未来は過去にある ーRUSTINESS : 古びた魅力ー 未来は過去にある ーRUSTINESS : 古びた魅力ー

未来は過去にある ーRUSTINESS : 古びた魅力ー

一期一会 選・桑原茂一

未来は過去にある
ーRUSTINESS : 古びた魅力ー

SHIPS'S EYE

「GYPSY CAMERA」(TONY BOXALL)。
 僕がこの本に出会ったのは1998年のロンドン! チャーリングクロスにあったアート系の小さなブックストアでした。当時、僕は自分のブランドの商品企画をしていて、毎シーズン、企画コンセプト作りを雑多なボキャブラリー探しから組み立ていました。この本は当時、僕の目にとても新鮮に映って、ちょうど考えていた商品企画コンセプトにピッタリと重なりました。この本を今風に捕らえると「ノマド」みたいな表現になるのでしょうか? 移民労働者、遊牧民、放浪する人、物質文明に背を向けた人々たち…。そこには人間の生きる本質があり、たとえその暮らしが質素であっても、そこに暮らす人々の表情は自然で豊かに映るのはなぜ?
 ここに登場する人々は新しい衣服は着ておらず、何十年も着続けているように、着る人の肌の一部になっている様に見えるところがいい。履けば履くほど、その人の足や体に寄り添うような、いわゆる「馴染む」と言う表現がピッタリくるのがこれではないでしょうか。我々の物質文明は、こういった大事な価値観を何処かに置いて来てしまったように思えます。これは行き過ぎの反作用でも有るのです。例えば、ツィードの

生地を織る前に糸に油を染み込ませますが、ここに登場する衣服は既に完全に油の抜けた、味出しのしたイイ感じのもの。ニットにしても袖口や首周りの糸が切れ、ほつれているが決して貧しく見えない?? もし、こんなイイ風合いに着古したものを、技術と科学で手間をかけて作り提供しようとしたら、大変な高価なものになってしまうし、そもそもそれは不可能に近いでしょう。またウエアリングにおいても、これとこれは合うとか、合わないとかではなく、自分風に着続けるリアリティが感じられます。
 この本から感じられらるキーワードは!
「RUSTINESS: 古びた魅力とは?」と読むことができる。不便な暮らしの中にあるモノと人間のかかわりとは? 質素な魅力や、無駄を省いた究極の魅力とは? 味わいという、使えば使うほど出てくる風合いの文化とは? 心の価値観、現代の中で失われていく価値観。無くなる、壊れる、枯れるといった、失われていくものに対する価値観?
 このモノクロ写真から得るインスピレ−ションは、人々の暮らしなくして、このファッションモルトはないことを気づかせてくれます。