オーストラリア・タスマニア州に属する小さな島“フリンダーズ”。「GENTLE WOOL(ジェントルウール)」とは、地球上でここでしか採れない極めて希少なラムウールと、伸縮性に富んだ合成繊維「ソロテックス」を融合した生地のこと。その魅力に迫るべく、尾州の機屋(はたや)、中伝毛織を訪ねました。
JR尾張一宮駅から車で10分程度。世界にも名を馳せるテキスタイルメーカー中伝毛織があるのは、“のこぎり屋根”がまだ点在する機屋の町、一宮市三条地区。ちなみに、このあたりの呼び名、尾州(びしゅう)とは、愛知県西部の旧国名である尾張(おわり)の別名。いわずと知れた織物の産地です。 中伝毛織の創業は昭和6年、その母体は明治39年と古く、これまでもメンズ、レディスを問わず、名だたるブランドやお店と革新的なテキスタイルを数多く生み出してきました。なかでも今回紹介する「GENTLE WOOL」は、世に出るまで2年を要した最新の生地。ビジネスパートナーである日鉄住金物産と共同で、試行錯誤を繰り返しながら開発したといいます。単に希少な素材というだけでなく、驚くべき機能と味わいが持ち味です。
GENTLE WOOL」は前述のとおり、希少なフリンダーズ産のラムウールと合成繊維「ソロテックス」のブレンド素材。その魅力は、一般的なストレッチ生地よりも伸縮性があって軽く、しかも劣化しないというのが大きなポイントです。さらに形状回復能力も高いので、シワになりにくいんです!
こちらは、横糸として打ち込む際の「ソロテックス」の糸。「ソロテックス」は繊維メーカー帝人が開発した螺旋(らせん)状の分子構造を持つ特殊な繊維で、伸縮性、クッション性に長けています。それでいて柔らかく、他の繊維とも調和しやすいため汎用性が高いのも特徴です。 ちなみに、「GENTLE WOOL」に使用する「ソロテックス」の糸には、あらかじめ手間暇をかけて“仮撚り”を施しています。そうすることで、強い光沢が抑えられてウールに綺麗になじむのです。
こちらはフリンダーズ産ウールの糸。白度が極めて高く、美しく染色できるだけでなく、強いハリとコシがあります。しかも滑らかで高級感も醸し出します。フリンダーズ島で採取できる良質なウールの量は、オーストラリア全体のわずか0.03%以下。それだけ希少な“ウールのなかのウール”なのです。
染色をしていない「GENTLE WOOL」の生地サンプルは、驚愕の白さ! 一般的なウールと比べると一目瞭然です。ここまでの純白は、フリンダーズ産のウールでなければ実現が不可能とのこと。
「GENTLE WOOL」(右)と一般的なウール(左)を比べると光沢感がまったく違います。それでいてウール特有の味わいや温かみも損なわれていない、まさにハイブリッドな生地なのです。
中伝毛織の本社には、織物工場が併設しています。もちろん「GENTLE WOOL」が織られているのもこちら。この工場では64人のスタッフが従事していますが、「GENTLE WOOL」に限らず、作業人数は必要最小限の少数精鋭型。熟練のスタッフが常に目を光らせながら、高品質のテキスタイルを24時間体制で生み出しています。
「GENTLE WOOL」を使用したアイテムが市場に出るのは、2017秋冬シーズンが初。素材の魅力に惚れ込んだSHIPSが、ジャケットとパンツをリリースします。本社では、来シーズンに向けてもうすでにミーティングが繰り返されていました。
汎用性の高さがピカイチのネイビージャケットは、着心地のよいアンコン仕立て。「GENTLE WOOL」特有のハリとコシがあり、耐久性も高いためデイリーに着ても長年付き合えます。
ジャケット ¥23,000(+tax)/ SHIPS
パンツは、太もも部分に余裕を持たせた1プリーツのテーパードタイプです。今年らしいクラシック感と、体型を選ばないリラックス感を兼備しています。ちなみにこちらは、雑誌Beginとのコラボ企画として特別に製作されました。
パンツ 各¥15,700(+tax)/ SHIPS
「GENTLE WOOL」は、他に類を見ないハイブリッド素材ですが、実は番手(糸の太さ)も特殊です。通常は72(ナナニ)番手が一般的ですが、65番手という異例の太さを採用しています。実は、かつてイギリスの郵便局員や鉄道マンなどの制服には、高い強度が必要という理由もあり、この65番手が使われていました。それを忠実に再現しています。