このバッグ、帽子を逆さにして取っ手を付けてる! カゴなのにたためる! 内ポケットに小さなミラーがしのばせてある! ……手間を惜しまず1点1点丁寧な手作業で作られるeb.a.gosのアイテムは、至るところにデザイナー・曽我部さんの遊び心が散りばめられています。なぜ、こんなにも愛しいバッグや小物たちが生まれるのでしょうか。ブランド誕生20周年を記念して初の書籍『EB・A・GOS バッグ ヲ ツクル』にも込められた想いをお聞きしたいと、eb.a.gosのコウジョウに伺いました。
都心から約1時間半ほど車を走らせた閑静な住宅街に、そのコウジョウはありました。バイク店だったガレージを改装したという一軒家。扉を開けるとフワッと香るカゴとレザーのにおい。「ようこそ!」コウジョウで働くみなさんと共に、デザイナー・曽我部さんが笑顔で迎えてくださいました。
もともと企画会社で靴やバッグのデザインを手がけていた曽我部さん。世の中にいる誰か=ターゲットに向けて生み出していく仕事を楽しんでいたのですが、ふと「私自身が持ちたいバッグってなんだろう」と思ったのだそう。「そうだ、帽子をひっくり返して、バッグにしてみよう!」そのユニークなデザインは、すぐに注目されることになります。「オーダーをいただいてうれしい反面、“さあ、どうやって生産しよう”ということになりました。ノーマルなバッグではないことから手作業の工程が多くなる、とバッグの専門工場には断られてしまい、職人さん達には“こんなバッグは見たことがない”と首を横に振られてしまいました。さてどうしよう、となったとき手伝ってくれたのは、洋服作りが趣味だった母や、友人、そしてそのまた友人たち。本当に素人たちだけでスタートしたんです」生産体制の次はブランド名です。曽我部(Sogabe)さんが自分の名前を逆に綴ってみる(ebagos)と、なんとそこには“bag”の文字が! そんなヒラメキから、ブランド名は“eb.a.gos”に決まったのでした。
eb.a.gosといえば、レザーと組み合わせた独特なカゴバッグを一番に思い浮かべる方も多いでしょう。昔からアンティークのカゴが好きだったという曽我部さんが、紅籐という素材に出会います。「一般的なカゴバッグで多く使用されているのは白籐と呼ばれる種類。中がストローのようになっているので、水に30分ほど浸すと柔らかくなります。ところが、紅籐は中身が詰まっているので、浸透するのに3日3晩かかることもあり、編むときにもかなり力が必要になるもの。扱いは難しいですが、その分レザーなどとあわせても負けない存在感があり、惚れ込みました」コウジョウではこれまでつくられてきたカゴバッグのサンプルたちが天井から吊るされています。「新作を手がける度に、どうしたら思った通りの形にできるかを試行錯誤して作り方を見つけていくんです」もしかしたらもっと効率のいい仕事があるのかもしれない。けれど、“自分が欲しいものを作りたい”を原点に持つeb.a.gosに、妥協の文字はないのです。
eb.a.gosのバッグには小さなチャームがついていたり、内ポケットにレザーで包まれた小さなミラーが入っていたりと、様々な“仕掛け”があるのも大きな特徴。チャームはシーズンごとに設定されたテーマにちなんで作られているそう。「“ヤマコトバ”というテーマのときには山で見る星をチャームにしたんです。山で見るともっと四方八方に光を放って立体的に見えません? だから、長年お願いしている金具メーカーさんに京都の金平糖を見せてイメージしてもらったんです。そしたら“わかりました、金平糖ですね”って言われて。“ちがーう、星よ、星!”って(笑)」というチャーミングなエピソードを披露してくれた曽我部さん。内ポケットのミラーは、1940?60年代の映画女優さんたちが持っていた小さなバッグへの憧れから。「さり気なくメイクをチェックできるように」とニッコリ。他にも、靴のインソールにニスがサッと塗られたあとがあるのも、「これが“eb.a.gosですよ”って、意味なんです。あまりブランド名を全面に出すのは好きじゃなくて」どこをとっても意味があり、愛でるほどに気づきを与えてくれるデザインが、ファンを魅了してやまない理由のひとつです。
「eb.a.gosって、ホームページもない、オンラインショップも、実店舗もない。だから、一緒に働いているメンバーは、どんな仕事をしているのか家族にもわかってもらいにくいなって思っていたんです。なにか形となるものができたら、きっとみんな喜んでくれるだろうな、と思ったのが本を作ろうと思った背景です」今夏、発売された『EB・A・GOS バッグ ヲ ツクル』は、まさにeb.a.gosの全てがつまった1冊。これまでのコレクションはもちろんのこと、毎年新たな素材を求めて世界を歩く旅の記録も。「最初は“水辺の近くには工場があるはず”って、異国の地を川に沿って歩き、煙突を見つけて訪ねていったこともありました」と懐かしそうに振り返る曽我部さん。さらに現在も、バッグを包む布の袋を作っているというお母様をはじめ、eb.a.gosを支える職人さんたちの写真が。「本もバッグを作るのと同じでしたね。大変でしたけど、いいものを作ろうって模索するのは楽しかったです。この本を見た金具メーカーさんも“俺たちも日本でのモノづくり頑張ろうって思ったよ。元気が出たよ”と言ってくれたのも嬉しかったですね」eb.a.gosは、曽我部さんも社長も含めて全員がつくり手。アイテムはもちろん、会社も、人間関係も全て、愛情を込めた手作りでできている。お話を聞けば聞くほど、その溢れんばかりのクラフトマンシップに、うっとりしてしまうのでした。
エバゴスブック
¥8,000(+tax)/eb.a.gos
「作り始めたときは完成するまで100年かかるかも、と思いました(笑)」と、これまでのeb.a.gosが全て詰め込まれた1冊。liflattie shipsの店頭でも手に入れることができます。数量限定のため、完売次第取り扱い終了となりますので、ご希望の方はお早めに!
eb.a.gosでは社長も職人のひとり。真剣な表情で作業を進めながら「社長なのは休日だけかも(笑)」と冗談を言って場を和ませてくれました。
レザーヲカットする型も、毎回手作り。過去のコレクションで使用したものも壁にかけて番号を振り、すぐに取り出せるように工夫しています。
レザーの縫製部分は、裏地にテープを貼って強度を上げます。「無駄のない動きで、できるだけスムーズに進められるように毎日が研究です!」
eb.a.gosでは30?70代と幅広い年齢層の方が働いています。いつしか彼らの子どもたちを招いてクリスマスパーティーを開くのが恒例に。まさに家族ぐるみのアットホームな職場です。
乗馬用のレザーで作られたプレートは、その縁を磨き上げるのに1つあたり40分もかかるのだそう。もちろん、それも一つひとつ手作業で行なわれます。
カゴやレザーは天然素材なので、個体差も。数値だけにとらわれず、見たときに美しいバランスになるように作り上げるので、職人たちの経験とセンスが問われます。
よく見ると、さりげなくeb.a.gosの刻印が! ずっと眺めても飽きないのは、細部にまで曽我部さんのこだわりと職人さんの技を感じられるからかもしれません。
「私たちにとっては味だと思えるものも、人によってはキズに見えてしまうこともあるでしょう? だからeb.a.gosの商品はオンラインショップには向いていないと思うの。お客様にイヤな思いはさせたくないし、やっぱり実際に手にとって“これが好き”と思ってくれる方に身につけていただきたいですしね」と、愛を一身に受けてコウジョウから送り出されたバッグは、liflattie shipsの店舗にも並びます。ぜひあなたの目で、その丁寧な仕事ぶりを確かめてください。