トラベルカルチャー雑誌 『TRANSIT (トランジット)』の林編集長が、「旅のお土産」をテーマに、毎号ゲストの方と対談する連載企画。今回は、東京を中心に話題のゲストハウスを展開している本間貴裕さんが登場。本間さんらしい自由な旅のスタイルには、快適な時間を過ごすためのヒントがたくさん詰まっていました。
毎月、10日間は海外に出るようにしています
林 今回のゲストは、東京・入谷の『toco.』、蔵前の『Nui.』、京都の『Len』、そして東日本橋の『CITAN』と、魅力的なゲストハウスを運営されている株式会社Backpackers’ Japan(バックパッカーズ・ジャパン)代表取締役・本間貴裕さんです。本間さんは大学3年生(2006年)のときに初めてオーストラリア一周の旅に出られて、バックパッカーとして過ごすなかでホステルの魅力を知り、お金が底をついても路上ライブをしながら稼いで旅を続けるなど、さまざまな体験をされて現在に至っています。その詳細は検索するといろいろ出てきますので、興味のある方はそちらをお読みいただいて(笑)。今日はよろしくお願いします。
本間 よろしくお願いします。
林 現在、4店舗もゲストハウスを経営されていてお忙しいと思うのですが。いまも海外には行かれていますか?
本間 ひと月のうち10日間は海外に出るようにしています。旅が好きというのももちろんありますが、仕事としてという部分も大きいですね。なので、4日前はスリランカにいて、そのさらに少し前まではカンボジアにいました。
林 毎月3分の1が海外というのはすごいですね。
本間 そこにはちゃんと背景があって。僕らは2010年に、ゲストハウスやホステルの文化を日本に持ってこようと始めたんです。しかし、最近は日本でも至るところで見かけるようになって、もしかしたら当初の目的は果たしたんじゃないか? と思ったんです。他の宿と競争してまで展開したいという想いも持っていなくて。
林 なるほど。たしかに以前に比べて、意匠を凝らしたゲストハウスが増えましたね。
本間 そこから次に何をしていこうかと1年半くらい前に考え始めまして。その考える材料を探すため、「改めて外の世界を見る機会が欲しい」と役員会議でプレゼンしたんです。結果、1ヶ月に10日間ほど外を見て回れることになりまして、今が4ヶ月目です。以前は、年に1〜2回程度でした。
ひとり旅なら、誰と飲んでも、どこにいても、いつ寝ても起きても自由
林 行く場所はどのように決めているのですか? やはり魅力的な宿があるところを選んでいるとか。
本間 海が好きなので、自然と海があるところが多くなっている気がします。あとは特に条件を決めているわけではありません。人と話していて「ラオスがすごく良かったよ」と聞けば行きますし、雑誌でミャンマーが良さそうだと感じたら行くと思います。その時の縁や情報を受け取るタイミングを大事に決めていますね。
林 趣味というか、個人的に行きたい場所なんですね。
本間 宿をやりたい場所って、基本的には自分が暮らしたい場所なんです。なので、海があるとか、きれいな山があるとか、そういう、自分の感性が反応することが決め手になっています。
林 実際に訪れて気に入った場所もあると思います。リピートすることはありますか?
本間 リピートはあまりしないですね。ハワイは大好きで何度でも行きたいと思いますけど、普段は他の場所を見たいという気持ちのほうが強いです。
林 好奇心が勝るんですね。ちなみに、旅はひとり旅派ですか?
本間 基本的にはひとりです。みんなでワイワイ行くのも嫌いじゃないんですが・・・いやっ、嫌いですね(笑)
林 それはなぜ?
本間 ゲストハウスやホステルが好きな理由と一緒なんですが、要は自分の好きにしていたいんだと思います。誰かと一緒に旅をしていると、どうしても一緒に行動しなければいけない時間がでてくるじゃないですか。でも、ゲストハウスでのひとり旅なら、誰と飲んでも、どこにいても、いつ寝ても起きても自由なんですよね。制限されるのがすごく苦手なんだと思います。旅先で友達ができることも多いので、寂しくなることはあまりありませんし。
林 それって、日本にいても同じなわけですよね?
本間 そうですね。この仕事を初めた当初は手帳すら持っていなかったです。
林 えっ、予定の管理はどうされていたんですか?
本間 あまり予定自体を入れないようにしていました。1ヶ月先の話をされてもわからないから、「そのときにまた誘って」と。仕事の予定はかろうじてグーグルカレンダーに入れてました。
林 理由はすごくわかります。逆に、なぜ最近は手帳を持とうと思うようになったんですか?
本間 「ごはんって美味しいな」と思ったのがきっかけでした。それまでは、自分が食べるものにあまりこだわりがなかったんです。でも、美味しいごはんに興味が出てからは、予約しないと食べられない料理があるとわかって。というのも、よく一緒にご飯を食べに行っている知人に「予約しないと食べられない美味しいご飯もあるんだよ? スケジュールを組まないと登れない山だってあるし。計画しないと本当に良いものには辿りつけないよ」って言われて。その通りだなと思ってからは、予定を入れるようになりました。会社の進むべきこれからの10年を描こうとなったのも、それがきっかけとも言えるかもしれません。
世界的にライフスタイル系のホテルが増えている
林 では、旅先では予定を立てますか?
本間 旅先によりますね。基本的には立てないですけど、泊まりたいホテルや訪れたい場所が多くある場合は事前に決めて行きます。
林 先日のスリランカでは、泊まろうと決めていた宿はありましたか?
本間 はい、ありました。自然と建物が一体になるという考え方に惹かれて、ジェフリー・バワという建築家が建てたホテルを見に行こうと。僕らも宿のあり方として、自然に還るまでをデザインしたいという思いがあって。あとは、スリランカ南端のアハンガマにある『Sunshine Stories』という宿。ここは、スウェーデン人のカップルが世界一周をしているときに見つけて、気に入って定住し、その後宿をオープンさせたところなんです。そこは1週間単位でないと予約が取れないので、最初から決めて行きました。宿を取らないで行く旅も多いですけどね。
林 現地を歩きながら決めるんですね。やはり旅慣れてらっしゃる。
本間 2泊目くらいまでは予約しておいて。その間にいろんなホテルを回って、空きがあるか聞きながらいいところに泊まるようにしています。
林 話は変わりますが、宿事情について伺いたいです。最近のホテルやゲストハウスには何かトレンドのようなものがあったりしますか?
本間 あると思います。大きなトレンドとしては、部屋が小さくなっていて、値段も下がって、高級な作りからより素朴なものへと移り変わっています。デザインもシンプルで、かつ共有部としてのラウンジがあって、地域の人たちと交流ができたり。ライフスタイルと言われるホテルが増えていますね。以前は『エースホテル』が台頭したように、ニューヨークを象徴するようなデザインが流行っていることもありましたが、そこはひと段落したように感じます。デザインがシンプルで温かみがあって、そして地域に対して門戸を開く方向に流れています。大きなホテルも小さなホテルも、そっちに行こうとしている流れを感じますね。
林 へぇ〜、それは興味深い。先ほど海がお好きだと仰っていましたが、旅先ではアクティブに行動するのか、それとものんびりするのか、過ごし方を教えてください。
本間 朝海へ行ってサーフィンをして、昼間と夜に街を散策するのが一番好きな過ごし方です。NYも地下鉄に1時間くらい乗るとサーフスポットがあるんですよ。なので、朝サーフィンして帰ってきて少し休んで、午後から街を歩き始めて夜はバーに行ったり。
人と自然の境界線を越えていけるような仕組みを作っていきたい
林 そういった時間のなかで、次のビジネスを模索していくって感じなんですね。
本間 そうですね。でも、完全にオフのときもあります。Backpacker’s Japanにはトリップオフという制度があって、年間で2週間まとまって休みを取ることができるんです。そのときは僕も休暇を取っています。とはいえ、何をしていても仕事のことは常に考えていますね。仕事すること自体が好きなことなので、遊びと仕事を明確には分けていないです。
林 トリップオフ制度はすごくいいですね。名前もいい!
本間 すごくいいですよ。宿のマネージャーでも長期休暇を取るので、そうするといない間に誰かがマネージャーの仕事をしないといけなくなる。いない人の分をみんなで負担すると、「なるほどこういう仕事をしてるんだな」と気づくきっかけにもなるので。それに、スタッフとして迎えてばかりで、旅する側にならないと忘れてしまうこともありますから。
林 今後、新しい展開は何か始まりそうですか?
本間 これまでは人と人を繋げることを意識して仕事をしてきたんですが、これからはそこに自然を入れることで、人と自然の境界線を曖昧にしていけるような仕組みを作っていきたいと思っています。自然を都市に持ち込むのか、都市に住んでいる人を自然になかに送り込むのか、ふたつの軸があると思うんですけど・・・。どちらにしても、今までやってきた形とはまた少し違うものになると思います。
林 自然と都市が交錯する場所、それはおもしろそうですね。
本間 都市のビルとかマンションって居心地悪いじゃないですか。空調はきついし、肩もこってくる。それって、今よりも少し前の時代に自然の脅威や面倒を避けて都市を形成して行ったけれど、「やっぱり人間と自然が共存してる状態が心地よかったんじゃないか」って気付き始めたということだと思うんです。今後は、より自然に近づいていく行為が必要だと思う。例えば、窓をより大きくして自然に空気がビルの中を通り抜ける空調がいらないホテルとか。極端な例ですが、例えば雨の日に雨が中まで入ってきて植物を濡らす部屋とか。それを自分の生活に取り入れるのは時間もお金もかかりますが、ホテルなら一泊で体験できるじゃないですか。そいう生活の形というか、自然に近い生活空間をホテルで体験することで、暮らしの形も人の気持ちの持ち方も変わってくるんじゃないかと。
林 それは東京で? まだ分からないですよね。
本間 世界中でやりたいですね。でも、東京には作ります。東京にはあったほうがいいと思う。夏はクーラーが効き過ぎて寒いし、冬は暖房で乾き過ぎだときっとみんなが思っているので。
お土産はなるべく買わない、貰うのもあまり好きじゃない
林 最近は毎月10日間も海外に行かれているわけですが、お土産って買われますか?
本間 基本的に機内へ持ち込めるサイズのバックパックで移動することが多いので、なるべく買わないようにしています。でも、現地でしか買えないもので欲しいものがあれば買って帰ることもありますね。
林 例えば?
本間 サンディエゴやNYに行ったときは、サーフボードを買ってきました。大きな荷物になりますけど(笑)。あとは本。例えば、メルボルンに行くとアジアと西欧のフュージョン料理がすごく発達しているんです。ジャパニーズ×オーストラリアとか、タイ×イタリアとか。でも、そういうレシピ本って日本ではなかなか売っていないので、4〜5冊買ってきましたね。
メルボルンで購入したレシピ本『ALIMENTARI(アリメンタリ)』。
「日本でフュージョンというと、どうしても前衛的なイメージがある。でもメルボルンでは父親が中国人で母親がオーストラリア人という家庭で育ったシェフが、ふたつの国の料理をMIXしてレストランを開業したというような、すごく自然な感じでした。そういう肩の力が抜けたレシピ本って日本で見つけるのが難しくて。『ALIMENTARI』は、もともとはデリなんですけど、そこの料理が話題になって店頭で本を販売し始めたんです」
林 お土産を買わなくなったのは、旅慣れたからではなく?
本間 昔はお土産を買う余裕がなかったというのもありますが、もともとお土産を買うのも貰うのもあまり好きではないんだと思います。無駄になってしまうことも多い気がして。
林 でも、現地のお店はいろいろ回られるんですよね。
本間 結構回りますね。例えば、前回NYに行った時は1日20軒くらいレストランやカフェ、バー、ホテルを回りました。ごはんを4〜5回食べて、カフェに数軒寄って、バーを巡って、ホテルやラウンジを見に行って。基本的には、ずっと歩いていますね。
林 すごい行動力と体力ですね。荷物にならないポストカードやキーホルダーのような定番ものも興味はないですか?
本間 大学時代は、その町々で買ったポストカードを付き合っていた彼女に送っていました。
林 メールで済んじゃうから最近は少なくなってそうですね。
本間 忘れてほしくなくて、ひたすら書いてましたね(笑)。
林 いいですね〜、そのポストカードは今もどこかにあるんですかね。
本間 あると思いますよ。今の奥さん、ですからね。どこかに持ってると思います。
林 わ、素敵なエピソード!いい話が聞けたところで、そろそろお時間となりました。今日はありがとうございました。
PROFILE
1985年、福島県会津若松市生まれ。株式会社Backpackers’Japan CEO代表取締役。
大学3年生のとき、バックパックひとつでオーストラリア一周の旅に出る。帰国後、ふたつの学生団体の代表を務め、卒業を機に起業を決意。2010年、「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を。」を理念に、個性的なゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’Japanを創業。同年、古民家を改装した『東京の古民家ゲストハウスtoco.』(東京・入谷)をオープン。その後も、2012年『Nui.-HOSTEL & BAR LOUNGE』(東京・蔵前)、2015年『Len』(京都河原町)、2017年『CITAN』(東京・東日本橋)と、コンセプトの異なるゲストハウスを展開している。
http://backpackersjapan.co.jp/blog/
11980年岐阜県生まれ。編集者。『NEUTRAL』に創刊時より参加。その後いくつかの雑誌編集部を経て、『TRANSIT』に参加。発刊第39号、キューバ特集が発売中。
http://www.transit.ne.jp/