりたい。
桑原 もはや日本を変えようとしているんだ。
ななちゃん それぐらいの勢いですよ! でも、叶うんじゃないかな? と思うんです。だって、ロンドンで個展を開くまでも無茶苦茶でしたから。
桑原 そこですよ、どうやって実現させたんですか?
ななちゃん そもそも、ロンドンでも毎日描いていたら2週間で60〜70個できてしまって。単純に「どこかに飾りたい!」という感情が爆発したんです。そこから急に調べだしたんですけど、滞在期間が残り2週間しかないので、どこもダメで。そんなとき、桑原さんが大竹彩子(アーティスト)さんのことを書いた記事を読んだんです。
桑原 えっ、そうなんだ。
ロンドンで描いた絵を抱え、ギャラリーに飛び込み営業
ななちゃん 彩子さんもロンドンで個展をやっていたなと思って調べたら、その場所が部屋から5駅くらいで。時間もないので、自分の絵を持って直接売り込みに行ったんです。そうしたら会場が閉まっていて、めちゃくちゃうなだれたんですよ。仕方なく、貼られていた連絡先をメモしていたら、南米系のおじさんに話しかけられて。「どうしたの?」って聞いてくるから、「I want exhibition!」みたいなことをずっと言っていたんですけど、「実はここの大家なんだ」って。
桑原 すごい偶然!
ななちゃん すごく良い人で、ギャラリーをマネジメントしている会社の電話番号を教えてくれたんです。すぐに電話したら、「今日はたまたま閉まってるけど、明日ならミーティングできるよ」って。
桑原 そんな柔軟なイギリス人いるの? 彼らはかなり頑固ですよ。
ななちゃん 『TSURU+LIM』という地下にある美容室なんですけど、その美容室の1Fに展示スペースとして使っている場所があって。打ち合わせをしてくれたのも、私より2つ上の日本人だったんです。その方も3ヶ月前にロンドンに来たばかりで、「ひとりでお店を仕切らないといけないけど、人生を賭けてここにきた」と語っていて、すごく意気投合して。作品も気に入ってくれて、彼のボスを説得してくれて「明後日からやりましょう!」という漫画のような展開になったんです。
桑原 ミラクルだね。
ななちゃん 搬入して準備が終わった瞬間、「こんなに嬉しいことがあってたまるかよ!」と、ものすごく感情が高ぶりましたね。「別にもう誰も来なくてもいい」っていう、初めて展示をやった学生時代の気持ちが戻ってきたんです。そのときに、常にこの状態で生きていないとダメだ! 人の反応よりも先に、自分が一番高揚していないと私は終わってしまう。そう実感できたとき「これからの自分はもっとカッコよくなる!」と確信しました(笑)
若い子には「やっちゃえ! やっちゃえ!」と言っています
桑原 今はインターネットで何でも揃うから、完璧に準備して、安全確保ができた状態でないと旅行しない人が多いですよね。でも、本当は行っちゃえばどうにかなるし、出会いもあるし、うまくいけば助けてくれる人もいる。日本を離れてみるだけで、今までなかったものがそこにあるんだというのは、ぜひ伝えて欲しいですね。最近は海外に行く人たちがすごく少ないから。
ななちゃん 行っちゃえばいいんですよ。あんなに気分が高揚することはなかなかない。個展の前日なんて、19歳の自分がいましたから。
桑原 若い子から相談されることも多いでしょ?
ななちゃん 多いです。展覧会をやると、10代や20代前半の子たちがライブ会場のようにバンバン来てくれるんです。アートの世界はいまだ権威的なところがありますけど、そういう子たちが来てくれることで希望が生まれるんです。彼らはみんな夢を持っていて、でも「先生から否定されて困っている」とか相談されるんです。そんなときは、「やっちゃえ! やっちゃえ!」と言ってしまいますね。
桑原 これを読んだら、ファンがまた増えるね。
ななちゃん 「やっちゃおう!」というファンが増えてほしい。
桑原 夢は強く思うほど叶うから。
ななちゃん 叶う!だから私は、現代美術の世界を変えることを叶えます!! 危険だし安全じゃないかもしれないけど、それくらい大きな意気込みで生きていたほうが楽しいから。絶対にどうにかなるし、待っていてくれる人は必ずいますから。
桑原 最高だね!今日はありがとうございました。
- Rock 'N' Roll Star
- Oasis
Oasisで一番好きな歌。この夏はこの歌ばかり聴いてました。特に歌詞が大好きです。「俺は輝かしいスターとして人生を生きる連中はそれを時間の無駄だと言い教養を高めるべきなどと抜かすが俺にとってはそれこそ退屈な時間だ 今夜、俺はロックンロールスター」頭が良い大人なんてほっといて、自分の描きたい絵を描こう。っと。
- Do you remember?
- 宮本浩次
帰国してから、すぐにこの歌が主題歌になっている映画「宮本から君へ」を見に行きました。UK滞在中にロンドンにこれから長期で挑みたいという気持ちがフツフツと湧き上がっていて、この映画を見てガツンとやられました。もう一度今度は長い期間ロンドン行ってやろうと思います。宮本浩次さんの歌を聴くといつも生きていることに正直に生きていたいと思わせてくれます。
- Absolutely Imagination
- GEZAN
今日本のバンドで一番「少数の脅威」を見せつけてくれてるバンドだと思います。今こんな時代に届かなきゃいけないロックンロールです。
さいあくななちゃんの会
◯なさん ◯んばんは。み と こ が入れ替えると、こなさんみんばんは。
さて、今夜は ”さいあくななちゃん” をお呼びして海賊船 Pirate Radio をお送りします。
「私がやってやりますよ!」「私がやってやりますよ!」「私がやってやりますよ!」「私がやってやりますよ!」「私がやってやりますよ!」「私がやってやりますよ!」「私がやってやりますよ!」
と思っていて、毎日絵を描き続けていて、そのワケのわからないパワーで生きているんです。
もう7〜8年は毎日描いていますし、ロンドンから帰ってきた日も描いていました。
そんな、さいあく ななちゃん さ と な を入れ替えると、ないあく さなちゃん になります。
つまり、悪は無い、さなちゃん。ですから、良い子ちゃんですね。
わからないパワーで生きているんです。= 根拠のない自信で生きている。
窮鼠猫を嚙むは猫が敵ですが、ななちゃんが鼠なら社会が猫という事ですね。
云ってみれば自分の弱点を最高の武器にしている。武器を持っても負ける時間を数秒伸ばすだけなら、 そのお金を教育費に使って負けない方法を考える人を育てる。弱点を最高の力に変えるのはその人の考え方次第。
お金は必要ありませんね。毎日書く力が生み出すのはアートです。アートでお腹は膨れないと言いますが、 そのアートで救われた人がそのアーティストにお返しすれば良いだけです。アートもお米も同じ循環です。
問題はそのバランスですね。それを整えるのが、わからないパワーで生きているんです。= 根拠のない自信で生きている。という事だと思いま す。別の言い方をすれば、3分でカップヌードルが食べれる。同時に3分で核兵器が爆発する。
食べながら死ぬ。そのまま死ぬ。ななちゃんは食べながら死ぬ。生きる欲望を諦めない。多分ななちゃんは絵を描きながら死ぬ。
つまり幸福とは時間との距離だと思います。あなたの時間の過ごし方という意味です。
今日を生きる。八時間寝るとすると、16時間が勝負です。多分、目の前の事以外考える時間はあまりありません。
考える時間の代わりに仕事してご飯の買い物をしてご飯を二回作ってその洗い物をして衣服の洗濯して寝場所や仕事場をトイレ風呂を掃除してト イレや風呂に入って寝る。あっという間の今日です。もちろんここに良い本を読む良い映画を見る良いアートに触れる良い音楽を探す良い人と恋 愛する良い人とメイクラブもする散歩するなどが含まれるのです。
それに引き換え、これからもう50年生きることを考え始めると、50年間毎日八時間寝るのですから、400時間寝てます。残りは、800時間です。
800時間をかけて老後の心配を考え始めると死にたくなるほど考える時間がありますね。
考えながら死にたくないので、わたしは今日を生きることにしています。生きる単位が今日なんです。
ななちゃんのわからないパワーが描く絵画にわたしも刺激を受け、これ大事です。エネルギーが足りないと思ったら、エネルギーの溢れている人 やものへ近づいてください。余剰エネルギーが溢れているのでおこぼれがもらえます。アートであれ音楽であれ、成功するのはそこにパワーが溢 れているからです。わたしのパワーの源は何と言っても選曲です。ななちゃんをテーマに選曲をしました。
まさにそこにある探せばあるあらゆる絵の具を塗りたくって描きまくって暴れまわって心を素っ裸にして選曲しました。聞いてください。
海賊船PirateRadio 第491回目 『 Yeh i might 』
初代選曲家 桑原 茂→
moichi kuwahara pirate radio free your mind
PROFILE
1992年、山梨県生まれ。
一般的なサラリーマン家庭に育つ。高校卒業後、クリエイティブな世界に憧れつつも「就職先が一番ありそう」という理由でデザインの専門学校に入学。そこで出会った絵の講師に影響を受け、デザインをやめて絵に没頭する。
活動当初は本名で活動していたが、バイト先の同僚に自身の絵を「さいあく」と評され、本名の「なな」に「さいあく」をつけて、「さいあくななちゃん」と名乗り2015年から都内を中心に個展を開催。
芸術の分野にとらわれず、自身が音楽好きなことから、ミュージシャンとのコラボやグッズ提供など幅広い分野で現代美術シーンに殴り込む。2018年、第21回岡本太郎現代芸術賞にて大賞である岡本太郎賞受賞。その後NYにて個展も開催。2019年にはロンドンでも個展を開催した。