日本のメンズファッションの黎明期から、ファッションに従事しているSHIPS顧問メンズクリエイティブアドバイザーの鈴木氏。メンズファッション最大の見本市であるピッティ ウオモにも、1977年から参加。そんな生き字引とも言える鈴木さんに、バイヤー今村が聞き役となって、日本のファッションやピッティの歴史、今季オススメのコーディネートまで教えてもらいます。
今村 最近クールビス等の要因でスーツ、ジャケット離れが謳われてますけど、その点についてはどのようにお考えでしょうか。昔のピッティは夏でもジャケット、シャツにタイドアップのようなスタイルが多かったと思いますが、今は少し減ってきているのかなと感じています。
鈴木 ピッティ会場には幅広い方がいますが、ドレスクロージングを本筋としている方々は、ビシッとネクタイしている方も多いですよ。確かにカジュアルな流れはあるのでしょうけれど、カジュアルな装いであっても、男らしさというか色気というか、しっかりとお洒落な空気を感じる方もまだまだ健在です。
今村 服装がどんどんカジュアルになっても、精神的な部分には、ドレス的な態度がどこかに出るのでしょうね。カジュアル化が進んでいる日本のクールビズについてはどうでしょうか。
鈴木 通勤電車に毎日乗っているじゃないですか。なんとなく皆さんが何を着ているか、興味を持って見ています。例えば渋谷に行く人と銀座に行く人ではビジネススタイルも違います。年々そういう傾向は強くなっていると思いますが、皆さん服装に気を使ってらっしゃるなと感じます。ピッティでもドレスとカジュアルの場所が分かれていて、目的別で着こなしも変わってきますから。だからそこで着てるものに対する自負感があり、その人自身の人柄が出るのだと思います。ピッティは特にそうでしたからね。その影響を受けて、日本の雑誌媒体全体が向上したっていうのはあると思いますよ。
今村 鈴木さんはいつ頃からピッティに参加されていますか?
鈴木 僕が初めて行ったのは1977年の時です。年に2回開催なので84回参加していることになりますね。
今村 今年の6月一緒に参加したのが96回目なので、84回というのは本当に凄いことですね。その当時の来場者はどのような目的で参加される方が多かったのでしょうか?
鈴木 当時、日本から参加している方々は、商社の目利きを活かした限られたバイヤーが少数ですがいらっしゃいました。商品の内容や流行などといったものをリサーチし、興味のある商材を見て帰国後に類似商材として展開するといった流れが主流でした。当時僕たちが見ていたのは、イタリア産業の中で世界的に注目を集めていたハイゲージのニット、スエードレザー、バッグなどでした。
今村 日本のファッションは、その当時はどのような感じだったのでしょうか。
鈴木 僕がヴァンに入ったのが65年、この時代の日本はコンチネンタルスタイルとか、「007」のボールドルックとかカレッジスタイルが大きなマーケットでした。その後10年の間にモッズとか、ミリタリースタイルが流行しました。「ピエールカルダン」のようなヨーロピアンスタイルですね。そのあとアイビーに続いてアメトラやトラッドのボディーラインなど、新しい流れが出てきたのが70年。74年には映画「グレートギャツビー」の影響で「ラルフ ローレン」が流行します。ニットベスト、トレンチ、プリントのニットジャージーなども出てきました。周期的に追いかけると1年1年急激に変わっていった時代でしたね。今は頭打ちになってきたというか、出尽くしたというか、そこまでは大きくは変わりませんね。
今村 仰るとおり、今のファッションは出尽くしたように思います。そうした流れの中で、日本では今、スーツ離れが進んでいるという話も聞かれますが、鈴木さんはどのように感じていらっしゃいますか。
鈴木 一時期、加速的に伸びていった時代があって、ある役目を終えただけだと思っています。日本全体にビジネススタイルが浸透したということですよね。今は再調整の時期にあるのではないでしょうか。また一つのサイクルが回ってきたときに、スーツというものが全て廃れていくとは思えません。部分的なものを修正しながら促進していくという部分においては、古典の要素は欠かせません。何割かは新しくリファインされたものが出てくるのですが、古典的な部分と現代性の両方がないと、良さが出ませんしね。
今村 快適に働くことも重要な部分ですものね。
鈴木 今日は秋物のスーツを着てきましたけど、夏が暑いのは如何しようも無い。夏場はどうするかというのは永遠の課題です。ドレス感のバランスを見ながら、シャツやTシャツを増やしたりだとか、機能的な素材を使うとか、それはそれで加味しながら、どうスタイルを提供していくかが重要です。そして、何よりも気持ちよさや楽しさという部分を提供できるように、我々も努力をしていかなければいけないと思っています。
「クラシックだけど、ソフトコンストラクション。そういうものを着ていただきたいというのが、今の考えです。千鳥格子やダブルブレストのジャケット、グレンチェックのコート、タブカラーのシャツにワイドピッチのネクタイなどが注目です。少し前ですと重い感じのものも多かったのですが、生地感や仕立てで軽く着られるアイテムも多く揃えています。あと、今季は色のあるアイテムにチャレンジしていただきたい。気分そのものが晴れやかに、装いとしても新鮮に見えると思います。」
「大人の色っぽさを醸すこちらのスーツスタイルは、アンティーク感漂うイレギュラーピッチのストライプスーツがポイントです。ブラウン地にブルーやレッドなどのストライプが配されており、ピークドラペルやチェンジポケットなどのディテールと全体的にクラシックな雰囲気なのが特徴。洋服好きの方には是非興味を持っていただきたいアイテムですね。」
スーツ ¥120,000(+TAX) /TAGLIATORE
シャツ ¥26,300(+TAX)/Errico Formicola
タイ ¥16,300(+TAX) / Stefanobigi
シューズ ¥75,000(+TAX)/EDHÈN MILANO
「全体的にブルー × グレーをブレンドした都会的な印象のコーディネート。グレイッシュなブルーのツイードジャケットをメインに、オフグレーの色が入ったストライプのタイやグレーのグラフチェック柄のタブカラーシャツなど、他のアイテムも色味を調和させることで洗練されたコーディネートに仕上がります。パンツもウォッシュドのものを合わせて、程よくカジュアルな雰囲気にまとめました。」
ジャケット ¥116,000(+TAX) /LARDINI
シャツ ¥26,300(+TAX) /Errico Formicola
タイ ¥16,300(+TAX) /Stefanobigi
パンツ ¥37,000(+TAX) /INCOTEX
ベルト ¥12,000(+TAX) /ARNOLD WILLS
シューズ¥34,000(+TAX) /il mocassino
「色を活かした遊び心溢れるドレスカジュアルスタイルです。グレンプレイドにブラウンのカラーペーンが目を引くこちらのジャケットは今季注目のアイテムですね。それぞれのアイテムにブラックやブラウンといったカラーを入れ、シャツのブルーで調和させることでまとまりのあるコーディネートになります。ミドルゲージのニットやワイドパンツがリラックス感漂い、今の雰囲気にマッチしたスタイルに仕上げてくれます。」
ジャケット ¥105,000(+TAX) /TAGLIATORE
ニット ¥24,000(+TAX) /McLauren
シャツ ¥32,000(+TAX) /BAGUTTA
パンツ ¥39,000(+TAX)/BERNARD ZINS
シューズ ¥75,000(+TAX)/EDHÈN MILANO
PROFILE
10代の頃は“みゆき族”としてアイビールックに身を包み銀座を闊歩していた。1965年にVAN JACKET INC.に入社。退社後1970年にテイジン メンズショプに入社、シャンタルデュモ「エーボンハウス」ブランドの企画等に従事。その後独立を果たし「メッサーフリッツ」ブランドを立ち上げる。1996年にSHIPSに入社。2006年にはワインレーベル フォー シップスをスタートさせる。 企画部長・執行役員を経て、現在はメンズクリエイティブアドバイザーとして、多くの企画で指揮を執る。
2015年の自身著書、 ”男の着こなし最強メソッド” 「服は口ほどにものを言う」講談社。
2017年の自身著書、 ”べ−シックを自分流に着こなす”「こだわる男のスタイリングメソッド」講談社。