元プロトライアスリートが立ち上げ、世界中のトップアスリートから愛されている、スイス発のランニングシューズブランド『On(オン)』。その日本支社であるオン・ジャパン株式会社のセールス&マーケティングディレクター 駒田博紀さんもまた、『On』の実力に魅せられたファンのひとりです。『On』でトレーニングを始めてから約1年でトライアスロン出場・完走を果たした駒田さん。今回は横浜にあるオン・ジャパンのオフィスにお邪魔し、『On』とトライアスロンにまつわるさまざまなエピソードをお聞きしてきました。
SHIPSバイヤー 高橋:『On』と最初に出会ったのはいつ頃だったんですか?
オン・ジャパン 駒田:2013年1月ですね。以前の会社で腕時計ブランドのマーケティングを担当していたときに出会いました。初めて見たのはシルバーとオレンジの『Cloudracer(クラウドレーサー)』。アッパーは透き通っているし、ソールは空洞でデコボコしているし、もう、ひと目見て「カッコいい」と思いました。
高橋:斬新なデザインですよね。ソールは、庭の水まきホースからヒントを得たそうですが。
駒田:そうなんです。『On』共同創業者のオリヴィエ・ベルンハルドは世界トップクラスの元プロトライアスリートですが、現役時代、アキレス腱の慢性的な炎症に悩まされていたようで。当時の一般的なランニングシューズのソールは、垂直方向の衝撃を吸収するだけだったんですが、前へ走るときには垂直だけでなく水平方向の衝撃も加わります。そこでオリヴィエは新しいクッショニング技術の開発を始めて、試行錯誤の末、水まきホースを輪切りにしたような構造の『クラウドテックシステム』に辿り着いたわけです。
高橋:私もランニングをするときに『On』を履いているんですけど、クッション性が抜群にちょうどよくて気に入っています。ソールを見ただけだと、足の裏が地面から浮いてバタついてしまいそうな印象なんですが、全然そんなことはなくて。シューズ自体もとても軽いし、前まで履いていたものとは感触がまったく違って驚きました。
駒田:でしょう(笑) ブランドを立ち上げた頃、世界的なマラソンランナーからオリヴィエに直接連絡が来て、「『On』のシューズは素晴らしい。ぜひアンバサダーを務めさせてほしい」と言われたこともあるみたいで。プロアスリートも認めるシューズをつくれたのは、オリヴィエ自身のアスリート経験が存分に活かされたからこそでしょうね。
高橋:駒田さんがトライアスロンを始めたきっかけをお聞きしてもいいですか?
駒田:『On』を扱うからには、自分も経験しないとダメだと思ったんですよね。2013年2月の東京マラソンEXPOで日本初上陸を果たした『On』ですが、当時はほとんど無名で、売れたのは3日間で16足だけ。斬新なデザインゆえにキワモノ扱いされたこともあり(笑)、世の中に浸透させるのは一筋縄じゃいかないな、と。その年の4月、全日本トライアスロン宮古島大会にブースを出展したときに、「来年は僕も出場しよう」と決心しました。身をもって『On』の素晴らしさを知らなければ、お客様の気持ちを理解してブランドを勧めることはできないと思ったんです。
高橋:すごい行動力ですね。ランだけならともかく、トライアスロンって! 何かスポーツはされていたんですか?
駒田:それが子どもの頃から気管支喘息で、体力づくりのために空手はやっていたんですけど、そのほかのスポーツはまったく。走るなんてもってのほかでした。『On』を扱うようになってからランニングは始めたんですが、まさかトライアスロンをやることになるとはね(笑)しかも宮古島は、『ストロングマン』と呼ばれるスイム3km・バイク157km・ラン42.195kmの長距離大会なんです。
高橋:でも、トレーニングを始めてから1年後の宮古島大会で、見事完走されたんですよね。すごすぎます(笑)
駒田:宮古島までにはいろんな試練がありましたけどね(笑)初めて出場した渡良瀬のトライアスロン大会では、スイムで人の波に飲まれて溺れかけましたし、2014年1月の初出社日には痴漢を捕まえようと革靴で走って靭帯を切ったり、宮古島の2週間前にはバイク練習中に車にはねられて全身打撲…。大会で使う予定だったバイクも壊れてしまい、このときは本当に参りました。
高橋:えーっ、2週間で怪我もバイクもなおしたんですか?
駒田:救急車で運び込まれた病院では、「全治2週間」と言われました。「2週間後がレースだから、それなら間に合いますかね?」と医者に質問したら、呆れられました。「普通に生活できるようになるまで2週間っていう意味ですよ」と(笑) でも、整骨院やリカバリーウェアにお世話になって、体のほうは何とか準備しました。バイクは、貸してくださる方がいないかFacebookに投稿したところ、トライアスロンバイクメーカーの社長から試乗車を貸していただけることになりました。『On』を担当し始めた頃はFacebookの「いいね!」もひとケタとかだったんですが、トレーニングの話などをちょこちょこ投稿していくうちにトライアスロン仲間や応援してくれる人が増えて。このときもたくさんのコメントをいただいて胸がアツくなりました。まさに、『On』とトライアスロンが繋いでくれたご縁という感じです。
高橋:みなさんのエールを背負っての宮古島、感慨深かったでしょうね。
駒田:それはもう。バイクとラン中に腹を壊して数十分トイレから出られず、怪我の痛みも治まらず、一時は完走が危うい状況にもなりました。でも、「日本市場で無名の『On』を成功させる」という大きなミッションに比べれば、僕が『On』を履いて宮古島を完走するほうが遥かに簡単。いま完走できなければ日本市場での成功もない、って自分を奮い立たせました。ゴールのある競技場に戻ってきたのは、制限時間の6分前。仲間の声援に包まれながらゴールテープを切った瞬間、涙があふれましたね。
高橋:これで晴れて『ストロングマン』の称号を得たわけですね。『On』のどれを履いて走ったんですか?
駒田:旧モデルの『Cloudsurfer(クラウドサーファー)』です。いま出ている新モデルは20%くらい軽量化されているんですけど。Onのクラウドテックシステムのおかげで、『Cloudsurfer』は下りに強いんです。宮古島は後半に下りが多かったので、ものすごく心強かったですね。
高橋:『On』のシューズを選ぶときのポイントは?
駒田:レースなら『Cloudracer』や『Cloudsurfer』、長距離を走るなら『Cloudcruiser(クラウドクルーザー)』、ビギナーの方は『Cloudster(クラウドスター)』などがおすすめですね。デイリーからスポーツまで幅広く使うなら、『On』全体の5割以上の売上シェアを占める『Cloud』がおすすめ。ほかのモデルはソールがラバー製なのに対し、『Cloud』は『ゼロ・グラヴィティ・フォーム』という軽量素材を使っています。
高橋:SHIPS Daysでも『Cloud』は人気です。購入される方の男女比率は半々くらいで、デイリーユースとして選ばれる方も多いですね。
駒田:日本デビューを果たした東京マラソンEXPOでは16足しか売れなかったと言いましたが、翌年の2014年の出展時には100足を超え、2015年には200足を突破しました。つい先日の東京マラソンEXPO2016では、400足に迫りました。僕は『On』を扱い始めた当初から、2020年までに日本で5?6番目のシェアを獲得すると心に決めていたんですが、まったくの絵空事ではなくなってきた感じがします。
高橋:『On』と駒田さんの今後のビジョン、気になります。これからどんなことにチャレンジしていく予定ですか?
駒田:現在、『On』ユーザーは世界で約100万人。Onの社員は「Happiness Deliverer(ハピネスデリバラー)」と自らを呼んでいて、100万人の人に幸せを届けているという想いで仕事をしています。商品のスペックを一方的にPRするのではなく、まずは履いてもらって、その楽しさを実感してもらうことを大切にしているんです。日本でも、大会での出展や試し履きイベントなどを通じて、履く楽しさや走る楽しさを伝えていきたいですね。僕個人としては、今年も引き続き大会に出場するつもりです。今年6月には、アイアンマン(世界一過酷なレースと呼ばれる計226kmのトライアスロン)のケアンズ大会に挑みます。
高橋:すごい。喘息に悩まされていた少年と同一人物とは思えません!
駒田:「『On』はプロが履いているからスゴイんでしょ?」って思われたくなくて。普通の人にすぎない僕が履いて走ることに意味があるんじゃないかなと思っているんです。『On』が僕の人生を変えてくれたように、ひとりでも多くの方の人生に幸せと楽しさを届けるため、僕はこれからも走ろうと思います! …ゆるくですけど(笑)
駒田 博紀 Hiroki Komada
1977年生まれ。3歳で気管支喘息に罹り、公害医療手帳を交付される。喘息克服のため、13歳で琉球古武道空手道・真光流拳生会に入門。2012年、準師範允許、鎌倉道場で指導を開始。アメリカの時計ブランド『TIMEX』のマーケティング・営業を経て、2013年1月よりスイスのランニングシューズブランド『On』の日本市場マーケティングを担当。2015年5月、オン・ジャパン株式会社を設立。現在、同社セールス&マーケティングディレクター。