SHIPS MEN
BRAND FEATURE
ポストオーバーオールズが
築き上げた新しい価値
言わずもがな、ファッションの重要ジャンルであるワークウェア。その先駆者であり、30年を経てもなお変わらぬスタイルを追求している〈ポストオーバーオールズ〉。SHIPS ではデビュー当初より取り扱いを続け、コンスタントに別注アイテムもリリースしています。お客様はもちろん我々スタッフにもファンの多いブランドの現在地を、デザイナーの大淵 毅さんに伺いました。
Post O'Alls / ポストオーバーオールズ
1993年、ニューヨークにてスタート。アメリカを中心とする古きよきワークウェア&そこから派生した機能服をリスペクトし、オーセンティックなディテールや縫製、生地などを再現しながらも、独自のミックスとアレンジを加えたプロダクトをメイド イン USAにて提案。2018年、オフィスを東京に移すとともに、生産拠点も日本へ。ヴィンテージに匹敵し、ヴィンテージにも合わせられる新しくタイムレスなワードローブを、設立より一貫して作り続けている。
長く愛せる一着を目指して
最初から時間を見越していた
「〈ポストオーバーオールズ〉は昨年30周年を迎えました。それを記念して、2023年と'24年の秋冬シーズンは、ヴィンテージのワークウェアをそのときに着たいムードで提案するという創業時のアイデアのもと、1993年秋冬のデビューコレクションを現代の感覚で再編集し、時を重ねたブランドの “ 今 ” を表現しています。
当時のラインナップは全15型でしたが、改めて見ても好きなアイテムばかりです。ブランドを始める前に、古着をいろいろと研究して各モデルにおけるベストなイメージが自分のなかにあり、さらに年月が流れたときにどう映るか、そして着込んだらどのように変わっていくか……そんな、時間の経過を考慮したデザインを心掛けていたことを思い出しました。
どんなデザインやシルエットも時代によって格好よく映ったり、そうでなかったりと対比によって印象が変わります。だからよく見える期間が長いであろう、もしくは、なるべく長い間よく見えるようなデザインやパターンを考えていました。いくら丈夫で着心地がよくても、トレンドが変わって時流のアイテムと合わなくなったり、古臭く見えたら着られなくなる。服のフィジカルな耐久性はもちろんですが、デザインやシルエットの耐久性も意識していました。
あの頃は自分しか知らないようなデザインやディテールも多かったので、そうした特徴をたくさん盛り込みたい気持ちもありました。でも、そんな邪念?を抑えて実際に着たときにいいか……そのアイテムに本当に必要な要素か、を吟味しました。そのような感じで、一着の洋服としての包容力、まとまりや完成度などを優先にしていました」
30年ずっと続けてきた今も
まだまだ掻き立てられる
「ブランドを始めた頃、ワークウェアは誰も手をつけていない未開拓のジャンルでした。ヴィンテージの世界でもまだ価値がなく、アメリカでも関心のある人はほぼ皆無。だから古着のディーラーに探してほしいと頼むと、どんどん僕のところに集まってきた。それらを見比べるうちにどれが珍しいか、古いかなどわかるようになりました。でも、いくらレアなディテールや生地であっても、着てよいとか合わせやすいといった魅力がなければ意味のないことだと思ったんです。そのように、自分なりの尺度で価値をつけることが楽しかったし、私的な基準を持てたのはデザインをするうえでも役立ちました。ブランドを始める前は古着を卸していたので、“ これは出ないですよ ” とか “ 古いですよ ” などのお決まりのキラー文句は使っていましたが、それはその価値しかない、という感じで使いますよね(笑)。
また、ワークウェアには “ こうでなければならない ” といったルールがありません。ワークウェアが象徴的に登場する映画もないし、著名人が着て、テレビや雑誌に出ることもたぶんなかったので、決まったイメージや刷り込みがないから着こなしを自由に決められる。強いてイメージを挙げるなら、ワークウェアの黄金期である '30年代のアメリカの大恐慌時代かもしれませんが、私は当時の写真に映った労働者が着ている服には惹かれたものの、彼らの着こなしや雰囲気には影響を受けませんでした。ほかには、たとえば '80〜90年代のアメリカの都市部ではギャングたちがカーハートのセットアップをユニフォームのように着ていた、という事実はありますが、それはファッションと呼べるものではなかったと思います。
特定のスタイルや時代に憧れや執着が強いとファッションというよりコスプレになってしまうので、そのような縛りがないのもしなやかだと思います。着こなしのイメージにも制約がないから、その時々の自分の気分を投影しやすい。画家にとっての白いキャンバスと同じで、創造力や創作意欲を掻き立てられる余白が広いこともワークウェアの大きな魅力だと思います。
多種多様にある洋服のなかには、若いときは夢中になったけど年齢を重ねると興味がなくなるものも多い。その点ワークウェアは、一度好きになったら一生抜け出せないほど懐が深い。ベーシックで、インダストリアで、いろいろなトレンドのベースになるし、そのうでに違ったフレーバーを混ぜる格好のファンデーションでもある。僕はすごく飽きっぽいので、無自覚ながら飽きない服や飽きない着方のできる服を探して辿り着いたのだと思います」
米国と日本、それぞれのよさ
でも生産国より大事なモノがある
「'18年に永久帰国しましたが、実はもっと以前から帰国は考えていました。アメリカっぽいワークウェアを作りたくてニューヨークでブランドを立ち上げましたが、しばらくすると日本で生産したい気持ちが徐々に芽生えてきて。理由は複数ありますが、アメリカは '90年代頃から生産背景を一気に海外に移していきました。自分は意識的にその流れに逆行したのですが、当然ながらアメリカらしい生地屋さんや付属屋さん、工場がどんどん消えていき……逆に、日本ではアメリカで失われた文化が再生されるような動きも少しずつ拡大されていった。なので、今は生産面での可能性が広がり、作れるアイテムも増えました。
また、日本に住むと欧米が眩しく見えるのもすごく理解できます。かつては自分もそうで、だからメイド イン USAの現場で作ってきた。でも、海外では逆にメイド イン ジャパンを求める声も多く、僕自身も向こうで活動して日本の素晴らしさに気付いた点もある。両方を体験した結果、個人的には生産国よりもまずはプロダクトが醸し出すムードや面構えが大事だと思っていて、それには生産背景もさることながら、型紙やスペックなどのデザイン部分がより大きな意味をもつんです。その証拠に、自分が発注していたアメリカの工場やウチの製品の仕上がりが好きな人も多いのですが、同じ工場でも違うブランドの商品を違う型紙やスペックで作るとまったく別物に仕上がってくる例をたくさん見てきました。
これから先のことは模索中です。ただ漠然としたテーマはあります。今まで多くの国々を旅してきましたが、世界中どこの街でも心地よく着られるようなワードローブはひとつの理想形だと思います。それと併せて長く考えているのは、自分がアメリカに渡らず日本に住み続けていたら、今頃どんなファッションに身を包んでいたんだろう?ということ。その答えを知りたいのですが、当然それは叶わない。でも、そういった洋服を目指したいと思っています」