TRANSIT × BIRD NAONORI KATOH × SAYOKA HAYASHI
編集部でまったく口を利かないTRANSIT加藤とBIRD林女史が、旅の途で道中を実況中継。第3回は同時期にブエノスアイレス(林)とパタゴニア(加藤)を取材した「アルゼンチン」の旅路。おーい、たまには旅の話でもしようよ。
林 かとーさーん、生きてますか!? なんだかヒドイ顔してますけど…。
加藤 え? いつも通りだよ。(何言ってんだこいつ)逆にパタゴニアの風に吹かれて最高潮の顔だよ。
林 あ、すみません…。いや、お疲れかな、と思いまして。えっとー…今はどちらに? パタゴニアを南下してるんですよね。
加藤 クルマで1日500qは移動してるね。ずーと同じ風景だよ!動物もいっぱいいるし、風の大地だ。が、毎日毎日写真家の男と二人っきりだ。もう彼と話すことはないね。今日はついに「好きな色は?」とか聞いちゃったもんね。同じベッドだしね。ドミトリーの。で、林はヒルトンとか泊まってんだろ? 優雅に。スパか? いやはやタンゴで腰グルりんされとるんか。鶴光でおまっ…。
林 (無視して)へぇ〜、風の大地っていいですね。ちなみにブエノスアイレスは一般的には“とてもよい空気”という意味ですが、当初移り住んだ人々が“この地によい風が吹きますように”と名付けたとも言われています。説はいろいろあるようですが、アルゼンチンが風の国というイメージはなかったですね。
加藤 風が強すぎて木々が傾くほどだ。空が高くて雲は低い。アフリカの大地を思い出したね。夜クルマを走らせていると野ウサギが跳びだしてきて猛スピードで併走するんだ。昼は蝶の群れやイーグルがいきなり目の前を横切っていく。今はフィッツロイ山の頂が見える一本道を走っている。まるで夢のような世界だ。俺はブエノスアイレスは通過しただけ。4時間しかいなかったけど、南米のパリというだけあり、美女揃いだったね。誰にも会わないパタゴニアに来て7日目…。もうブエノスアイレスのあのコのミニスカートしか考えられないよ!
林 アフリカ!人類誕生の地と、人類が最後にたどり着いた場所に同じ風景をみるとは、不思議なものですねぇ。こちらはブエノスアイレスも5日目です。毎日朝から晩までポルテーニョ(ブエノスアイレスの地元っ子)に会って話を訊き、細い路地を歩いてはブエノスアイレスの日常に触れています。ハードスケジュールですが、取材は順調ですのでご安心ください。あ、せっかく素敵な大地を目の前にしてるんですから、ミニスカートのことは忘れてくださいね。
加藤 パタゴニアにいると自然に言葉が降ってくる。冒険家や荒くれ者、または革命家が愛し、牙を研いだかの地は、いま闇の中に闖入しようとしている。地球の反対側(日本から見れば)は夜に向かい、そのまた裏側は陽光を待っている。クルマの窓からは下弦の三日月が雲の下に見えている。南十字星がもうすぐきらめきだそうとしている。俺はパタゴニアで正しい旅をしたいと思っている。大地を這うように浪々し、自然の中で目覚め、出会いに任せてパライソを探す旅だ。それは文明化された旧世界を飛び出し、新世界への扉を開く旅。そんな折り目正しさを希求するには、パタゴニアはとても似合っている。蒼き氷河はまだ先の先だ。
林 (ミニスカートのくだりからの、新世界の扉!説得力がない…)
加藤 ところでメシは? こっちはやっぱりラムのアサード(肉を炭火で焼いたもの)三昧。ラムちゃんだな。めちゃくちゃ美味い。そっちはビーフか?
林 (よかった、ゴハンの話!)主にビーフですね!まぁ美味しいのですがさすがにヘビーで…昨日はひよってポーク、今日はチキンを注文しました…それでも肉ですけど。
加藤 酒は? 昼からワインいっちゃうよな。葡萄ジュースのごとく。メンドーサが有名だけど、パタゴニア地方も最近はオーガニックワインをつくっていて美味い!ああ、もう飲んじゃおうかな。
林 ブエノスアイレスの夜って、とにかく長いんですよ。夕方はメリエンダといって、スイーツやパンといった軽食をとる習慣があるので、夕食はだいたい21時くらいからスタート。だから昼間っから飲んでたらぶっ倒れますね…。(ま、ワインは昼間から飲んでるけど)もう、飲み過ぎに注意してくださいよー。
加藤 いや、さっきガソリンスタンドにいたギャルを見てたら「キモイ!」とか言われてさあ…。氷河の氷でウイスキーでも飲みたいな、ボク…日本に帰りたい…遠いのよ…氷河まであと1000q以上も…おかあさーん!
林 (いろいろスルーして)飲酒運転だけはヤメてくださいね。旅雑誌の編集長が旅先で道路交通法違反で検挙とか、しゃれになりませんから!とにかくわたしは“南米のパリ”と謳われるこの街で、ブエノスアイレスがブエノスアイレスたる所以を考えつづけています。その答えはそろそろ出そうです。
加藤 そうか。俺はこの先、世界の果て、ダーウィンがたどり着いた約束の地・ウシュアイアまでの長い旅路だ。未来のことは過去の自分に聞けと風が言っている。果てに何があるかなんてわからないけど、その先にはまた別の地平が目視できるはずなんだ。ブエノスアイレスの24時間とパタゴニアの14日間。アルゼンチン特集が楽しみだな。こんなにワクワクする旅もそうそうない。遠くに行かなくちゃ見えないものもある。時間を懸けないと届かない境地がある。あー、俺のヒミツの話をしたくなってきた。ドミトリーでの情事を…(ツーツーツー、Skype切れてる)
林 (いきなりつながって)もういい加減に哲学するの止めてください!
加藤 え? そうだな。ちなみに俺はパタゴニアでも猫にはモテまくりだ。ブエノスアイレスはさぞ官能の街なんだろうよ。ナンパくらいされたんだろうな。なでしこジパング代表として。
林 ええまぁ。
加藤 へぇ。(見栄張るなよ…)どんなやつだよ。
林 えっと〜、昨夜は白髪まじりの紳士(推定65歳)にタンゴに誘われましたけど。「Shall We Dance?」的な。
加藤 シャル・ウィ・タンゴ? はおっさんの流儀だ!見つめて誘ってぐるりんこ、と。
林 あ、あとは15歳のサッカー少年たちにもモテモテでした!
加藤 ガキはダメだな。サッカーしか知らんやろあいつらは。
林 でも電話番号を執拗に訊かれたし…。
加藤 金目当てじゃないの? まあ気をつけろよ。
林 いやいや、こちらは本気と書いてマジっすね。ゴハンにも誘われましたよ。「Do You Like Hot-Dog?」って!
加藤 …あ、それ、下ネタだから。がははは。ボクのホットドックいる? ってな。今度俺も使ってみよう。
林 ガーーン…そうなんですか!(まさかの下ネタ…)。そういう加藤さんは南米美女にモテモテなんでしょうね。
加藤 俺は毎日ピンクのホテルの部屋でムフフな感じだ。もう野郎でもいいや!ってな。新世界の扉をこじ開ける覚悟が俺にはある!
林 えーーーーーっ!そちらの新世界の扉ですか!
(アルゼンチン時間深夜2時)
加藤 直徳
1975年生まれ。編集者。出版社で『NEUTRAL』を立ち上げ、euphoria FACTORYに所属。現在トラベルカルチャー誌『TRANSIT』編集長を務めている。最新号は「美しきアルゼンチン」6月6日(木)発売!!
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