ビジネスマンの装いのルールやそれに纏わる心構えなどを紐解いてきた好評企画。今回は、ビジネスシーンで何かと必要とされる“手土産”について。一口に手土産と言っても、シチュエーションによって求められるもの、選ぶべきものは変わってくる。なにを基準にどんなものを選べばいいのか、特に若いビジネスマンは頭を悩ますに違いない。そんなときに役に立つスマートな手土産選びのヒントとは? ビジネスマンライフを充実させるための道標を山本氏に伺った。
「まずお詫びの手土産は、重いほうがいいんですよ」
??山本さんが手土産を用意されるのは、どのような状況のときでしょうか?
「いろいろとありますが、手土産が求められる一番重要なシーンというのは、“お詫び”をするときなんです。それは私のような編集者にも、多くのビジネスマンにもあり得る状況ですよね。そして自分の場合は、雑誌を作るうえで原稿を書いていただいた筆者や、ライヴにご招待してくださったミュージシャンに、手土産をお持ちすることもよくあります。それを編集者ではなくビジネスマンに置き換えると、クライアントさんや他の事業所に持っていく手土産ということですね。もう一つは自分の職場への手土産。想定される状況は、大きくはそのような場面だと思います」
??なかでも、お詫びのための手土産は、どんなものにするか非常に難しいと思うのですが?
「そうですね。まずお詫びとして手土産をお持ちする際に大切なことは、早く行くことなんです。それは、手土産のマナーというよりお詫びのマナーだと思うのですが、トラブルが発生したら、まずは『今からお邪魔してもよろしいでしょうか?』と先方に確認を取ります。それで無理だと言われたら、『明日の朝イチでしたら何時がよろしいでしょうか?』というように、にできるだけ早く先方に足を運ぶことが大切です。それが誠意の見せ方ですし、トラブルが発生したときというのは、考えても始まらないですから。まずは誠意を見せるとともに行って状況を把握して考える、ということです。“ピンチこそチャンス”なんですよ。そのときにどういう対応ができるか、どういう関係が築けるかが、次の仕事に繋がって行くわけですから」
??そういうことを踏まえて、どんな手土産を持っていくかということですね。何をポイントにすればよろしいのでしょうか?
「私自身の経験でもありますし、人からの教えでもあるんですが、お詫びの手土産は、重いほうがいいんですよ。かつては結婚式の引出物で、鯛の形をした砂糖をいただくことがあったと思うんですが、あれは華やかで大きくて重いということで、気持ちの大きさを表していると言われたんですね。お詫びの場合の手土産も、やはり重い物を持っていくべきなんです。そして、この場合には華やかさは不要で、逆にシックなものでなければならない、妙に流行りを意識したものであってはならないということもあります。そういう観点からも、やはり“とらやの羊羹”は鉄板なんです。今も多くの方々から支持され重宝がられている理由が、よくわかりますよね。重くてシックで流行りものではないという条件を、しっかり満たしているからなんです」
??なるほど。確かにそうですね。そして、今、目の前にある山本さんが推奨される“栗のテリーヌ”もその条件に当てはまりますね。
「そうなんです。これは、今日お邪魔している天現寺カフェで取り扱っているんですが、実はスタイリストの櫻井賢之さんに教えていただいたんですよ。たまたま櫻井氏と深夜の23時頃に打ち合わせをしているときに、私の仕事上のトラブルの連絡があり、次の日の朝イチで先方にお詫びに行かなければならないことがわかった、そんなことがあったんです。でも次の日の朝10時に百貨店が開店してからだと遅いという大変な状況で、どこか今から手土産を買えるところはないかと、手土産の達人でもある櫻井氏に相談したんですよ。そうしたら、天現寺カフェは深夜まで営業していて、栗のテリーヌというお詫びにぴったりのものが置いてあると即答してくれまして。それですぐに電話をしたら、運良くその日は栗のテリーヌが売り切れていなかったので購入したという流れなんです」
栗のテリーヌ“天”
山本氏がお詫びの手土産の理想形として挙げる、「重くてシックでトレンドに左右されない」というすべての条件をクリアした栗のテリーヌ“天”。テリーヌだけに原型はフランス菓子だが、丹羽産やイタリア産の栗、沖縄粟国の塩、フランス産発酵バター、和三盆糖といった厳選素材だけを使用し、和菓子風味で仕上げている。こちらの抹茶味は、天現寺カフェのみで展開している限定商品。栗菓子に定評のある京都の足立音衛門が手がけている。¥10,000(+tax)※木箱は+¥500(税込)
天現寺交差点近くに2007年にオープンしたカフェ。「お取り寄せ」をコンセプトにしたお店だけに、全国各地のスイーツはもちろん、ワインや旬の食材など、こだわりのメニューが幅広く楽しめる。関東圏で栗のテリーヌを販売したのは、同店が初。
天現寺カフェ
東京都港区南麻布4-12-2 ピュアーレ広尾1F
03-5475-6788
営10:00〜23:00(L.O.)※木・金・土 〜25:00(L.O.)
http://tengenjicafe.jp/
??それは、かなりありがたい情報ですね。そういうふうに情報通の方が身近にいるというのは心強いですね。
「編集者というのは食に限らず、洋服にしてもなんでもそうですが、何かに詳しい人をどれほど知っているかということが非常に重要です。ビジネスマンも、手土産や食に詳しい知り合いがいたほうがいいと思います。そういった意味では、どんな手土産がどこで買えるかという情報は、社長秘書が一番詳しいだと思いますね。それを踏まえてAERA STYLE MAGAZINEでは、『秘書課の手土産』という連載をやっているんです」
??なるほど。よく知っている人と繋がっていることは重要ですね。手土産というと、やはりこちらの栗のテリーヌのように、和菓子が理想的なのでしょうか?
「特にお詫びの手土産の場合は、そのほうがいいでしょう。最新のユニークなものである必要はないんです。パリの有名なパティシエが青山に新しく出店した何々とか、いろいろなウンチクを語れる最新の洋菓子であるとか、そういった知識や情報をひけらかしてもしょうがないわけですから、安心感があって誰でも知っているものが好ましいんです。そういう意味では、老舗が作っている和菓子というのは、理想的な手土産のイメージに合致します。栗のテリーヌは、誰もが知っているものではないかもしれませんが、京都の和菓子で安心感がありますし、重さもあってトレンドにも左右されませんから、先方の気持ちを鎮めに行くための手土産に、とても向いていると思います」
??シックで安心感のある和菓子をたくさん知っていたほうが、ビジネスマンとしてはいいということですね。
「そうですね。ただ、手土産を使うのは先に言ったとおりお詫びのシーンだけではありません 。例えば先方が華やぐという目的で持って行くなら、また一味違うものがベターです」
「毎回、信頼度の高い同じものを持っていくのもありです」
??お詫びではない仕事関係者への手土産もありますよね。それはどういった基準で選ぶのが理想でしょうか?
「安心感があるというのはもちろんですが、華やかさを併せ持つということで、私はよく銀座ウエストのシュークリームを購入します。ウエストは、みなさんによく知られているリーフパイであったり、定番商品はいくつかあるんですが、なかでもシュークリームは個人的にも大好きで。まず、とにかく大きいんです。そして、ド直球の黄色いカスタードクリームがぎっしり入っていて、変にツインクリームや生クリームに浮気していないところもいいんですよ。かつて、雑誌の音楽担当をやっていた時期があって、多い時で年間50本ぐらいのライヴに足を運んだり取材に行ったりしていたんですね。インタビュー取材の前後にそのアーティストのライヴを観るというシチュエーションのときには、手土産としてウエストのシュークリームをよく持って行きました」
銀座ウエストのシュークリーム
山本氏が絶賛する昔ながらのシュークリーム。カスタードクリームがぎっしりと入っているが、甘さは控えめのため男性でも抵抗なく食べられる。それでいて、スイーツ好きの女性が見た瞬間に気分が高揚する華やかさもあるため、手土産や差し入れに適している。無駄なデコレーションのないシュークリームは、ボリューム感があっても決して「押し付けがましくない」ところもポイントだ。¥380(+tax)
多くの文化人が足繁く通ったことでも知られる銀座発祥の洋菓子店。1947年(昭和22年)にオープンした当時は高級レストランだったが、都の条例などにより高価なメニューが提供できなくなり、音楽喫茶に形態を変えてお店を存続させたという逸話がある。以後、銀座を代表する洋菓子店として数々のヒット商品を生み出してきた。リーフパイやヴィクトリアなどは、ギフト商品としても名高い。
銀座ウエスト本店
東京都中央区銀座7-3-6
03-3571-1554
営9:00〜23:00 ※土・日・祝11:00〜20:00
※ラストオーダーは日によって異なります。
http://www.ginza-west.co.jp/
??確かに、シュークリームだと華やかさがありますね。もらったほうも気分が上がりそうです。
「お詫びの手土産とは違って、先方が少し華やぎますよね。当時は、ある女性ボーカリストの連載を担当していたんですが、ライヴにご招待いただいたときには、必ずウエストのシュークリームを楽屋への差し入れとして持って行きました。そうしたら、“これがあると山本さんがライヴに来ているのがわかるよね”って言われたことがあるんですよ。お中元やお歳暮にしてもそうなんですが、毎回同じものを贈るというのは、一つのやり方としてありだと思います。手土産にしても、信頼度の高い同じものを毎回持っていくことが、名刺代わりにもなるんです」
??それはいい意味でのルーティーンということですね。主張し過ぎず控えめ過ぎない手土産は、何度もらっても飽きがこないですね。
「ウエストのシュークリームは、まさにそういうものだと思いますよ。定番なのでみんなが知っていて、目立ち過ぎることはない。でも、実際に手にとってみると重くて大きくてしっかり存在感がある。もちろん美味しいですし、もらったほうも華やぎますよね」
??確かに、理想的な手土産ですね。それでは、もっと近しい方への場合はいかがでしょうか? 仕事でも、もう少しフランクな間柄の方に、最適な手土産はありますか?
「そうですね。これも私の非常に好きなものなんですが、長命寺の桜餅は非常にいいと思います。長命寺は浅草界隈の七福神の一つなんですよ。実は以前、お正月に七福神巡りをしたことがありまして、それで長命寺を巡ったときにイートインスペースがあることを知って、そこで桜餅を食べたんですね。多分、桜餅の元祖がどこかというのは諸説あるとは思うんですが、長命寺は、江戸時代に桜餅を最初に作った元祖だと言われているんです。これが、非常に美味しくて。それ以来、近しい方への手土産につかうようになりました。なかなか下町のほうへ行く機会は少ないんですが、取材や撮影で近くまで行ったときには、必ず足を伸ばして買うようにしています。編集部や筆者へのお土産にすることが多いですね」
あんこは北海道産の小豆、餅を包む葉は西伊豆・松崎産のものを使用。餅は、小麦粉以外を使用せずに職人が丹念に薄く延ばして仕上げている。老若男女に好まれるモチモチとした食感と食べやすいサイズ感は、手土産としても喜ばれる。約400年受け継がれている関東の桜餅のルーツとされる伝統の和菓子だ。箱詰 6個入¥1,250(+tax)、篭詰 10個入¥2,315(+tax) ※バラ売りは1つ¥200(税込)
創業は1717年。創業者の山本新六が、桜の葉を塩漬けにして餅を包んで長命寺の前で販売したのが始まりとされている。イートインスペースでは、煎茶と一緒にこの昔ながらの江戸っ子の味が堪能できる。山本氏のように、七福神巡りの途中で一息つく人も後を絶たない。
長命寺 桜もち
東京都墨田区向島5-1-14
03-3622-3266
営8:30〜18:00(L.O.)
月曜休
http://www.sakura-mochi.com/
??桜餅というのも日本のスタンダードなお菓子ですし、信用度も高いですね。
「そうですね。あと私のお菓子の好みとして、甘じょっぱいものが好きなんですよ(笑)。それに加えて、モチモチしたものも好きなので、桜餅はまさに自分の大好きなものの一つ。桜餅っていうのは葉っぱを取って食べるのか、そのまま食べるのか、といった流儀が人によって違っていたり、先ほど話した七福神にまつわる長寿寺の話であったり、起源の話であったり、手土産で持って行ったときに盛り上がるネタも多いんです。会社への手土産として買って帰れば、例えば会議の本題に入る前のアイスブレイクで打ち解けたりすることもできると思います。そういう意味でも、重宝する和菓子だと思いますよ」
「身内であっても、どういう気持ちで渡すかが重要なんです」
??なるほど。歴史のある和菓子ならではの魅力がありますね。ところで、身内へのお土産の話が出ましたが、山本さんは、編集部への手土産は、頻繁に買っていかれるんですか?
「自分の会社や編集部へのお土産を買うべきか、買わないべきかということは、実は考えて悶々とした時期があったんですよ。そういうお土産を買い始めるとキリがないっていうふうにもいわれますし、逆にどんなときでも買うべきだともいう人もいます。ただ、私のなかでは確実な線引きがありまして、プライベートで旅行に行った場合は、会社にお土産は買わないんですよ。『お休みはどこに行ってきたんですか?』と聞かれたりして、反対に気をつかわせてしまうことになる場合もありますから。ただ、自分が休むことで、仕事の面でどなたかに負担をかけてしまうような場合には買ってきて、ピンポイントでその方に渡すようにしています。いっぽうで、出張に行った場合は、必ず買います。仕事で行っていることをみんなが知っていますし、当然、その期間は自分の代わりに仕事をしてくれている人がいるわけですから。あとは経理の方であるとか、内勤の方だとか、出張に行く機会がなかなかない方に、出張先ならではのお土産をお渡しすると喜ばれますよね。そのときに一番大切なのは、自分で直接手渡すことなんです」
??山本さん自ら各編集部員にお土産を手渡すんですか?
「そうです。ですから、できるだけ小分けにできるものを買うんです。味にバリエーションがあるものでしたら、渡すときに“どれを選びます?”といったやりとりをするんです。一言二言会話を交わして配っていくということも大事かな、と思います。出張のお土産の渡し方には、いろんなスタイルがありますが、部下に箱ごと渡して代わりに配らせるというのは、私はダメだと思うんですね。やはりお土産というのは、それが身内であれ、どういう気持ちで渡すかが重要ですから」
??それはすごいですね。現場の士気も上がりそうです。そういう上司や先輩のもとで働けば、自然と手土産選びのスキルも身につきそうですね。
「どの会社や組織にも、手土産に関する伝統みたなものが少なからずあるはずですから、それを学んでそのあとに自分の流儀を加えていけばいいと思います。上司や先輩にもらって嬉しかったお土産の銘柄や渡し方の流儀には、取り入れていけばいいでしょうし、逆に嫌だなと思ったらそうしないようにすればいいんです」
「手土産とは、想像力なり」
??確かにそうやって身内から学んでいくことも重要ですね。あと、何か考えられる手土産はありますか?
「手土産のなかでも、ちょっと変化球でいえばパンですね。私はパンも大好きなんですよ(笑)。例えば、撮影のときのケータリングであったり、ロケバスでロケ撮影に行く際にどんなパンを用意するかも仕事柄重要ではあるんですが、私は沢村のパンが一番美味しいと思っていて、そんなときにもよく買うんです。実は、週末には、クリーニング屋さんと図書館に寄ってから広尾の沢村に行って、本を読みながらパンを食べてコーヒーを飲むのがルーティーンなんですよ。なかでもかぼちゃとあんずのキューブ、クリームチーズノア、カレーパンは絶品です。そういうお気に入りのパンを、近しい方に手土産で持っていくこともアリだと思います。上級者のやり方ですが、“あそこのお店の前をたまたま通ったので、買ってきました”というような感じでお持ちする手土産なら、パンはいいですよね」
クリームチーズノア
胡桃をクリームチーズで包んで焼き上げた人気商品。食べ応えもばっちりで、香ばしさのある大人ウケの味わい。¥280(+tax)
かぼちゃとあんずのキューブ
立方体の見た目もユニークなパン。かぼちゃの程よい甘みとあんずジャムの強すぎない酸味のバランスが絶妙。¥240(+tax)
カレーパン
油で揚げていないため山本氏曰く「全然しつこくない」。季節によって具材も変わり、凝縮した野菜の旨みが味わえるとのこと。¥250(+tax)
“パン激戦区”の軽井沢で営業を開始したのは2009年。早朝から深夜まで営業し、パンに合う欧風小皿料理とワインを主軸とした広尾店は2011年6月にオープンした。自家製天然酵母を使用し、パンによって粉の種類を使い分けるという徹底したこだわりで、“パン好き”たちを唸らせている。広尾店は2階がレストラン、1階がカフェになっているため、多くのセットメニューが注文できる。
Bread & Tapas SAWAMURA
東京都港区南麻布5-1-6
ラ・サッカイア南麻布1・2F
03-5421-8686
営ベーカリー/7:00〜22:00
レストラン/[モーニング]7:00〜10:00(L.O.)、[ランチ]11:00〜16:00(L.O.)、[ディナー]17:00〜27:00(L.O.)※日・祝22:00(L.O.)
http://www.b-sawamura.com/
??それは、とてもスマートな感じがしますね
「ずいぶん前に一度だけお仕事したことがあるんですけど、エッセイストの平松洋子さんは、そういうことがお上手な方だとお伺いしています。どこのお店にはどんなものがあるかということをよくご存知で、ちょっと遠回りして手土産を買って来ても、そういうことを感じさせずに、たまたま買ってきたかのようにお渡しする。例えばそういったこなれたやり方で美味しいパンを買っていくというのはいいですよね。私は、まだまだそういう上級者のやり方はできていないですけど」
??そう考えると、手土産とは相手の心情や状況、関係性を読み取る能力が必要ですね。想像力の問題のような気もします。
「そうです。まさに手土産とは想像力なり。例えばカレーパンは美味しいですけど、匂いが広がるものでもありますから、それが問題になるような場所に持っていくのはやめたほうがいいですよね。すぐにその場で手土産を食べることのないお詫びの場合は別ですが、包丁でいちいち切らなければならないものなどは、手土産には向きません。なんにせよ想像力が必要なところは、スーツと同じです。どう見るか、見られるか、どう感じるか、感じられるか。手土産を持って行った時に、その場がどうなるのか、鎮まるのか華やぐのか、どういうシチュエーションでどんなものが求められているかを想像すれば、何を持っていくべきなのかが見えてくると思います」
??結局は、装いと同じで想像力を働かせることが重要なんですね。あと、気持ちも大切ですよね。心の籠ったものを嫌がる人はあまりいないと思いますし。
「そうですね。その手土産や贈り物の背景にあるストーリーが伝わることで、ありがたみが増す場合もあります。これは手土産ではないんですが、私の知っている若いスタイリストさんで、毎年夏に編集部宛にスイカを贈ってくださる方がいるんですよ。いちいち切らなきゃならないし、最初は何を考えているんだろうと思ったんですけど、よくよく聞いてみると、彼は長野の出身で、子供の頃によく父親と近くの農園にスイカを買いに行っていたそうなんですね。そういう思い出があって、そこでしか買えない美味しいものを、お世話になっている方々に贈りたいという思いで、毎年手配してくださっていたんです。それを聞いたときには、すごく嬉しかったですね。しかもそのスイカはすごく美味しくて、毎年楽しみにしているんですよ」
??そういう純粋な思いが詰まったものは、多少セオリーを逸脱していても先方にも気持ちは伝わりますよね。
「さすがに初対面でいきなりスイカを持っていくのはNGだと思いますが、近しい間柄でしたら、そういうストーリーや思いが伝わると、贈ってくださる方に対する気持ちも変わりますよね。そして、手土産をもらったときには、どういうお礼をするかも重要です。といっても、それはお返しをするということではなく、“美味しかったです”とか“今年のスイカは甘かったね”というようにメールや電話ですぐさま感想を伝えるということです。そうやってさらに関係性が深まって、また次の仕事に繋がっていくこともありますね。手土産は、いただいたときの対応もまた大切なんです」
山本晃弘 Teruhiro Yamamoto
AERA STYLE MAGAZINE編集長。MEN’S CLUB、GQ JAPANなどを経て、2008年より現職。最先端モードから服飾史に至るまで、ファッションに関するあらゆる見識を備えた“目利き”としても知られている。現在は、トークショーやイベントなどを通して、装いやファッションに関する素朴な疑問に答えるアドバイザーとしても活動。朝日新聞デジタルにて「男の服飾モノ語り」を連載中。
http://www.asahi.com/and_M/style/yamamoto_list.html
https://www.amazon.co.jp/dp/B01M71PK91