Go with the Flow Vol.4 バイヤー・北畠芳治との対談
先輩や親友との対談により素のリヒトさんが垣間見える人気連載の『Go with the Flow』。4回目を迎える今回のゲストは、SHIPS JET BLUEのバイヤーでもあり、リヒトさんの飲み友達でもある北畠芳治。二人が製作に携わるCICATA SHIPS JET BLUEの2013年秋冬や、来季への展望にまで話が及ぶなど、今回ばかりは真剣モード…と思いきや、やっぱり和やかムードは変わらないみたいです。
――デザイナーとバイヤーということで、出会いもやはり仕事からになりますか。
リヒト そうですね。最初は仕事メインでしか会ったことはないと思う。
北畠 展示会とかでしか会わなかったよね。俺がバイヤーになってからだから、出会って6、7年ぐらいかな〜。
リヒト 最初ウィメンズのバイヤーをやってませんでしたっけ?
北畠 違う違う(笑)。最初にメンズのバイヤーをやって、リヒトに会って、それからレディースかな。
リヒト バイヤーをやるのって性別関係ないんですね?
北畠 まあごくごく稀だよね。今までそういう経験をしている人も少ないんじゃない。
リヒト ウィメンズのバイヤーをやる時ってまずどうするんですか? やっぱりリサーチしないと分からないですよね? 街の女の子を見たり、もしくは誰かに聞いたりとか?
リヒト メンズからいきなりレディースのバイヤーってできるものですか?
北畠 ていうかなんで俺がインタビューされてんの(笑)。
リヒト 一応これってそういう企画ですから。オレ、ここでは基本タモリさんみたいな立ち位置なんで(笑)。
北畠 (笑)。リヒトの連載だからね。でもなんかやりにくいわ〜。
リヒト 男の人がいきなりレディースのバイヤーをやったら結構プレッシャーじゃないですか? 何も分からないわけだから。
北畠 本当に何にも分からなかったからね。“チュニック”って何?っていうレベルだったし。
――テレフォンショッキングも盛り上がってきたところでそろそろ次の質問に(笑)。出会った当初は、お互いどのような印象だったのでしょう。
リヒト 男前だな〜って。まあこれは前回も言いましたけど、基本的に男前が好きなんですよ。変な意味じゃないですよ(笑)。
北畠 やりづらいよ(笑)。スーパーモデルに男前って言われてもね〜。僕の場合はもう単純ですよ。リヒトは、とにかく中学や高校の時にはあらゆる雑誌に出ていて、日常から彼を見ない時はなかったですからね〜。「あっ! リヒトだ!!」みたいな感じでした。
――今ではかなりフランクな関係のように見えます。単なる仕事相手には見えませんよね。
北畠 CICATA SHIPS JET BLUEをやり始めてから、頻繁に会うようになったよね。それぐらいから結構仲良くさせてもらってるかな。
リヒト そうそう。それからいろんな垣根を越えて…。
北畠 ちょいちょい! それ危ない関係に聞こえるから(笑)。
リヒト まあでも確かにCICATA SHIPS JET BLUEをスタートしたのが2012年の春夏からなので、よく話すようになったのはおそらくはそのあたりから。最近では、だいたい夕方に銀座(のプレスルーム)で打ち合わせをして、その後飲みに行くみたいな流れはありますよね。だいたい誘ってるのはオレばっかりだけど…。
北畠 だいたいそうだね。誘われて「行く行く」ていう場合が多いと思う。
リヒト そういや、ばたけ(北畠)さんから誘われたこと一度もないな〜(泣)。
北畠 いやいやそんなことないでしょ。
――以前のCICATAについて北畠さんはどのように見てらっしゃいましたか。
北畠 すごい清潔感のあるブランドだなとは思っていました。アイテムひとつひとつがすごく美しいんですよ。
リヒト やっぱりデザイナーの育ちがいいからね〜。なにせ小岩だから(笑)。やっぱり出ちゃうよね〜、抑えようと思ってもビシバシ出ちゃう(笑)。
北畠 はいはいそうだね(笑)。まあでもブランドのベースにアイビーやスクールボーイがあったから、そのヴィジョンは非常に共感できたし、今もそのベースはブレてないよね。
――リヒトさんはCICATAでデザインする時と、CICATA SHIPS JET BLUEの時で、アプローチや着眼点など何か違いはありますか?
リヒト 正直言うと、CICATAをやっていた時はアイテムを売ることに関して特に気にしたことはなかったかな〜。自分の着たい服をただ作ることができればそれでよかった部分はありましたよね。それだけで気持ちよくなっちゃうみたいな。だけど、コストをかけて服を作ったり、ブランドを継続させていく以上そうもいかないじゃないですか。だから客観的にマーケットを見てきたばたけさんのアドバイスはすごく参考になりましたね。結構これまでのCICATAにはないアイテムが、CICATA SHIPS JET BLUEには多いかもしれない。根本は変わってないんだけど、自分だけだったら多分作ってないだろうなってモノが多いと思う。そこは、やっぱりばたけさんと出会って変わったところかな〜。やっぱりシーンの最先端を知り、マーケティングにも精通した専門家ですからね。話していると勉強になるし、本当にばたけさんにはだいぶ大人にしてもらいました(笑)。本人を目の前にして言うのもなんか恥ずかしいけど。
北畠 だいぶ教育しましたよ(笑)。
リヒト いっぱいデザイン画を見てもらうんだけど、「こんなん売れるわけねーだろ、バカヤロー!」って何度言われたことか(笑)。
北畠 まあ、デザイン画なんて一度も見たことないけどね(笑)。
リヒト そうだっけ?(笑)
北畠 シカタはリヒトが作る服なんで、やはり彼基準なわけですよ。袖丈が長かったり、とにかくモデル体型のようなシルエットが多かったから一般の人が着ても細過ぎるし長過ぎる。そういうところは修正してもらいましたけどね。それでコラボみたいな形にしてうちのスペックとの中間で出せませんか?って。そこが、そもそものCICATA SHIPS JET BLUEの始まりだよね。
――今回のCICATA SHIPS JET BLUEは1型だけの展開なんですよね?
北畠 そうですね。1型5色のみの展開です。
リヒト ここに至るまでにばたけさんとかなり綿密に打ち合わせをしたよね。もう10回以上したんじゃない?
北畠 これぞまさに1型入魂! って感じだよね。まあでも力を入れ過ぎて他に手が回らなかったって噂もあるけど(笑)。
――最初からコートのイメージはあったのですか?
北畠 当初、ダウンをやりたいっていうのはリヒトからあったよね。
リヒト 毎回1つはあるんですよ。これやりましょう!みたいなの。最初はすごく抽象的なところから始まるんんだよね。このアイテムも、最初は「やっぱり革だよね」って話で革物を作ろうとしてたんだけど、それからダウンに変えた(笑)。もう話し合う中でコロコロ変わっちゃうだけど、それが楽しいんですよ。
――ダウンといったら、ダウンベストやダウンジャケットなど、とにかくアウトドア的印象が強いですよね。
北畠 山系ではないダウンアイテムを作りたいというのをリヒトから言われたんですよ。
リヒト そうそう。着ていていかにもダウンを着ているみたいにならない、そんなダウンを作りたいっていうのがありました。見栄えは大人っぽいけど、実は着ているのはダウンみたいなもの。それで、だったら形はステンカラーじゃない?ってところからスタートしたよね。
北畠 だから、外にステッチが出なくてコートっぽいものということで、最終的にマウンパとモッズコートとダウンジャケットの間みたいな今の形に仕上がりました。しかも、この中で使用しているダウンや外の生地は某本格アウトドアブランドで使われているものと同じ。ファクトリーも一緒なんだよね。ダウンの反発力も適度にあって、山に登れるとまでは言えないけど温かさは抜群。
リヒト ダウンのゴワつき感をなくしたかったんだよね。あれを気にしている人は結構多いと思う。
北畠 電車に乗る時とかすごく気になるよね。だから個人的には一着も持ってない。
リヒト オレもない。
北畠 ゴワつきをなくせば、それだけレイヤードできるから着こなし的にも楽しめる。
リヒト 最近、CICATA SHIPS JET BLUEをやるようになってから若いお客さんのことを考えるようになったんですよ。おそらく初めてかもしれない。そういう人たちは洋服好きな人が多い印象もあるけど、一般的にはそうでもなくて。ワンシーズンに一着買えるか買えないかっていう身の丈に合った買い方をする人が大半。だから、「今年はもうこれでいこう」なんて人に買ってもらって幸せになってくれたらいいなとは思いますね。
北畠 アイテムを着ることによって幸せを感じてもらえるようなブランドでありたいと。
リヒト 「オレいつもよりイケてるじゃん」て思ったり、または思われたり、それによって彼女ができたり、そういう一着になればいいよね。例えば、男子は初めて買ったスーツって結構覚えてたりすると思うんですよね。その一着のように、人それぞれが身に着けてきた服の歴史のひとつに刻まれればいいですね。
北畠 この服は、SHIPS JET BLUEの客層でも若者はもちろん大人の人にも響くと思うんだよな〜。
リヒト 基本はカジュアルではあるんだけど、フレッシュなサラリーマンの方々が真冬だったらスーツの上に着てもいいのかなって思う。
――カラバリが豊富なのも嬉しいですよね。
リヒト カラバリはね〜。ばたけさんと相談しながら結構悩んだかも。
北畠 ネイビーはトレンド的なこともふまえれば入れてもいいんじゃないっていう話はしたよね。意外に、赤とかも若い子には手に取ってもらえるんじゃないかな〜。
リヒト やっぱりビジネス系の人たちだとネイビーやブラック?
北畠 ブルーはリヒトの強い要望があったからだよね?
リヒト 青は着た方がカワイイよ。
――なるほど。そうしたら2014年春夏も1型入魂的な展開はあるのでしょうか? 今後の展望も含めて聞かせてください。
リヒト 2014年の春夏は型数を増やしますよ。打ち合わせも100回ぐらいしてね(笑)。テーマはパリでいきます。まあ、でもそのパリから何に転ぶか楽しみにしていてください(笑)。
北畠 いまだにキーワードはパリしか出てきてないからね(笑)。
リヒト とにかくパリです…、たぶん。この際ばたけさんと一緒にコンビでブランド出しちゃいますか(笑)。
北畠 とりあえず辞めとく(笑)。まあでもリヒトには、今のままいってもらう感じでいいと思いますけどね。変にかしこまらず。
リヒト 力まずね。
北畠 いつも打ち合わせしてもろくな話しかしないんで(笑)。だけど、そのラフさがいいかな。デザイナーなんで、言いたい事を言ってくれた方がこっちとしてもやりやすい。それをまとめるのが僕の仕事でもあるんで。
ダウンコート ¥36','750 CICATA SHIPS JET BLUE
RIHITO/リヒト
1976年、東京生まれ。95年よりファッションモデルをスタート。パリ・ミラノなど海外に活動の場を広げ、ジル・サンダーのメインモデルなどを務める。 2000年に自身のブランド「CICATA」をスタートし、2011年に惜しまれながらも休止。現在はSHIPS JET BLUEのエクスクルーシブコレクション、CICATA SHIPS JET BLUEを手がけている。
北畠芳治
1977年、東京生まれ。ショップスタッフを経てバイヤーへ転向し、以来8年の間にメンズやウィメンズのバイイングも経験。その多彩なキャリアにより磨かれた審美眼と豊富な知識により裏付けされたバイイング、さらにはエクスクルーシブの製作に定評がある。今現在は、SHIPS JET BLUE全般のバイイングを担当。2012年よりスタートしたCICATA SHIPS JET BLUEの製作にも携わっている。