TRANSIT × BIRD
NAONORI KATOH × SAYOKA HAYASHI
編集部ではまったく口を利かないTRANSIT加藤とBIRD林女史が、旅の途で道中の様子を実況中継。第8回はオランダ・アムステルダム(加藤)とイラン・テヘラン他(林)の旅路にて。おーい、たまには旅の話でもしようよ。
加藤:(トルルルルルー)毎度のことながらSkype出ないなあ。今回はとくにひどい(トルルルルルー)!まずケータイを携帯しない女子だからな…(トルルルルルー)
林:あ、もしもーし!すみません!!
加藤:おーやっとつながったか。ちょっと困るよ〜今や地球上どこだってネットにつながる世界なんだからさあ。ところで新しいiPhoneのSIMフリーどうかな?いやー、アムスの路上で売っててさあ、たぶんChina製だと思うんだけど、iPhone7なんだよね。セブン!
林:(iPhoneの話題は無視して)いやいや、それがですね、今、私はFacebookやtwitter、googleも使えないイランに来ているんです。アメリカの経済制裁を受けていたり、インターネットが制限されているだけじゃなくて、クレジットカードも使えないんです。決して秘境ではないんですけど。
加藤:イランか、懐かしいなぁ〜。テヘランは平和で雪が舞っていたっけな。イスファハーンの美しさったらまだ瞼の奥に残っているよ。絶景は画面の中ではなくて、瞼の中にあるんだよ。まだ雑誌が輝いていた頃に行ったんだよ、1ヵ月。そんなじっくり撮影できる雑誌なんてもうないよな。その頃は出版社にいたんだけど帰ってきたらデスクが無くてさ。捨てられた!みたいな。がははは!
林:いや、普通にクビじゃないですか。笑えない?!はははっ!
加藤:(すげー爆笑してんじゃん…途中からタメ口だしな)まあ、今、俺はアムステルダムの十字路で浮浪者のGuitarの音色に酔っている。曲はロバート・ジョンソンのだな。でも、もう駄目なのかもなあ。本なんてあまり売れないし…旅なんて…さ、もうオワコンなのかもしれないな…。
林:オワコン…。なんてさみしいこと言うんですか、必ずや光というか出口があるはずです!ちなみに、イランのネット問題はOpen doorというiPhoneのアプリをダウンロードしたら解決できましたよ。まぁ、今どこにいるのかよくわかりませんが気分転換にロバート・ジョンソンをやめてジャック・ジョンソンを聴いてみればいいじゃん!あははっ!
加藤:(完全に後半タメ口になってるな)まあ、雑誌芸術の底力を見せないとな。こっちの特集はオランダだよ。ヴィンセント・ヴァン・ゴッホを生んだ、かの国だよ。「人は誰でも一人で地平線に向かって旅をしなくてはならない」。ゴッホの言葉だよ。BIRDはどこの地平へ向かっているのかい?虹を見たかい?
林:(ああ、オランダビールで酔ってるなこの人…めんどくさい)BIRDの次号はですね、シルクロード特集なのです!私は東西の重要な交易路でもあったイランの都市を、女性の仕事と暮らしにフォーカスをあてながらめぐっているんですよ。首都のテヘランからバスで古都イスファハーンを経由して、現在はシーラーズです。かのペルセポリス遺跡からほど近い、ペルシアの中心地ですね!
加藤:シルクロード?激シブっ!NHK?平山郁夫?仏教伝来?シルクロード女子ってか!受けるー!しけるー!
林:シルクロードといっても歴史的な視点から入るのではなくて、衣装や絨毯、雑貨といった暮らしの道具を通して、中央アジア周辺国の繋がりや魅力を紹介したいと思っています。あの辺りの国はペルシア絨毯やキリムは有名ですが、民族衣装はモードの世界にも影響を与えているし、陶器なんかも色鮮やかで美しくて素敵なんです。数年前にモロッコブームってきたじゃないですか。私は実はシルクロードの国々の雑貨って、モロッコのものよりも“かわいい”と思っているんですよ。
加藤:なるほど、“かわいい”シルクロードは見たことないな。というか、イランの周辺国、パキスタン、アフガニスタン、イラクにイスラエル…イランは女子的に旅しても大丈夫なのかな?
林:イスラームの国ですし、観光客でも女性はスカーフ着用が義務付けられているので最初はちょっと不安でしたし戸惑いましたが、基本的には夜も出歩けるほど安全で、人びともフレンドリー、ご飯もおいしいし、今のところスムーズに旅ができています。何よりモスクのタイルや壁の装飾は目もくらむほどの美しさ。女性のスカーフ姿にもドキッとしますね。やっぱりヴェールに覆い隠されているものって、妖しくて神秘的な美しさがあるような気がします。ところで、カトへんさんはオランダで何の取材をしてるんですか?アムステルダムというと……まさか…アレですかね!?
加藤:アレってなんだよ。
林:い、言っていいんですか、カトへんさんの好きなやつですよね。
加藤:え!?
林:ミッフィー!!
加藤:(賢者モードで)違うよ。オランダのファンタジーを探して旅してる。ヨーロッパ最後のファンタジアだよ。これからベルギー、ルクセンブルクと移動していく予定。ミッフィーは「適当」に小冊子とかに少し出すよ。直接的なアイディアをただ並べるのは編集の役割だろうか?料理して隠してぴりりと効かせて、「あれ?カトへんさん?何か解らないけどじんわり感じる!なにこれ!?あたいも旅に出るわ!」ってのが本質だろうよ。ブツブツブツ……。
林:(無視して)フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」は日本にもきていましたが見逃したんですよね、死ぬまでに一度は目にしたい作品です。ヨーロッパはフランス、イギリス、イタリア、スペインなど人気の観光大国があるので、オランダ&ベルギーとはシブい特集きたなと思いましたが、俄然行きたくなりました!!
加藤:シルクロードのがシブいよ。シブがき隊で言えばフッくんだよ。
林:(完全に無視して)今までのシルクロードのイメージを、BIRDが変えます!さすがにアフガニスタンやイラク、パキスタンには取材に行けていませんが、イラン以外にも、衣装や雑貨がとにかくかわいいウズベキスタンや、カッパドキアやイスタンブールを擁するトルコとか、青いユートピアを追い求めたイスラエル紀行、遊牧民を訪ねたキルギスの取材記事などもあって、盛りだくさんの内容です。特集している地域はイスラームの国も多く、正直、現在の国際情勢では旅をするのが必ずしも安全だとは言い切れないのですが、今だからこそ市井の人びとの暮らしとか美しい文化を知ってほしいなと思っています。TVや新聞で伝えられることだけがすべてではないですしね。って、これ、カトへんさんが、NEUTRAL(TRANSITの前身の雑誌)創刊のイスラーム特集のときに言ってた言葉じゃないですか〜!旅も雑誌もオワコンじゃないと思いますよ!(読者を信じるのみ)
加藤:……そうだな。雑誌も芸術も同じだな。ゴッホ先生の生前に売れた絵はたったの1枚。。。。それでも光を信じて、己の理想を求めて黄色い絵の具を塗りたくったんだな。まだ見ぬ黄色い地平(ファンタジア)へ!BIRDもTRANSITもまだまだ旅を続けよう。だって雑誌が紙が編集僕たちは愛してしまったのだから。
加藤 直徳
1975年東京生まれ。編集者。出版社で『NEUTRAL』を立ち上げ、euphoria FACTORYに所属。現在トラベルカルチャー誌『TRANSIT』編集長を務めている。最新26号「美しきオランダ・ベルギー」は10月3日発売!
www.transit.ne.jp
林 紗代香
1980年岐阜県生まれ。編集者。『NEUTRAL』に創刊時より参加。その後いくつかの雑誌編集部を経て、『TRANSIT』に参加。2013年に『BIRD』を創刊し、編集長を務める。7号「きらめきのシルクロードへ」特集が絶賛発売中!
www.transit.ne.jp/bird