TRANSIT × BIRD NAONORI KATOH × SAYOKA HAYASHI
編集部でまったく口を利かないTRANSIT加藤とBIRD林女史が、旅の途で道中を実況中継。第2回は同時期に別々に取材した「激動のミャンマー」の旅路。おーい、たまには旅の話でもしようよ。
加藤 おー、ハヤシもミャンマーに着いたのか。オレはヤンゴンにいる。民主化されてご機嫌だよ。女子の下手くそなカラオケを聞きながらメシを食らうという謎の店で民主化を実感しているよ。で、ミャンマーのカントリーサイドはどうなの?というかチャイントォンだっけ?それどこのゴールデントライアングルだよ!
林 (無視して)今、チャイントォンという小さな街にきています。チャイントォンはタイ、中国、ラオス国境にほど近い東シャン州の中心地で、山に囲まれた標高は900mの盆地です。昼間は20度を超すので半袖でもいけますが、夜は肌寒いです。ちなみに“日本の原風景”とも例えられる場所なのですが、まさに市街地を離れれば田園風景が広がっていて、長閑で牧歌的なところです。到着したその日に思わず『遠き山に日は落ちて』を歌ってしまったくらい、郷愁にかられる場所でもありますね。ちなみに、『ふるさと』『カエルの歌』も大熱唱しました!!
加藤 すげー風景だな。まるでアルベール・カーンの「100年前のニッポン」みたいじゃん。でもヤンゴンも川を一つ渡ればまるで平安時代だよ。昨日も川を渡ってダラー村に行ってきた。地べたに魚とか野菜とか並べて自然発生的な市場ができるんだ。なんというか郷愁感って言葉じゃ表現できない衝撃だ。どこまでも広がるライスフィールドに夕陽が反射して、子供達はどろんこになるまで遊んでる。会う人会う人、ミンガラバー(こんにちは)って挨拶されて、家に上がっていけアレ食え、コレ持ってけ、とすごいんだよ。しかも何も要求してこない。写真を撮らせてもらった女の子にお金渡そうとしたらすごい怒られたよ。何で?何でお金が必要なの?って無垢な目で見つめられて、なんつーか、ヤラれたなあ。これでも繁華街から数十分の村なんだ。なんかばあちゃん家にきたみたいで……(しんみり×50)
林 チャイントォンで多数派はタイ系のクン・シャン族という民族。言葉ももちろんビルマ語ではないので、「ミンガラバー」と言っても反応がありません。彼らはシャン族としてのプライドがあるので、あいさつはシャン語で「インディーカー」が基本です。ただ、今回の取材では少数民族が暮らす集落をめぐっているので、民族ごとに言葉が違ってタイヘンです……。挨拶くらいは現地の言葉を使いたいので、アカ族には「二・サウル〜」、ラフ族には「オチャプラ〜」とがんばって使い分けてます。言葉の壁はありますが、全体的には人懐こくてやさしい、個性的な人たちばかりです。なかには、はじめて外部との接触をもったのが1995年という民族もいました。彼らは弥生時代かと見紛うようなプリミティブな暮らしをおくっていて、タイムスリップしたような不思議な感覚でしたね。詳しくはTRANSIT本誌で書きますのでこのへんで。
加藤 1995年って最近じゃん。それまで外部との接触無しだなんて…凄すぎる!帰国してから写真を見るのが楽しみだ。ヤンゴンのランドマークはやっぱり寺。寺しかない。シュエダゴン・パヤーはやっぱりいつ行っても気持ちが上がるな。どこもかしこも金ぴかなんだ。ワビサビを愛でる我々とは真逆だな。上座部仏教だからかもしれないかれど、人間と祈りが近い感じがする。みんな寺で気持ちよく昼寝してるし、一心に祈っているし、カップルはデートを楽しんでいる。あと、なんと寺がフリーWi-Fi飛ばしてて、パソコンで仕事をするビジネスマンまでいるんだ。それがモノホンの金ぴか仏像の森の中で行われている。オレは枯山水みたいなワビサビも好きだけど、金ぴかも大好きだな。寺が現在進行形で生きてるって感じがする。
林 チャイントォンの街にはお寺もあるし、湖の畔に大きな立像の仏様もいらっしゃいますが、自然豊かな地域ですし、少数民族はもともとアニミズム(精霊信仰)なんですよ。ミャンマーに仏教が伝ある以前からあるナッ神という、精霊信仰も息づいてますね。集落の外れではナッ神の祠や神棚的なものもみかけました。ヤンゴンに比べたら、仏教色はそれほど強くないとは思います。ただ、麓の少数民族の村は仏教やキリスト教に改宗している集落が多いですね。それで、信仰を変えたことによって、伝統の衣装を着なくなるパターンが多いんです(しんみり)。例えば、銀の玉がついたアカ族の兜みたいな帽子は、1000の眼を表しているわけです。それで、1000の眼が邪悪なものから身を守ってくれる、と彼女たちは信じているんですね。でも多くのアカ族の集落はキリスト教に改宗しているから、もう衣装を纏わなくても、幸せに暮らしていけるわけです。なので、アカ族を例に出すと、伝統の衣装はおばあちゃん世代が着ているくらいでしょうか…。村人全員が民族衣装を着ているのはかなり珍しいことです。さみしいなぁとは思うのですが、文明と伝統を天秤にかけるような暮らしを彼らは送ってはいないので、仕方のないことだなと思ってます…(しんみり×100)。ところで、ゴハン何食べてます?
加藤 油ぎっとりのビルマ料理には辟易してる。だからチャイナタウンの焼き鳥ストリートで毎晩メシ食ってるよ。ミャンマービールのジョッキ生が最高だっ!!!
林 こっちはぜんっぜん飽きないですね。ビルマ料理は油っこいですが、シャン地方の料理は、別モノです。エリアがら雲南やチェンマイなどの北タイ料理と通じるところがあってもち米をよく食べるのですが、赤飯やお餅もあります!細いうどんみたいなシャンヌードルもおいしいし、豆腐、納豆のフライ、干し柿、肉団子……。とにかく、ハズレなしのおいしさで、今まで旅した国・地域のなかで、一番タイプです。朝起きるのが苦手な私も、7時からの朝市に出かけるために毎朝6時半起きですよー!私ってエライなぁ♪あ、もうそろそろ7時ですね(スカイプ切りたい念力を送る)
加藤 へ〜そうなんだ、いいね。じゃ、次は若者のファッションについての考察をしようか。君の意見を聞きたいな。ふむふむ。
林 (会話くい気味で)あ、その話、誌面で紹介するんで帰国してからでいいですか。なんかネットの調子がっ〜〜(ガチャ!)
加藤 文化人類的見地から、民族衣装と意匠についての……(Skype切れてる)。というわけで、7班が訪れ渾身の撮り下ろし、ミャンマーの魅力がぎっしり詰まった20号特大記念号をお楽しみに!
(ミャンマー時間朝7時)
加藤 直徳
1975年生まれ。編集者。出版社で『NEUTRAL』を立ち上げ、euphoria FACTORYに所属。現在トラベルカルチャー誌『TRANSIT』編集長を務めている。最新号は「美しきミャンマー」3月8日(金)発売!!
林 紗代香
1980年岐阜県生まれ。編集者。大学在学中の編集アシスタントを機に、『NEUTRAL』に創刊時より参加。その後いくつかの雑誌編集部を経て、最終期に出戻り。『TRANSIT』副編集長を兼任しつつ2011年『BIRD』発刊。編集長を務める。
TRANSIT
最新『TRANSIT』20号ミャンマー特集、絶賛発売中!
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