ストリートやモードといった枠を超えたアート、音楽などの多様なカルチャー。そんなバックボーンをプロダクトや数々のヴィジュアルから感じさせる気鋭のブランド「A.D.S.R.(エーディーエスアール)」をご存知だろうか? アイウェアブランドでありながら発信される映像や写真は、そのカテゴリーに止まらない奥行きがあって見る者を魅了する。目指す矛先はどこを向いているのだろうか? 気になるブランドの内実をディレクターの児島 充氏に語っていただいた。
音楽を聴くものではなく、
時代のカルチャーやスタイル、ムードを感じるものと捉える
??まずは、ブランドを始めた経緯とブランド自体のコンセプトを端的に教えていただけますか?
「シンプルに他に無かったということですかね。もちろん、(アイウェア)ブランドは多く存在していましたが、アパレル業界にセールスするというモデルケースがなかったという意味ですが。僕は当時、眼鏡業界に対して、商品、流通経路やターゲット層などに関して少し閉鎖的な印象があって、ブランドを設立するにあたり、アイウェアを視力を補うTOOL(道具)から自己表現のMETHOD(方法)として構築させたいと考えたんです。ライフスタイルから生まれる、音楽、ファッション、アートといったカルチャーを自由に表現するブランドでありたいということです」
??それは興味深いですね。音楽の影響を多くのヴィジュアルから感じるのですが、ブランドに反映させている音楽とは具体的にどういうものなのでしょうか?
「現代的なアプローチをしていく上で、トレンドにアンテナを張っていくのは必要だと思いますが、音楽というものを単純に聴くものと捉えるのではなく、その時代のカルチャーやスタイル、ムードを感じるものだと思っています。ブランドとして一つのジャンルに固執せず、ディテールを掘り下げた時に見える時代背景やカルチャーなどを今の時代やシーズンテーマに重ね合わせるという感じです。実際に聴く音楽もその時の気分で変わるのと同じ感覚ですね」
??なるほど。それでは、今シーズンの具体的なイメージとコレクションの特徴を教えてください。
「シーズンテーマを設けて3シーズン目なのですが、“Jazz”、 “Techno”と続いて、今回は“Roots”をテーマにPVを撮影しました。毎回、音楽(ジャンル)からシーズンテーマを引用しているので、一つ前のシーズンとはガラッと変えて、良い意味でブランドのイメージを裏切るようにやっているつもりです。3シーズン目にして、ようやく継続しているコレクションのスタイルが理解してもらえるのではないかと思っています」
??確かに世界観としての広がりを感じますね。音楽以外で、自身のモノづくりに影響を与えているものといえば何か思い当たりますか? やはりストリートカルチャーは大きいのでしょうか?
「多くの人が、A.D.S.R.をストリートブランドと認識しているのを感じていて、もちろん僕自身ストリートという中で育ってきたので、それに対しては全く否定的ではないです。ただ、モードブランドに比べて単なる価格の安いアイウェアというのではなく、音楽やファッションというカルチャーの詰まったライフスタイルとリンクさせることが重要であり、“ストリート”=“リアル”という立ち位置を保つことで、モードへも踏み込んでいけるのだと思っています。そういった意味では、ストリートブランドであり続けたいですね」
アイディアをミニマルに表現する事を大切にしています
??インスピレーションをサングラスというプロダクトで具現化する際に、もっともこだわっている点はなんでしょうか?
「バランスですね。インスピレーションをプロダクトのみに詰め込み過ぎないように意識しています。ブランドとしてプロダクトのクオリティを上げていくのは当然の話なので、プロダクト以外のPVやインスタグラム等のアウトプットもデザインする事が必要な時代ではないでしょうか。そうしたブランディングがブランド背景として奥行きをつけていけると思います。プロダクトとイメージの繋がりを重視している点から考えてみて、やはりバランスが重要だと思っています」
??では、ご自身が作るプロダクトを身に着ける人物像やライフスタイル、コーディネイトなどに関してイメージはありますか?
「コーディネイトする時、眼鏡やサングラスを決めてから洋服を選ぶってあんまり無いですよね? アイウェアってアクセサリーと同じようなものだと思うので、逆にコーディネイトの邪魔をせず、アクセントになるようなものでありたいという感覚です。そういう意味では客観的にアイウェアを捉えることができるのが、A.D.S.R.の良いところだと思っています(笑)」
??素材やシェイプ、色使いやデザインといった具体的なモノづくりに関してはどうですか? 大切にしているポイントを教えてください。
「できる限りミニマルであることですね。変わった形や派手なモノでオリジナリティを表現することがあまり好きではないというのもあります。眼鏡に限らず歴史や技術にインスピレーションを加えていく作業を足し算で考えてしまうと、言い方は悪いのですが、安っぽいモノしか生まれないと思っているんです。アイディアを融合させるために引き算、割り算的なアプローチを意識しています。また、努力すればレベルを上げる事は可能ですが、キャリアを伸ばすことは出来ないので、我々の様に歴史の浅いブランドがシンプルでベーシックなプロダクトばかりでは勝ち残れないと実感しました。ストリートやモード、メンズやレディスなどといったカテゴライズをせず常に新しい事を模索して毎シーズンチャレンジしていく中で、アイディアをミニマルで表現する事を大切にしています」
??なるほど。最後に、これからのヴィジョンや目標を教えてください。
「ブランド設立から今年で7年目を迎え、アジアだけでなく、アメリカ、ヨーロッパ等にもマーケットを拡大してブランドと共に自分自身も進化してきました。根のあるモノをより太くし、変化していく事を恐れずに一歩づつ歩みを進めていきたいですね。まずは納期との戦いに勝てるように頑張ります(笑)」
児島 充 Mitsuru Kojima
1979年、岡山生まれ。1997年に渡米。大学に通う傍ら、「A.P.C. NY」でアパレルキャリアをスタートさせる。2002年に帰国後、「Supreme」に入社。2010年に自身のアイウェアブランドである「A.D.S.R.」を立ち上げた。音をコントロールするパラメータ「Attack」「Decay」「Sustain」「Release」の頭文字をとって名付けられたブランド名には、デザインにおける様々な要素を繊細にコントロールし生み出していくという思いが込められている。
http://www.adsrfoundation.com
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