若手芸術家をメディアやテクニックを問わずに紹介する東京・東麻布のギャラリーディレクターにしてブランドデザイナーの佐藤佑樹氏。そのブランド名はギャラリーと同名の「Cale(カル)」。SHIPSでは2020年FWシーズンより、この話題のブランド「Cale」の取り扱いをスタート。「Cale」に魅了され、実際に仕入れを担当したSHIPSバイヤーの石幡瞬氏がホスト役となり、佐藤氏とのスペシャル対談を決行しました。
石幡佐藤さんは「Cale」のデザイナーでありながら、ギャラリーディレクターでもいらっしゃりますよね?
佐藤はい。元々は美大の出身で、大学生活の4年間は作家活動もしていました。平たく言えば、そこで自分に才能がないことに気付いたんです。それなりのモノは創れたかもしれませんが、自分が憧れる美術家たちが持っている核みたいなものがないなって。それで今のギャラリーオーナーにも通じるキュレーションやイベントの企画などを学生時代から始めていました。
Caleデザイナー 佐藤 祐樹氏
石幡裏方にまわったんですね。
佐藤卒業後も美術館やインディペンデントなギャラリーで働いて、若い作家さんたちを紹介していました。
石幡いつからファッション業界に?
佐藤父親がアパレルの会社を経営していたので、いつかはその会社に勤めるかなとは漠然と思っていたんです。そんなことを考えていたタイミングで声が掛かり、現在の会社に入りました。27〜28歳の頃で、主に上海で活動し、テキスタイルの基本から学び始めました。それがファッション業界への入口です。
石幡「Cale」のプロダクトに素材への拘りを強く感じる理由は、佐藤さんのそういった経歴にもあるんですね。本格的な服づくりはいつからですか?
study shipsバイヤー 石幡 瞬
佐藤3年間、右も左も分からないままテキスタイルのデザイン会社でイチから学びました。ブランドさんに生地やテクニックを提案する仕事内容だったので、自分もひとつのブランドについて、アシスタントとして服づくりにも関わらせてもらいました。そこで織りや編み、染色や縫製などを勉強して、社内でも少しずつ認められるようになって、自分がつくりたい洋服をつくらせてもらえるようになっていったんです。
石幡それが2016年FWにデビューした「Cale」のスタートになる訳ですね。
佐藤父の会社が縫製工場も持っていたので、テキスタイル会社で生地が作れて、縫製工場で縫うことができる。その恵まれた環境があれば、より高いレベルで自分たちの考える洋服をつくることができるんじゃないかって。
石幡それはファクトリーブランドに近い感じですか?
佐藤もちろんモノづくりの背景を考えれば、そういった見え方もするかもしれませんが、自分たちの中ではファクトリーブランドとは一線を画しています。通常のファクトリーブランドであれば、こんな縫製ができるから、それに適した洋服をつくろうとか、こんなテキスタイルがあるから、それに合った洋服をつくろう、という考えが根本にあると思うんです。しかし、自分の服づくりではそういった考えを排しています。完全に自分の欲求から服づくりが始まるので、ファクトリーブランドさんへのリスペクトの意味も込めて、「Cale」はデザイナーズブランドという位置付けにしています。
石幡この秋冬からSHIPSでもお取り扱いさせていただくのですが、4年間服づくりをされてきて、佐藤さんが大切にしていることは何ですか?
佐藤洋服って、表面的なフォルムや流行色、どのように着こなすかという話になりがちですが、「Cale」では、プロダクトひとつひとつが生まれるストーリーを大切にしたいんです。なぜこの生地で無くてはダメなのか、なぜこう織るのか、なぜこの糸使ったのか。そういった洋服の裏側にあるプロセスみたいなものも感じて欲しい。自分も洋服をつくる前は知らなかったことなので、それを「Cale」の洋服を通して皆さんに伝えたいですね。
石幡そういった考えからも、佐藤さんからは独特の世界観を感じますよね。今回SHIPSで展開させていただく上で、約半年前に改めて「Cale」の洋服を拝見させてもらったんですが、同じ素材の色違いでものすごい型数を見たときは圧倒されましたね(笑)。
佐藤ありがとうございます。
石幡いい意味で無国籍感があります。これだけの情報化社会なのでどうしてもマーケティング重視のブランドさんであったり、デザイナーのバックボーンが色濃く出過ぎるブランドさんであったりと様々なんですが、「Cale」はそのどれにも当てはまらないジャンルだと思います。それでいて、実際の洋服からはプライス以上のクオリティも感じるんです。
佐藤特に縫製が美しく適正かどうかには拘っていますね。服づくりを経験すればするほど、デザインはもちろんですが、例えば着心地や耐久性といった着るモノとしてのクオリティに注力するようになりました。
石幡テイストもユニセックスですし、佐藤さん自らが手掛けるルックも素晴らしい。デザイナーとしてだけでなく、ビジュアルマーチャンダイジング的な部分でもご自身でキュレーションされている。そんな軸のブレない姿勢も含め、SHIPSで取り扱わない理由が見当たらない。
石幡今回SHIPSでは、コレクションの中から何点か展開させていただくことになりました。SHIPSらしさをベースに今の気分を踏まえたラインナップにしているんですが、特に注目して欲しいのが色です。ティファニーブルーのような綺麗なグリーンやビビットなレッドも美しい。あとはシーズン的にもウール素材のアイテムを豊富にピックアップしています。軽くて扱いやすい素材が多いですよね?
佐藤そうですね。ウールギャバはコーティングをかけたりして、これまでに見たことない素材感に仕上げています。
石幡ドレスアイテムにウールギャバという組み合わせも面白いですよね。
佐藤ジャケットは特徴的なフォルムですが、本切羽にしたりとディテールにもこだわってミックス感を表現しています。
石幡カジュアルな装いにも合わせやすくて格好いい。このチノパンベースのボトムスも好きです。裾にダーツが入っていて、アウトドアのパンツにあるようなディテールワークですよね。裾を引きずらないように考えられた実用的なデザインだと思います。普通のチノパンで終わらないところも「Cale」の魅力のひとつですよね。
佐藤実際に穿いたときに筒型になるような設計です。丸みを帯びているので靴も選びません。革靴でもスニーカーでも、ショートブーツでも合わせやいです。裾にクッションができても潰れずに美しく見えます。
石幡縮絨ウールのアイテムもインパクトがあります。
佐藤見た目と着心地と保温性の機能という3つのバランスが、なかなか想像通りに作れなくて苦労しましたね。職人さんにも頑張っていただきました(笑)。それによってこういったフラットシーマなどの大胆な仕様にも絶えうる縮絨ウールが完成しました。
石幡やはり素材を知り尽くした佐藤さんだからこそのアイテムですよね。「Cale」の完成度の高さを改めて感じました。佐藤さんの話をお聞きすればするほど引き込まれるブランドだと思います。店舗のスタッフにも佐藤さんと同じ熱量で接客できるようにレクチャーします(笑)。
佐藤いつでも説明しにお伺いしますよ(笑)。掘ってもらえればもらうほど、面白いと感じてもらえるブランドだと思いますので。
石幡ありがとうございます(笑)。最後に今後の「Cale」の展望をお聞かせください。
佐藤いま世の中は大変な状況下にあり、洋服、引いてはファッションが贅沢品だという見方をする人もいます。でも、洋服を着ることで自己表現をすることは決して贅沢ではないと思うんです。これからも「Cale」ではそいった人たちの役に立って行きたいです。
石幡今回はありがとうございました。次の展示会も楽しみです。
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