35thスペシャルインタビュー ―DJ 松浦俊夫さん―
STYLISH STANDARDは、JAZZが教えてくれた
‘90年代、ACID JAZZなどと呼ばれた“踊れるジャズ”人気のなか、日本が世界に誇るグループUnited Future Organizationのメンバーとして活躍。現在もDJとしてファッションショーやクラブで活動する松浦俊夫さんに、思春期から現在までに至る「STYLISH STANDARD」な生き方について語ってもらった。
――今回のメインテーマが「STYLISH STANDARD」なのですが、この言葉から連想されることはどんなことですか?
松浦 スタイリッシュって言葉は、スタンダードありきな気がするんですよね。流行に乗るだけならいくらでも乗りようがあるけど、その基礎があるかないかで大きく違うんじゃないかと思いますね。
――松浦さんの基礎は、どのようなものでできていますか?
松浦 高校とかその前くらいから、人とは違うものであることや紳士的なものに対する憧れを漠然と抱いていて。そのひとつがスーツスタイルだったりしたんですけど。ジャズに出会ったときに、それらがひとつになった瞬間でしたね。それ以降はずっと、自分のなかでジャズ的なものが基礎になっている気がしますね。ジャズっていうのは前に進める音楽のフォームだと思っているので、見た目や聴いた感じがいわゆる世間一般的なジャズでなかったとしても、自分にとって前に進むものだと感じればジャズなんですよね。その感覚でいまも活動を続けているし、洋服のスタイルもそこにあると思いますね。
――United Future Organizationとしてデビューされたとき、音楽性はもちろん、あのスーツスタイルに強い衝撃を受けました。
松浦 いま思うと、自分たちの理想を日々続けていたのがU.F.O.だったのかなと思いますね。
――松浦さんの高校生時代は、どんなスタイルだったのですか?
松浦 制服が無かったので何でもありというか。時代的には’80年代の前半から中盤のいわゆるDCブームの頃でしたね。学校が新宿のど真ん中にあったので、休み時間になるとよくそういう連中がみんな丸井に入り浸っていたことを思い出します。
――スタイル的に憧れた人はいますか
松浦 ずっと菊池武夫さんに憧れていましたね。高校を出て初めて観たファッションショーも菊池武夫さんで。そのときに音楽で使われていたのが、いわゆる踊れるジャズ。ステージではクラシカルなスーツスタイルでジャズを踊っていて、ロンドンのジャズダンサーとか、当時はほとんど知られていなかったワイルドバンチのメンバーが出ていたんですよ。そのショーを観た瞬間に、自分の進む道が決まりましたね。先日、菊池さんにお会いしたときもその話をさせて頂きました。
――流行っていうのはどう取り入れていったのですか?
松浦 ’90年代の頃は世の中的にどうかというより、自分たちの気分みたいなものをいかに表現できるかしか考えていなかったので。既存の洋服というよりも、’60年代の古着やデッドストックをよく着ていましたね。その頃は細身のスタイルが流行っていて、それを自分たちなりに表現するならこうなんじゃないかみたいな感じでした。スタプレスト*はよく買いましたね。昔のジャズミュージシャンの普段着をイメージしていていたんだと思います。
――その後、お子さんが生まれて生活は大きく変わりましたか?
松浦 子どもができたのは2〜3年前のことですけど、生活スタイルは大きく変わりましたね。震災もあったので、エネルギーを使わないようにデスクワークは夜せず、朝起きて日が沈むまでにしています。なるべくスタートを早くして、家族と一緒に生活するのが最近のパターンですね。DJで仕事が夜にあるときは大変ですけど、朝コーヒーを買いに行ったり、自分で淹れるような生活に憧れていたので苦ではないですね。相手がまだ始業してない時間は電話もメールも来ないので集中できますし、終わりの時間も必然的に決まっているので集中力も生まれました。
――音楽において「STYLISH STANDARD」というとどんなものを思い浮かべますか?
松浦 僕はスタイリッシュな音楽っていうのは存在していないと思っているので、お洒落な音楽とか、お洒落な映画っていうのもないと思います。スタンダードっていうのは、自分に何かしらの影響を与えてくれるというか、ベースになる部分でしょうね。僕の場合、それがジャズなんです。
――今日はありがとうございました。
*スタプレスト=ポリエステル素材にパーマネントプレスを施したパンツのこと。
松浦 俊夫
1990年にUnited Future Organization (U.F.O.)を結成。日本に於けるクラブカルチャー創世記の礎を築く。12年間で5枚のフルアルバムを全世界32ケ国で発売、高い評価を得た。2002年の独立後も精力的に世界中のクラブやフェスティバルでDJを続ける。またJames Brown','Earth Wind&FireからAstor Piazzolla','Gotan Projectまで幅広いジャンルのアーティストのリミックスを手掛ける傍ら、ファッションブランド等のコンピレイションやブティックの音楽の監修も行っている。その世界を舞台に培われた感性とネットワークを駆使し、イベントのプロデュース、コンサルティングやGilles Peterson','Tomatoなどアーティストのエージェント業務等、その活動は多方面から注目を集めている。インターFM"Tokyo Moon"(日曜24時)好評オンエア中。
http://www.toshiomatsuura.com
http://openers.jp/culture/matsuura_toshio/index.html