トラベルカルチャー雑誌 『TRANSIT (トランジット)』の林編集長による人気連載企画。今回は、自然な光を生かした柔らかな雰囲気の写真で人気のフォトグラファー・かくたみほさん。彼女はこの10年間フィンランドに魅了され、さまざまな風景を切り取っていることでも知られています。そこで今回は、フィンランドの旅を中心に伺いました。これを読めばフィンランドに行きたくなってしまうはず。また、旅行先として考えている人にはお役立ち情報がたくさんあります!
フィンランドは治安が良くて、カメラをぶら下げて夜に出かけても平気なんです(かくた)
林 12月発売の『TRANSIT』が、フィンランドとアラスカを中心にしたオーロラ特集ということもあって、今回は是非かくたさんにご出演いただこうと思ったんです。よくフィンランドに行かれているし、私も一度訪れたことがあるんですけど、かくたさんの写真の世界観にぴったりだなって。
かくた ですよね。実は今回も数日前に帰ってきたばかりなんです、今年3回目(笑)。ありがたいことに、最近はいろいろとお仕事をいただく機会も増えました。
林 とはいえ、風景写真家というわけではなくCDジャケットやファッションの撮影など、いろいろなお仕事をされていますよね。
かくた 国内での撮影がベースですけど、もともと旅行が好きなのでどうにか趣味を仕事にできないかと考えて。3年前くらいから徐々に海外の仕事が増えた感じです。いまでは年に5?6回行くようになりました。
林 これまでにフィンランドはどのくらい行かれているんですか?
かくた 10年前から合計20回くらいですね。最初は仕事だったのですが、時期の悪い10月末で紅葉も終わっていて、雪もまだ積もっておらず、想像していていたイメージとは違う風景が広がっていたんです。そのときに現地の人から「夏の6月がおすすめ」と聞いたので、翌年プライベートで行ってみたんですよ。そうしたらすごく綺麗で、いっきにハマりました。そのうちに仕事でも行ける機会が増えて。
??プライベートでの旅行とはいえ、作品撮りがメインの旅だったんですよね?
かくた そうです。仕事で行ったときも延泊をさせてもらって、ひとり残って作品撮りをしてから帰るみたいな。そのうちにフィンランドの写真で個展をするようになって、そこからまた縁が広がっていったんです。
林 たまたまフィンランドだったんですか、それとも昔から憧れがあったとか?
かくた たまたまですね。昔は友だちがフランスに住んでいたので、よくパリ旅行をしていました。でも、治安があまり良くないので、いろいろと警戒しながら撮影していて。それがフィンランドに行ったらすごく治安が良くて、カメラをぶら下げて夜に出かけても平気なんですよ。緊張せずにふわっとした気分で撮れる、それが良かったというのもあります。
歩いて、見て、感じたときに撮ることが多い(かくた)
??そもそもフィンランドはどんな国なんですか?
かくた 縦長に広い国土で、同じ時期でも北に移動すると季節が違うことがありますね。北側の国土1/3が北極圏、真ん中部分が湖水地方と呼ばれる湖と森のエリアで、南側が首都のヘルシンキとかがあるほうです。私がよく行くのは北側に偏っていて、イナリという大きな湖のある地方は、絵本のような風景が広がっていておすすめですよ。
林 撮影されるときは「これを撮ってやる!」みたいな明確な狙いがあるんですか?
かくた 歩いて、見て、感じたときに撮ることが多いので結構サバイバルな感じです。フィンランドは山がほとんどなく、森もほとんどが植林なので明るくて見通しはいいんですよ。そこにはブルーベリーとか膝下くらいの低木がいっぱい生えていて、トナカイとかが歩いているのでなんとなくの道があるんです。また、湿地帯も多く、水草みたいなのが地面にいっぱい生えていて。そこを長靴でどんどん入っていく。沼にハマったら助からないだろうなと思いつつ。
林 どういうものを探してるんですか?
かくた 何かないかなというのと、「あのときは枯れていた植物に、何か花が咲いてるんじゃないか」とか。そんな感じで、わりと動植物を求めて歩いています。でも、10人くらいしか人が住んでない田舎に行くので、誰にも会わないんですよ。
オーロラを見たい人は、北側に何もなさそうな場所に行くといいかも(かくた)
??昔、オーロラを見たくていろいろと調べたときに、フィンランドでオーロラを見るには運も必要だと書いてあったのですが。
かくた 曇っている日が多いので、それで見えないことが多いのかもしれません。今回も10日間のうち7日くらいオーロラが見える地域にいたのですが、結局1回しか見れなかったです。1日しかいなくても見れる時もありましたが。
林 私もオーロラを撮影しに行ったとき、雲がない方向を目指してひたすらレンタカーを走らせました。でも、ツアーだと2時間とか制限があるので、その間に見れないと終了なんですよね。なので、行かれるならレンタカーを使うなど自分たちで動けるようにしたほうがいいかもしれない。
かくた 私の場合は辺鄙(へんきょう)なところまで行って、頑張って待ってますね。オーロラを見たい人は、宿を選ぶときにGoogle Mapを見て、北側に何もなさそうな場所を見つけるといいかもしれない。オーロラは北側から現れるんです。街明かりがあると見えずらいですし、オーロラは出てもすぐに消えてしまうことが多いので。ボーッとした光の筋みたいなのは長い時間あるんですけど、いわゆるヒラヒラとした強い光は2?3分しか出ないことも多いんですよ。
??昨年かな? オーロラの当たり年みたいなことが書いてあったんですけど。
林 観光業の人たちは毎年当たり年って言うらしいですよ(笑)
??えっ、なんかボージョレーヌーボーみたいですね。先ほど、フィンランドは治安がいいと仰っていましたが、その他でハマったポイントはどんなところですか?
かくた 風景が綺麗なのと、人が日本人と似た感覚があるのも居心地がよくて。日本人みたいに最初は人見知りなんですけど、話すと仲良くなれたり。また、私は英語が片言なんですけど、彼らもベースがフィンランド語で次にスウェーデン語なので、英語はお互い同じレベルだから歩み寄れるんです。あと、モノを大事にする文化であり、それが可能なほどフィンランドのデザインは何百年使っても廃れないくらい完成されている。その世界観はすごいですね。あと、彼らも室内では靴を脱ぐんですよ。
林 やっぱり相性がいいんですね。かくたさんは穏やかな方だし。
かくた 外国ってみんなグイグイくるじゃないですか。それがない。あと時間に正確なんですよね。バスもしっかり定時に来るので予定が立てやすい。
林 その感覚わかります。謙虚でシャイというか、私もフィンランドの方と仕事をしたときに、すごくやりやすかった。気を使ってくれたりするんですよね。あと、夏は白夜で冬は極夜というのも面白いですよね。
秋はポルチーニ茸や松茸がたくさん採れる、キノコ狩りができます(かくた)
??極夜は本当にまったく陽が昇らないんですか?
かくた 北側はそうですね。でも、向こうの人たちはだんだんと陽がなくなる秋が一番憂鬱らしいですよ。冬になると雪の白さで反射して明るいから、気持ちも明るくなるんだって言ってました。
林 以前取材したとに、冬を家で過ごす時間が長いから、マリメッコみたいなカラフルなテキスタイルや部屋を飾る文化ができたと聞いて「なるほど!」って思ったんですよね。かくたさんは夏と冬のどちらがお好きですか?
かくた どっちも好きです。春はまだ行ったことなくて。でも、秋はキノコ狩りができるんですよ! これまでは写真を撮るのがメインで季節を選んでいたので、オーロラの冬か、西日のようないい感じの斜光が続く白夜の夏にしか行ってなかった。でも、今年初めて8月末から9月初旬に行ったら、松茸やポルチーニ茸がタダでたくさん採れることがわかって。フィンランドは自然享受権というのがあるので、公園内でも誰かの所有地でも自由に採っていいんです。
林 量の制約だけあるんでしたっけ?
かくた 量の制約はないですね。明らかに採りきれないくらいあって、キノコのように菌で翌年も生えてくるものや、ベリー系の実だけはOK。樹木など伐採や根こそぎはNGです。
??すごいですね。キノコは日本に持って帰れるんですか?
かくた 私はガイドさんをお願いしたんですけど、薄くスライスして乾燥マシーンにかけて翌日お持ち帰りできるサービスがありました。田舎の人はみんなキノコ乾燥マシーンを持っているみたいなんです。私が行ったのはポルチーニ茸の季節でしたが、一週間早かったら松茸がたくさん採れたみたい。あれ、すごく楽しいですよ。
林 へぇ?、いいな?。白夜の時期も楽しいと聞いていて、私は公園でビールを飲みにピクニックがしたいんです(笑)。
かくた その時期はブルーベリーが採り放題。あと、6月初旬から7月末の季節は、21?22時に夕方っぽい雰囲気になって、日本でいうマジックタイムというか、空が濃いブルーで雲がピンクの世界が朝まで続くんです。
林 うわぁ?、行ってみたい! 白夜や極夜のなかを滞在するにあたって、何か体調面で気にされていることはありますか?
かくた 私はもともと丈夫みたいで(笑)。現地の人は遮光カーテンをして、明るい暗い関係なく時間通りに生活してますね。冬は真っ暗のなか、子供たちが反射テープの付いた蛍光の服を着て学校に通っています。
林 フィンランド意外でお気に入りの国はありますか?
かくた ハワイとかのんびりした場所ですかね。もともと宇宙とか星が好きで、ハワイも星が綺麗なので好きなんです。あと、わりとこじんまりした街があって、ちょっと行けば大自然があるみたいな場所が好きですね。大きい街は苦手です。
林 最後に、今後撮りたいものや場所はどこでしょう。
かくた フィンランドは行けば行くほど知らないものが出てくるので、来年の夏にまた行きたいですね。ノルウェーとフィンランドの国境くらいにサーミ人という人たちが住んでいるんですけど、彼らにとっても聖地の丘があったり。次はそこに行こうと思っています。
林 まだまだフィンランドに夢中なんですね(笑)。今日はありがとうございました!
北ではマイナス30度にもなるという冬の装備:服を一枚追加するくらいの温かさがあるという腹巻。マフラーよりも行動しやすく温かいネックウォーマー。手首を温めてくれる毛糸のリストウォーマー。現地の人も日常的に使っているという目出し帽。
森や湿地帯を歩く際には欠かせないのが長靴。かくたさんが使用しているのは、日本野鳥の会が販売しているもの。低木が多く、露で濡れることも多いのでトレッキングシューズよりも長靴のほうがいいとのこと。また、それに合わせる厚手のソックス。
コンパクトになるウィンドブレーカー。こちらはフィンランドのブランドHALTIのもの。晴れ女のため、防水ではない普通のウィンドブレーカーを使用している。また、この柄は、ラトビアでは縁起がいいとされているアイコンだとか。
普段は長財布だが、旅には折りたたみ財布を持っていく。こちらはフィンランドで買ったマリメッコのもの。イヤリングは小さいものだとなくしやすいので、軽量で大きいものを持っていく。こちらはレースのパーツを買って自作したオリジナルアイテム。
林 紗代香 | Sayoka Hayashi
編集者。1980年岐阜県生まれ。『NEUTRAL』に創刊時より参加。その後いくつかの雑誌編集部を経て、『TRANSIT』に参加。次号より編集長を務める。34号「オーロラを見に行こう!」特集は12/16(金)発売。
www.transit.ne.jp
かくたみほ|Miho Kakuta
1977年、三重県鈴鹿市生まれ。スタジオLOFTスタジオマンを経て、写真家小林幹幸に師事後独立。光とトーンを活かした作風で雑誌、CDジャケット、ファッションカタログなどで活躍。今冬、フィンランドの動物と風景を中心にした写真集を求龍堂より出版。
www.mihokakuta.com
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