毎号、各ジャンルで活躍されているゲストをお招きし、その生き方を訊く本連載。今回は、中小企業風なスタイルでアート作品やマスプロダクトを創作している明和電機さんが登場。ときに苦笑し、ときに戸惑い、いつの間にかその独自の世界観に魅了されてしまう秘密とは? 会社の軌跡も興味深いものがありました。
ニューウェーブのバンドを兄弟でやっていた
桑原 明和電機さんと初めてお会いしたのは、まだデビュー間もない頃でしたよね。理数系の人たちから、こういう面白い人たちが出てくるとは当時思っていなくて。本当にびっくりしたんです。いま考えると、ニューウェーブというジャンルの最後のほうでしたよね。最初は兄弟でやられていて。
土佐 はい。1993年のデビューで、当初は兄弟ユニットでした。
桑原 もともとは、どういうものを目指していたのですか?
土佐 高校時代、まさにニューウェーブの全盛期に「TOSA」という名前でバンドをやっていたんです。その後、僕が美術大学に進んで。
桑原 どちらに行かれたんですか?
土佐 筑波大学のメディアアートで、現代美術のコースに行きました。先輩に庄野晴彦さんや原田大三郎さん、ポケモンをプロデュースした石原さん(石原恒和)などがいて、芸術とテクノロジーの融合に憧れがあって。そこから、機械を使ったアートを始めたんです。
桑原 音楽でも何でも、今までなかったものが突然現れるときが一番ワクワクするんです。明和電機も、見たこともない機械から、聴いたことのない音が出てすごく新鮮でした。それと同時に、どう理解していいかわからない状態が長く続いた気がするんです。
土佐 そうですね(笑)。まずメーカーだとよく勘違いされました。1993年頃はソニーやシャープといったメーカーもまだ元気でしたし、アート系のほうではユニットを組んで表現する人たちも多かった。でも、本当に家業を継いでやっている人はいなかったんですよ。
桑原 それはフェイクという意味での隠れ蓑ではなかった?
土佐 本気でした。
桑原 本当に本気だったんですか! 名前もパロディで付けたわけではなく?
土佐 実際、うちの父親は1979年に明和電機を倒産させているんです。僕が小6で、その出来事はすごく暗い過去でもあったんです。それをきっかけに父親と別居することになりましたし。その後、大学を卒業するときに、そろそろ過去に向き合わなければと思って明和電機を立ち上げたんです。
桑原 子どもの頃のトラウマを乗り越えるために、明和電機を名乗ったんですね。まるで劇画を観るかのような話だ。それで、最初は何を目指したんですか?
土佐 ソニー・ミュージックエンタテインメントからデビューしたんですけど、ミュージシャンでなく、モノを作る芸術家として売り出したんです。
桑原 先駆け的な存在ですよね。
CDを作るにあたり、楽器作りからスタートする
土佐 プレイステーションなどを開発し始めた年でもあり、音楽だけでなくクリエイター全般を求めていた時代でもありました。明和電機としては芸術のマスプロダクション(大量生産)をやりたかった。
桑原 でも、ソニー・ミュージックにはそういう工場はないわけですよね?
土佐 本家のソニーを使えるかと思ったんですよ。でも、僕らがあまりにもヘン過ぎて製造してもらえず・・・。魚の骨の電気コード「魚(な)コード」(1995年)を出すときも、鳥井電気さんというところに製造してもらいました。
桑原 それは成功されたんですか?
土佐 想像以上に売れましたね。ソニー・ミュージック時代は4万本くらい。
桑原 それはすごい。でも、当時はCDが100万枚売れていた時代。会社としてはそれくらいの数を売りたかったんですかね?
土佐 その後にCDも出すんですけど、明和電機の場合は、まず楽器作りから始まるわけです。シンガーソングライターメーカーみたいな(笑)。時間もかかるし、「CDを出すのに幾らかかるんだ!」ということになる。ソニー・ミュージックにとっては、コストがかかりすぎるので、最終的にはマネージメントできなくなりました。
桑原 あははは。いくらSONYといえど普通の企業だったんですね。でも、YMOは当時から日本で100万枚売ろうとはしていなくて、世界中の都市で10万枚売れて合計100万枚になればいいという考え方だったと聞いています。明和電機もそれに近い感覚だったんじゃないですか?
土佐 う〜ん、でも「魚コード」はすごく難しかったんですよ。100ボルトなので日本でしか売れない・・・。
桑原 あぁ〜(笑)
コピー商品を買い占め、シールを貼って自社販売!?
土佐 電化製品はそれぞれの国で規制があるので難しいんですよ。「オタマトーン」(2009年)のようなおもちゃになって、やっと海外で売れるようになりました。
桑原 あれは音もかわいいし、デザインともぴったりフィットしていますよね。どれくらい売れましたか?
土佐 80万本くらいで、まだまだ売れてます。
桑原 え〜っ! それはすごい。偽物はまだ出てないですか?
土佐 売られています(笑)
桑原 それは恐怖だね。
ーー「魚コード」もコピー商品に苦しめられましたよね。
土佐 はい。新たにUSBモデルを出したら、デンマークのフライングタイガーという会社がまるっと真似て。そのことをTwitterで知ったんですけど、お店に行ったらずらっと並んでいて大爆笑しました。「これは面白いことになったぞ〜」って、店頭在庫をすべて買って、スタッフにも電話して「買いだ!」って。
桑原 NHKの朝ドラより面白い(笑)
土佐 100本くらい集まったので、僕らはそれを2500円で売ったんです。フライングタイガーでは600円だったので、うちの原価より安い。早速、明和電機のシールを貼ってネット販売したら即完売しました(笑)
桑原 社長すごい! それで逆にマーケットが広がったとかはあったんですか?
土佐 タイミングが良くて、明和電機のイベントに人が来るようになりましたね。
桑原 瓢箪から駒というか。
土佐 「オタマトーン」に関しては、普通サイズは複雑でコピーできないんですけど、小さいモデルはすぐに出回ったんです。それがうちのより良くできているんですよ(笑)。7〜8年前の中国製コピーは劣悪でしたけど、最近はクオリティが高い。3Dプリンターやスキャナーなどで安価にコピーできるようになったのと、確実に若い人のセンスが入ってきています。
不可解なものをアートとして表現する
桑原 でも、こういう話も含めてアートという感じがします。
土佐 学生時代の夢がアートの量産化だったので、世界30カ国・900店舗以上あるフライングタイガーで自分の造形が売られたのは、ある意味で思い通り。そこに著作権マークの(C)がないだけで・・・。
桑原 アーティストとしては、笑いが止まらなかった?
土佐 現象として美味しいのがきた!って感じでした。これをテーマに香港で「It’s a Copy展」という展覧会もやりましたから。
桑原 明和電機は、アート作品とマスプロダクトを並行してやられていますけど、そのふたつは最初から発想が違うわけですよね?
土佐 そうですね。アートの場合は、不可解で、他人に理解されなくてもまずは作ろうとする。一方、商品はとにかく売れなくちゃいけない。そこが一番の違いですね。
桑原 これまでに作ったアート作品はどれくらいあるんですか?
土佐 300くらいはあります。自分のなかで引っかかっていることや、問題意識のあるものが発想の出発点です。20代は「自分とは何か?」というテーマで魚のシリーズをやっていました。30代になってからは、「女とは何か?」という疑問からエーデルワイスというシリーズを作ったり。
桑原 そういったアート作品は、展覧会で発表しているわけですか?
土佐 そうですね、美術館が一番フィットします。
桑原 笑いを内包するアートって、すごく難しい立ち位置だと思うのですが。そこには何か信念があるわけですよね。
土佐 ナンセンスというか、常識を超えた概念やアイディアが出てきたときに「作りたい!」と思うんです。それを人に見せると、「え?・・・」となる。常識がズレて、苦笑するしかなくなるわけです。そういう脳が麻痺した笑いが好きなんですよ。
桑原 苦しめるのが好きなんだ(笑)。性的な匂いがしますね、そこがとても大事なわけですけど。
土佐 最初はポーンとイメージで浮かぶので、情念的なものなんです。でも、それを図面に引いて、機械として製造しないといけないので、ひとつずつ論理的に諦めなきゃいけないことが増えていく。それって、ひとりSMみたいなものなんです。
桑原 ひとりSMって見事な表現ですね(笑)。先日、秋葉原のお店に伺ったんですが、そこで文庫本サイズの楽器を見つけて、その発想に「やられた!」と思ったんです。でも、僕が思い描く「本」の重厚さは感じられず、音も本物に近いわけではない。そのときに、どう捕らえればいいのか再び悩んでしまったんです。
土佐 あれはマスプロダクトとしての作品なんですけど。考え方としてはフォーマットを提示しています。文庫本サイズの楽器を、僕だけではなくみんなが作ったら面白いと思っていて。明和電機がやるとああなるけど、他の方がやったら違うものになる。理想としては、本屋のような楽器屋があったら面白い。
桑原 それは楽しそう、そこは感性がすごく近いですね。
土佐 考え方としては電子楽器のモジュラーシンセと同じです。モジュラーシンセはいま大流行していて、メーカーのみならず個人がどんどん作っている。専用のラックがあって、昔から大きさが共通で決まっているんですよ。そのイメージから派生して、生楽器をモジュール化したかった。世界中の面白い音を、この大きさでコレクションしたいんです。
芸術家は爆破技師であれ
桑原 やっと分かりました!! それはすごく面白いですね。ちなみに、いまアートという言葉が示す範囲はどんどん広がっていますけど、明和電機はアートがどう認知されて欲しいとかはありますか?
土佐 ひとつ感じるのは、若い人たちがみんな真面目だということ。もっとふざけていいんじゃないかと思うんです。先日、「芸術の不自由展」が問題になりましたけど、本来のアートは右も左も上も下もなくて、そことは違う次元に達していないといけない。だからこそ自由で、「そういうことか!」と気づかされるわけです。でも、最近は受け手のレベルに合わせてアートを見せてしまうことが多いですよね。
桑原 なるほど。
土佐 芸術は爆発なんですけど、芸術家は爆破技師じゃないとダメなんです。芸術というエネルギーを、どこで爆発させるかはテクニックが必要で。そこを間違えると次元の低い論争に巻き込まれて、炎上してしまう。僕としては、作品に触れることで価値観がぐいっと変わることをやって欲しいですね。
桑原 最近は海外での評価も高まっていますが、明和電機を面白がってくれる人たちは似たタイプだったりしますか?
土佐 そうですね、似ています(笑)。言葉にすると、デザインやアートが好きで、メイカーというかモノづくりが好きな人。でも、すごく理系の人はいない。
桑原 今の時代、笑えるモダンアートってすごく強いと思うんです。僕としては、日本人ってこんな面白いのか! というものを見せる役割りとして機能して欲しいし、明和電機には歌麻呂になって欲しい。変な表現だけど(笑)。
土佐 あははは。
桑原 今日はありがとうございました。
- PsychoKiller
- Talking Heads
ラジカセからのチープなリズムと、フォークギターだけというミニマルな構成がしびれる。このライブは、進行するごとに楽器が増えていくという演出でかっこよく、明和電機もタイのコンサートでマネをしてみたが、あえなく撃沈。楽器が多くなったからといって、サウンドが分厚くなるのではない、というとを身に染みて理解できる一曲。
- Buena
- Morphine
2弦しか張ってないベースをボトルネックでスライド奏法。そしてバリトン・サックスとドラムという変則的なスリーピースだけど、低音に寄ったけだるいロックンロールが絶品。メロディ楽器は実質3音しかなってないのに、この表現力。
- Total Eclipse Of The Heart
(live) - Hurra Torpedo
エレキギターと家電製品でロック。はちゃめちゃな楽器のノルウェー出身の変態バンドは、意外と楽曲の構成がしっかりしていて聞いてて飽きない。頭が煮詰まったときに聞くと「ああ、こんなに自由でいいんだ」とホッとできる。
こなさん みんばんわ。初代選曲家の桑原 茂→です。
今夜のゲストは世界の明和電機、発明王の土佐信道さんです。
さて、インタビューにファクトリーへお伺いしたのですが、駅からの道のりもどんだけ地方やねん的な雨には強い長〜いアーケードくぐりぬけ、歩き、歩き、そこはまさに油まみれではないものの絵に描いたような町場の工場でした。
しかし、そこから世界が驚愕する発明品の数々が生まれるのです。その数優に300を超えているとか。
つまり、夢の結晶が300以上もあるということです。わかりやすく言うと、新作「星の王子様」が300生まれているということでしょうか?多分違いますね。で、インタビューにもありますが、20代は「自分とは何か?」と言うテーマで魚のシリーズ、30代になってからは「女とは何か?」という疑問からエーデルワイスをシリーズ化しています。
で、で、土佐さんとは歌舞伎を観覧した縁もあり、こっそり、その秘密のバイブルともいうべき「 エーデルワイス 」の原本をお預かりしました。タイトルには「 Edelweiss Program 」と記されています。
で、この物語がすこぶる面白いのです。SF「女とは何か?」とでもいいましょうか?
どんなに面白いかというと、そのバイブルにはこんな秘密が書かれています。
しかし、これを読んだら忘れてください。
決して人には漏らしてはいけません。いいですね。
「 翌朝、メスたちは「デリーター」の中に、「最高の快楽をもたらす」と書かれたアプリケーターを見つけました。」
シー、シー、漏らしてはいけません。約束ですよ。
その代わり「最高の快楽をもたらす」だろう・選曲をご用意いたしました。
こちらはいつ漏らしてどこで漏らしてもかまいません。好きなだけ漏らしてください。
初代選曲家 桑原 茂→
free paper dictionary
http://freepaperdictionary.com/
moichi kuwahara pirate radio free your mind
PROFILE
土佐信道プロデュースによる芸術ユニット。青い作業服を着用し作品を「製品」、ライブを「製品デモンストレーション」と呼ぶなど、日本の高度経済成長を支えた中小企業のスタイルで、様々なナンセンスマシーンを開発しライブや展覧会など、国内のみならず広く海外でも発表。音符の形の電子楽器「オタマトーン」などの商品開発も行う。2016年1月には中国上海の美術館McaMで、初の大規模展覧会を成功させた。2018年にはデビュー25周年を迎え、大分、長崎での個展を開催した。2019年3月には秋葉原「東京ラジオデパート」にて明和電機初の公式ショップ「明和電機秋葉原店」をオープンさせた。
お店の情報はこちらから
https://www.maywadenki.com/news/maywadenkishop_akihabara/