「眺めのいい日々と、いごこちのいい服」を提案するSHIPS Daysでは、一日一日を丁寧に生きている人たちのライフスタイルにスポットを当てた連載をお届けしています。第4弾は、食から日々の暮らしを提案する『DISHes』主宰として、ケータリング・ワークショップ・フードコンサルティングなどを手がける中本千尋さんが登場!
幼い頃から食べることが大好きで、テレビで活躍する料理研究家に憧れていたという中本さん。フレンチレストラン、料理教室、短大調理師学科での勤務を経て、食のシーンをデザインする仕事である「フードデザイナー」としてフリーで活動をスタートしました。ファッション誌『CLASSY』のモデルとして活躍していた時期もあり、そのルックスやセンスに憧れる女性は多数。
季節を感じる余裕もないほど多忙な都会生活から離れ、現在は拠点を兵庫県三田市へ。自家菜園のあるキッチンアトリエを拠点に、ときには全国に出向いてイベントなどを開催しながら、食を軸にした豊かなライフスタイルを提案しています。そんな中本さんが大切にする5つのキーワードをもとに、ご自身の過去・現在・未来について語っていただきました。
料理を作る楽しさに目覚めた幼少時代
物心ついたときから、食べることやおままごとが大好きでした。料理をする母の後ろ姿も好きで、よく眺めていましたね。初めて料理をしたのは幼稚園の頃。火や包丁を使わない簡単なお料理本を幼稚園でもらったのが嬉しくて、母に内緒で朝早く起きて朝ごはんを作ったんです。そしたらすごく喜んでくれて。料理を作って喜んでもらう楽しさに目覚めたのは、このときだったと思います。
それからというもの、料理番組を見てはノートにメモしたり、料理研究家に憧れて「こういう人になりたいな」と漠然と思ったり。中高時代は母の代わりによく晩ごはんを作っていました。高校3年生の終わりからは、地元の奈良で有名だったフレンチレストランでアルバイトも始め、短大の調理師学科を卒業するまで約2年勤務。ここでは料理の基礎から仕事の進め方まで多くのことを学ばせていただきました。
料理に携わる仕事をしてみたいという思いはありましたが、まずは勉強!ということで就職の道を選ぶことに。料理学校の講師、母校の短大のアシスタント講師を計6年半ほど務めました。独立のきっかけとなったのは、パティシエの専門学校でアシスタント講師をしていた女性との出会い。ほぼ同年代で、名前も似ていて、「料理の道で何かおもしろいことをやりたい!」という同じ志を持っていた彼女とはすぐに仲良くなりました。
知り合いから「パーティー料理を作ってほしい」と頼まれたのはちょうどその頃。当時はケータリングがまだメジャーではありませんでしたが、私が料理、彼女がスイーツを担当して成功したのを機に、二人でケータリングサービスを始めることにしたんです。短大で働きながらケータリングの仕事を受けるうちに、独立の夢は徐々に現実的になっていき、26歳のときに短大を辞めて独立しました。
異分野とのコラボなどを通じて、料理の楽しさを広めたい
独立後はケータリングのほかにパンケーキ店のPRなども手がけていました。ただ、料理学校でも短大でもずっと「教える」仕事をしていたので、ふと自分の料理がどこまで通用するか試してみたくなって、大阪市内の飲食店の営業時間外で自分のお店をやらせてもらうことにしたんです。仕込みをする時間がないので、簡単に作れておもしろい料理は何だろうと考えた結果、たどり着いたのが「スパイスカレー」。和・洋・中・エスニックすべてのスキルがあるという自分の強みを活かし、オリジナルカレー屋さんを始めました。
カレー屋さんは何度か場所を変えて1年ほど続けましたが、SNSで告知をがんばった甲斐もあって毎日即完売。この経験のおかげで「スパイス」が私の得意分野のひとつになり、オリジナルブレンドのスパイスを作るワークショップはこれまでに30〜40回ほど開催しています。当時のお客様からのご依頼でカフェを監修させていただくなど、活動の幅もグッと広がりました。
外食や中食が増えている現代ですが、手料理こそ大切な人に愛情を伝えるいい手段だと私は思います。「面倒」「難しそう」というイメージを払拭し、料理に興味を持ってもらうために、近年は異分野とのコラボにも力を入れています。ヨガインストラクターやシュガーアーティスト、農家とのコラボイベントをはじめ、酒造組合のアンバサダーも担当。時間をかけて作られた本物の素材が好きなので、糠床や草木染めに詳しい地元のおばあちゃんたちを呼んで、若い方も楽しめるワークショップを開くことも考えています。
そして将来は、私の料理とおいしいお酒と素敵な器を楽しんでいただける「おばんざいバー」を開きたい。料理の楽しさや奥深さをいろんな角度から伝えていくことが、私の使命だと思っています。
陶芸家とのコラボイベントも毎年開催
独立後は器にも興味が出てきて、ギャラリーによく足を運ぶようになりました。そこで出会った陶芸家の苫米地(とまべち)正樹さんと意気投合し、心斎橋の『wad cafe』でコラボイベントをスタート。苫米地さんの個展、私のスパイス講座、苫米地さんの器で私のスパイスカレーを食べるお食事会、そして最後には器とスパイスを持ち帰れるという盛りだくさんな内容で、今では夏の恒例イベントになっています。
苫米地さんの器は、表面がひび割れる貫入(かんにゅう)という現象を活かした美しい器で、使うごとに育てていける魅力があります。あとは、照井壮さんのマットで温もりのある白い器、『1616/arita japan(イチロクイチロクアリタジャパン)』のスタイリッシュな有田焼、『トキノハ』の日常使いできる清水焼などもお気に入り。食材やテーブルクロスの色と合わせた器選びを楽しんでいます。
貫入を活かした表現が魅力の苫米地正樹さんの器。
日常にすっとなじむ京都『トキノハ』の清水焼。
季節の移り変わりをお茶で愛でる
あっという間に季節が過ぎるような生活をしていた頃、知り合いがやっている京都の中国茶サロンに息抜きで行ってみたんです。そこのお茶会で中国茶のさまざまな味わいを知り、もともとコーヒーが苦手なのもあって、お茶の魅力に目覚めました。
そこから日本茶にも興味が湧き、SNSで知った西麻布(現在は表参道に移転)の『櫻井焙茶研究所』に、東京に来るたびに通うように。日本茶は熱々のお湯を注ぐイメージでしたが、60℃くらいのお湯で淹れると味わいが変化したり、品種によっても味が全然違ったり、いろんな楽しみ方を知ることができました。
季節ごとのお茶を通じて、香り、味わい、空間、ときの流れ、そして自分自身と向き合いながら、自分の時間をゆっくりと楽しむ。そんな過ごし方ができるなんて、大人になったなぁと思います(笑)。
お茶を淹れるときの香り、音、そして湯気を感じることが最高の贅沢だという中本さん。好きな道具や茶葉に囲まれながら自己流で気楽に楽しんでいるそう。
表参道のスパイラルビル5Fにある日本茶専門店『櫻井焙茶研究所』。
各地から厳選した日本茶や店内でローストした焙じ茶を販売するショップのほか、茶房も併設。(公式HPリンク http://www.sakurai-tea.jp)
まとう香りで、今の気分を変える
料理をするときは香水はつけませんが、それ以外ではシーンに合わせて香りを楽しんでいます。打ち合わせのときによくつけるのは『Aesop』のフレグランス。苔のような森のような落ち着いた香りが気に入っています。LAのブランド『APOTHIA』の『IF』というフレグランスも好きで、これはフローラルと柑橘の爽やかな香り。布にもつけられるので、コートの内側につけたりソファに吹きかけたり、リボンに染み込ませてエアコンの近くにかけたりしています。
女性らしい甘い香りより、ユニセックスな香りのほうが好み。スパイスが配合されていると何の種類かわかることもあって、とてもおもしろいです。
お気に入りの『APOTHIA IF』のエアミストと、『THREE』のルームスプレー。
シチュエーションで選ぶピアノ・インストゥルメンタル
アトリエで仕事をするときや、部屋でリラックスするとき、よく音楽をかけています。歌詞があると気が散ってしまうので、空気になじむようなインストゥルメンタルがほとんど。シチュエーションによって聴きたい音楽を選ぶことが多いです。
たとえば朝なら、ヘニング・シュミート&クリストフ・ベルクの『bei』というアルバム。しっとり始まり、爽やかに奏でられるピアノ曲で、1日を前向きにがんばろうという気持ちになります。雨の日は、クエンティン・サージャックの『BRIGHT DAYS AHEAD』。濡れたアスファルトの香りを彷彿とさせる切ない曲が多く、梅雨の時期はよく聴いていますね。寝る前はキース・ジャレットの『Melody At Night With You』をかけて、白湯を飲みながら美しいピアノに耳を傾けるのが好きです。
フレンチレストラン、短大の調理師学科アシスタント講師などを経て独立。食から日々の暮らしまわりを提案する『DISHes』を主宰。 野菜やスパイスを使った料理を得意とする。ケータリング、カレー屋、ワークショップ、料理教室、レシピ作成やメニュー監修など多彩な活動を行う。
Instagram:
@chihiro_nakamoto
HP:
https://disheschihironakmoto.wordpress.com/