岡山にある縫製メーカーのファクトリーブランドとして、2019年FWより本格始動した「CIOTA(シオタ)」。SHIPSはメンズ、ウィメンズともに1stシーズンより取り扱いを始め、インラインだけに留まらず、別注モデルも展開。さらに渋谷店ではポップアップイベントを開催するなど、今、最も注目度の高いブランドの一つとして話題を集めている。そんな「CIOTA」の魅力に迫るべく、デザイナーの荒澤正和氏とSHIPSバイヤーの石幡瞬氏に話を伺った。
Text_Yasuyuki Ouchi
CIOTA/デザイナー兼ディレクター。アパレル業界に携わり、デザイナーとして20年間で5社8ブランドを手掛ける。’18年7月、岡山にある縫製工場「shiota」 に入社。スペル違いの同名ファクトリーブランド「CIOTA」を立ち上げる。
SHIPS/バイヤー。2005年にアルバイトとして新宿Flagsに入社。’15年からは在店バイヤーとして渋谷店とメンズ商品部を兼任。’17年3月にバイヤー専任となり、現在は「SHIPS any」と「study ships」のメンズバイイングを担当している。
ファクトリーの強みを生かしたブランドづくり
ーーまずは「CIOTA」を立ち上げた経緯から教えてください。
荒澤 ちょうど20年間、アパレルメーカーのデザイン職に従事してきたのですが、数年前よりアパレルメーカーにウンザリしていて(笑)。ただ、現実問題としてこの先も、20年間経験した服づくりで食べていくしかなかったことも事実でした。 そして、メーカーのデザイナーではなく、自分のブランドをやってみたいと模索していたときに、今の社長から話をいただきました。前職で「shiota」に縫製を依頼していたので、社長とは昔から親交があったんです。その縁でいろいろな話をしている中で、「shiota」としても縫製工場のネクストステージとしてブランドビジネスを考えいるということを知り、「CIOTA」の立ち上げに至りました。
ーー縫製工場を背景にスタートすることとなった「CIOTA」は、所謂、ファクトリーブランドという位置付けになるかと思うのですが、「CIOTA」のブランドとして方向性はどうやって決まっていったのですか?
荒澤 仰る通り、「CIOTA」はファクトリーブランドです。ですので、「shiota」として得意としていたデニムやワークウェアの縫製技術を活かせるブランドにしようと思いました。ドレスのメーカーでデザイナーをしていたこともあったので、立ち上げる際にどういったブランドにしていくのか色々な選択肢があり模索しましたが、カジュアルウェアの縫製が得意なのであれば、それは素直にカジュアルブランドをやるべきだなって。僕自身もデニム好きですし、カジュアルファッションが大好きなんです。
「CIOTA」を象徴するデニムに対するこだわり
ーーデニムパンツは、スタートから2シーズン目にして早くもブランドのキーアイテムとなっていますよね。シルエットはストレート、テーパード、スリムの3つ。カラーリングにいたっては現在8色まで展開しています。デニムパンツへのこだわりはやはり強いですか?
荒澤 40歳くらいになった時に、あんなに大好きだったデニムが難儀なモノになってしまったんです。ゴワゴワした質感が気になってしまい、リラックスできない。であれば、柔らかくコンフォータブルなデニムパンツを作ればいい、というのが「CIOTA」のデニムの始まりです。
ーーそこで辿り着いたのが上質なスビンコットンを使ったデニムになるわけですね?
荒澤 はい。ただ最近はスビンコットンやコンフォータブルという言葉が先行し過ぎてしまい、単に「CIOTA」のデニム=穿き心地がいいと言われてしまって……。あくまでオーセンティックな見た目ありきで、スビンコットンを横に打つことでコンフォータブルになるというのが最大の特徴なんです。オーセンティックな趣きだけではなく、穿き心地がいいだけでもない。高いレベルでのそれらの融合こそが、2020年のデニムの技術革新だと思っています。
ーーそして、「CIOTA」のコットン製のアイテムには必ずスビンコットンが使われています。今ではその独特の光沢感と滑らかな肌触りを持つスビンコットンは「CIOTA」の代名詞的な素材にもなっていますよね。
荒澤 例えば、コレクションの中の1アイテムにだけスビンコットンを使用していても、ブランドとしての信頼度は上がらない。ブランド立ち上げと同時に「shiota」では生地開発や卸しを始めたこともあり、“スビンコットンをきちんと理解して使いこなしています”というのが、他のブランドとは違う「CIOTA」のプロパガンダなんです。スビンコットンを使わないで別注したいというショップさんもいらっしゃるのですが、それはお断りしています。コットン製でスビンコットンを使用しないのであれば、「CIOTA」で作る意味がないですから。
“作ること・見せること・伝えること”が大事
ーーまた「CIOTA」の魅力の一つに、徹底された世界観の構築もあると思うのですが?
荒澤 コストはかかりますが、ネームタグやフラッシャーといったディテールまで、すべてに手を抜きたくないんです。僕らは洋服を作ることだけが仕事ではなく、“作ること・見せること・伝えること”の3つを屋台骨として大切にしています。ですので、ブランドデビューの際に制作したルックブックなどにも予算をかけましたね。これだけブランドが溢れている時代なので、ブランドの世界観やブランド力をしっかりと見せたかったんです。
ーー石幡さんも、そんなブランドの世界観に魅せられた1人だと思うのですが、まずは「CIOTA」の第一印象から教えてください。
石幡 まず予備知識のない中でルックブックを拝見させていただいた時は、個人的に好きそうだなって感じました。その後、実際に1stシーズンの展示会にお伺いして、デニムを主軸に展開している分かりやすい商品構成のブランドというのが第一印象でしたね。
ーーその展示会で荒澤さんと初めてお会いするのですか?
石幡 はい。先ほど荒澤さんがお話されていたようなブランド説明をお聞きしました。ファクトリーブランドであることの強みに加え、独自開発のオリジナル生地を1stシーズンからあらゆる商品に落とし込んでいる点も凄いなと。前述したアイテム構成の面でも、定番のワードローブを巧みに咀嚼しながらアップデートされていました。クオリティと趣向の両面で、僕の理想とするブランド像とマッチしましたね。
メンズとウィメンズの違い、そしてSHIPS別注
ーー1stシーズン、SHIPSではメンズだけでなく、ウィメンズでも展開されました。
石幡 「CIOTA」さん自体がメンズ3割、ウィメンズ7割のユニセックスブランドなので、取り扱いさせていただくなら、両方展開して世界観を体現しないと意味がないと思いました。店舗も独自MDの渋谷店に絞り、1階のstudy shipsというベーシックでユニセックスをコンセプトにするコーナーで展開させてもらっています。
ーー「CIOTA」ではメンズ、ウィメンズは同じ世界観でモノづくりされているのですか?
荒澤 そうです。ただサイズダウンさせるだけでなく、パターンを変えて作っています。「CIOTA」のような服ってウィメンズにはありそうであまりないと思うんですよね。おそらくこの世界観が好きな女性は古着のメンズ服を着ていたりすると思うのですが、「CIOTA」では古着にはない高いクオリティで、そういったカジュアルな服を表現するようにしています。
ーーSHIPSでのメンズ展開に話を戻らせていただくと、インラインの定番モデルに加えて、別注も作られましたね?
石幡 1stシーズンから別注させていただくのもおこがましい話だったんですが(笑)
荒澤 いえいえ(笑)
石幡 インラインで使用されている素材を違うカタチに落とし込みたく、バックサテン生地でジャングルファティーグジャケットを作っていただきました。通常使われているようなポプリンやウェザーと比べ、生地が肉厚なのでアウターライクな仕上がりです。シルエットに関してもショート丈でワイドなボックス型にしてもらいました。おかげさまで完売しました。
荒澤 ありがとうございます。嬉しいですね(笑)。他のショップさんでも素材替えはありましたが、パターンからの別注はSHIPSさんだけです。
今シーズンのSHIPS別注はB.D.シャツ
ーーそして今シーズンはB.D.シャツを?
石幡 実はB.D.シャツに関してもジャングルファティーグジャケットと同じタイミングでお話させていただいていました。ただ生地を作るのに時間も必要でしたので、約1年かかりましたね。
荒澤 シャツが売れない時代に、オックスのB.D.を作りたいというのは、さすがSHIPSさんだなって思いましたよ。
石幡 そうですね。オックスのB.D.を今販売するのは難しいかもしれません。とは言え、「CIOTA」さんはデニムやチノといったオーセンティックなアイテムをアップデートされていたので、スビンコットンのオックスフォードができたらロマンがあるなって(笑)。僕が所有する1番好きな某米国ブランドのB.D.をベースにしています。
荒澤 パターンなどもインラインと変えていますが、一番の印象の違いは、SHIPS別注は折り伏せ縫いのドレス仕立てで、インラインのB.D.シャツは巻き縫いのカジュアル仕立てなところです。
石幡 そのドレス仕立てに加えて、ボタンの数や襟のサイズ、裾のカーブなど細かいディテールまで拘りぬきました。着用を重ねることで、スビンコットンの風合いが増し、クローゼットの中からつい手に取りたくなる1着に仕上がっていると思います。
SUVIN COTTON OXFORD BD SHIRT ¥24,000(+TAX)
COLOR WHITE / BLUE
2019年秋冬にデビューした岡山発のファクトリーブランド。原料の選別から、生地織りやデザイン、縫製まですべての工程を自社で行うのが最大の特徴。コットン生地はすべて自社開発のオリジナルで、世界の綿生産量のわずか数パーセントという最高級の超長繊細綿、スビンコットンを採用。トレンド不問の素材を活かしたベーシックなコレクションを展開している。