Spectators Evergreen Library 緑色世代の読書案内vol.2 Spectators Evergreen Library 緑色世代の読書案内vol.2

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SHIPS MAG読者のみなさん、こんにちは。
スペクテイター編集部の青野です。
時代を超えて読み継がれるべき書籍の中から、本誌の特集記事をつくるうえで参考にした本を紹介する連載。
第二回目は、間もなく発売予定の本誌次号の特集テーマ「小商い」に関連する本をご紹介したいと思います。
ところで「小商い」という言葉から、みなさんは何を思いうかべますか?
古いようで新しい、なんだかフシギな響きを持つ、このコトバに僕らが興味を持ったのは、個人や少人数で「小さな商い」をはじめた人が周りに増えている気がするからです。
グローバルチェーン系の店が増え、駅前の商店がシャッターを閉じることを余儀なくされているその一方で、個人経営のカフェや本屋など小規模な「商い」に注目があつまっている。
いったい何故でしょう?


京都左京区の知恩寺境内で月イチで開催されている「手づくり市」

「小商い」について話をするまえに、みなさんに思い出していただきたいことがあります。
きのう一日に、あなたは何か買いモノをしましたか?
もししたのであれば、それは誰が作ったモノだか判りますか?
その商品を買ったとき、お店の人とどんなやりとりをしましたか?
ネット通販で買いモノを済ませたという人もいるでしょう。
お店で買いモノをしたけれど店員さんとは一言も言葉をかわさなかったという人もいるかもしれません。
通信や流通の技術が進歩したおかげで、いつでも、どこでも買い物ができる便利な時代になりました。
これまで入手困難だったモノも、簡単に安い値段で手に入る。
とても便利なことだけど、その反面モノを買うことや所有することへの興味が薄れてきたという人もいるのではないでしょうか。
買いモノがつまらなくなったのは何故でしょう。
今号でインタビューに応じてくださった平川克美さんは自著『小商いのすすめ』のなかで、小商いとは「自分が売りたい商品を売りたい人に届けたいという、送り手と受け手を直接的につないでいけるビジネスという名の交通」だと述べられています。
確かに、わたしたちはお店に並ぶモノが、誰によって作られ、どのような経緯を経てお店で売られているかについて考えることを放棄してしまっているのかもしれません。
より多くの商品を買わせたいという「売り手のニーズ」と、もっと簡単に、もっと安く買い物をしたいという「消費者のニーズ」がネット通販のような便利な仕組みを生み出したのは良いことだけど、それによって、つくる人、売る人、買う人のつながりが分断されてしまったとしたら不幸なことです。
つくった人の顔が見えないモノを、お店の人との会話もなしに買うのが当たり前の世の中になるにつれて、モノを介して感じていた作り手の想いや息づかいまでもが失われてしまった。
便利さを求める社会の仕組みが買いモノをツマラなくしてしまった。
そのような動きに対する反動があたらしい小商いを生んでいるとしたら、それらが増えることによって社会はどう変わっていくのでしょう?
小商いにしかできないことってなんだろう?
お金を稼ぐこと以外の「小商い」の利点とは?
そんな課題を掲げながら、さまざまな小商いに携わる人たちとの対話をつうじて解き明かしていこうというのが、まもなく発売のスペクテイター最新号「小商い」特集です。
インターネットやグローバルチェーン系のお店で買い物をするのに飽きた人。小商いをはじめてみたいと考えている人。いまの仕事に小商い的なセンスを取り入れてみたいと考えている人にも、きっと役立つヒントが得られる内容に仕上がったと思います。
街の本屋さんで見かけたら、ぜひ手にとってみてください。

“自分の手で何でも作ってみようムーヴメント”を牽引する雑誌『Make』の編集長が、自分らしさ取り戻すためにギターや鶏小屋や三弦楽器など様々なモノ作りに挑戦。度重なる失敗のなかに生きることの意味を見いだしていく。「商売」の話は出てこないけど「小商い」のスピリットを知ることができる一冊。DIYとは何かを知りたい人にもオススメです。

「働き方研究家」の肩書きで、仕事に関する本を数多く出版している著者が国内外のものづくりに関わる人の仕事場を訪ね、「あなたの働き方について教えてください」と聞いてまわった、働き方をめぐる思索の報告書。ヨーガン・レール、パタゴニアなど、アパレル関連の企業も取材されているので、ファッションやモノづくりに興味がある人にもオススメ。文庫版もあります。

旅や放浪を愛し、アホウドリというニックネームで活躍した著者が70年代の『宝島』や『面白半分』等の雑誌に寄稿したノンフィクションを収録した短編集。ベトナム脱走兵やヒッピー集団「部族」のルポなど「商い」に関する話だけではありませんが、昭和の時代の小商いに従事する人々の人生を低い視点から描いた心温まるルポ「ぼくのくず屋入門記」を読んでみてください。

レタリング職人、パッチワーク職人、バリスタ、宮大工など職人や小商いの担い手との対話を通じて、働くことや生きることの本質に迫ったオーラルヒストリー調のノンフィクション。森永さんは『BRUTUS』や『POPEYE』などの雑誌の黄金期を影で支えた偉大な編集者でもあり希代のストーリーテラー。同著者によって描かれた小商いをめぐる成長物語『原宿ゴールドラッシュ』も是非!

『「経済成長」から「縮小均衡」の時代へ』という副題がつけられた本書は、スモールビジネスで成功するための方策を説いた本ではありません。右肩あがりの成長や拡大が見込めない未来のなかで、わたしたちはどのようにして生きていけばいいか。「小商い」というキーワードをもとに、その道筋を示した論考です。これからの働き方や地域社会のありかたを考えるうえでも示唆に富む一冊。

青野利光

1967年生まれ。エディトリアル・デパートメント代表。
大学卒業後、2年間の商社勤務を経て、学生時代から制作に関わっていたカルチャーマガジン『Bar-f-Out!』の専属スタッフ。1999年、スペクテイター創刊。2000年に現在の会社を設立。昨年の夏から長野市に活動の拠点を移して出版編集活動を続けている。

スペクテイター27号

特集『小商い』
2013年4月上旬発売予定
定価952円(税別)・B5版変型176ページ
発行=エディトリアル・デパートメント
http://www.spectatorweb.com/