「未来は過去にある」 ーアメリカの肖像ー 「未来は過去にある」 ーアメリカの肖像ー

「未来は過去にある」 ーアメリカの肖像ー

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良き時代のアメリカンシーンを独自のリアリティで描くエドワード・ホッパー(1882?1967)の画集「HOPPER’S NEW ENGLAND」 ( Carl Little )。画集に登場する灯台は、ポートランドを始めケープコットやナンタケットのものが描かれており、その象徴的な姿はニューイングランドの代表的なシーンのひとつである。ホッパーの絵を見ていると、海から吹いてくる冷たい夕風が、実際に肌にあたるような感じが伝わってくる。ホッパーが反射光を描く際に白色にほんの少量黄色を混ぜ描く技法が、この灯台の作品にも効果的に生かされている。1907年にパリから戻ったホッパーは、NYの広告会社でイラストを担当した後も、当時のアメリカを代表する人気マガジンの表紙を受け持っていた。ホッパーの初期の様式が他のイラストレーター達とは違い、フランス芸術の美を形成したものであったことも、彼の幸運な道が開かれた理由のひとつと思われる。ホッパーが描いたその時代背景は、アメリカがもっとも輝いたグレテストアメリカンイヤー(1920年代〜1930年代)におけるアメリカの象徴的なシーンが随所に描かれている。時代の人気作家、E・へミングウェイやF・ スコット・フィッツジェラルド達と同じNYスクリブナー社で、時代のファッションを切り取っていた。ホッパーは20世紀におけるリアリズムの画家の1人であるが、

アメリカの特性をよく把握して描く画家としては、ホッパーの他に見つからない。古いトーキーを含めハリウッドに登場するセットメイキングの再現のように、どう映れば見る人の気持ちを静かにゆすぶるかを作品に表現した画家であった。これは単なる僕の思いのひとつではあるが、装いや人生に”サムシング”を求める人々にとって、彼の画集は重要なインスピレーションの1冊と思われる。なぜなら、彼の描く世界には、そこに立ちたいとか佇みたいと思わせる、いざないのようなロマンを感じるのだ。そしてひとつひとつが単なる過去の歴史的シーンでも、単に美的完成度の高い景色のスケッチでもなく、見た人がそのシチュエーションから離れ難く思う気持ちにさせるような、芸術的情景画なのである。人が生きる社会で服を装う時、好みも含めその服が自分に合うとか合わないとかの選択に迷い、日々チョイスしているが、忘れてはならないならないのは、観る側は、着る服や装いと同時に背景をも含め目にしているということ。ホッパーの絵には人が居たり居なかったりだが、たまたま構図には居なくとも、それを観る私たちがそこにイメージする装いをした存在を感じさせるところが、彼の特異な芸術だと思うのである。だから僕は、彼の絵に見るロマンを、日常の装いに求めるのだ。

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「HOPPER'S NEW ENGLAND」 (Carl Little)