TRANSIT写真集発売記念企画(後篇)「世界のどこかの格好いい10人」 TRANSIT写真集発売記念企画(後篇)「世界のどこかの格好いい10人」

TRANSIT写真集発売記念企画(後篇)「世界のどこかの格好いい10人」

世界各国を歩き、旅というフィルターを通して、美しい風景やその地に息づく歴史や文化、人びとの暮らしを紹介してきたトラベルカルチャー誌『TRANSIT』。
この秋、2008年の創刊から2019年までに発刊された44号分の旅の軌跡を辿る写真集を〈ランドスケープ篇〉〈ポートレート篇〉にわけて、2冊刊行しました。
発売を記念して、ポートレート篇に掲載されている作品のなかから、SHIPS プレスの成瀬さんが気になった「世界のどこかの格好いい10人」をTRANSIT編集長の林さんの解説つきで特別にお届けします。

今回の写真集では1冊につき200点近い写真を掲載しています。ページをめくりながら、架空旅行を楽しんでもらえるように、日本から旅立ってアジア、オセアニア、中東、ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカ……と、世界一周できるような構成で80カ国ほどの写真をセレクトしました。

写真集をつくるにあたって難航したのは、とくにポートレートのセレクト。最初に荒セレクトした写真は、実際に掲載されている点数の5倍以上はあったと思います。いつか行ってみたいあこがれのランドマークや世界遺産、多くの人がはっとするような神々しい山やまばゆい光の海が切り取られた風景と違って、人物の写真はとくに撮影者の思い入れが強いもの。シャッターを切るタイミングももちろんですが、「格好いい!」「なんか気になる存在だなぁ」と感じるのも人それぞれ。1枚の写真には、より私的な感情や物語が含まれているからです。

そのなかで表紙になっているのは、ミャンマーの東北部チャイントンの山奥にある集落で出会った、ラフ・シという民族の少年ふたり。この企画は担当編集だったため私も取材に同行していたのですが、とにかく彼らとの出会いや装いも含めて、ラフ・シの暮らしぶりに衝撃を受けました。この写真をポートレート篇の表紙にしたいと編集会議で提案すると、満場一致で可決され(ちょっとおおげさですが、笑)、無事に表紙を飾ることができたのは本当にうれしかったです。

(C)SACHIE ABIKO

つくり手としてはそうした個人的な感情もありますが、純粋に「この写真・人が気になる」という思いで、写真集を楽しんでいただけるものだと信じています。そこで今回は、すでに撮影した国や状況といった何かしらの情報を得ている私が写真を選ぶよりも、直感的に選んでいただくほうがおもしろいと思い、SHIPS プレスの成瀬涼子さんにご協力いただき、「格好いいスタイル」だと思う人というお題で10人をセレクトいただきました。それでは成瀬さん、よろしくおねがいします!

(C)TAKANORI ISHII

成瀬(以下N)  はい、それでは一人目はこちらの少女。民族衣装らしき装飾を、幼いながらも彼女らしく自分のものにしているような雰囲気と、控えめともとれる佇まいの先にみえる、希望に満ちた表情が印象的ですね。

林(以下H)  中国・四川省小金県にある村の結婚式に参列していた、牛燕という名の少女です。好き通った瞳と肌、民族の混血が生み出す美しさは、時に大陸の向こう側を連想させますね。

(C)SACHIE ABIKO

N エネルギーに満ちた活きいきとした表情に美しさを感じました。さりげなくこだわっているのであろうアクセサリーがとても良く似合っていますね。

H この女性もミャンマーのチャイントン周辺に暮らしています。彼女はお歯黒が特徴的なエン族の女性。衣装も黒をベースとしていますが、ピアスやボタンといったディティールがカラフルで素敵。ピアスはお土産に買ってきたくらいお気に入り。

(C)SHUNYA ARAI

N 同じような衣装を身に纏った集団と、その中の一人の男性のふとした表情。なんだか美しく、強くも穏やかにも映りました。

H インドのラージャスターン州にあるジャイサルメールの砂漠で行われるお祭りで出会った男性です。満月の砂丘で出番を待つダンサーのたちの姿は幻想的で、なんだかおとぎ話の世界のようですよね。

(C)SAORI TAO

N なんの行列なのでしょう。陽気なお婆さまたちが思いおもいにドレスアップした様子が微笑ましく楽しいですね。

H ブルガリアのカザンラク周辺では毎年5〜6月にかけてバラ祭りが開催されるのですが、こちらはカルロヴォという町のお祭りにて。目抜き通りをいくつものグループが練り歩く仮装パーティーのようなものですが、バラを手にしているのがポイントです!

(C)YAYOI ARIMOTO

N 寒い土地に住む人たちの、なんの計算もない自然なスタイルなのでしょうけれど、白髪の女性の、頭のスカーフやタイツ+ソックスがなんだか可愛い。

H バルト海に浮かぶエストニアのキヌフ島で暮らす、マイレという名の女性です。かわいらしい赤い縞模様のスカートは、この島独自の民族衣装なんです。氷上に立つコントラストもいいですよね。

(C)GENTARO ISHIZUKA

N 自分たちの身近にも、こういう人、いますよね(笑)。ふとした瞬間にさえ敬意を払いたくなるような緊張感。厳しさと優しさが共存した雰囲気があって。

H お、この緊張感、伝わりましたか!この方はなんと、『ベルリン・天使の詩』や『パリ、テキサス』、『都会のアリス』等で知られるドイツ出身の映画監督、ヴィム・ヴェンダース氏です。こちらのポートレート篇、市井の人びとにまじってときどき著名な方がいるので、ぜひ探してみてください。

(C)SAORI TAO

N すごくオシャレ!頭から足の先まで、抜かりなく装った気合いみたいなものを感じますね。毎日ファッションチェックをしたくなります。手に持ったステッキに添えられたネクタイが気になります……(笑)

H ケニアのアニコ村の男性です。歓迎式典に出席していたからか、ずいぶんとめかしこんでいましたね。とくにアフリカの方々の装いは、色の組み合わせや柄使いにオリジナリティがあって素敵。なかなか真似はできないですが……。

(C)GENTARO ISHIZUKA

N キラキラして見えました。ヘアスタイルやアクセサリー使い、服のこなし方が二人とも素敵。この地特有のユニフォームのようなものがあるのでしょうけれど、それぞれのこだわりがみえてスタイルがある。

H ナミビアに暮らす、ヒンバと呼ばれる民族の若い女性。肌には「オーカ」という赤土を塗り込んで、強烈な日差しから肌を守っているそうです。アンクレットも子どもがいる証であったり、装飾にもちゃんと意味があるのが興味深いですよね。

(C)NUMA

N 絶妙な瞬間を捉えた写真ですね。ほどよいアクセサリー使いといい、品の良いお婆ちゃまなのでしょうけれど、赤のギンガムチェックのドレスを選ぶあたりとこの表情、きっとチャーミングな一面も持ち合わせているのだと想像しました。

H ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で毎週火曜日にボランティアとして働いているフック婦人です。必ず館内のカフェでティーブレイクを楽しむそうで、お気に入りはオレンジとレモンの風味が利いた「St. Clement’s Loaf」。ボランティアスタッフとは思えない存在感…!

(C)ISAO NISHIYAMA

N これも、写真が好きです。偶然なはずの四人の集合写真。男性は肌の色に映える真っ白いシャツ、女性は花柄のワンピースを着ているのも偶然なのでしょうか。左から二番目の女性の腰かけた姿も、なんだか素敵です。

H たしかにユニット感ありますね!左から二番目の女性は実は、民間信仰カンドンブレの聖母ドゥセリーナ。この日は宗教行事ではなく、家族や親戚が集まっている場でした。「責任重大だから本当は聖母にはなりたくなかった」とドゥセリーナが言っていたのが印象的でしたね。

「世界のどこかの格好いい10人」をお届けしました。いかがでしたでしょうか。この人たちが、世界のどこかで暮らしていることを想像するだけでも、わくわくしませんか? とにかく見た目がタイプの人、お洒落だなぁと思う人、オーラが溢れまくっている人……。写真集にはなぜだか気になってしまう人がたくさん掲載されていることと思います。写真集ではIndexもつけて、すべての写真の解説もしています。ぜひページをめくって、みなさんにとっての格好いい10人が見つかるとうれしいです。

TRANSIT THE PORTRAITS
| TRANSIT THE LANDSCAPES

2008年のTRANSIT創刊から10年超。その軌跡を辿った写真集『TRANSIT THE PORTRAITS』(人物編)、『TRANSIT THE LANDSCAPES』(風景編)です。各200ページに及ぶ写真のほか、撮影地MAP、フォトグラファーによるエッセイを掲載。また、人類史や世界の人口グラフ、民族分布図といった、世界のDATA BOOKも収録。

『TRANSIT THE PORTRAITS』『TRANSIT THE LANDSCAPES』 各3,800円(+tax)

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