毎号、各ジャンルで活躍されているゲストをお招きし、その生き方を伺う本連載。今回は、フォークシンガー小象としても注目されている役者の大堀こういちさんと、Eテレ『みいつけた!』でのオフロスキーなど多岐に活躍されている小林顕作さん。彼らが若い人に送りたいメッセージとは?
ふたりの出会いは『コメディ クラブキング』だった
桑原 大堀くん扮するフォークシンガー小象(しょうぞう)が、ついにメジャーデビューを果たしまして。今日は、そのきっかけでもある(羊)というフォークデュオのおふたりをゲストにお呼びしました。小象のメジャーデビューライブは超満員で「ついにここまで来たか」と感激しました。
大堀こういち(以後、大堀) 皆さん、すごく盛り上がっていただいて。
桑原 30〜40代のお客さんが多かったけど、女性たちはみんな目をキラキラさせていて。
大堀 まさか、小象に恋しているわけじゃないですよね?
桑原 いや、あれはしていましたね。この日を楽しみに待っていた! という熱気が伝わってきましたもん。
大堀 いつも定番の曲ばかり歌っているのに盛り上がってくれて。
桑原 そこが大事なの。予定調和だからこそアドレナリンが出る。笑い声が大きい人は、「俺は何度も観て知っているんだぞ!」という気持ちも乗っけているわけだから。今後はスポンサーを付けて、ライブ中にその会社の曲を作るとかいいんじゃない? お客さんと合唱したらスポンサーも喜ぶよ。ケンちゃん(小林顕作)にもプロデュースしてもらって。
小林顕作(以後、小林) あははは。
大堀 そのアイデアいいですね。でも、すべては茂一さんが名付け親となった(羊)から生まれたわけですから。
小林 (羊)が生まれたのは、13〜14年前くらい?
桑原 911(2001年のアメリカ同時多発テロ事件)以降に、コメディをもう一度ちゃんとやろうと『コメディ クラブキング』を始めたんですよ。萎縮するのではなく、ちゃんとバカをやろうって。そのときに10人くらいの作家さんが集まって、難問会というグループ名でコメディをバンバン書いたんです。そこに大堀さんも参加してくれて。
大堀 はい。
桑原 その中でいろいろと実験的なことをしているときに、ケンちゃんという偉人が突如現れた。彼がみんなを刺激するから、収録現場はロックのライブのような盛り上がりになって。オフロスキーもそうですけど、その後のケンちゃんの活躍は目覚ましいですよね。
大堀 ケンちゃんとは、僕も『コメディ クラブキング』で出会ったんです。
小林 でも、(羊)に関してはただフォークソングが歌いたかっただけで・・・。
桑原 練習場に行ったら、ただ日本のフォークをカバーしているだけで最初はどうしようかと思った(笑)。でも、ふたりは主従関係みたいなやりとりがうまいんですよ。ボケとツッコミというか。その中で、たまに支配者と被支配者のバランスが崩れかかるスリルがあって、観ていてドキドキしたりワクワクしたり。(羊)として最後にやったライブは2014年12月の原宿ですか?
大堀 そうですね。でも、彼のチャリティライブには出ていますよ。
小林 僕と大堀さんだけのときは、たまに(羊)として出ています。
(羊)のライブでは何かを成し遂げようという気持ちがない(大堀)
桑原 ふたりはいつも行き当たりばったりというか、ジャズのインプロビゼーションみたいなライブですよね? あれは瞬間的に生まれるものをやっているのか、何かしら(羊)に関するイメージを共有しているのか、そこが謎なんです。ふたりとも役者であり、演出家や作家としても活躍されているなかで、どうステージを作っているんだろうって。
小林 僕もね、そのあたりが謎なんです。
桑原 あははは。
小林 本当にそうなんです。僕らのなかで決めているのか、決めていないのかわからない。
桑原 ジョン・コルトレーンのドキュメンタリーとかを観ると、名プレーヤー同士は打ち合わもせずに「そうだよね!」って感じでセッションをやっている。でも、ふたりは演出家としても活躍していて、ただのプレーヤーではないわけで。
大堀 う〜ん、だからこそライブで何かを成し遂げようという気持ちがない。
小林 そうそう! あの場所に行こうみたいのがないんですよ。
桑原 でも、お金を払っているお客さんがいるわけじゃない?
小林 いつも「失礼だな」とは思っているんですよ。でも、何かを返そうとはしていない。
大堀 これってケンちゃんとふたりでやるときだけの感覚なんです。自分が演出をするときはちゃんと考えますし。
小林 僕もめちゃくちゃ厳しくやりますよ。でも、ふたりで会っちゃうと何もしなくなっちゃう(笑)
大堀 なんなんですかね。何かを目指した瞬間に、ふたりのものではなくなる気がして。
小林 打ち合わせをしようと飲み屋さんに行くんですけど、座った瞬間に終わりなんですよ。大堀さんの愚痴を聞いて、ぐびぐび飲んで終了。
桑原 あははは。
大堀 エンターテイメントにおける、ある種の定型ってありますよね? その予定調和を共有していると、つまらないことが面白くなるんです。だから、何も喋らない時間があってもいいと思えるし、何も決まっていなくても怖くない。
小林 うん。
大堀 決まっているのは曲順くらい。でも、小象のライブは意外にやることを決めているんです。
小林 自然と自分を演出しているんじゃないですか?
大堀 どうなんだろうね
僕の中でライブは破壊行為に近い(小林)
桑原 ケンちゃんもまた、月イチでチャリティライブをやっていて。ふたりとも、お芝居も演出もいろいろと上手なのに、なぜ歌を歌っているのでしょう?
大堀 音楽って、自分の中から湧き出たものを表現していく作業なんです。演劇は脚本の世界をどれだけちゃんと表現できるかという作業。筋肉の使い方がまったく違う。だから、舞台と歌を両方やってしまうと抜けられない気がしますね。たまたま自分はどちらもやれていて、ありがたい状況なんです。
桑原 ケンちゃんの場合、最近は責任の重い立場になることも多くて気苦労も増えて、それを爆発させるためにライブをやっていると言っていたけど。
小林 そうですね。
桑原 つまり「器用ですね」というのは大間違いで、自分らしく生きようとする本能として、バランスを取っているわけですよね?
小林 まさにそうだと思います。
桑原 でも、世の中の人は「歌も上手いし、ギターも弾けて、いろいろできるんだ〜」と見ちゃいますよね。それは勘違いなのかもしれない。
小林 歌を聴かそうなんて気持ちはさらさらなくて。僕の中でライブは破壊行為に近い。大堀さんが言ったように、演劇は決まりがあるし、座っているお客さんとの距離もある。みんな鑑賞しに来ているんです。一方でライブはみんな参加しに来ている。僕は構築していくタイプのクリエイティブも好きですけど、自分から飛び込んでいくものも好きなんです。
桑原 そうなると、昔よりも破壊行為のボルテージは高まっているということ?
小林 むちゃくちゃ高いですね。それやるとお金にならないんだけど(笑)。でも、パフォーマーとしては完全にそうだと自覚しています。
桑原 どこかで「お金よりも大事なものがある」というものを秘めているからこそ、僕はおふたりと付き合わせてもらっているので共感します。
小林 それはありがたいです。
オリジナリティは模倣にしかないと思っている(小林)
桑原 でも、音楽はもともと好きなんでしょ?
小林 好きでしたね、コレクターというかマニアだったりします。(羊)はまったく別の活動ですけど、オフロスキーの曲とかはすべて自分で作っているので。そういうときは、まず自分が好きなものを集めるんです。そして、「どうすればこんな曲になるんだろう?」って何度もコピーしながら頑張っていると最終的に全然違うものになる。
桑原 オフロスキーも好きなものを自分なりに取り入れているとを知ったら、悩んでいる若者はラクになるかもね。
小林 オリジナリティは模倣にしかないと思っているんで(笑)
桑原 うん。どんなに素晴らしいものも、その人が経験したもの以外のことが出てこないと思うんだよね。
小林 だからヘンにかっこつけないで、「これをやりたい!」って始めるんです。そこを起点に「本当はこれにしかったけど、こんなものになってしまった・・・」というものこそ、「オリジナリティがある」と言われるんですよ。
桑原 ケンちゃんと最初に会ったときに、こんなに自分のことを愛している人はいないと思ったんだよ。
小林 あははは、俺っすか?
大堀 その点、僕は真逆ですね。
小林 そんなに自分のこと愛してますかね? まぁ、でも結構好きっすね。
桑原 だからこそ、自分が目指していることに対して揺るがない。もともとエネルギーは3人分くらいある人だから。
大堀 ケンちゃんは、しんどいときでも前向きですからね。
スマホを注意する前に、まずは大人が面白い話をするべき(小林)
桑原 舞台にしても音楽にしても、ふたりは常に何かしらのメッセージがあると思うんだけど。今の10〜20代の若者に向けて、こんなことを伝えたいっていうのはある?
小林 僕から見ると、今の子は恵まれ過ぎていてかわいそう。昔は貧しければ何もなかったけど、今は貧しくてもインターネットにはつながる。若い子はいい音楽が身近にあると思っているけど、本当にいい音楽とは自分がどん底に堕ちたときに聴こえてきた音でしかなくて。そういう感覚は昔のほうが得られたと思うんです。CDも自分で買いに行かなければ手に入らなかったし、音楽番組にチャンネルを合わせてその時間にいないと観られなかった。それって衝動じゃないですか。大人はインターネットを便利なものとして使えるけど、若いときの衝動がスマホで叶ってしまうのは不幸ですよね。
桑原 自分たちの舞台にやって来る若い子は、何をどう感じていると思う?
小林 あの子たちは、衝動を手に入れていると思いますよ。チケットを買って劇場に交通手段を使って来ているわけだから。すごくまともだなって。情報に溢れすぎて「うわぁ〜」ってなっている子がライブに来ている。
大堀 CDは売れないですけど、ライブ会場に足を運ぶ人は多くなっている。小象もビクターから出ましたけど、CDは出していないんです。配信じゃないと売れないみたいで。
桑原 ロックの時代も最初はライブしかなかった。もう一度そこから始めようとしているのかもね。ヴァイナルはものすごい勢いで復活しているわけで。現在地を見失いがちな現代は、ケンちゃんのようにポジティブでいないと絶対に前は開いていかないと思う。
大堀 でも、スマホってすごいじゃないですか。どうすればスマホをテーブルに置いてみんなで喋れるのかな。居酒屋の入口で預かるとかがあってもいいよね。
小林 それは大人の責任もある。後輩を飲みに連れて行ったときは、スマホに向かわせないために面白い話をしまくるから。面白ければみんなスマホを置くんですよ。そこから、「自分たちも何か面白い話を持ってこよう」と思わせる流れにしないとダメ。「スマホ見てんじゃねぇよ」じゃなくて、まずは大人が面白い話をしろよって。
桑原 最高にポジティブだね〜。
小林 年下を連れて行ったら、ヘトヘトになるまで頑張りますよ。しかも飲み代まで払って(笑)
今日から遠慮せずにガンガン行きます!(大堀)
大堀 若い子は僕らが思っているよりもいろいろなアンテナを張っている。あとは、どうコミュニケーションを持つかですよね。
小林 学歴が通用しなくなっている感覚はすごくある。今一番強いのは、コミュニケーション能力。
大堀 ほんとそうだよね。コミュニケーション能力がある人は、仕事がうまくいっている。
小林 絶対にそう。
大堀 どうすれば人と楽しく話せるんだろう。
小林 喧嘩とかしたほうがいいかもね。昔のヤンキーとか、そこから生まれた友情ってゆるぎないわけで。
桑原 日本人は議論と喧嘩を混同しがちだけど、議論をするほどにお互いの理解度が深まって親密になれる。でも、みんな議論を避けてしまうから距離が遠いままなんですよ。ケンちゃんなんて、いつも突っかかってたから。
小林 突っかかって傷ついて、誰かを傷つけて。でも、そのほうが僕はいいです。
大堀 ガンガン話すのは大事ですよね。
桑原 大堀くんは苦労人だから、偉そうなことを言いたくない気持ちはわかるんだけど。若い人たちのためにも、ガンガン言ってあげたほうがいいですよ。
大堀 そうですね。遠慮せずにはいられない性格を今日から改めます!
小林 でも、たまにこうやって茂一さんと話すとめちゃくちゃ安心しますよ。誰にも相談しないタイプだから、「大丈夫」って言ってくれる先輩は大事です。
大堀 「どうなんだろう?」 って悩んでいるときに、わかりやすく「このまま行け!」って言ってくれる。悪い点も指摘してくれるし。
桑原 いやいや、僕はただのファンなんですよ。
- 花嫁
- はしだのりひことクライマックス
メロディがドラマチックで分かりやすい。はしださんの娘さんがカバーして歌っていたのを聴いて益々好きな曲になりました。
- 風
- はしだのりひことシューベルツ
フォークソングと言えば『風』というワードは外せないです。風を表現した歌はいっぱいありますが、私は、このはしだのりひことシューベルツの「風」が大好きです。
- 22才の別れ
- かぐや姫
随分前に「昨日、悲別で」というドラマがありました。私が大好きなドラマです。それのエンディングで流れるこの歌が大好きでした。
- 初恋
- 村下孝蔵
曲の最後、それを深夜熱唱している息子と、それを叱る父親のコントへと移行する、羊で演奏している鉄板曲。
- でいどりーむ
- 風
こちらもライブの最後にかならず演奏する曲で、これをやっておくと、どんなにグダグダ喋ったあとでもお客さんに許してもらえる(笑)、という曲。
- C調言葉にご用心
- サザンオールスターズ
これもライブでいつも演奏していて、アレンジをかなり加えていて、お気楽ボサノバ風にしています。
コナサン ミンバンハ 初代選曲家の桑原 茂→です。
さて今夜は日本のフォーク・ソング界の幻のデュエット・グループ、あの[羊]?を紹介したいと思います。
メンバーはまず、あの「オフロスキー」の異名で日本中のNHK受信契約者の中でも特にお子様のいるご家庭を虜にした国民的スターであり、その実体は、オルタナティブ演劇界のスーパースターであり、最近では映画演出まで手を広げる八面六臂の活躍中である。その名は、ケンちゃんこと、小林顕作。
そして、もう一方、この「 羊 」のデビューを足がかりに、学生時代から夢にまでみたフォーク・ソング界に斬新な笑いを持ち込み、フォークソングを新たなコメディ・エンターティメントとしてエスタブリッシュメント樹立し、
更にはあの懐かしの歌声喫茶を日本中に復刻させようと企んでいる。その名も「小象」こと、大堀こういち。
さぁそれでは大変長らくお待たせ致しました。今夜の海賊船Pirate Radioは、羊の岩塩包み焼きダブルラム空手チョップMIX。それでは最後までごゆっくりお楽しみください。
ps:お伝えしなければならないことがあります。
大変心苦しいのですが、
今夜の羊の焼き加減何ですが、
美味しくなるようにじっくり時間を掛けて作りました。
が、残念ながら、
料理が真っ黒になってしまいました。
予めご了承くださるようにお願い申し上げます。
お聞きいただくには以下をクリックしてください。
https://www.mixcloud.com/moichikuwahara/moichi-kuwahara-0907-pirateradio-black-sheep-446/
初代選曲家 桑原 茂→。
moichi kuwahara 0907 Pirate Radio
PROFILE
五月舎養成所卒業後、劇団健康(現ナイロン100℃)に旗揚げより参加し、92年脱退。 その後、「シティーボーイズライブ」「ナイロン100℃」「遊園地再生事業団」「グループ魂(大人計画)」「RUPプロデュース」など多くの舞台へ客演。 2000年より温水洋一氏との二人芝居「O.N.アベックホームラン」結成。 また、細川徹氏のコントユニット「男子はだまってなさいよ!」にはレギュラー出演。細川徹氏との脱力系映像ユニット「HANAKUSONS」や、映像制作チーム「ナナ色」(俳優・緋田康人、本田隆一監督、他)で撮影・編集をし、定期的に上映会も行っている。 また近年は舞台演出やフォークシンガー小象(しょうぞう)というキャラクターで音楽活動をするなど精力的に活動中。
東京都立保谷高等学校、日本大学藝術学部を卒業。在学中より、TEAM 発砲B・ZIN、珍しいキノコ舞踊団、BQMAPなど数多くの舞台に出演。1996年より、劇団宇宙レコードを主宰。全ての脚本・演出・主演を担当。ダンス・カンパニーコンドルズの旗揚げ(1996年 - )からのメンバーであり、コント部分の脚本を全て担当している。ギター、ブルースハープも得意とし、作詞・作曲も行う。脚本提供、演出を手がけることも多く、また鴻上尚史の舞台や、阿佐ヶ谷スパイダース、劇団EXILE、真心一座、G-up、劇団鹿殺しなど数々の劇団への客演などもこなし、その演技力の高さで各方面から評価されている。CMナレーションなどの仕事も多数。ワークショップなどで講師も務める。子供向けの読み聞かせ公演も行っており、NHK教育テレビでも活躍中。子供番組「みいつけた!」の「オフロスキー」役が人気を集めている。ライブイベント『明大前フォーク集会』を月に1度キッド・アイラック・アート・ホールにて開催。