毎号、ゲストの方にお友だちを紹介いただき、注目アーティストを数珠つなぎにしていく本企画。第20弾は、AAAMYYY(エイミー)さんの紹介で、TENDRE(テンダー)さんが登場! ソロアルバム『NOT IN ALMIGHTY』の楽器パートをすべて自分でこなすなど、多彩な才能はどのように生まれ、いま何を思うのかをお訊きしました。

両親はジャズミュージシャンという家庭
ーーお母さまがジャズボーカリストでいらっしゃるんですよね。
TENDRE そうなんです。父親はウッドベース奏者で。
ーーえっ、ご両親ともにジャズプレーヤーなんですね。
TENDRE 父親はバークリー音楽大学を出ていて。その関係でふたりはボストンで出会ったみたいなんですよ。
ーーすごい。ということは、幼少の頃から音楽に親しんでいたわけですね。
TENDRE でも、英才教育という感じではなくて「やってみる?」みたいな。5歳から母親の友人でもあるジャズピアニストの方に習っていました。クラシックのように堅い感じではなく、楽しみながらですね。
ーーその後、どういう音楽のルートを辿ったのですか?
TENDRE 中学は吹奏楽部で、最初はトランペットから始めて。その頃は完全に吹奏楽だけを追いかけていたので、J-POPとかも全然聴いていなかったんです。テレビは観ていましたけど、あんまり聴く機会がなくて。
ーー当時好きだった音楽はどこらへんですか?
TENDRE スティビー・ワンダーとか、ルーサー・ヴァンドロスとか・・・。家にCDやレコードがたくさんあったので、気になるジャケットを引っ張り出してひたすら聴いていました。「感覚」として印象に残るものが好きで。スティービー・ワンダーの「Living for The City」はすごく変わった曲なので印象が強かったり、あとはジョー・サンプルというピアニストの『Rainbow Seeker』ってアルバムとか。

J-POPをちゃんと聴いたのは高校から
ーー最高の環境ですね。逆に、J-POPを初めてちゃんと聴いたときはどう思いました?
TENDRE 高校でバンドに誘われて、いろいろ教えてもらって聴くようになったんです。それまで日本語の曲をイヤホンで聴くことがなかったので、「こんな衝動的なものがあったんだ!」みたいな・・・う~ん、なんと言えばいいんだろう。
ーー歌詞がすんなり入ってくるだけに、エモーショナルに感じたということですか?
TENDRE それまでは音楽を「言葉」ではなく「音」で聴いていたので、歌詞に注目することがなくて。でも、歌詞カードを見ながら音楽を聴いてみると、「こういう言葉を歌にするんだな、日本人は」みたいな不思議な感覚があって。
ーーあははは、それは面白いですね。
TENDRE そういった体験があったので、高校を卒業して自分のバンドをやるようになってからは、歌詞を書くようになりました。
ーー大学時代は?
TENDRE 音楽大学で音楽音響デザインという学部を専攻して、主に作曲の勉強をしていました。あとはドビュッシーの研究とか。一方で、DTMを学びながら創作活動を始めて行った感じです。
TENDRE - SIGN
呂布やAAAMYYY(エイミー)との出会い
ーーその後はampelというバンドをやられて、現在はソロとしても活動されています。
TENDRE アーティストのバックでベースを弾いたり、楽曲に参加したりもしています。この連載にも登場しているKANDYTOWNの呂布くんは付き合いが一番長くて。最初は下北沢のライブハウスで会って、イベントでセッションしたり、曲を一緒に作ったり。
ーーそう言われてみると、落ち着いているところとか、空気感とか、どこか似ているように感じます。
TENDRE 呂布くんのスピリットだとか、考え方とか、尊敬できることは多い。そういう意味ではすごく居心地がいいです。かといって、べったり仲が良いわけではなく、お互いが自分のフィールドを進んでいるうちに混ざるタイミングがあるという関係。いい距離感で居られる仲間ですね。AAAMYYY(エイミー)もですけど。
ーー今回はAAAMYYYさんの紹介でご登場いただきましたが、どういったつながりなのですか?
TENDRE それこそ呂布くんのつながりですね。彼がバンドセットでライブをやるときに僕がベースを弾いていて、AAAMYYYがボーカルで。
ーーAAAMYYYさんがソロになるかならないかのときに呼ばれたライブですかね。
TENDRE あ、多分それですね。
ーーそこでの体験が、もう一度音楽を志すキッカケになったと仰っていました。TENDREさんは、彼女の作る音楽に対してどんな印象をもっていますか?
TENDRE 唯一無二の声を持っていますよね。奥ゆかしさもあるし、かわいげもあるけどエモに偏りすぎず、ちゃんと人に寄り添う感じがある。まずは、その声に惚れたというのはあります。音楽的にはエレクトロな印象が強いですけど、最近はいろんな音楽を吸収しようとしていて。なので、聴くたびに新しさがある。あと、自分の空間、スペースをちゃんとわかっていて、そこを歌で広げたり、景色のつけ方がうまいなという印象です。
ーー自分の空間ですか、それはご自身でも大事にされていますか?
TENDRE そうですね、宅録というか部屋で作業をしているルーム感というか。たとえば、四角いスペースのなかでTENDREがどの位置にいるのか、聴いている人の目の前にいるのか、遠くで歌っているのかとか、そういう位置関係ですね。

気持ちいい、心地いい音楽を求めて
ーーリスナーが聴いている姿も思い浮かべながら曲を作っている?
TENDRE そこまではしないですけど、入口を作っておくというイメージですかね。こっちから一方的に音楽を放出するのではなく、吸収してもらいたいというか。ちゃんとディスカッションできるくらいの距離でいたいという感じ。すごく抽象的なんですけど(笑)
ーーそういう思いがあるなかで、現在のようなサウンドになったのはいつ頃ですか? ある意味、どんなジャンルでも作ろうと思えば作れてしまう素養をもたれているわけですよね。
TENDRE 基本的に作るという行為が好きなんです。とくにソロに関しては、本当に思いつくままアンビエントミュージックをやったり、ビートミュージックを作ったりしていた。しいていうなら、「自分が聴いていて気持ちがいいもの」「自分を一番説得できるもの」を作っていて。全体が目に見えるような音像を作りたいというか。
ーー確かに『NOT IN ALMIGHTY』は、「気持ちいい」ということを重要視していることがわかるアルバムでした。しかも、どの曲も完成度が高い。すごく緻密なので、あまり衝動的に音楽を作るタイプではないのかな? とも思ったのですが。
TENDRE それはありますね。「衝動的」という言葉も曖昧ではありますけど・・・。でも、あくまでそれが主ではないというだけで、衝動的な気分のときもありますし。ライブでは気持ちがおもむくままにやっているんで。シングルを発表してアルバムを発表してという流れのなかで、自分が「心地いい」と思えるベースが作れたので、今年はもっと衝動的というか、「熱さ」や「気楽さ」を取り入れてもいいかなっていうモチベーションではあるんですよ。

母親が唯一好きだった日本人ミュージシャンが、はっぴいえんど
ーー70年代の日本のシティポップやAORの雰囲気も感じるのですが、そこは無自覚だったりするのでしょうか?
TENDRE 母親が唯一好きな日本人が、はっぴいえんどだったんです。なかでも「風をあつめて」が一番好きで、ライブでもよく歌っていたんです。そういった意味では影響が色濃く残っていると思いますね。そこから、自分でも細野晴臣さんや大瀧詠一さんを聴くようになったので。リズムの使い方や、日本語の使い方とか、影響を受けている気はします。
ーー確かに、歌詞もその香りが感じられます。
TENDRE J-POPは具体的な感情を伝えることが多いですけど、「具体的でないからこそ美しいものが作れるんだろうな」と思って聴いていた部分もあるので。
ーーそういう試行錯誤をしながら心地いい音楽作りをされているわけですが、普段の生活ではどんな時間がお好きですか?
TENDRE お茶を淹れているときですかね、あとはコーヒー。作業の途中にドリップをしている時間は、一瞬我に帰るというか。あとはボーッとするのが好きなので喫茶店に行ったり。
ーー純喫茶っぽいほうがお好きそうですね。
TENDRE そうですね。
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古着を取り入れた、きれい目ファッションが好き
ーーファッションもお好きそうですが。
TENDRE 自分がかっこいいなと思うものを着るようになったのは中学くらいで。高校から古着屋に通うようになりました。下北沢が多かったですね。基本的にはきれい目が好きなので、ダメージ系の古着というより現行品にはないものを探すという感じです。
ーー今日もそういう感じですね。
TENDRE そうですね。古着好きですけど、流行りの感じも着ますよ。色も全体が明るいというよりは、ワンポイントで取り入れてそこを引き立たすみたいのが好きです。
ーー買い物もよく行かれますか?
TENDRE 今年は2月後半くらいから忙しくて、やっとひと段落したので、いま物欲がすごいです(笑)
ーーあははは、どんなものを狙っているんですか?
TENDRE 先日、帰り道に靴下はごっそり買ったんですけど。何か一枚羽織れるものが欲しいなとか、インナーも欲しいなとか。あとは、めちゃくちゃ気持ちのいいソファがあれば欲しいですね。インテリアも充実させたい気分なんです。
ーーでは最後に、今後どのように音楽活動を発展させていきたいかを教えてください。
TENDRE いまはソロでどこまでやれるかを突き詰めたいと思っています。具体的なイメージはないですけど、武道館でライブをやるとか、日本でできることはクリアしたいですね。そうすれば、自然と世界へとつながっていくと思っています。いけるところまで行ってみたいですね。
ーー今日はありがとうございました。
PROFILE

1988年生まれ、ベーシスト / 歌手 / 音楽家 / プロデューサー。
ベーシストとしての活動の他、鍵盤やサックスなども自在に演奏。マルチプレイヤーとしての独特の存在感をさまざまな現場で発揮する。2017年よりソロ・プロジェクト「TENDRE(テンダー)」を始動。同年12月6日にソロでの初EP『Red Focus』をリリース。2018年にはシングル曲、10月24日に初のアルバムとなる『NOT IN ALMIGHTY』を発表。また、自身のバンド「ampel(アンペル)」では、ベースヴォーカル、作詞作曲を担当している。