Safe & Clean Vol.17  −下田ライフセービングクラブ副理事長の宮部周作さん− Safe & Clean Vol.17  −下田ライフセービングクラブ副理事長の宮部周作さん−

Safe & Clean Vol.17
−下田ライフセービングクラブ副理事長の宮部周作さん−

NPO法人 下田ライフセービングクラブの活動理念に賛同し、1995年からその発展と振興をサポートしているSHIPS。同クラブの長い歴史のなかでは、さまざまな人材が生まれ育ってきた。今回は、半導体メーカーに勤務する宮部周作さんが登場。日本ライフセービング協会の国際室、競技力強化委員、国際ライフセービング連盟のスポーツ委員と多方面に活躍する宮部さんに、ライフセービングの未来についてうかがった。

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レースの緊張感や、レースに向けて準備をするのが楽しい

――まず最初に、ライフセービングをはじめたキッカケを教えてください。

宮部 大学のクラブに所属したのがきっかけですね。それが1992年で、その年には2つあった協会が合併して日本で初めての世界大会もおこなわれました。

――日本の転換点に新入生として始めたわけですね。皆さん、最初は練習がキツくて大変だったと聞きますが。

宮部 僕は高校で水球をしていたので、皆さんほどは苦しまなかったかもしれません。あまりにも水球時代がハード過ぎて(笑)。ライフセービングを始める人は水泳経験がない人もいっぱいますのでスイムで苦労することが多いですが、そこは問題なかったです。ただパトロールはそれ以上に死ぬほど厳しかったですが…。

――ということは、競技大会でも活躍されたんですね。

宮部 スイムがからむ種目ではそこそこ活躍できました。’94年にインカレのアイアンマンでは3位、その後の全日本大会ではタップリン・リレーレースで3位になりました。プール競技でも何かで6位になりました。社会人になって18年くらい経ちますが、今も出場しているんですよ。予選落ちですけど(笑)

――すごいですね。そのモチベーションはどこから来るのですか。

宮部 レースの緊張感や、レースに向けて準備をするのが楽しいんです。自分がトレーニングするきっかけにもなりますし、ずっと出場していると自分のレベルも客観的にわかるので。

――宮部さんが始めた頃と現在で、変化を感じることはありますか。

宮部 競技のレベルは間違いなく上がっていますね。20年前は知識もなく、みんなが手探りでやっていた時代なので。いまは日本の協会も組織的に海外へ選手を送り出していますし、これまで培ってきた海外とのコネクションや、そこから得た知識などが根付いてきています。あと、ネットでさまざまな情報が得られるようになったので、海外ともそれほどタイムラグがなくなってきました。

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コーチングの資格づくりに取り組んでいます

――いまも世界のトップはやはりオーストラリアですか。

宮部 そうですね、オーストラリアとニュージーランドですね。オーストラリアは、ライフセービングが生まれた本場ですし、向こうのクラブは地域における公民館のような役割りを果たしているんです。日本で言えば、お祭りの前にみんなが集まって太鼓の練習をする場所みたいな地域コミュニティのハブになっていて、そこを中心に人づきあいがあったり、会長は地元の名士だったり。クラブ運営のために地方政府もサポートしているので、社会基盤の一部になっている。

――文化としての根付き方が違うんですね。日本もそうなりつつありますか。

宮部 日本では別のカタチですでに地域のコミュニティがありますし、オーストラリアと違って夏も短いので、同じような発展をすることは難しいでしょうね。ただ日本独自の形を作っていきたいと思っています。

――なるほど。いまは、日本ライフセービング協会で強化委員を務められていると聞きました。

宮部 昨年から競技力強化委員会に所属しています。そこでは主に3つの仕事があり、トップ選手の強化や日本代表選手の海外遠征、ジュニアの育成などによるボトムアップ、そしてコーチングの資格制度をつくる取り組みをやっています。現在、僕はその中のコーチングの資格制度づくりをやっています。

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最終的には、英会話習得や海外でのトラブルを想定した対策までやりたい

――コーチングの資格というのは、これまでなかったのですか。

宮部 レスキュー系の資格は昔からあって、ブラッシュアップもかなりされています。そこでは基礎からインストラクターまでの体系的な資格制度もあります。でも、ライフセービングをスポーツとして考えたときに、その技術を教えるための体系や仕組みはなかったんですね。

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――スポーツとしてのコーチング資格とは、競技大会で勝つための指導方法を習得するということですか。

宮部 考え方がふたつあって、ひとつはもちろん大会で勝つということです。もうひとつは、ライフセービング・スポーツを通じてレスキューで必要な技術や体力を、効率的に身につけられるようにするということです。より速く泳げれば、より早く溺れた人にアプローチできますし、荒れた海を泳ぐ技術があれば台風の日でもレスキューの幅が広がります。また安全管理や楽しみながらトレーニングするにはどうすればいいのか、そういう側面もコーチング資格に盛り込めたらと思っています。

――レスキュー系の資格でも、インストラクターとしての技術習得があるわけですよね。そこでの指導方法と、コーチングとでは何が変わるのでしょうか。

宮部 レスキュー系の資格はもちろん泳いで助けるということもやりますが、どういう手順で溺れている人にアプローチして連れて帰ってくるのか、その時の道具の使い方、浜で倒れている人にどう処置をするのか、切り傷に対しての応急手当や人口呼吸といったライフセーバーとしての総合的な技術を学びます。いま作ろうとしているコーチングの資格というのは、あくまでも体力やスピードやそのための技術といった、よりフィジカルな面を伸ばすための資格となります。

――その体系をつくるために、どのような研究をしているのですか。

宮部 日本の実情に合わせて自分達なりの方向性というか骨組みを作ってから、オーストラリアの協会から色々な材料を提供してもらい、肉付けをしていきたいと思っています。昨年からスタートして、まだ骨組みをつくっている段階なので具体的な成果物はないのですが、オーストラリアやニュージーランドの事例を確認したところ、基本的な考え方は似ていたので手応えは感じています。

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――オーストラリアなど、すでにある方法論をそのまま持ってくればいいわけではない理由は、どんなところにありますか。

宮部 前提となっている環境や選手の置かれている状況も違うので、そのまま持ってきても、日本の選手を伸ばせるような制度にはならないと思います。
例えばトレーニングも当然大事なんですけど、海に向かって走り出す前にトレーニングする場所の安全を確保するということがまず一番大事ですよね。オーストラリアではそのための仕組みが、コーチングとは別の資格も含めてトータルで実現されています。そういった要素を日本ではコーチング制度の中にどんどん取り込んでいってしまおうと思っています。また日本代表レベルのトップコーチ資格には、国際大会に向けての英会話習得や海外でのトラブル対応まで網羅したいと思いますが、オーストラリア人は英語を話せますので、そういった部分も向こうの資格には含まれていないですよね。

――コーチング制度の完成は、いつ頃を目標にしているのですか。

宮部 スケジュール的にはかなり厳しいですが、安全に関することなど、導入レベルの資格は来年の春からスタートしようと準備しています。スポーツは楽しいというカルチャーが根付くといいなと思っているんです。

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――現在、国際ライフセービング連盟のスタッフにも選ばれたとか。

宮部 6年前から日本ライフセービング協会の国際委員会(現・国際室)のメンバーとして、世界大会での通訳や現地コーディネート、国際連盟や各国協会とのやりとりを手伝っています。国際連盟とのコネクションがあったほうが、ルール改正の情報なども早めに入ってきますし利点は多いので。欠員が出たので日本から誰かを送り込もうということになり、今回やらせていただくことになりました。

――選手でありながら、全体を見渡す仕事もされていますが、日本のライフセービングについて何か夢はありますか。

宮部 期待されている答えとは違うかもしれませんが、僕がいままで続けている理由のひとつに、オーストラリアでスポーツの楽しさに気づいたというのがあるんです。日本のスポーツって、上下関係やスポ根的な感じで、耐え忍ぶ要素が大きいじゃないですか。でも、オーストラリアでは純粋にスポーツをしていること自体が楽しかったんですね。現地の元プロラグビー選手と話したときも、彼は「あの頃は楽しかったぜ〜♪」ってノリなんですね。

――日本の場合、どれだけ練習がキツかったか自慢か、先輩にヒドイことされた自慢になりがちですよね。

宮部 そうなんです。だから、ライフセービング・スポーツは楽しいというカルチャーが根付くといいなと思っていて。もちろん、トレーニングなのでキツくてツラい局面もあると思うんですけど、基本的には楽しいからやるわけなんですよ。

――本来、あたり前の話ですよね。

宮部 最近コーチング制度づくりに向けて、最新のコーチング理論についてのセミナーにも行かせていただくんですけど、そういう話がよく出てきて。小さい頃に、そのスポーツの技術を使ってどれだけ遊んだかが重要で、遊びながら技術を習得した人ほどプレイのクリエイティビティも高まるし、遊びだから色々な動きも身についたり、楽しいから自分でどんどん追求していって技術も体力も上がっていくんです。つまり、トップ選手が生まれやすい。だからライフセービングのコーチング制度においても「安全」の次は「楽しい」というところから始めたいと思うんです。

――その考え方、素晴らしいですね。数年後、「ライフセービングって楽しいらしい」という噂が、世間に広まっていることを期待しています! 今日はありがとうございました。

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宮部周作 Shusaku Miyabe

下田ライフセービングクラブ 副理事長
国際ライフセービング連盟 スポーツ委員
1994年、アイアンマンレースにてインカレ3位。タップリン・リレーレースにて全日本大会3位。
2007年、全日本大会にて下田LSCを総合2位に導く。
2008年、全日本大会にて下田LSCを総合2位に導く。
2009年、全日本大会にて下田LSCを総合1位に導く。
2010年、全日本大会にて下田LSCを総合1位に導く。
2011年、全日本大会にて下田LSCを総合2位に導く。