毎号、ゲストの方にお友だちを紹介いただき、注目アーティストを数珠つなぎにしていく本企画。第15弾は、D.A.N.のBa.市川仁也さんの紹介で、GLIM SPANKY(グリムスパンキー)のVo. & G.松尾レミさんが登場! 音楽やファッションのルーツなど、いろいろと語っていただきました。
ジンダム(D.A.N.の市川仁也)は弟みたいな存在です
ーーD.A.N.の市川さんからご紹介いただきまして。勝手ながら意外なつながりだなと思ったんですけど。出会ってからもう長いんですか?
松尾 めっちゃ長いですよ。昔からグリム(スパンキー)のライブに来てくれていて、スタッフかのように舞台裏でドリンクを渡してくれたり。仁也だからジンダムって呼んでるんですけど、彼が高校生の頃からですね。D.A.N.の他のメンバーとも仲は良いんですけど、ジンダムはうちの実家に来たこともあるし、一緒にカブト虫を捕まえに行ったり、かわいい弟みたいな存在です。
ーーその頃、彼らはどんなバンドだったのですか。
松尾 ジンダムとDr.の川上くんがナンバーガールのようなバンドをやっていて。Vo.の櫻木くんも違うバンドで日本語ロックをやっていたんですよ。そのふたつが解散して合体してD.A.N.になったんです。
ーーD.A.N.のサウンドはレミさんから見ていかがですか?
松尾 すごくいいですよね。でも、学生の頃から知っているので「こういう音楽を聴いていたからこうなったんだ」という歴史が感じられて面白いですね。
父親はカルチャー好きなヘンなおじさん
ーーこれまでさまざまなインタビューを受けていらっしゃるので、ファンの方には既出の内容が多くなってしまいそうなのですが。でもやっぱり、松尾さんは家庭環境が面白いですよね。お爺さまが郵便局員をやりながら日本画家として活躍された方で、お父さまは熱心な音楽&カルチャー好きという家庭で育たれて。
松尾 そうですね、父親は61歳のカルチャー好きなへんなおじさんです。
ーーもともとバンドとか音楽をやられていた方なんですか?
松尾 いろいろな肩書きがあって、父親について話すと長くなるんですけど・・・。今はポエトリーリーディングをしたり、コラージュでのアート作品を作っていますね。過去は自分で曲も作っていたり、古本屋をやっていたり、70年代に活躍したフォークロックの方々を呼んでイベントをしたり。あとは、シュールレアリズムとかダダが好きなので、それにまつわる自分の個展を各地で同時多発的に行ったり、インドに旅に出たり、謎なんですよ。
ーーなかなか強烈ですね(笑)。でも、それを許すお母さんもかなり面白い方なのかなと思うのですが。
松尾 すごく心配性な、一般的な母親ですよ。でも、カルチャー好きなので父親がやっていることは理解していますね。どちらかというと、父親の尻拭いをしているタイプです(笑)
ーーあははは。そうなると、家はモノで溢れていそうですね。
松尾 母親が断捨離タイプで。父親もコレクションを棚にきれいに並べるタイプなので、ごちゃごちゃはしていないですね。
ーーよく考えると、おじいさまやお父さまなど、男性的な趣味の影響が強いですよね。
松尾 そうですね。父親がとにかく強烈だったんで、昔から父親が連れてくる仲間と一緒にいましたし。休日には東京や名古屋のレコード屋を家族で巡ったり、純喫茶を巡ったり、美術館に行ったりとか。
ーーすごく文化的! お父さまはかつて東京に住まわれていたんですか?
松尾 いや、ずっと村で生まれ育って。
ーーそれもまたすごい・・・。インターネットのない時代から、ディープなものをコツコツ集めまくっていたわけですね。
松尾 「誰にも負けない! という精神で今までやってきた」とよく言っています(笑)
ーー娘がミュージシャンとして成功されて、楽曲の方向性も含めて一番喜んでくれてそうですね。
松尾 どうなんでしょうね。「レミには負けない」といつも言っています。村の中ではずっとヘンな家だと言われ続けてきたので。
ーーバトルですね。「うちはヘンだな」って思い始めたのはいつくらいですか。
松尾 小学校くらいから「レミん家って変わってるよね」と言われていました。父親がペペって呼ばれていて、キャラクター化してたんですよ。家の外壁にショートフィルムを映し出したり、庭でガレージセールをしたりと、よくイベントをしていて。
ーーますますお父さまに興味が出てきました(笑)。そんな家庭だったことで、家ではいろいろな音楽がかかっていたわけですよね。ざっくりと、どんなジャンルが多かったのですか?
松尾 それがまた難しいんですよ。60年代半ばから70年代の洋楽ロックが基本にあって、あとはフレンチポップとか、チェコなどのモンド系。日本語のロックははっぴいえんどやナイアガラ系で。あとは友川カズキさんや高田渡さんなどのアングラフォーク、京都の古いノイズ系バンドとか。私が保育園の頃は渋谷系の音楽が流れていて。
ーー乱暴にまとめてしまうと、小西康晴さんみたいな感じですね。
松尾 そうですね。父親も小西さんが大好きですし、年齢も同じくらいなので。あとは沼田元氣さんがすごく好きで。だから、彼らの本を読むと父親っぽいなって。
「愚か者たち」 MV
高校からはずっと60年代半ばから70年代初頭の古着が好き
ーーあ〜、なるほど、こけしを集めたり。そこからレミさん自身が60年代や70年代のロックが好きになったのは、ザ・ホワイト・ストライプスの影響だとか。
松尾 それまでは、家で父親がよく聴いている古いレコードって感じだったんです。もちろん、好きな曲もいっぱいあったんですけど、自分から進んで聴こうとは思っていなくて。というのも、最新の音楽とレコードの世界は別物だと思っていたんです。古いレコードはサウンド的にスカスカな感じがするというか、好きになりきれない溝みたいなものがあって。でもあるとき、父親の影響とは違うところでザ・ホワイト・ストライプスを知って、聴いてみたらその溝が完璧に埋まって。そこから自分でも60年代や70年代のロックを掘るようになったんです。
ーーすごくわかりやすい説明ですね。レミさんといえば、60年代や70年代のヴィンテージをかっこよく着こなしているイメージも強いですが、ファッションに興味を持たれたのはいつ頃からですか?
松尾 保育園の頃は「毎日違う髪型じゃないとイヤ!」と言っていて、母親もファッションが好きだったので毎日違う髪型で通ってました。小学生の頃は、サイケ柄の布を東京で買ってもらって、親にワンピースやワイドパンツを縫ってもらったり。
ーーえっ、小学生の頃からだったんですか!? 古いレコードジャケットの影響があったとか。
松尾 いま考えても、なんでそれが着たかったのか意味がわからないですよ(笑)。あくまでも予想ですけど、90年代カルチャーってフレアパンツとか70’sの影響があったからですかね。母親がずっと雑誌『Olive』を買っていて、私もオリーブ少女だったんです。あとは『流行通信』とか『装苑』がバイブルで。中学になってからは『Zipper』や『CUTiE』とか原宿スタイルが流行って。でも、長野では売っていないので、たまに行く東京で買ってなんとなく取り入れてました。
ーー東京によく行くと、友だちには羨ましがられませんでしたか?
松尾 「タモリのサインもらってきて!」とよく言われてました(笑)。東京に行けば芸能人に会えると思っているんですよ。
ーーあははは。それから高校ではどうなるんですか?
松尾 高校からロックに目覚めるので、そこからはずっと60年代半ばから70年代初頭の古着が好きです。今日着ているのは、50年代アメリカのヴィンテージ。このベレー帽は高校時代から被っていて、父親のものを譲り受けました。
ーーすごく似合ってます。
松尾 古着好きになったのも、ロックを聴き始めたときに父親から「ロックを知るならその他のものを見ろ」と言われたことが大きくて。「文学やファッション、映画などを知るともっと楽しめるよ」って。その影響で、ロックが好きだからこういう服装と結びついて、さらには保育園のときに好きだった野宮真貴(ピチカート・ファイブ)さんのスタイルとも繋がって、ハマっていきました。
海外の古着屋さんのInstagramをめっちゃフォローしてるんです
ーーアレッサンドロ・ミケーレのグッチはお好きですか? 60年代や70年代のエッセンスを現代的に表現しているので、共感できる部分もあるのかなと思うのですが。
松尾 ミケーレになってからは注目していて、お財布も買っちゃったんですけど(笑)。でも、高額過ぎるので洋服は買えないですね。プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーとかロックスターを広告に使っているので、ヴィジュアル表現はよく見ています。
ーーファッションで参考にしたり、よく見たりしているものは何かありますか?
松尾 海外の古着屋さんのInstagramをめっちゃフォローしてるんですよ。日本では絶対に入荷しないような奇抜な古着とか組み合わせ方をするので、そこからインスピレーションをもらったり。あとは、60年代〜現代までのアーティストの私生活など、かっこいい写真をあげている若い子のアカウントがあって。そういうものを見たりします。
ーーこの連載では皆さんに伺っているのですが、音楽はどうやって生まれてくるのでしょうか。人によっては風景を音にしたり、音符が浮かんできたりといろいろあるみたいなのですが。
松尾 バンドを始める前は、祖父の影響で絵を描くのが好きだったんです。何かクリエイトしたい気持ちはずっとあって。なので、曲作りに関してもミュージシャンという感覚で始まっていなくて、今も絵を描く感覚で曲を作っているんです。そのなかで、一番自分の世界に入り込めるのは、部屋を暗くしてロウソクだけの灯りにして、幻想文学やシュールレアリズムの画集とかを広げて、お香を充満させながら思い描く世界にトリップする。そのときには自分が主人公になっているので、自然と音楽が出てくるんです。あとは、自分の感情のタンクが溢れたとき、いてもたってもいられなくなって、ギターと鉛筆を持って作り始める。その2パターンですね。
ーー基本的には憑依する感じなんですね。歌詞はどのタイミングで出てくるのですか?
松尾 最初から、言葉もメロディもコードも同時進行で作っていきます。だから、最初にサビが生まれるとかはほとんどないですね。
「吹き抜く風のように」MV
自分たちに自信があるので、どこに行っても大丈夫だと思ってやっている
ーー音楽でもカルチャーでも強烈に好きなものがある人は、一般的に殻に閉じこもりがちだと思うんです。でも、GLIM SPANKYはその芯を持ちながらも、戦略的に考えている部分や新しい要素を取り入れるなど、柔軟さがあってバランス感覚がすごいなと思うんです。
松尾 ありがとうございます。私たちは作品をアルバム単位で考えていて、そのなかには趣味だらけの曲も入っているのでストレスはないですね。タイアップ曲に関しては、相手をリスペクトしたうえでコラボレーションする意義を考えながら作っています。でも、やりたいことは一切曲げていない。自分たちに自信があるので、どこに行っても大丈夫だと思ってやっているんです。だから、テレビのオファーもほとんど断らない。いいものを作っているのなら、メディアでどんどん発信するべきだと思うんですよ。
ーーおじさんたちが「こいつらわかってんな!」「新しい感覚もあって、すげぇかっこいい!」と興奮している姿は目に浮かぶんですけど(笑)。若い世代の反応はどうですか?
松尾 洋楽のカバーとかをやると「GLIM SPANKYの曲かと思いました」って反応がよくありますね。でも、それはいいことだと思っていて。私たちがきっかけになってキャロル・キングを知ってくれるのは嬉しい。とはいえ懐古趣味ではないので、音楽からファッション、アートワークに至るまで、現代的な要素を取り入れながらやっていきたいと思っています。
ーー今後、音楽以外でやっていきたいことはありますか?
松尾 やりたいことがいっぱいあるんです。すでにグッズデザインはやっているので継続してやっていきたい。あとは、個人的にZINEを作っていて、カルチャーイベントを企画したりもしているんですけど。最近は曲作りが大変すぎてなかなかできないですね。でも、カルチャーのなかにもロックはあるし、あらゆるものがロックにつながっていることをアピールしていきたいので、そういう活動は大事にしていきたいと思います。
ーーすごく面白い話が聞けて楽しかったです。ありがとうございました!
PROFILE
1991年、長野県生まれ。
2007年の高校一年生のときにメンバーを集め、同じ学校の仲間と初期GLIM SPANKYを結成。翌年、SonyMusic主催「ロック番長」にて優勝。
2009年、SonyMusic & 東京FM “SCHOOL OF LOCK”主催「閃光ライオット09」で全国5500組の中、14組のファイナリストに選ばれ1万人の観客の前で演奏。
2010年、バンドのBa.とDr.が脱退。松尾レミは東京の芸術大学へ進学、亀本は名古屋の大学へ通っていたがバンド活動の為に東京上京を決め、新たに関東の大学に進学。ドキュメント映画作品「ROAD SIDE#2010」に出演。
2011年、諸沢利彦監督のドキュメント映画「ROAD SIDE#2011」に出演。12月には亀田誠治主催「子亀祭」に出演。
2013年、SPACE SHOWER MUSICより初の全国流通盤『MUSIC FREAK』をリリース。
2014年、3月に『MUSIC FREAK』リリースツアー“FREAK ON THE HILL”を開催。6月、ユニバーサルミュージック/Virgin Musicよりメジャー1st Mini Album『焦燥』をリリース。 スズキ「ワゴンRスティングレー」のCMにて、ジャニス・ジョップリン「MOVE OVER」のカヴァーを歌う。
2015年、テレビ東京系深夜ドラマ「太鼓持ちの達人〜正しい××のほめ方〜」の主題歌「褒めろよ」をリリース。「FUJI ROCK FESTIVAL」初出演。また、アルバムリリースツアーも成功させる。
2016年、2nd Mini Album『ワイルド・サイドを行け』をリリース。高橋留美子原作アニメ「境界のRINNE」第2シリーズのエンディングテーマ「話をしよう」を書き下ろす。また、原作者 / 総合プロデューサー尾田栄一郎氏の推薦により、『ONE PIECE FILM GOLD』主題歌担当に抜擢され、新曲「怒りをくれよ」を書き下ろすなど、タイアップ曲を精力的に制作。また、同時に初の全国ワンマンツアーも成功させる。
2017年、3rd Mini Album『I STAND ALONE』をリリース。リードトラックの「美しい棘」がテレビ朝日系ドラマ「警視庁・捜査一課長 season2」主題歌に抜擢される。9月には3rd Album『BIZARRE CARNIVAL』リリース。10月から全国ワンマンツアーを開催、2018年1月には台湾での初ワンマンライブを開催。
2018年、映画「不能犯」書き下ろし主題歌 3rd Single『愚か者たち』をリリース。5月12日には、初の武道館ワンマンライブ「GLIM SPANKY LIVE AT 日本武道館」を開催予定。
Information
2018年5月12日(土)「GLIM SPANKY LIVE AT?日本武道館」
出演:GLIM SPANKY 時間:OPEN 16:00/START 17:00
料金:【前売(全席指定)】¥5,800(税込) *チケット一般発売中
【親子割チケット(全席指定)】価格詳細はGLIM SPANKY公式サイトをご参照ください。
※未就学児童は保護者の座席の範囲内で鑑賞可。小学生以上チケット必要。