出版不況、雑誌不況が声高に叫ばれるなか、敢えて新境地を切り開こうとする雑誌がある。9月末に第一号が発売した『HEREmag(ヒア マグ)』と名付けられたファッションカルチャー誌だ。10代後半から30代までの男女をターゲットにしたこの新雑誌は、ファッションとカルチャーという普遍的な要素をこれまでにない切り口で提示するのがテーマだという。「キーワードは、SNS時代を生きる若者たちの感覚と声をストレートに代弁することにある」と語るのは、企画・編集を担当する田島 諒氏。気になる雑誌のコアの部分と、これからの展望をお聞きした。
田島 諒氏は、ストリートカルチャー&ファッション情報誌の編集者として長年雑誌作りに携わったのちに独立。現在は、フリーランスの編集・ディレクターとして活動している。HEREmagは、企画の立案から細かなページ作りに至るまで、総合ディレクター的な立場で関わっている。
これからサブカルチャーを
作る人に読んでほしいんです
??まずは、『HEREmag』刊行に至った経緯をお聞かせください。
「こういう雑誌を作ろうと思ったのは、10代?20代をターゲットにしたファッションカルチャー誌が、今は世の中に少ないなと感じていたことが大きいですね。10年ほど前でしたら、音楽やグラフィティ、スケートなどを題材にした雑誌はたくさんありましたけど、それが全然ない今、若いコたちは、いったい何を入り口にサブカルチャーを知ればいいんだろう? と単純に思ったんです。少なくても音楽の情報は得られるけど、音楽とファッションが一緒になったもの、音楽とサブカルチャーがセットになったものはメディアとしてほとんどないのが現状ですよね。それなら、それらをまとめたものを世に出せば、面白いなと思ったんです」
??それはいつぐらいから構想されていたんですか?
「2年ぐらい前からですね。紆余曲折ありまして、企画を出版社に持ち込んで今秋にようやく発売できたという感じです」
??なるほど。ファッションとカルチャーといいますと、ある意味、王道のテーマではありますが、HEREmagとしては、何に重きを置いてコンテンツを作られているのでしょうか?
「そうですね。音楽で言えばジャンルで区切らないというのがコンセプトとしてあります。加えて、紹介するアーティストに関してこだわっているのは、もともとはDIYで活動をスタートさせた人であることと、自分の個性を持って世の中に何かを発信している、もしくはしようとしている人ということです。それがヒップホップであろうとパンクであろうと、Jポップであろうと、R&Bでもジャズでも全然なんでもいいんです。今の10代、20代の人たちは、音楽をジャンルで区別して聴いていないんですが、アイデンティティを持って活動しているアーティストたちは、少なくとも今の若者を等身大で表現していると思うんですね。だから共感を呼ぶんです。雑誌としてはそういう“若者の代表者”を捕まえようと思っています」
??そうなると、自ずと掲載するアーティストもこれからを担う若者が中心ということですか?
「そうですね。これからサブカルチャーを作る人に読んでほしいので、これからの時代を作るアーティストをメインで取り上げることが多いと思います。ただ、彼らが今、存在するのは、やはり前の世代があったからだと思うんですね。例えば、ヒップホップでいえば、ジブラさんであったり、ロックならハイスタンダードであったりと、そういう大きな存在も、必然的に取り上げることにはなると思います。今の若者の上の世代も取り上げることで、30代の人が読んだらカルチャー雑誌だと捉えることができると思います。若いコたちにとっては、同年代が出ているので、自然に共感できますし、ファッション誌としても楽しめる。それらを網羅したファッションカルチャー誌という立ち位置を確立していければと思っています」
イベントと連動して
コンテンツを展開していきます
??今はウェブが脅威だと思うのですが、敢えて紙媒体にチャレンジしようと思ったのはなぜなのでしょうか?
「それは、確かに難しいところだとは思います。今の若いコたちの情報収集手段というのはSNSが中心になっています。なかでもインスタとツイッターですよね。でも、それだと情報を点でしか捉えられないんですね。だからといってそれは悪いことではなく、そういう時代なんだと思います。ただ、ファッションや音楽カルチャーというのは、点と点が線になって面になっているというか、幅広さがあるから面白いんだと思うんですよ。その幅広さを伝えるには、ある程度のストーリーをまとめて伝えてあげないといけないのではないかと感じています。それで一番わかりやすい入れ物が雑誌だと思ったんです」
??ストーリーをまとめた実物のパッケージにすることに意味があるということですかね。
「そうですね。あとはSNSになると情報が流れていくというか、与えられた情報が目の前を通過していくだけだと思うんですけど、アナログの本は、能動的というか、自分から手にとって扉を開かないと情報が入ってこないですよね。そういう情報の受け取り方を若いコにもして欲しいなという願いもあるんです。ただハードルが高いのは、関係者全員認知はしていて、その面白さを伝える手段の一つとして紙媒体と連動したイベントであったり、体験型の試みを企画しています」
??なるほど。HEREmagはイベントも精力的に開催していくんですよね。ライヴでの若いコたちの反応は今どうなんでしょうか?
「不思議なことに、音楽情報誌とかメディアも少ないのに、大きなライヴ会場は、比較的どこもパンパンに人が入っているんですよ。その現状をまだメディアが追跡できていないと思います」
??確かに、そういう現状をメディアの人たちは知らないのかもしれないですね。
「そうですね。だからHEREmagでは、イベントと連動してコンテンツを展開していきたいんです。雑誌のタイトルも若いコが“ここから一緒にはじめよう”という思いが込められているんです。あとは伝え方ですよね。結局、既存のカルチャー誌と同じことをしても、単なる焼き直しにしかならないので、いろいろと工夫が必要だと思っています。例えば第一号は、特集ページは雑誌を横から見るとすべてページに色が付いているんですよ。全体の構成も人のクローズアップからショップ紹介、物の紹介など敢えて変則的に配置しています。それはインスタを参考にしていて、若いコたちが情報を点でしか見ていないのであれば、あんまり長々としたものを見せても、拒絶反応があるだろうと思ったからです。説教くさいと感じられたりとか、そもそも読むのが面倒臭いとか思われたらだめなんです。読むテンポみたいなものも、雑誌としては重要かなと思いますので、視覚が素早く変わるような作りを意識しています。それで一冊読んだときに、どうやらこの雑誌は同じことを伝えようとしているんだなと、10代のコも思ってくれたらいいなと思っています。それはチャレンジですね」
??いろいろな要素をシャッフルして、飽きさせないということですね。
「そうですね。もしかしたら、雑誌を作ってる人が見たら、何この作り? 素人が作ったの? というふうになるかもしれませんが、そもそも本を読んでいない世代に向けて作っているので、こういうのもありだと思うんです(笑)」
ファッション誌の読者離れは
作り手側にも責任がある
??ファッション的にはいかがですか? 何か基準のようなものは設けているのでしょうか?
「HERE magで体現していくファッションスタイルというのは一つ明確にあるんですが、それは“平熱感を持って着飾ったリアルクローズ”ということなんです。若いコたちはファッションを楽しむ場合、ブランドやモード、ストリートというようなカテゴリーで選んでいないんですね。例えばサンローランを着てスケートをしちゃうようなことも平気なんです。着ているコートが20万だろうが、30万だろうが、気に入れば生活のなかで普通に着るし、それが実用的かどうかは後から考える。しかも彼らは結構冷めていて、ファッションも生活のことも同列で捉えているんです」
??特に身構えてオシャレすることもしないし、常に平熱で好きな格好をしているということですか?
「そんな感じだと思うんです。ただ彼らのなかでファッションは、基本的には優先順位は低いんです。格好つけるのは格好悪いと思っている人も多いですから。なので、ファッションを好きになることは、決してナルシストということではないんだということを、彼らが共感できる平熱感のあるファッションで見せていきたいんです。別にモデル体型じゃなくても、ユニクロ以外でも、“キミは着る資格があるよ”、ということをファッションページでは提示することを意識しています」
??それは、今の若いコたちのリアリティを、作り込んで見せていくということなんでしょうか?
「そうですね。作っていくので、本当のリアルではなくファンタジーの部分は多少あると思うんですが、本当はキミたちこういう格好がしたいんじゃないの? という提案ですよね」
??なるほど。親近感のある見本を実際に示すということですね。
「だからモデルもアーティストを起用しているんです。スタイルのいい8等身のモデルじゃないのは、読者が、これなら自分もいけるなと思ってほしいし、ここまで飛ばしてもいいんだな、というふうに一つのサンプルを見せたいんです。少しでもファッション感覚を自分の生活に取り入れていってほしいという思いもあります。別にこの雑誌で見たようなコーディネイトをするのに、違うブランドで似たものを揃えてもいいわけですし、共感できるものだったらきっと真似すると思うんですよ」
モデルは、読者にとって親近感のあるアーティストを起用。現実とかけ離れた気合の入ったオシャレではなく、あくまで平熱で楽しめるコーディネイトを読者目線で提案するのがHEREmag流だ。
??共感できるものを徹底して見せるというのは、読者としっかりと繋がっている感じがしますね。
「ファッション雑誌からも若者が離れていると言われていますけど、それは作っているほうにも責任があると思うんですね。ファッションの世界って閉鎖的な部分もありますし、華やかな世界をそのまま見せても、例えば地方に住んでいる若いコが共感できるかというと難しいと思うんですよ。今は暗い時代でもありますし、自分なんかじゃ無理だと思ってしまう人が大半ではないかと。でも、ファッション誌はひたすらスタイルを提案しますよね。若い読者は、そんなことを提案されたいんじゃなくて、まずは、自分もこういう洋服を着ていいんだ、とか、こういう格好をしてもいいんだよ、ということを確認したいんだと思います」
??雑誌を見て、憧れてすぐ真似するのではなくて、共感できないと諦めが入ってきちゃうということですね。
「そうです。それを理解しないといけないんじゃないかと思います。ただでさえ洋服は高いですし、読者が“俺はいいよ”ってなるのはよくないと思うんです。まずは、若いコたちの気持ちを理解して引き上げないと、結局これ以上ファッションカルチャーも発展していかないと思うんですね。その入り口を音楽にして、どうやらファッションも音楽みたいに面白そうだなと、若いコの意識が変われば、ファッションの未来が広がっていくんじゃないのかな、とすごい生意気なことを考えています(笑)」
アーティストは読者にとって
同じ目線の人なんです
??HEREmagは、そういう読者との距離感や若いコの気持ちを最優先で体現した雑誌ということですね。
「そうしたいと思っています。アーティストが数多く出ているのも、決して憧れの人として取材しているのではなく、むしろ読者にとって身近な人たちとして捉えているんです。自分たちの気持ちを代弁してくれる、歌ってくれる人というか、決して手の届かないヒーローではないんです。多分、読者は学級委員長ぐらいに近しい存在だと感じていると思うんですよ(笑)」
??例えばハイスタンダードとかは、年齢的にはかなり上の世代ですけど、きっと代弁者ということで無条件で共感してもらえるんですね。
「ただ、先輩の世代には、少し説教くさくなるかもしれませんが、誌面では考え方を伝えてもらいたいという部分もあるんです。時代を作ってきた人たちには、今の若いコたちにはない信念と実績があるんで、そこに裏付けられた言葉の強さや存在感は、読者に勇気を与えてくれると思います」
??確かに、偉大な先輩の話なら聞く耳を持ってくれますよね。なんにせよ、アーティストやヒーローの捉え方は時代とともに変わってきているということですね。
「SNSの存在ってやはり大きいと思うんです。みんな繋がっていますし、ツイッターとかでいろいろ言い合うわけですから。そういう環境にずっといることで、多分、友達のなかの一人としてアーティストのことも見ていると思うんですよ。同じツイッターのタイムラインを見ている自分と同じ目線の人なんです。同じ時代を生きているし何かを共感しているという認識がちゃんとあるんです」
??なるほど。雑誌を作ってきた人たちは、もはや一昔前の人種なのかもしれないですね。今の若いコたちの気持ちを捉えたファッションカルチャー誌が減ったのは、そこの認識がズレてしまったからなのかもしれません。
「ストリートカルチャーとかファッションが盛り上がったのは、90年代半ばですから、もう20年前なんですよね。例えば象徴的なブランドでもあるシュプリームが誕生したのもそのぐらいですよね。そのときの感覚や情報の見せ方を今の16歳にしても、受け入れられるのは難しいと思うんです。まだ、そのとき生まれていなかったわけですから。HEREmagは、そこのギャップを考えながら彼らが共感できるコンテンツをイベントやライヴと連動しながら常に提示できればと思っています」
2016年9月末日に第一号が発売。記念すべき表紙を飾ったのは、SiMのMAH氏、coldrainのMasato氏、HEY-SMITHの猪狩秀平氏。いずれもHEREmagが注目するバンドのフロントマンだ。年明け早々の2017年1月8日には、早速HEREmag主催のイベント“from HERE”がTOYOSU PITにて開催される。出演バンドは、Ken Yokoyama、ストレイテナー、coldrain、SUPER BEAVERの4組。今後も同雑誌が発信する音楽やファッションの楽しさが体感できるライヴイベントは、定期的に開催され、誌面と連動していく予定だ。第2号は来春発売。
http://j.mp/heremag-web
from HERE vol.01
2017年1月8日(日)at 豊洲PIT 開場 16:00 開演 17:00
出演:Ken Yokoyama、ストレイテナー、coldrain、SUPER BEAVER
チケット:?3,800 +1ドリンク代、
一般発売日 12月3日、Pコード 315-175
主催:HEREmag
制作:gil soundworks
協力:BLANKS
問:チケットぴあインフォメーション tel 0570-02-9111
HP http://heremag.jp/2017ss/