トラベルカルチャー雑誌 『TRANSIT (トランジット)』の林編集長が、「旅のお土産」をテーマに、毎号ゲストの方と対談する連載企画。今回は、写真集『MOTEL(モーテル)』が話題のフォトグラファー 柏田テツヲさんにお越しいただきました。
『TRANSIT』では初となる、20代で表紙に起用されたフォトグラファー
林 柏田くんは、『TRANSIT』のカリフォルニア特集で中面はもちろん表紙も撮っていただいて。しかも、初の写真集『MOTEL』を発売されたばかりということもあり、いま注目の若手フォトグラファーです。写真集の舞台でもあるアメリカにはいつから行かれていたんですか?
柏田 2015年に独立してから、3年近く通って撮影しました。年1?2回、それぞれ1ヶ月くらいの滞在です。
林 アメリカへの旅は、フォトグラファーの筒井義昭さんに師事される以前も?
柏田 いや、映画好きということもあってアメリカにはずっと憧れていましたし、最初は写真の勉強に行こうと思っていたんです。でも、お金の計算をしたらすごい額になることがわかって…。たまたま従兄弟がオーストラリアにいて、あそこは学生をやりながらでも働けるので、まずはシドニーに行きました。その後、語学学校やカメラの学校に1年半通って、一度日本に戻ってきて。そのタイミングで知り合いのデザイン会社さんに紹介されたのが筒井義昭さん。アシスタントを3年やって独立して、ついに憧れのアメリカ行きを果たしたという感じです。
林 先日、『TRANSIT』の表紙写真で起用されたことのあるフォトグラファーで、20代は初かも? と思って見返したら、やっぱり柏田くんが初でした。
柏田 そうなんですね! それは嬉しい。僕は19歳の頃から『TRANSIT』が大好きで。初めてのお仕事で表紙に選ばれたのはありがたいです。
林 いえいえ、こちらこそです。ところで、アメリカに興味を持ち始めたのはロードムービーに憧れてと伺っていますが、どんな映画を観られていたんですか?
柏田 大学時代、アウトドアや旅好きの仲間が周りに多くて。その影響もあって僕も18歳から旅を始めるんですけど。そのときに先輩から、映画『イントゥ・ザ・ワイルド』は観たほうがいいよって。そこでまんまとショーン・ペンの映像にヤラレて、ロードムービーを掘り下げるようになったんです。そのままノイズのある写真が好きになって、ウィリアム・エグルストンやスティーブン・ショアとか、ニューカラー(カラー写真を、初めてアートの領域まで高めた70年代の写真表現)と呼ばれる作品群が好きになったんです。
1泊40ドルを下回るモーテルはちょっと危ないかな
林 柏田くんの作風は、そういった旅写真の系譜をしっかり受け継いでいて。直系だし直球な写真ですよね。題材がモーテルになったきっかけは?
柏田 初めてアメリカに行ったときは、NY、サンフランシスコ、シカゴといろいろ見て回ったんです。その中で、やっぱりアメリカ南西部の空気や風景が好きだなって。車を走らせながら毎日モーテルに泊まっていたんですけど、そこで出会う人や部屋の雰囲気、出来事がまさに映画みたいなんですよね。10代の頃から憧れていた世界があったんです。
林 最初からモーテルありきではなかったんですね。
柏田 何か作品を作ろうとは思っていて、最初は題材探しの旅でした。でも、1回目の途中からすでにモーテルを撮り始めていましたね。
林 写真集に出てくる人物とか、みんないい顔をしていますよね。本当に映画みたい。
柏田 部屋の外が騒がしいと思って出てみるとトラブルが起きていたり。ネオンの感じとか、まさにそうでしたね。向かいの窓が開いていて、そこにいる黒人女性の雰囲気が良かったので、部屋をノックして写真を撮らせてもらったり。
林 意外に皆さん協力的なんですね。でも、なかには屈強そうな方も写っていて。怖くはないんですか?
柏田 明らかに危険そうな人には近づかないですね。
??モーテル選びで気をつけていることはありますか?
柏田 モーテルの雰囲気は値段ではっきり分かれているので。僕が泊まっているのは、キングベットが2つあるような1部屋40?60ドルくらいのところ。40ドルを下回るところはちょっと危ないかな。一方で、80ドル以上になるとプールや中庭が付いていたり格が上がります。
カフェや大型リサイクルショップでお土産を探すことが多い
林 そんな旅を続けながら、お土産はどんなときに買われているんですか? なかなか買えるような場所に行かなそうですが…。
柏田 いや、結構ありますよ。立ち寄ったカフェとか。このピンズはルート66沿いの『バクダッド カフェ』で買いました。あとは『In-N-Out Burger(インアンドアウトバーガー)』のTシャツとか。基本的には友だちにあげるためですけどね。
林 友だちのために買うなんて優しい!男性では珍しい気がします(笑)。
柏田 そうですか? 家族や友だちには必ず買いますね。MSRのストーヴも、ひとつは友だちのために買いました。このモデルは日本で売っていないんですけど、そういうのもちゃんと調べて行きますね。これを使ってモーテルでカレーを作ったり。アメリカだと食事がハンバーガーかピザばかりなので、いつもお米を2kgとカレールーを持っていくんです。鍋とかも現地調達して、飽きたらクリームシチューやパスタを作ったり。
林 へぇ?。暮らすように旅をしてるんですね。そうか、地元の方はモーテルをアパート代わりにしている人もいますもんね。
柏田 いますいます。それと同じ感覚ですよ。いつもドアを開けっ放しで食事をしているので、「何食べてるの?」って話しかけられたり。食事が余ったときはお裾分けしたり。
林 現地調達が多いということは、出かけるときは荷物が少ないんですか?
柏田 少ないですね。でも、帰りは結構多くなっちゃいます(笑)。このクッションカバーはモニュメントバレーで買ったんですけど、このサイズのクッションは日本にないだろうなと思って、巨大リサイクルショップの『グッドウィル』で買ったり。そのときは帰りの荷物がパンパンになりました(笑)。そうそう、リサイクルショップみたいなところはつい寄ってしまいますね、掘り出しものがあるんで。あとはアウトドアショップ。洋服もTシャツやディッキーズのパンツが好きなんで、アメリカで買うことが多い。そんなこともあって、行きの荷物は少ないかな。
映画でも有名な『バグダッド カフェ』で購入した、ルート66の標識とバイクに乗ったベティーちゃんのピンバッジ。
日本では販売されていないMSRのロングセラー商品『PocketRocket』。これを使って、モーテルの部屋でカレーなどを作るという。
モニュメントバレーで購入したチマヨ柄のクッションカバー。日本ではあまり見かけない大きめサイズ(約72×60cm)。
真鍮のバングルはNYの古着屋で。トニー・ホークのシルバー・バングルと、マネークリップはモニュメントバレーで購入。
旅先で何故かアクセサリーを買ってしまう
林 でも、旅って日本じゃ使わないものを買ってしまったりしませんか? 勢いや雰囲気に呑まれて。
柏田 昔、タイで安いTシャツをいっぱい買って友だちにあげたんですけど「色落ちがひどい」ってクレームがきましたね(笑)。
林 タイパンツとかもね、買っちゃうんだけど意外と着ないんですよね。
柏田 面白いと思って買ったものが、実はハズしてたっていうパターンも。最近は、自分でも使うものをプレゼントするようにしています。
林 やっぱり、なんとなく選んだものはダメってことですかね。旅先でつい買ってしまいがちなモノってありますか?
柏田 シドニーに住んでいる頃から、旅先でアクセサリーを買う習慣があります。オーストラリアだとオパールだったり、インドならミサンガだったり。このトニー・ホークのバングルとマネークリップはモニュメントバレーで、もうひとつはNY。高いものは買わないですけど。
林 そうなんですね。お守りみたいな感覚なんですかね。
柏田 う?ん、なんでか買っちゃうんですよ(笑)。
林 モーテルシリーズは、今後も続けるのですか?
柏田 続きます! 来年で30歳なので、ひとつの区切りとして4?6月くらい長期で行こうかなと思っています。その間に南米とかも行ってみたいですね。
林 新しいモーテルの写真も楽しみにしています! 今日はありがとうございました。
柏田テツヲ | Tetsuo Kashiwada
1988年、大阪府生まれ。2010年に渡豪。2012年に帰国し、筒井義昭氏に師事。2015年の独立後は、雑誌・広告等で、旅、ポートレート、カルチャーを中心に撮影している。
写真集『MOTEL』
¥3,800(+tax)
ルート66沿いを中心に、モーテルに泊まりながらロードサイドの旅人たちを追いかけた初の写真集。
林 紗代香 | Sayoka Hayashi
1980年岐阜県生まれ。編集者。『NEUTRAL』に創刊時より参加。その後いくつかの雑誌編集部を経て、『TRANSIT』に参加。発刊34号より編集長を務める。現在、37号となる『アイスランド特集』の発売を記念して、9/15(金)より代官山 蔦屋書店にて写真展『アイスランドの夏をあつめて』を開催中。
www.transit.ne.jp
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