スタイリストの哲学 ?山田 陵太の場合? スタイリストの哲学 ?山田 陵太の場合?

スタイリストの哲学 ?山田 陵太の場合?

スタイリストの哲学 ?山田 陵太の場合?

SHIPS JET BLUE

ファッション分野の確立と成熟。その隣にはいつもスタイリストたちの殊勲がありました。洋服が備える美しさを引き立て、様々なアイテムと組み合わせることによりそのポテンシャルを引き出してきた彼ら。SHIPS JET BLUEは、そんな彼らのリベラルな哲学に注目しました。今回のゲストは、古着への造旨が深く、音楽や映画にも精通する気鋭スタイリストの山田陵太さん。ウィメンズでもその才能をいかんなく発揮し、業界内での評価も高い同氏。彼のこれまでの道程を振り返り、自らが嗜好するカルチャーへと話を広げながら独自の思想を紐解いていきます。

??もとからスタイリストになるという意識を持っていたのでしょうか。

10代の頃は洋服よりも音楽や映画といった分野に興味がありました。ただ、自分が憧れている先人達のような突出した才能には到底かなわないと達観してる部分もあり、それらを職業にしようとは思えませんでした。その頃から自分が身につけるものとして、洋服には興味を持っていました。そんなわけでより身近に感じていたファッション分野への道を自然に選び文化服装学院のスタイリスト科に進学しました。スタイリスト科の全ての生徒がスタイリストを目指しているわけではなく、自分も進路に関しては「古着屋になりたい」と担任の先生に伝えていたのを憶えています。その当時は古着ばかり着ていましたから。

??なるほど。ある種山田さんの場合はレアケースかも分かりませんね。その古着好きはいつ頃からでしょうか。

自分の地元の柏駅近辺には昔から古着屋が何件もあります。なので、中高生の頃からすでに自然と選択肢に古着が含まれていました。本格的にヴィンテージにハマったのは専門学校に入ってから。足繁く通うようになったお店のスタッフの方々から情報収集するところから始まって、高円寺、渋谷、下北沢といった学校帰りにアクセスのよい街には毎週のように。さらに電車で一時間圏内の町田や津田沼にはおよそ月に一度。何度かは友人を誘って足利や熊谷、仙台といった地方都市へも脚を伸ばしていました。まわりの学生と格好がかぶらない事が自分にとって大きな魅力でした。古着はやはり出会いの要素が大きく、自分が買わなきゃ誰が買う、位の気持ちでなけなしのバイト代をはたいては買い物をしていました。

??そして、セレクトショップのスタッフを経験後、スタイリストへの道へ足を踏み出しています。その契機はなんだったのでしょう。

師匠である小沢宏氏がアシスタントを探していることを知りあいづてに耳にしました。アルバイトで販売業を続けて行く事に疑問を持ちはじめていた時期だったので、意を決して面接を受ける事にしました。正直そこまで深くスタイリストの仕事を理解していませんでした。でも、ファッション以外の分野で影響をうけたことから自分なりの表現ができるのではないかと考えるようになっていました。大手の会社での販売業も経験し、少し自信もついてきたのでしょう(笑)。

??実際に経験をされ、自分の中で変化などはありましたか?

師匠が扱う洋服はカジュアルだけではありませんでした。ハイブランドやクラシックなドレスといった今まで自分が触れて来なかったジャンルをそこで学ぶ事ができました。そしてスタイリストの仕事というのが、服の組み合わせだけを考えるのではなく、ページ構成や世界観作りにまで関わる物だと知りました。洋服の知識だけではなく、創造性が必要な仕事だと感じました。学生当時から好きだった若木信吾、高橋恭二、佐内正史、ホンマタカシ(敬称略)といった写真家たちもファッションとも関わりが深い事も知りました。師匠の本棚に置かれたありとあらゆる海外の雑誌や写真集からも多くの刺激を受けました。逆に言うとそれまではファッションフォトには興味をもっていませんでしたから。

??スタイリングやアートビジュアルの製作において、その音楽や映画、またはそこから受けたイマジネーションを活かすことなどはあるのでしょうか。

何か下敷きになる作品があって、具体的にそれをそのままテーマとして再現する事はあまりありません。ただ、自分が作るページに求めている肌触りは、影響を受けて来たものと近い気がします。好きな音楽や映画や写真に共通する要素について考えた事が有ります。例えば普段はラウドな音楽をやっているバンドのアコースティックな楽曲だったり。ただ綺麗な物よりもそこに何かしら狂気のようなものが感じ取れる作品が好きです。簡単に言うと綺麗だけど毒が有るもの。そういったものに惹かれます。

??独立されてから今年で8年目を迎えます。様々な仕事をご経験され、それを踏まえたうえで今後アプローチしていきたい事などはありますか。

こういう仕事をしていると、得意な分野でのオファーが多くなります。もちろんその方が安定した結果が残せますし、ある程度絵も見えているし当然なんですが。それとは逆で、普段あまり見た事無いけどこの人にこういう事お願いしてみたらどうなんだろう?といった目線の依頼を求めています。要するに馴れてないジャンルや苦手なテイストを扱う仕事です。一例なんですが、三年ほど前に初めてウィメンズのエディトリアルの仕事をしました。それまではメンズの仕事しかしてこなかったですし、ウィメンズの世界で自分が勝負できるとは思っていませんでした。編集の方に声をかけていただき、初めてのウィメンズで表紙込みの巻頭ストーリーという勇気あるオファーでした(笑)。試行錯誤した結果、自分らしいウィメンズのコーディネートが組めたと思います。なにより自分では予想出来ないくらい気持ちのよいページになりました。メンズでは味わった事のない種類の満足や発見がいくつもありました。

??最後に、山田さんがスタイリストとして重要と考えることはなんでしょうか。

自分や自分の仕事に合格点をつけないことだと思います。納得はしても満足はしない。次はもっとできる、そう言う気持ちが無いと前進し続けられない仕事だと思います。 究極、人の心を動かせるような表現がしたいとみんな思っていると思います。それにはまず本人の心が動く様な経験をすることが必要絶対条件だと思います。買い物でも旅行でも音楽でも映画でも美術館でも。それは人それぞれなんでも良いと思います。最近ではいままで以上に意識してそういった機会を増やすようにしています。

山田 陵太


1980年東京生まれ。文化服装学院を卒業後、ビームスショップスタッフを経てスタイリスト小沢氏に師事。2007年独立後、様々なメンズファッション誌で活躍。豊富な知識に裏打ちされたスタイリングで評価を高め、広告やカタログなどでも辣腕を振るう。