2018年11月16日〜12月2日に渡り、オーストラリアのアデレードにておこなわれるライフセービング世界大会。この2年に1度の重要な大会に、下田ライフセービングクラブの山口智史さんがIRBレースにて出場。ここでは、IRBレースの基本情報と大会への意気込みについて話を訊いた。
IRB(Inflatable Rescue Boat)とは、エンジン付のゴムボートのこと。沖で事故があった場合に素早く救助に向かうことができ、一度に大人4〜6名の救助が可能だ。近年はマリンジェットに押され気味な感もあるが、IRBはボートの上でCPR(心肺蘇生)ができるなど利点も多い。ちなみに、大会で使われるエンジンは25馬力。燃料はガソリンとマリンオイルを50:1で混合している。これまで、ライフセービングの本場であるオーストラリアやニュージーランドでは、ローカルでの大会がおこなわれていたが、世界大会としては初となる。山口さんはオーストラリアのマルチドー・サーフライフセービングクラブに留学していたときにIRBレースへの出場経験があり、それらも加味されて日本代表に選出された。 取材時に練習風景を見させていただいたが、スタートからゴールまで1〜2分ほどのスピーディなレースであることが判明。また、ボートの操縦技術と救助技術がミックスされているため見応えも十分だ。
タイムレースではなく、順位を競う
ーーこのたびは日本代表選出おめでとうございます! まずはIRBレースの基本的なルールを教えてください。
山口 スタート時は、水深が腰くらいの場所にボートが止まっており、それをハンドラー(補助者)2名が支えています。スタートの合図でドライバーとクルー(乗組員)が浜から走ってボートに飛び乗り、エンジンをかけてスタート。沖にはブイが縦にふたつ並んでいて、まずは手前のブイを旋回、その後に奥のブイを旋回しながらペイシェント(溺れ役)を救助して浜に向かいます。その後、浅瀬でエンジンを切ったら、ドライバーだけが浜まで走ってゴールとなります。
ーーこれはタイムレースなのですか。
山口 いえ、いくつかのチームで同時スタートして順位を決めます。今度の世界大会でIRBレースに参加するのは7〜10カ国程度と聞いていますので、もしかしたら一発決勝になるかもしれません。
ーーIRBレースは、何人でおこなうものなのでしょうか。
山口 3人チームでおこなう種目が2種目、4人でおこなう種目、男女混合6人でおこなう種目の4種類があります。私はすべてのレースに出場予定です。
ーーそれぞれの違いを教えてください。
山口 大前提として、IRBはドライバーとクルー(乗組員)の2人で乗り込みます。そこにペイシェント(溺れ役)を加えた3人でおこなうのが基本となります。3人でおこなう種目は2つあり、先ほど説明したIRBに乗ったまま救助して戻ってくるレースがひとつ。もうひとつは、沖にあるブイまでIRBで行って、そこから飛び降りてレスキューチューブを使い、約25m先のペイシェントを泳いで救助して戻ってくるレース。これは、岩場などでIRBが近づけない場合を想定したものですね。
ーーなるほど。4人でおこうものと、6人でおこなうものはどういう種目なのでしょうか。
山口 4人の場合は、ペイシェントが2人いて2往復します。男女混合6人のチームレースは、ドライバーとクルーとペイシェントという3人編成のチームがふたつあり、チームを交代して計2往復するレースです。
安全でない行為は即失格に
ーー山口さんの担当は何になるのでしょうか。
山口 種目によって変わりますが、メンバーのなかで一番体重が軽いので、IRBを使って救助する3人でおこなう種目ではペイシェント。あとは、泳ぎが得意なので、レスキューチューブを使う種目では救助する役(クルー)です。4人でおこなうレース、6人でおこなうチームレースはメンバー交代が勝敗のポイントになるので、それぞれクルーとドライバーをやります。
ーーチームの要的な存在なんですね。レースにおける主な禁止事項を教えてください。
山口 ドライバーはどんなときも絶対にスロットルを離してはいけない、ゴールに向かう際はエンジンが止まってから走る、とかですかね。あと、ボートから飛び降りてそのまま浜に向かってダッシュするのですが、降りる際に転ぶと失格になります。それは安全に停止できなかったということ。ルールの多くは、安全ではない行為が失格になります。
ーー減点とかではなく、即失格なんですね。でも、戻ってきたときにどのへんでボートを止めるかは難しいですね。その日のコンディションはもちろん、地形によって大きく変わってきそうです。
山口 そうですね。大会までの3日間が公式練習日なので、その間にしっかりと把握でればと思います。
ーーボートやエンジンは日本から持ち込むのですか。
山口 いえ、どの国も運営が用意したものを使います。
ーーそうなると、エンジンなどは当たり外れが出てきそうですね。
山口 そこに関しても、どれだけ自分で整備するかが重要になってきます。
性格な技術とチームワークが勝利の決め手
ーーIRBレースで大事なポイントはどこでしょう。
山口 確実な技術とチームワーク、あとは最初と最後のダッシュですね。
ーー練習というのは主にどんなことをするのでしょうか。
山口 確実な技術を染み込ませるために、反復練習が基本となります。いかに無駄を省いて、ひとつひとつの動作を素早く、確実にできるかが大事です。また、難しいのが沖での旋回なんです。これに関してはドライバーとクルーの息が合っていないといけないですし、体重のかけ方ひとつで大きく変わってくる。ふたりの体重差によっても変化が生じるので、試行錯誤をしながら練習しています。
ーー世界大会での目標を教えてください。
山口 どれか1種目は必ず優勝したいと思っています。あとは、男女ともに表彰台にあがることですね。第一回なので何が起こるかわからないですし、IRBレースは体重が軽いほうが有利な場面もありますので、優勝は十分に狙えると思います。
ーー最後に意気込みをお願いします!
山口 IRBは古くからある救命機材ですが、なかなか広まっていないのが現実です。世界大会で結果を出すことで、若い世代が積極的に学んでみたいと思えるような環境が作れればと思います。
PROFILE
ライフセービング2年目から白浜地区でIRBドライバーとしてパトロールに従事している。
2007年から2008年にオーストラリア、マルチドーサーフライフセービングクラブでIRBレースの技術と経験を身につける。
2018年 ライフセービング世界選手権 IRBレース 日本代表選手
■全日本ライフセービング大会成績
2009年
第22回全日本ライフセービング種目別選手権大会 サーフスキーレース 第5位
2010年
第23回全日本ライフセービング種目別選手権大会 サーフスキーレース 第5位
2011年
第37回全日本ライフセービング選手権大会 サーフスキーレース 第6位
2012年
第25回全日本ライフセービングプール選手権大会 4×25mマネキンリレー 4位
2013年
第26回全日本ライフセービング種目別選手権大会 オーシャンマンリレー(サーフスキー担当) 第3位
第39回全日本ライフセービング選手権大会 サーフスキーレース 第7位
2015年
第28回全日本ライフセービング種目別選手権大会 サーフスキーレース 第6位
■関係資格等
JLA アドバンスサーフライフセーバー
JLA C級認定審判員
SLSA ブロンズメダリオンライフセーバー
SLSA IRBクルー
応急手当指導員
1級小型船舶操縦士
特殊小型船舶操縦士
小型船舶特定操縦免許
1級海上特殊無線技士