日本の伝統を受け継ぐ“瓦”を現代人のライフスタイルに適合する新たなカタチとして再提案する。そんな斬新な試みを具現化した“icci KAWARA PRODUCTS”をご存知だろうか? そもそも瓦は古き日本の街並みになくてはならないものだが、それをアートやプロダクトとして別な視点で捉えると、ユニークな表現方法や魅力が見えてくる。それとともに日本独自のクリエイション“kawara”に対する世界からの注目度も日々高まっているという。同プロジェクトの代表でありkawaraクリエイターの一ノ瀬靖博氏に、そんな瓦の持つ無限の可能性について伺った。
「瓦に直感的に興味を持ってもらえる
アプローチが必要なんです」
??瓦は日本人にとっては馴染みのあるものですが、このプロジェクト(icci KAWARA PRODUCTS)をやろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
「22歳で家業である今の会社に入ったんですけど、とにかくこの仕事はきついんですよ。夏は暑いし冬は寒いし激務でして、ずっとこれを一生やっていくのかと悩んだりもしていたんですね。そんな時に京都に行く機会がありまして、古き良き時代の街並みを改めて見た時に自分の仕事に誇りが持てたんですよ。背筋が伸びるような思いをしたといいますか。ただ、その魅力を伝えていくとなったときに、いろいろと壁にぶつかったんです。1400年も歴史があって本来魅力がたくさんある瓦ですが、特に若い世代の人たちにはどうしても古いものと捉えられてしまう。なかなか興味を持ってもらえない部分が大きくて。美しい街並みを作る大切な要素でもあるし、社寺仏閣なんかはアートという捉え方もできるのに、なかなか興味を持ってもらえない。それなら何か別な手段を通して瓦の魅力を若い世代に伝えられないだろうか、そう考えたのが始まりですね」
??なるほど。瓦をアートと捉えると聞いただけで、かなり斬新な感じがしますね。
「そうですね。若い世代に、瓦とはこういう歴史があってこんなに魅力のあるものなんですってアピールしても、“そうなんですか?”と言われるだけですから。“なんだこれは?”っていうふうに、直感的に興味を持ってもらえるアプローチが必要だと思うんですね。たとえば、今自分たちはカフェもオープンしているんですが、そこでも自然に瓦を使ったプロダクトに触れたりとか、見たりすることができるようにしています。いろんな窓口を設けて広げていくことが重要だと感じていて。カフェの場合は食とのコラボですが、衣食住を通して瓦に触れられる場をもっと作っていきたいので、ファッションやインテリアなどとも絡めていければと考えています」
「瓦が世界の共通語になればと
思っています」
??取り扱いを開始したSHIPS原宿店は、日本の“おみやげ”をコンセプトにしたセレクション“SOUVEN!RS”を展開しています。ここでクローズアップされるということは、世界へのアピールもできますね。
「やっぱり瓦を若い世代に伝えるうえでも世界中の人が足を運ぶという意味でも、ここ(原宿店)で展開していくのは直接的で大切なアプローチだと思っています。実際に世界を見据えた活動もいろいろとやっているんですが、瓦(=kawara)が世界でも注目されているという情報は、日本にも逆輸入してどんどん伝えていけたらいいなと思っています。例えば、昨年はアメリカのイェール大学で日本建築を建てるプロジェクトがあったんですが、その瓦屋根を自分が担当させてもらったんですよ。そういう活動もそうですが、芸者や富士山みたいに、瓦が世界の共通語になれるような取り組みをどんどんしていきたいですね」
??具体的なプロダクトは、コースターといった実用的なものから、バナナやりんごを象ったオブジェのようなものまで幅広いですね。
「りんごやバナナに関しては、アートディレクターであるハイロックさんが、アイコン的なものを作ろうと提案してくれたんです。自分は、もともと瓦屋なんでその文化を純粋に伝えたいんですが、モノづくりに関してはアイデアを搾り出してもある程度限界があると思うんですね。やはり “俺だったらこういうのが欲しい” という第三者的なハイロックさんの意見は斬新に感じましたし、だからこそそれを生かしてダイレクトに形にしたんです」
??使い方に関しては、自由なんですか?
「そうですね。そのまま飾ってもいいですし、バナナのプロダクトをフォークやスプーン置きとして使っている方もいます。材質は瓦ですが、いろんな形で使ってもらえるんですよ」
??なるほど。瓦の持ち味を素材で感じながら、いろいろと楽しめるわけですね。今後はもっとアイテムを増やしていく予定ですか?
「そうですね、アイデアは常に出し合っています。これからはまた違ったアプローチも増えていくと思います。僕自身は、どっちかというと瓦の良さを生活空間に溶け込ませる実用性の高いものをイメージすることが多いですが、パートナーでもあるハイロックさんのアイデアと交差させることで、枠に囚われない新しいものを作っていきたいですね」
「日本の瓦のいぶし銀を見ると
海外の方がすごく驚くんです」
??それは楽しみですね。他にこれからの具体的なヴィジョンがあれば教えていただけますか?
「最終的には、さっきお話したように瓦が世界の共通語になるというのが大きなヴィジョンですが、近い目標で言えば、アメリカ、とくにNYですね。そういう世界的な都市で、瓦文化を発信したいなと思っています」
??それはどういうスタイルで発信するんですか?
「まずは展示会という形態を考えています。個展のようなアーティスティックなものよりは、自分たちが形にしたプロダクトをしっかりと見てもらう機会を作りたいなと思っています」
??今現在、プロダクトに関してはすべて自社で作っているんですか?
「うちは企業としてはちょうど100年の歴史がありまして、窯は実際に昭和51年まで動かしていたんですが、実はそこで一旦火を止めたんです。ですので、今現在は生産部門は自社では行っていません。こちらの要望に対応してくれる全国の工房さんとネットワークを構築しながら、OEMというかたちで作ってもらっています」
??瓦のOEMというのはユニークですね。まさに瓦を通して日本のモノづくりを伝えているわけですね。
「そうですね。瓦独特のいぶし銀の地色を海外の方に見せると、驚かれることが多いんですよ。これは金属なのか? 塗料で塗ったのか? スプレーを吹いたのか? とかそういう質問をよくされるんです。あれは窯の中で瓦を焼成する際に、炭素による薄い皮膜が瓦を覆うことによって生まれる色なんですよ。海外でこれはスモークによってできるというと、みんなすごく驚くんです。やはりヨーロッパで見られるようなオレンジの瓦とはまったく違う魅力があって、他の国の方々にもそれはしっかりと伝わるんだと感じています。瓦のいぶし銀には日本人らしさみたいなものが詰まっているのかな、とも思いますし。自分としては、いつか京都や川越にあるような瓦の良さを生かした日本固有の街並みを取り戻したいという夢もあります。その目標に近づけるように、今後も瓦の可能性を追求していければいいですね」
いぶし銀の瓦に、家紋や一富士を立体的に施したコースター。和菓子などを乗せるお皿として使用したり、卓上や壁のディスプレーとしても活用できる。
コースター各¥1,800(+tax)/ icci KAWARA PRODUCTS
アートディレクターであるハイロック氏のアイデアから生まれた瓦で作られたオブジェ。ペーパーウェイトや写真立て、食器置きとしてなど使い方は自由だ。ちなみにりんごやバナナは、1/1の大きさを再現している。
左/オブジェ ¥6,800(+tax)/ icci KAWARA PRODUCTS
中/オブジェ ¥8,800(+tax)/ icci KAWARA PRODUCTS
右/オブジェ ¥6,800(+tax)/ icci KAWARA PRODUCTS
一ノ瀬靖博 YASUHIRO ICHINOSE
1976年、山梨生まれ。22歳で1916年から続く一ノ瀬瓦工業に入社。2007年にはイタリア、翌年にはオーストラリアに短期留学し、異文化を吸収するとともに瓦の新たな可能性を模索し始める。2015年にはアメリカのイェール大学主導の日本建築プロジェクト“Japanese Tea Gate Project”に参加。2016年に満を持して瓦の新ブランド「icci KAWARA PRODUCTS」を始動させた。アートディレクターには、「A BATHING APE?」のグラフィックデザインでも知られるハイロック氏を迎え、瓦の常識を覆すクリエイションを国内外へ向けて発信している。