リオデジャネイロオリンピックでのバスケットボール日本女子代表チームの大健闘やレトロスニーカー人気の再燃、昨年9月のジャンパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ、通称Bリーグの開幕など、近年、バスケットボールとその周辺カルチャーがにわかに盛り上がりを見せている。3on3がブームとなりプレミア価格のスニーカーが飛ぶように売れた90年代と比較しても意味はないが、当時とはまた一味違った形でバスケットボールの魅力が再認識されつつあるのは事実だ。さらにそれとリンクするかのようにバスケットボールカルチャーマガジン「FLY(フライ)」が3月に創刊した。何故に今、バスケットボールがアツいのか? そんな素朴な疑問に答えていただくべく、Bリーグを代表する選手の一人、川崎ブレイブサンダースの篠山竜青氏と、雑誌FLY編集長 秋元凜太郎氏にお話を伺った。
「“ABOVE”からもっと飛躍するには
もう飛ぶしかないなと思ったんですよ(笑)」(秋元)
??「FLY(フライ)」は3月に創刊されたんですね。
秋元「そうですね。その前身に“ABOVE”という雑誌があるんですが、そこでやってきたことを引き継ぎながら、あくまで新しい媒体として立ち上げたんですよ。装いも新たにという感じです」
??創刊した意図を、簡単に教えていただけますか?
秋元「バスケットボールは競技としてもすごい好きで、実際に自分も部活を長年やっていたんですが、雑誌を作るにあたり、競技という側面だけではなく、バスケットに纏わるカルチャー、例えばスニーカーだったり、音楽だったり、そういう部分もフィーチャーしていきたいという思いがありました。“ABOVE”という雑誌は、『Above the Rim』という映画があったのですが、“リングの上に行く”という意味で、ダンクシュートをすることも表現しています。つまりは、さらに高く、もっと上に、と言っているわけです。そこからもっと飛躍するには、もう飛ぶしかないなと思ったんですよ(笑)。だから今度はFLYという雑誌名にしたんです」
??では、創刊とBリーグの発足は、直接関係はないんですね。
秋元「そうですね。“ABOVE”を始めた当初は、まだ日本に2つのリーグがありましたし、新しいプロリーグができるということは意識したこともなかったです。それからFIBAから制裁を受けてBリーグが誕生するまでというのは、バスケットボール界も生々しくいろいろとありましたから、メディアの立場からそれを見られたというのは、貴重な体験になりました。そのへんは選手としてはどう感じていたのか、篠山選手に聞きたいですね」
篠山「日本のリーグが二つに分かれたとき、僕はまだ高校3年生だったんですけど、それまではJBLという実業団のリーグが日本のトップリーグとされていたんで、bjリーグができたときも、あくまで日本のトップ選手がいるのはJBLというイメージをずっと持っていましたね。まさかそれが2つあることで制裁を受けるなんて思ってもいなかったですし、ましてやそれが一つのプロリーグになって盛り上がっていくなんていう想像もできなかったです。制裁は衝撃的でしたけど、小さい頃から夢だったJBLに入るという夢以上の大きな形ができたわけですから、すごく感動しましたね」
??やっぱり一つになることで、やりやすいというのはあるんですか?
篠山「説明はしやすいですよ(笑)、バスケットをあまり知らない人にも。やはりJBLとbjリーグがあってということだと、例えば僕が大学を卒業して選手になると言っても、どっちに行くの? その前にこの二つは何なの? っていう話になりましたから。それでどっちが強いの? とか、田臥選手はどっちにいるの? とか聞かれることもよくあって。そういうややこしい話をするのが、すごくもどかしかったので、やっぱり日本のトップリーグが一つになることは、観る人にとってもシンプルになりますし、やっている僕らからしてもとても嬉しいことですよ。本当によかったなと思います」
「オシャレでクールな演出と
バスケは相性もいいんです」(篠山)
??確かにそうですね。そう考えるとFLYマガジンの創刊は、まさにいいタイミングですね。
秋元「もう、運命を感じましたね。すごいことになったなと(笑)。媒体として、一つの大きいものができ上がっていく過程を初めから見ていけるのは、面白いことですし。もちろん、そこには選手たちのいろいろなストーリーがありますし、それを共有しながら日本のバスケットボール界にとっても重要な歴史のタイミングに携わっていけるというのは、やはり運命的だなと勝手に思いますね。それに目立つチャンスだな、とも思いましたし(笑)」
??確かに絶好のチャンス到来ですね(笑)。実際、Bリーグがスタートしてから、例えば若い人たちの受け取り方はどうなんでしょうか?
篠山「Bリーグの開幕戦が、テレビのゴールデンタイムで放送されたりもしましたし、そういうことをきっかけにバスケットボールに興味を持ってくれた若い人たちもかなり増えていると感じています。でも、まだまだ始まったばかりで、伸び代がたくさんあると思います。認知度的にもこれからですね」
秋元「そうですね。確かに盛り上がってきている部分はありますが、かつてのストバス(ストリートバスケ)ブームのように、洋服業界の人や他業種の方も含めての盛り上がりまではいっていないです。ブームのとき、僕は高校生、大学生だったので、まさにど真ん中世代なんですよ。当時は銀行がストバスのスポンサーについたりとか、MXテレビでも番組があったりとか、盛り上がりを肌で感じていましたから」
??でも、バスケを盛り上げていきたい、楽しみたいという人の輪は確実に繋がっているんですよね。
秋元「そうです。90年代に盛り上がってから、そのあとブームはしぼんでしまいましたけど、Bリーグ云々だけはなく、バスケをやりたいとか、自分なりに向き合っていきたいという動きは一部で確立してきています。例えば川崎では、クラブチッタというライヴハウスで、月に2回、SOMECITYという3on3のリーグをやっているんですね。実は今年で9年目になるんですが、最初は全然お客さんがいなかったのに、今は盛り上がって成立しているんですよ。そういうことを通過点として、バスケのキャリアがスタートしたりする人もいますし。今までは大学で活躍した本当に一握りの人だけしかプロを意識したり、バスケに携わっていこうとはしなかったと思うんですけど、プロになるならないは別にして、少しずつですけど、バスケットボールに関わっていけるいろんな入り口や選択肢ができつつあるとは思います。海外の人が日本に来てそういう状況を見ると、ユニークだねっていうんですよ。外にコートがないぶん、部活が盛んだったりもしますし、日本は他の国とは違うバスケットボールの発展の仕方をしている部分はあるんです」
??ブームが終わってもバスケットボールの魅力を伝え続けてきた人たちが、少なからずいるんですね。でもBリーグができて、伝え方は大きく変わったと感じます。例えば試合の演出の仕方とかもそうですよね?
秋元「それは、めちゃくちゃ変わりましたよね」
篠山「そうですね。実業団のときは、観客というよりも従業員に試合でがんばっている姿を見せればいいという感じだったので、本当に試合も殺風景な会場でやっていたんですよ。でもBリーグになって、音楽もそうですし、演出もそうですし、見せ方という部分では大きく変わりましたね。各チームごとにいろいろと努力もしていますし。NBAという世界最高峰のお手本があるので、本場のいいところをうまく取り入れて試行錯誤しながら盛り上げています。やっぱり見せ方が変わると、やる側もかなりモチベーションが上がりますね」
??確かに、メディアを通して少し目にするだけでも、盛り上げている感じが伝わってきますよね。
篠山「バスケットボールは室内競技なので、サッカーや野球にできないことができると思うんです。実際に、光をうまく使ったり、プロジェクションマッピングをやっているチームもありますし。オシャレでクールな演出とバスケは相性もいいんです。もちろんこれからまだまだやれることはたくさんあると思うので、いろいろと試していきたいですね」
「高校で頂点を迎えるスポーツ文化はおかしい
と思っていたんですよ」(秋元)
??可能性はたくさんありますよね。ところで全国各地にチームがあるBリーグですが、地域性はやはりいろいろとあるんですか?
秋元「僕は取材に行くたびに、これほど地域性が出るのはすごいなと毎回思いますよ。バスケは、地域性が色濃いです」
篠山「それはありますね。やっぱり地方で、他のプロスポーツが少ない地域、例えば秋田や栃木、沖縄とかもそうですけど、お客さんの熱気は本当にすごいです。若者だけじゃなくて、おじいちゃんやおばあちゃんも観に来てくれますし。体育館の雰囲気や客層は、地域によってすごく違いが出ますね。それが演出に繋がっていたりもしますし」
??確かに秋田は、能代工業という有名な学校があったりしますし、バスケットの文化が根付いていそうですね。
篠山「そうですね。秋田は、お客さんの年齢層が高いというのも特徴かもしれないですね。やはり能代をずっと応援してきた方も多いですし。そういう影響があるのかもしれません。東京だと試合前にヒップホップがかかったりしてますけど、秋田だと県民歌を歌ったりするんですよ。みんなで大合唱して、試合が始まるっていう」
??それはすごいですね! 逆に西の方、南の方はどうなんですか?
秋元「沖縄は、今まで観た中では観客も含めて一番アメリカに近い雰囲気ですね。試合前に観客にレクチャーをする地域も多いんですが、沖縄では、そういう必要もないですし、逆に無音の演出で観ていたり、バスケを本当にみんな知っているんだな、という感じなんです。無駄がないというか。やはり米軍の関係もあって、昔から民放でNBAが観れたりしたのもあって、小さい頃からバスケットボールに触れる環境があるんですね。日常にバスケットボールがあって、誰かと競い合ったりライバルになるとか、そういう感覚でやってないみたいなんですよ。みんな上手いね、俺も上手いでしょ、みたいなメンタリティですよね(笑)」
??それは面白いですね。関東圏は盛り上げ方や演出に凝りそうなイメージがありますが、どうなんでしょうか?
秋元「一概にそうとはいえないですね。まだ、どういう演出の仕方がチームにハマっているのか、どこも見えていない段階なので、固まってきていないんじゃないですかね」
??メディアの露出も含めて、これから盛り上がっていくという段階ですもんね。
秋元「そうです。バスケ選手はみんなスタイルもいいですし、男前もいっぱいいるんで(笑)、メディア受けする人も多いと思いますよ。ファッションが好きな人もたくさんいますし」
篠山「確かに、バスケ選手はオシャレな人が多いですよ。NBAがオシャレですから。やっぱり僕も学生のときは、NBA選手がファッションリーダーでしたし、そうやってアメリカの影響を受けて選手になった人は多いと思います」
??サッカーもそうですけど、ポマードで髪型をがっちりキメて出ている方もいらっしゃいますよね。
篠山「そうですね。普通にいますね。バスケでも珍しいことではなくなっています。自分は整髪料で邪魔にならないように立てることが多いですけど。長年いろいろなワックスを試してきたんで、試合に出てもそんなに崩れないんですよ(笑)。確かに最近のバスケットボール選手って、髪型が崩れない人が多いですね」
??結構激しいスポーツなのに、髪型が崩れないというのは面白いですね。FLYとしては、やはり選手のそういうところも追っかけていくんですか?
秋元「そうですね。むしろそこがメインでもいいんじゃないかなと思っていますよ(笑)。もちろん、いろんなカテゴリーで角度も変えてバスケットボールを追っかけていきますけど、そういう選手やバスケに纏わるカルチャー的な要素は大切にしていきたいですね。そもそも、僕はずっと高校で頂点を迎えるスポーツ文化はおかしい、と思っていたんですよ。むしろ大切なのは、その先だろうと。部活だけじゃなくて、ストリートバスケをするのもそうだし、クラブチームに入るのもそうだし、バスケットボールを盛り上げていくポイントはいくつもあると思うんですね」
「オリンピックに向けて、
とにかく底上げをやっていきたいですね」(篠山)
??確かにそうですね。単純にバスケットボールが好きな人、それに纏わるカルチャーが好きな人は、かなりの数がいるはずですよね。
篠山「そうです。僕たち選手も、これからその魅力をもっといろんな形で見せていきたいんです。例えば、スポーツブランドやファッションブランド、そういうものを取り扱うショップなども含めて、一緒にバスケを通して何かを作り上げていくことも、どんどんやっていければと思っています。バスケット界全体として工夫してやっていくべきこともいっぱいありますし。例えば、グッズのデザインひとつとっても、宣伝という感覚ではなくて、いいものを作っていくことが大事だと思います」
秋元「FLYとしては、今年はイベントをしっかりやっていく年にしたいなと思っています。もちろん選手にもご出演していただきますけど、オフシーズンに何ができるか? ということもテーマにしたいんですね。選手はゴールデンウィークが終わると、チャンピオンシップというリーグ戦で上位のチームしか出られないセカンドステージみたいなものを戦って、5月末にはシーズンが終わるんです。次に9月の下旬ぐらいから始まるんですけど、そこまではリーグ戦がないオフシーズンなんですよ。そこでの活動を活性化できたらなと思いますね」
??選手が絡んだ企画も、いろいろと考えられそうですもんね。
秋元「そうですね。世の中的にも、スポーティなスタイルが以前よりも取り入れやすくなっていますから。かつてダボダボだったスウェットが今は綺麗なシルエットになっていたり、日常的にそういうものを着る人も増えていますよね。 バスケットをやるならこんな感じ、観るならこんな感じみたいに、例えばファッション的にバスケットを扱うこともできると思います。ライフスタイルの一部にスポーツがあるんだぞ、ということをどんどん見せていきたいですね」
??なるほど。あとは盛り上がるポイントとしては、やっぱり東京オリンピックですかね。
篠山「そうですね、そこは大きいです。自国開催ですけど100%出られるわけではないので、まずは、アジアで結果を残さないといけないですから。そこからまずはやっていかないとと思っています。とにかく底上げをやっていきたいですね」
秋元「それは確実にやってもらいたいですね。イギリスもロンドン大会を前にして、すごく強化して出場できたんですよ。まさに日本は今同じ状態なので、是が非でも強化してもらいたいです。これからはオリンピックにつながる大会の出場権を懸けて相手とホーム&アウェイで戦うことになりますから。ということは、自分たちの国で代表の試合が見られるんですよ。感情移入して応援できますから、ぜひ応援する側も盛り上がってもらいたいですね」
半袖トップス ¥32,000(+tax) / DYNE ロングスリーブTシャツ ¥5,500(+tax) / Poetic Collective パンツ ¥35,000(+tax) / DYNE
1988年、神奈川県生まれ。川崎ブレイブサンダース所属。ポジションはポイントガード。北陸高校、日本大学を経て2011年に東芝(現・川崎ブレイブサンダース)に加入。2016年からは日本代表にも選出されている。2014年よりチームキャプテンを務める。
Bリーグとは、2016年9月に発足した日本の男子プロバスケットボールリーグ。3カテゴリー制で、B1リーグ(18チーム)、B2リーグ(18チーム)、B3リーグ(9チーム)から成る。
?B.LEAGUE
秋元凜太郎(あきもと・りんたろう)
バスケットボールカルチャーマガジン「FLY」編集長。小学校でバスケットボールに出会い、高校時代にはストリートボールの虜になる。大学卒業後、外資系スポーツメーカーを経て、2014年に「ABOVE」を創刊。バスケットボールとそれに纏わるカルチャーを多角的にフィーチャーした日本で唯一の雑誌として注目を浴びる。2017年3月、「ABOVE」と同一スタッフで「FLY」を新創刊。
FLY 創刊号
990円
トランスワールドジャパン