右近亨さんが語る
日本人がブリティッシュトラッドに魅了される理由(ワケ)
SHIPSの秋冬カタログはもうお読みになりましたか? MENとWOMENの合同カタログでは、ブリティッシュトラッドを軸にお洒落の参考になる写真が多数掲載されていますので、是非店頭でチェックしてみてください。そして今回、カタログの編集ディレクターを担当してくれたのは『HUGE』などでお馴染みの右近亨さん。ここではカタログ制作の秘話を始めとして、日本人が何故ブリティッシュトラッドに魅かれるのかを語って頂きました。
――まず、今シーズンのカタログ制作はどのように進められたのですか
右近 カタログ制作にあたって、最初にSHIPS上層部の方とお話しする機会を頂いたんです。そのときに、「SHIPSのお客さまはヒストリーやストーリーのある洋服が好き」という話を伺ったんですよ。それが大きなヒントとなって、今回はストーリー性を全面に出していこうと。でも、MENのなかにはドレスとカジュアルがあり、WOMENにもドレスとカジュアルがある。しかも、それぞれ温度が違うんですよね。そんななかで、各カテゴリーのテーマを尊重しながら、カタログを1ストーリーにするのは冒険でもありました。
――具体的にはどのように進めていったのですか?
右近 SHIPSのキーワードとして挙がっていたのが、ブリティッシュ、ベーシック、ヴィンテージ。それらを踏まえつつ、まずはドラマティックなシーンを作ろうとしました。WOMENに関しては、「夜に馬に乗っている女性」ということが最初のイメージの核になったんです。乗馬といっても貴族的な趣味ではなく、自立して仕事をしている女性の趣味ですね。次に、MENは「自分の世界観やライフスタイルがしっかりあって、洋服に関しても自ら選ぶことができる知性を感じさせる人」をイメージしました。そこで浮かんだのが、会員制のクラブやソサイエティに所属している人々。また、そこに集まる人々がどんな休日を過ごしているのかも想像していきました。
――そのお話しを伺ってカタログを見直すとさらにおもしろいですね。英国というキーワードが出たとき、右近さん個人としてはどんなイメージが浮かびますか?
右近 日本人でファッションが好きな人ってイギリス好きが多いんですよね。スタイリストの馬場さんはその最たるものですよね。そういう人たちから見たら、僕はそれほどイギリス通ではないんです。でも、ファッション雑誌の仕事をやっているとイギリスはいろんな意味で勉強になるんですよね。個人的には、20年代のイギリスにおけるスポーツスタイルがいまもかたくなに尊重されているところが興味深いです。ウィンブルドンに関しても、あそこのコートだけはウェアもスニーカーも白でなくてはいけない決まりがあったり。ゴルフのジ・オープンを見ていると、あそこに映し出される景色こそがイギリスそのものだと感じてしまいます。
――カタログでは、映画『炎のランナー』についての記述なども見受けられますが、カルチャーなどで影響を受けたものはありますか?
右近 イギリスはアメリカよりもカルチャー的にいろんな顔があるんですよね。僕が学生時代にあこがれていたのは、映画『炎のランナー』のようなパブリックスクールの学生たち。階級とか上流階級のお坊ちゃんへの憧れみたいなものです。僕は北海道の漁師のせがれなので、特にそういうのに憧れが強くて。「クリケットのルールを知っているかい?」とか言ってみたいなって思うんです(笑)
――今でも、トラッドと言われるとイギリスのお坊ちゃんが思い浮かびますよね。そういう着こなしを学びたいときにおすすめの映画などありますか?
右近 やっぱり、映画『炎のランナー』はストーリーもおもしろいし、洋服もすごくきれい。あと、スコットランドやアイルランドの貧しい人々を描くことが多かった、ケン・ローチ監督の作品(『麦の穂をゆらす風』など)もおすすめです。そこで描かれる労働者のツイードの着こなしとか参考になりますよ。その他だと、『コレクター』って映画の主人公も、60年代のスーツをビシッと着ていてお洒落ですね。写真集でいえば、イギリス北部の漁民たちを撮ったフォトグラファー、ポール・ストランドの『Tir a'Mhurain』(1962)かな。彼の写真に影響を受けたファッション関係者は多くて、フィッシャーマンズセーターを着た漁師の姿は、ブリティッシュ・トラッドの原点だと思います。
――あと、イギリスはバブアとかいろいろと古い製品が現存しているところもすごいですよね。
右近 それは日本のセレクトショップのおかげですよ。現在のイギリスでは誰も着ていないと思う(笑)。これは何度もネタにしている話ですけど、漁師だった親父に「イギリスの漁師はこういうのを着ているんだ」って、フィッシャーマンズセーターをプレゼントしたことがあるんです。でも、一回も着てくれませんでしたね。「首もとが徳利(タートルネック)になってねぇし、向こうの漁師は首が寒くねえのか」とか言って。その後、取材でイギリス北部の漁師町を通る機会があって。そこでもフィッシャーマンズセーターを着ている人を探したんですけど、誰も着ていませんでした(笑)。その経験からいっても、たぶんイギリスのフィッシャーマンズセーターの9割は日本のセレクトショップにあると信じています!
――いまの時代、そうですよね(笑)。でも、日本人はなんでブリティシュが好きなんだと思いますか?
右近 島国だったり王室があったりと、似ている部分は多いのに、日本とはまったく違う文化を持っているからじゃないですかね。例えばサーフィンだって、もし日本古来のスポーツだったら誰も憧れないはずなんですよ。僕が漁師に憧れないようにね。でも、海があって波もあるのに日本にはその文化がなかったから憧れる。そう考えると、日本人には他国の文化を理解するための素地が豊かで、だからこそ日本人はいろんなカルチャーを吸収しやすいんじゃないですかね。
――四季もあるので、夏にはジャマイカの気分がわかって、冬にはスコットランドの気分がわかりますもんね。
右近 そうそう。自然に関しては海も山もあるし、都会もある。アメリカよりもイギリスのほうが、感覚的に断然適合しやすいと思いますよ。
―― 一方で、日本人はトラッドも好きですよね。
右近 日本には「新しいことがいいこと」みたいな風潮があってスピードもすごく早いじゃないですか。でも、最先端だけがいいのではないこともみんなわかっている。逆に、変わらないものが真実でないと困る人も多いからですかね。ファッションだけでなくスマホとか最新機器もそうだけど、流行に置いて行かれた人にとっては、時代に流されない不変的な真実がないとすごく不安なんですよ。でも、そういう人たちもかつては時代の最先端にいたんですが、自分が時代についていけなくなると「トラッドがわからない奴はダメだ」って言いだす。同じように、ファッションが好きな人は、最先端も不変的な真実も両方わかっている感を出したいんです。僕もパリコレに行く数日前に、SHIPSでフレンチラコステの復刻を買ったりしていましたから(笑)
――今回カタログをやられて、かつての英国トラッドと比べて、変化を感じたことはありますか?
右近 1980年代にファッション好きだった人が、当時考えていた英国トラッドと、いまの英国トラッドは当然ながら違いますね。グレン・マックのセーターのように同じアイテムもありますけど、それに合わせるネクタイはさらにクラシックになっていたりしますから。80年代当時は、その時代まで生き残っていた英国ブランドをコーディネートするのが基本でした。でも、いまはヴィンテージから最新のブランドまでミックスすることができる。選択肢がすごく増えていますね。
――MENで取り扱っている、「MAN 1924」などはスペインのブランドなのに英国トラッドですし。
右近 そうですよ。80年代だったら許されないでしょうね。英国トラッドを推しているのに、バイヤーが「スペインのブランドで〜」なんて提案したら「おまえ、人の話聞いてんのか!」って。
――そうですね(笑)
右近 大事なところは守りながらアレンジしていく。これは日本人が得意とするところでもあるんです。今回のカタログで表現した英国トラッドは、SHIPSのバイヤーさんが世界中を回ってみつけてきたもので組み合わせている。つまり、SHIPS発信の英国トラッドなんだと思います。
右近 亨
1958年北海道生まれ。学生時代から雑誌の編集アシスタントを初め、後にフリーランスのエディターとなる。
『POPEYE』など雑誌の編集を経て、1980年代末からテレビの放送作家業も兼務。2003年『HUGE』の創刊からディレクターとして『HUGE』に関わる。2011年4月からは『月刊EXILE』のディレクターにも就任。
取材協力
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