世界中の厳選されたファッションブランドが出展する合同展示会「MAN(マン)」。2012年にパリでスタートを切ったこの興味深いプロジェクトは、先鋭的なセレクションが瞬く間に話題となり、様々なトレンドが生まれる機会としてファッション関係者のみならず多方面から注目されている。今回は、その発案者の一人であり、同展示会を総合的にオーガナイズしているAntoine Floch(アントワーヌ・フロッシュ)氏にお話を伺った。既存の展示会とは、いったい何が異なるのか。気になるセレクションの基準とその目的、そして彼が目指すものとは?
出展ブランドは情報を得ながら世界中で探しています
??改めて「MAN」を始めた経緯をお聞かせください。
「最初は、Rendez Vous(ランデブー)という展示会がパリであって、それをオーガナイズしているチームに属していたんです。でも4年ぐらい経ってRendez Vousが終わってしまって、それを引き継ごうと思って今のパートナーでもあるオリビエたちと始めたのがMANなんです。2012年の1月のことです。ただ、大きな展示会はやりたくなかったので、しっかりとセレクションしたものを程よい規模でやろうと最初から考えていました。MANが最初で、次のシーズンからレディスのWOMANも始めたという流れです。今では、パリ、ニューヨーク、東京の3都市で開催しています」
??非常に独自性のあるブランドが出展している印象がありますが、どのようにしてセレクトしているのでしょうか?
「新しいブランドは、世界中で探していますね。例えばニューヨークだったりLAだったり、ロンドン、スウェーデン、イタリアetc.……、主要都市を廻って、いろいろな人と話して、情報を得ながら探していくんです。もちろん雑誌やWEBを見ることもありますよ」
??その際、何か基準のようなものはあるんですか?
「そうですね。ショー(展示会)は、ブランドとバイヤーが同じレベルになっているのが重要だと考えています。そして世界の物の良し悪しが判断できるバイヤーたちが行きたいと思うものでなければなりません。だから、それに合致するブランドが出展しているのは前提になります。独自性が高いブランドが揃っていなければならないんですよ。例えば、どこかでアイデアを見つけてきてそれをコピーするようなブランドは入れたくはありません。多くのバイヤーに紹介したいと思えるようなブランドを、なるべく見つけるようにしています」
??なるほど。では、どこでブランドの独自性を判断しているのでしょうか? やはりデザイン性ですか?
「すべてにおいてですね。コレクションはもちろん、ルックブックやWEB、ロゴに至るまで、あらゆる側面を見て判断します。大きくは、コレクション自体とその背景になります。あと、価格設定も高すぎず安すぎないというのも重要ですし、そのブランドがどんなところと取引をしているかも考慮しています」
デザイナーとフィーリングが合うかどうかも大切です
??いくつもハードルがあるんですね。それで、いざ出展をしたいブランドに出会った場合はどうのようにしてアプローチしていくんですか?
「こちらの意図を伝えて、ブランド側の出展の意思も確認できたら、まずはブランドの方々にお会いします。それでMANがどういうことを提供できるのか、どういうものをバイヤーの皆さんから求められているのかを再度お話して、お互いのニーズが合えば出展候補になるという感じです。今回の日本の滞在中も、いろんなお店をリサーチしていますし、どういう商品が置いてあるか、プライスポイントがどうなのか、そういうことを確認しながら出展候補になりそうなブランドを探していますよ。グローバルに受け入れられるブランドをこれからもたくさん見つけていきたいと思っています」
??そんなふうにストイックに出展ブランドを決めているというのは、驚きですね。デザイナーに直接会うこともあるんですか?
「もちろんです。デザイナーと直接話してフィーリングが合うか、魅力を感じるかということも大切にしています。時には一緒にお酒を飲みに行って、デザイナーの人間性に触れたりしながら、ブランドの魅力を確認することもありますよ」
??本当にいろいろな角度からブランドのセレクションをしているんですね。MANが、こだわりを感じる展示会だと言われる理由はそこにあるのかもしれません。
「自分たちは基本的にはバイヤーとプレスに向けて、意味のある展示会をしようと思っているだけです。やりたいのは、ブロガーたちやちょっと派手なものが好きな人たちが集まる場所ではないんです(笑)。だからしっかりとした出展ブランドをセレクションすることは本当に大切なんです」
出会ったブランドが徐々に成長するのを見守っています
??そんな目の肥えたアントワーヌさんから見て、東京にはまだまだ面白いブランドはたくさんありますか?
「もちろんです。アナトミカ、ナナミカ、吉田カバン、ts(s)、スティルバイハンドといったMANに出展しているブランドはもちろん、まだまだたくさんありますよ。例えば、パリのボン・マルシェとか、一流のお店やセレクトショップでも取り扱ってもらえそうなブランドを日本でも常に探しています」
??これからも日本のブランドがどんどん飛躍できたらいいですね。今は本当にファッションブランドも多種多様ですが、アントワーヌさんから見てこれからの時代に求められるのは、どういうブランドだと思いますか?
「それを答えるのは、すごく難しいですし、自分はよくわからないですね(笑)。ただ、自分たちがやっている仕事は、そういうふうにこれから求められるいいブランドに出会える場所を提供することだと思っています。それを確立していきたいので、出会ったブランドに関しては、徐々に成長するのを見守っています。急に売れるブランドを見出して2年後にパッと関係を止めるとか、そういう付き合い方は好きではないんです。もちろんビジネスとしてもちゃんとやっていきたいですし、フライヤーなどもしっかりとしたものを作って展示会自体のクリエイティブな部分も大切にしていきたいと考えています」
??これからも、MANはいろいろと楽しみですね。ところで、東京はもう何度もいらっしゃっているそうですが、都市としてはどう感じていますか?
「もう5年で今回を合わせると16回も来ていますけど、まだまだ面白いと感じますね。他の都市とは全然違うカルチャーがあるので、来るたびに惹かれるところがたくさんあります。ファッションだけではなく、建築や食べ物に関しても、パリともニューヨークとも明らかに違う。街で言えば代官山や中目黒、渋谷が好きです。道玄坂に泊まったときは、代官山や表参道まで歩いて移動しています。そういうときにいろいろと発見があるんですよ。裏道に入ったりすると新しいお店が発見できますし、毎回刺激を受けて帰りますね。そういう経験が、またMANにも活かされると思っています」
Antoine Floch|アントワーヌ・フロッシュ
パリでの合同展示会「Rendez Vous(ランデブー)」のプロデュースに携わり、そのキャリアを活かして2012年、オリビエ・ミグダ、ロマン・ベルナーディ=ジェームスと共に「MAN」を始動。世界中からセレクトしたジャンルの壁を越えたブランドは、デザイン性、アート性、独自性、マーケティング能力に富んでいるものが多く、同展示会は多くのファッション関係者から高く評価されている。日本には2014年に上陸。以後、パリ、ニューヨークは年に4回、東京は年に2回のタームで開催している。同様にレディス版「WOMAN」も手がける。
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