「AERA STYLE MAGAZINE」エグゼクティブエディターの山本晃弘氏が、ファッションの世界に従事するプロフェッショナルを迎えて贈る新連載「Over The Generation」。第2回目となる今回は、ワックスコットンのアウターで人気を博す英国発アウターブランド「Barbour(バブアー)」のセールスを務める佐々木氏がお相手。ブランドにまつわる様々な逸話から、男女問わず支持を集める理由など、ざっくばらんに語り合います。
山本佐々木さんはバブアーのご担当になってどれくらいですか?
佐々木2010年の秋冬からですので、かれこれ10年近くなるでしょうか。
山本もともと英国のワークウエアとかミリタリーウエアはお好きでした?
佐々木洋服の入りがヨーロッパやアメリカの古着だったので、もちろんバブアーも大好きで。縁あって取り扱いができるようになって嬉しかったですね。
山本今、バブアーのお店に来られるお客さんの幅が広がったと思うんです。女性も増えたでしょうし。英国ウエアが好きな方々や、ワークウエア、ミリタリーウエアファンはもちろん、いろんなお洒落を楽しむ、上級者の方々もバブアーを着ている印象です。
佐々木もともと多かったのが30〜40代のビジネスマン層の方。最近とくに増えているのは20代の若いお客様ですね。SNSとかメディアの力ももちろんあると思うんですけど、なんとなく僕らが感じているのは、流行に敏感な若い人たちも、ずっと残っていく普遍的なものに価値を見出し始めているのかなと。
山本ファッション業界は、クラシック回帰、クラシック回帰ってずっと言ってるじゃないですか。それがトレンドとしてのクラシック回帰と聞こえることに違和感を覚えることがあったんです。それが、英国のもの、とくにバブアーのような歴史のあるブランドに注目が集まるきっかけになっているとしたら嬉しいですよね。ワークウエアにルーツを持ち、乗馬用ウエア、ハンティング用ウエアなどTPOやシチュエーション別にアイテムが揃っているのもいい。
佐々木そうですね。乗馬はこのアウター、フィッシングだったらこのアウターといったように、英国のライフスタイルに基づいて作られています。そこがデザイナー系ブランドとの一番の違いでしょうね。
山本英国って、専門店が多いですよね。例えばハンティングに特化したお店やフィッシング、アウトドアショップなど。ふらっと入ると、そこにさり気なくロイヤルワラントがと貼ってあったりして、驚くことがあります。バブアーはそこのセグメントを横串にして、いろんなシチュエーションで着られる、タフなアウターが揃っているという、しっかりとしたイメージがありますね。
佐々木そこは長年の歴史で培った部分かなと。あとは進化していくことも重要だと考えています。クラシックなものは残しながら、ファッションとしても楽しめるようなアイテムにも力を入れています。といっても、往年のファンは大事にしたいですからね。実は日本でも、ワックスを入れ直すサービスも行なっているんですよ。
山本英国だと、ワックスを塗り直しながらずっと着続けているお客さんも多いそうですね。
佐々木本国のバブアー社にリペアルームがあるんですけど、送られてきたものが列をなしていて。修理したり、ワックスの塗り直しを専門でやったりしてる職人もいます。
山本英国ノーザンプトンのシューズメーカーもそうですけど、そういう工場に行って、お客様から戻ってくるアイテムを見ると、感動しますよね。アイテムの数だけその人の人生があるというか。100着あったら100通りの着方が、そして100通りの人生があるわけで。
佐々木ワックスドコットンのジャケットに関して僕らがよく言っているのは、デニムに近いところがあるというか。ワックスが抜けて色が変わってきたり、シワがついたり、傷がついたり、その人なりの味が出てくるというところが魅力で、ちょっとずつ育てていくエイジングの楽しみもあると思います。
山本英国では親子代々受け継いでいくような使い方をされている方も多いでしょうね。
佐々木バブアー社の方からも、祖父から父に引き継がれ、それを今自分が着ているという話を聞いたことがあります。イギリス特有の文化といいますか、お国柄もあるでしょうね。
山本チェックやストライプの柄に関しても、代々引き継がれるというルーツは同じですしね。面白いなと思うのは、もともと漁港で働く人や農場で働く方へ向けたウエアだったバブアーが、王室が使っているロイヤルワラントを取るものになっているということ。”本物”だからこそ、階級を超えて愛されるのかな。
佐々木どんどんブランドが大きくなっていくなかで、少しずつ王室にも受け入れられるようにもなりました。英国では、バブアーはタキシードの上に着れる唯一のフィールドジャケットであると言われることがあります。ほかのフィールドジャケットは普通タキシードの上に着ちゃいけないけど、バブアーは許される。そんなエピソードが英国ではあるくらいです。
山本なるほど、面白いですね。歴史学、社会学的に分析するならば、フィッシングやハンティングなど、本来は階級の高い人達のものだったのが、レジャーとかスポーツもどんどん民衆化していって、階級・家柄に関係なく楽しもうっていう流れにファッションが寄り添っていったというのはあるかもしれないですね。ところで、今では女性の方がバブアーを愛用しているのを街中でもSNSでも多く見かけます。”バブアー女子”なる言葉も出てきてますね。
佐々木女性の方で、本物を求める方やファッション志向の高い方がお求めになられますね。これからもアイテムのクオリティは保ちつつ、ファッション性も疎かにしないようなアプローチを続けていければと。ちなみに、今季のSHIPS別注バブアーはまさに新しさを取り入れたアイテムとなっています。丈の長いコートタイプのモデル「ボーダー」をナイロン素材で仕立てた一着で、しかもパッカブル仕様です。もともとの「ボーダー」は無骨で男らしい雰囲気を持っているのですが、春夏には厚くて着られない。それを薄手のナイロン仕様の別注をつくることで、一年中楽しめるようになりました。
山本ビジネスマンの方にも人気が出そうなアイテムですね。セットインスリーブだから、スーツの上からでも肩の収まりが良さそうですし。また、ベージュなどは従来のバブアーでは見ないようなカラーリングで、季節感も演出できますね。
佐々木別注などでファッション好きの方にもアピールしつつ、ブランドもどんどん広がっていけばいいなと。
山本こうやって新しい物を取り入れることができるのも、歴史に裏打ちされた”余裕”があるからでしょうね。これからの動きも楽しみにしています。
(SHIPS別注ボーダー)
佐々木悠平 | Yuhei Sasaki
スープリームス インコーポレーテッド
英国の老舗ブランド「バブアー」を国内で取り扱うスープリームスインコーポレーテッド社で、セールスマネージャーを務める。古着やヴィンテージアイテムに対する造詣も深く、自身もバブアーマニア。ちなみにこの日着用していたモデルは90年代にリリースされていたモデル「トランスポート ジャケット」。
山本晃弘 | Teruhiro Yamamoto
AERA STYLE MAGAZINEエグゼクティブエディター兼WEB編集長
「MEN’S CLUB」や「GQ JAPAN」などを経て、2008年に編集長として「AERA STYLE MAGAZINE」を創刊。服飾史からビジネスマンのリアルなニーズに至るまで、あらゆる見識を備えた“目利き”として知られる。現在は、トークイベントで着こなしを指南するアドバイザーとしても活動。2018年には、初の執筆書籍「仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。」を刊行した。2019年4月、「AERA STYLE MAGAZINE」エグゼクティブエディター兼WEB編集長に就任。