トラベルカルチャー雑誌 『TRANSIT (トランジット)』の林編集長が、「旅のお土産」をテーマに、毎号ゲストの方と対談する連載企画。今回は、グラフィックデザイナーの岩淵まどかさんにお越しいただきました。最近は東欧にハマっているという岩淵さんが、つい手にしてしまうお土産をお聞きしました。
東欧は、あまり西洋化されていないところが好き
林 旅は、どのエリアがお好きとかありますか?
岩淵 なんだかんだヨーロッパが多いですね。実は湿気が苦手で、東南アジアがあまり得意ではなくて。
林 それだと日本の夏も相当きついんじゃないですか? 海外の方は日本の夏の湿度の高さに驚いてますよね。
岩淵 年々きつくなっていますよね。向こうのほうは、スコールが降れば蒸し暑くなりますけど、基本的には暑いので乾いているんですよね。むしろ、日本のほうが蒸し暑いかもしれない。
林 一方で、「東京の冬はサハラ砂漠より乾燥している」と聞いたことがあります。
岩淵 そうなんですか? 日本って相当厳しい環境じゃないですか!
林 ほんとそうですよね。ところで、旅は昔からお好きだったんですか?
岩淵 海外旅行が大好き! ってわけではなかったんですけど。20代の頃、仕事で行かせていただく機会が何度かあって、それからですね。今は不景気なので、海外に行ける仕事はほとんどないですけど(笑)
林 バルト3国とか、マニアックなところに行かれているイメージがあるんですけど、ヨーロッパはほとんど周りました?
岩淵 メジャーなところは。でも、ちょっと危険なところは行ってないです。最近は東欧が多いですね。あまり西洋化されていないところが新鮮なんです。売っているものも、旧ソ連時代の空気感が残っていて、「こんな素敵なのがあるんだ!」みたいな。そういうものを歩きながら発見する楽しみがあるんです。
ひとり旅の醍醐味は、五感が鍛えられるところ
林 海外へはひとり旅が多いですか?
岩淵 そうですね。最初の頃は誰かと一緒に行っていましたけど、仕事をしていると友だちとタイミングが合わないことが多くて。あと、悔しい思いをして帰ってくることも多いんですよ。「なんであそこで折れちゃったんだろう」とか、「踏み込めなかったんだろう」とか。ひとり旅の醍醐味って、五感を鍛えるみたいなところがあるじゃないですか。五感をフルに使わないと乗り越えられないみたいな。
林 わかります! 自分しか信じられないというか、いろいろ試される感じがありますよね。ひとりだと、ごはん屋さんに入るだけでも真剣勝負ですし。
岩淵 そうそう。本当はあの店に入りたかったんだけど、気後れして入れなかったとか。そんな自分に対して反省したり。
林 自分に対して厳しい(笑)
岩淵 そういうことを繰り返すうちに、五感を鍛えながらひとりで旅行したほうが楽しいんじゃないかと思って。
林 これまでで、一番辛かった旅は何ですか?
岩淵 スペインの巡礼路を歩いたときは、さすがにきつかったですね。主要ルートが4つくらいあるんですけど、私はピレネー山脈を越えてスペインに入る人気のコースを歩いたんです。でも、最初の1週間くらいで後悔しました。
林 トータルで10日間くらいの行程ですか?
岩淵 いや、1ヶ月くらいですね。日程が足りなくなってしまって、現地で買った英語のガイドブックを見ていたら「この区間はスキップしてもいいよ」と書いてあったので、その区間だけはスキップして、あとは全部歩きました。途中で虫に刺されて全身湿疹が出たり、ボロボロになったんですよ。
各国の町々で、郵便局には必ず行きます
林 そろそろ本題のお土産についてお話を伺いたいんですけど。
岩淵 はい。私はグラフィックデザイナーという職業柄か、つい紙モノを持って帰ってきちゃうんですよ。
林 実は私もそうなんです。
岩淵 20代の頃は、「買い付けか!」ってくらい、洋服とかいろいろ買っていたんですけど。でも、スペイン巡礼のときに自分の荷物が重すぎることを反省して、そこからはライトパッキング思考になったんです。道行く巡礼者たちから「あなたは荷物が多すぎる」と言われましたからね。それ以来、お土産も小さいものしか買わなくなりました。
林 今はどのくらいのバッグで行かれるんですか?
岩淵 1ヶ月程度の旅行でも、機内持ち込みサイズしか使わないです。
林 わっ、すごいコンパクト。紙モノはどういうものを集めているんですか?
岩淵 旅行先で親にポストカードを送るという習慣があるので、郵便局には必ず行くんです。そこで「FDC」を買うことが多いです。
林 FDC?
岩淵 正式には、「First Day Cover」というらしいんですけど。新しく発行された切手の記念として、その切手が貼られた封筒にスタンプがおされたものが売られているんです。
林 初めて知りました。それはどこの国で売られているんですか?
岩淵 どの国にもあるんですよ、日本にもあります。これはチェコのもので、古いものとかはアンティークショップで買ったり。デザインが素敵なので、FDCだけでなく普通に切手を買うこともあります。
林 どれもすごくかわいい。旅先から親にポストカードを送るという習慣も素敵ですね。見習います!!
新しい切手の発売日に売り出される、その日のスタンプが押された記念セット。日本では「初日カバー」と呼ばれている。左上2つはブルガリア、右上2つはチェコ、下2つはブルガリで購入したイスラエルのFDC。
カレル・チャペックの切手など、郵便局に行って気になったデザインのものがあれば購入している。切手は子供時代から好きだったとか。
岩淵 ここにあるカードとかは、アンティークショップで買いました。バルト3国で買ったものが多いかな、旧ソ連というか、当時の雰囲気があって。なんか魅かれるんですよね。
林 東欧とか、もともと共産主義国だった場所のデザインって、なぜかすぐにわかりますよね。あれはなぜでですかね。
岩淵 ね、色使いも独特だし。
林 イラストの表情が笑っていなかったり(笑)
岩淵 あるある! どこか表情が暗いんですよね。北のほうなら寒くて笑顔が出ないとかわかりますけど、ブルガリアとかでも、みんな怒っているような表情だったりするんです。話すとフランクに喋ってくれるんですけどね、でもやっぱり表情は堅かったり。
林 このクリスマスカードも、ハッピーな気分になりたいんだけど、どこか公にできない鬱屈した雰囲気がありますよね。
イラストのタッチや色使いが独特な東欧の各種カード。デザインとしては北欧やイギリスのものが好きだが、東欧のデザインは自分では作れないという意味でも魅かれるとか。
岩淵 美術館とかに置いてあるフライヤーをざっと持ってきて、宿に帰って選別したりもします。あと、旅が長くなると、ティシュシュペーパーが足りなくなるので、ナプキンを多めにもらうんですけど。その中でかわいいデザインのものは、日本に持って帰ってきたりもします。こういうお土産って、旅の記憶の断片みたいなものなんです。
林 他に、旅先で必ず行く場所はありますか?
岩淵 蚤の市とかマーケットには絶対に行きますね。果物とか野菜を見ているだけでも楽しいし。民泊みたいなものも利用するので、気になったものを買って料理したり。
かわいいデザインのナプキンや、おしゃれな紙袋などを持ち帰ることも多い。旅の思い出になりつつも、軽量でかさばらず、振り返ったときに記憶が蘇る。
上はロンドンで購入した影絵が表現できるカード。下は角度を変えると立体に見える懐かしい加工が施されたカード。デザイン的な面白さはもちろん、フォントや印刷方法などもつい気になってしまうとか。
今は、スマホさえあればなんでもできてしまう
林 岩淵さんが旅をする理由はどこにありますか?
岩淵 町をぶらぶら歩くのが好きで、いろんなものを見るのが好きだし。あとは写真も撮るので、それも楽しみのひとつですね。1ヶ月とかの旅行だと、最初と最後の場所だけ決めてあとは何も決めない。例えば、ベルリンに着いてロンドンから帰ろうとか。あとはその場のノリでどこに行ってもいいやみたいな。
林 その旅慣れたスタイルは、いつくらいからできるようになりました?
岩淵 今はスマホさえあれば、なんでもできちゃいますからね。ガイドブックもKindleで買えちゃうし、昔みたいに悩まずに済む。ATMも、昔はトラベラーズチェックでしたけど。
林 トラベラーズチェック! まだあるんですかね?(日本国内では2014年3月31日を持って全ての販売が終了)
岩淵 町のインフォメーションセンターを探して、窓口で近くのホテルを聞かなくても済むようになりましたよね。でも、昔はそういう手間が多かったぶん、現地の人と話す機会も多かった。それはそれで良かったなと思うんです。今は誰とも喋らずに過ごせちゃうから。
林 グーグルマップがあれば迷わないですもんね。
岩淵 私はそれでも迷うので、かろうじて話していますけど(笑)
林 不得手なことがあると旅の経験値は高くなるってことですかね。最後になりましたが、次に行く場所はもう決まっているんですか?
岩淵 7月初めにモロッコへ行きます。ロンドンに住んでいる友だちが、「モロッコいいいよ、行くなら一緒に行く」と言ってくれたので。
林 帰ってきたら、またお話を聞かせてくださいね! 今日はありがとうございました。
シップスのフィルターを通したこだわりのあるスタイリッシュなお土産物をラインナップした原宿店限定のSHIPS SOUVEN!RS。日本の文化や確かな技術の詰まったモノ、東京・原宿ならではのミックスカルチャー感溢れるモノ、友人に気軽に贈れるポップなモノを展開中。日本の縁起の良い伝統モチーフを親骨にしたBOUDAIの扇子は、創業1585年、安土桃山時代から続き、日本に今も残る工芸品や民藝品、または普段使われていた日用品など、日本の暮らしに根差した良いモノを現代の暮らし方に合わせて提案している西川庄六商店のオリジナル。扇面はコットン100%、袋が付き、桐箱に収められた日本の夏の風物詩は、これまでにない自由な発想の日本土産として海外の友人にもオススメ。
扇子 各¥5,500(+tax)/BOUDAI
岩淵 まどか | Madoka Iwabuchi
グラフィックデザイナー。東京造形大学卒業後、デザイン事務所「CAP」に入社。雑誌『STUDIO VOICE』のチーフデザイナーなどを経て独立。雑誌・書籍のほか、ファッション、音楽、映画など幅広いジャンルの仕事を手掛ける。旅行好きが高じて、旅がテーマの雑誌『PAPER SKY』のアートディレクターを務めたことも。2014年よりデザイン事務所「fairground」に在籍。
林 紗代香 | Sayoka Hayashi
編集者。1980年岐阜県生まれ。『NEUTRAL』に創刊時より参加。その後いくつかの雑誌編集部を経て、『TRANSIT』に参加。発刊34号より編集長を務める。現在、35号『南インド・スリランカ スパイス香る楽園へ』が発売中。最新号『カリフォルニア もうひとつのアメリカへ』特集は6/16(金)に発売。発売を記念して6/14(水)には蔦屋代官山書店でトークイベントを開催。詳細はHPをご覧ください。
www.transit.ne.jp
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