AERA STYLE MAGAZINE編集長 山本晃弘氏に訊く  丸の内のビジネススタイルとそこに纏わる“ルール”とは? AERA STYLE MAGAZINE編集長 山本晃弘氏に訊く  丸の内のビジネススタイルとそこに纏わる“ルール”とは?

AERA STYLE MAGAZINE編集長 山本晃弘氏に訊く
丸の内のビジネススタイルとそこに纏わる“ルール”とは?

創刊から7年。「AERA STYLE MAGAZINE(アエラスタイルマガジン)」は一貫して日本のビジネスマンのあるべきスーツスタイルを指南してきた。それは欧米のある特定の都市の装いを真似たものでも、トレンドに左右されたものでもない。日本(丸の内)のビジネスマンの実情をつぶさにリサーチ及び分析したうえで、しっかりと導き出した合理的かつ洒脱なスタイルだ。数多あるメンズファッション誌とは一線を画すこの雑誌を創刊から手掛けてきた山本晃弘編集長に、改めて“ビジネスマンの正しいスーツスタイル”についてお話を伺った。スーツを格好良く着るための極意が詰まった必読のインタビュー!

まずは10個のルールを覚えればスーツは綺麗に着こなせるんです

ーーまず、AERA STYLE MAGAZINEとは、どういうスタンスでビジネススタイルを指南している雑誌なのか教えていただけますか?

「まず創刊1号目に掲げたのは、“必要なのはセンスではなくルールである”ということなんです。それを標榜するに至ったのは、私がこれまでいくつかのメンズファッション誌に関わってきたときに、読者の方々から“これがトレンドですと提示されても、毎年毎年追っかけていけないですよ”とか、あるいは“センスで選ぶと言われても、センスというもの自体がざっくりとしていて回答がない”と言われたことが根底にあるんですよ。普段スーツを着ているビジネスマンの方々が、ついていけなかったり、違和感があるような誌面づくりはどうなんだろう? と疑問に思ったわけなんですね。これだけ世の中にスーツを着て働いているビジネスマンが多くいるわけですから、そういう人たちにもきちんとスーツを着る楽しみであるとか、どうやったら綺麗にスーツが見えるかということを共有していけたらいいなと。そこから“センスではなくてルールである”という提案が生まれたんです」

ーーなるほど。そこまでビジネスマンの本音と向き合おうとした雑誌は、今までなかったのではないでしょうか。気になるのはそのルールの中身ですが?

「実は、今年で創刊から7年を迎えて、そのルールの集積として『スーツの正しいルール55』という本を作ったんですね。55個というとちょっと多いなと思われるかもしれません。でもそこを端的にまとめると、まずは10個ぐらいのルールを覚えればスーツは綺麗に着こなせるというのがAERA STYLE MAGAZINEのスタンスです」

ーーそれは画期的ですね。そのルールをざっくりと教えていただけますでしょうか?

「まず必ず言うのが“ルール0”、すなわち1の前にある前提みたいなものなんですが、それはジャストサイズのスーツを着るということです。例えば銀座の街を歩いていてビジネスマンを見渡しますと、9割ぐらいの方は少し大きいスーツを着ているんですね。ジャケットもそうなんですが、一番わかりやすいのがパンツの裾です。多くの方が靴の上にたわみができている。2クッション、3クッションあるわけなんです。それを1クッションで穿いてくださいと提案しています。もちろんファッショントレンドとしてはジャスト、もしくは少し短いぐらいというのはわかるのですが、読者の皆さんの前に出る機会があるときは、自分自身を悪い見本にして、“これはくるぶしが見えるぐらいのパンツの丈ですがビジネスでは反則です”という言い方をしています。ソックスは下着ですから、それが見えるのはいけません。そうならない1クッションぐらいの丈が理想であると伝えているんです」

ーーそれは非常にわかりやすいですが、実際に読者の反応はいかがですか?

「目安がわかるといわれますね。おそらく、大半の方がそういう具体的なことを言われたことがないんですね。ただ、1クッションという言い方自体もファッション用語ですから、靴の前のところに少しパンツがかかって、くぼみが1つできるぐらいですよ、とさらに砕けた言い方をしています。それで多くのビジネスマンもわかってくださるんですよ」

ーー確かにそれなら誰が聞いてもわかりますね。そういうことがわかってくると、さらに細かいことをたずねてこられる読者もいるんじゃないでしょうか。

「そうですね。この前もあるショッピングイベントをやったんですが、パンツに対してそういうお話をすると、今度は“裾はシングルですか? ダブルですか?”とたずねられました。今だったらダブルがいいですよと答えているんですが、そうすると“ビジネススーツでダブルはちょっとおかしくないですか? それはカジュアルじゃないですか?”と言われるんです。それに対してシングルのほうがエレガントとされているけれども、スーツを着ている我々は、軽快でなければいけない、スポーティでなければいけない、と。だから、足さばきが良く見えるダブルのほうがマッチベターですよと伝えると、やっと納得していただけるんです」

ーーなるほど。着こなしのルールを、ちゃんとロジカルに伝えるということを 徹底しているんですね。

「そうです。ルールの意味というか、理由をちゃんと解説していくと、ようやくビジネスマンもスーツを綺麗に着るという心意気や勇気を持っていただけるんです。それを単にこれがトレンドですよ、こういうセンスで買ってくださいよ、というふうに伝えても、“もう無理!”となるわけなんです」

着こなしのルールとは常に進化していくものです

ーーそれを指差し確認しながら、コンテンツ作りをしていくとなると、かなり大変そうですね。

「確かにそうですね。必ず日本人モデルでやるとかオフィスでロケをやるとか、その他細部に至るまで最初にコンセプトはがっちりと決めました。でもこれは我々の宿命ですが、どれだけロジカルに説明しても、どれだけ講釈を垂れても、雑誌に載ったビジュアルが格好良くなければ読者の方々は納得してくれないんですよ。“どうこう言っても格好悪いですよね”と言われたらそれで終わりなんですね。なので、ルールをクリアしたうえで格好良いものを作るという非常に高いハードルが、我々の前に常にあります」

ーーそれは大変なことですね。加えてリアルなビジネスマンの意見を反映しながらルール作りをしていくというのも、骨が折れる作業ではありませんか?

「もちろんそうですね。これは、どのブランドもセレクトショップもみなさん言いますが、ルールは常に進化していくものなんです。例えばあるビジネスマンの方から、“シャツの下に下着を着るのは是か非か”ということを聞かれたんですね。私は当然のようにこれまでのルールに則って、スーツの歴史のなかではシャツは下着だったわけですから、下着の下に下着は着ませんと、それがルールですと言ったんです。そうしたら、ビジネスマンから“じゃあ夏に暑くて汗がビショビショに染みたシャツを着て営業に行ったら、清潔感や信頼感を獲得できますか?”と聞かれたんです」

ーーそれは、ある種ごもっともな意見ですね。

「そうなんです。それで、“わかりました、来月号からルールを変更します”とお伝えして、次の月にUネックのベージュの下着をドーンと見開きで紹介したんです。これがシャツの下に着るべき下着です、外に見えてはいけないので、Uネックでベージュ。これが新しいルールなんです、と。それは、従来のトラッドにはなかったルールです。例えば、“超定番アイテム”とか“鉄板の○○○”のような言い方をよくしますが、一部の鞄や靴を除いて未来永劫そのまま着用できるものは実はないんです。ジャケットなどに関しては見頃や着丈などをメーカーさんやショップさんが常に時代に合わせて微調整をしているんですね。それと同様に我々が提唱する着こなしのルールも時代時代によって変わっていくので、何を読者が求めているのかということをしっかり見極めて、ルールを常に更新していかなければならないわけです」

ーールールは不変ではないということですね。トレンドとは違うところで、実は時代の変化を敏感に取り入れていかなければならないと。

「そうです。ただ、“ジャストサイズのスーツを着る”ということはずっと変わりませんから、ルール0とはそういうことなんです。あるいは、ルール1として、“センスではなくルールを覚えるべし”と言っていますが、これも心構えなので変わらない。でも、いわゆるコーディネイトのルールというのはどんどん進化しますね」

ーーそれこそスーツの種類は、形や色、柄や素材などどんどん選択肢が広がっていますよね。そういう変化にも対応して、常にルールも更新されているということなんですね。

「その顕著な例で言いますと、我々はよくVゾーンの柄は2つまでという言い方をしたんです。スーツもシャツもネクタイもすべて柄物というのは、ビジネスシーンではアウトです、と。それを実践する人はやりすぎ、もしくはとんでもないオシャレさんということになりますから(笑)。当たり前ですが、ビジネスにおいては、とんでもないオシャレさんは必要ないんです。でも今のルールとしては、遠目には無地に見える織り柄のスーツだったら、シャツとネクタイに柄が入ってもいてもOKですと。そういうルールに進化させたのです。遠目に無地に見えるスーツは、もう無地として捉えましょうと。あとは、チェックとチェック、ストライプとストライプというように同柄を合わせる場合は柄のピッチ(間隔)や大きさが、同じでなければOKですよと。そういう、どこまでがありでどこまでがなしかという境界線も、今のルールとして提示することにしているんです」

例えばこちらは遠目には無地に見えるストライプ柄のスーツ。こんなスーツであればVゾーンのシャツやネクタイに柄を入れても、丸の内のルールとしてはありなのだ。

スーツ ¥74,000(+tax)/SHIPS
シャツ ¥21,000(+tax)/GUY ROVER
ネクタイ ¥18,000(+tax)/NickyMORE
スーツ ¥74,000(+tax)/SHIPS
シャツ ¥21,000(+tax)/GUY ROVER
ネクタイ ¥12,000(+tax)/Calabrese
スーツ ¥74,000(+tax)/SHIPS
シャツ ¥21,000(+tax)/GUY ROVER
ネクタイ ¥14,000(+tax)/BREUERMORE
スーツ ¥74,000(+tax)/SHIPS
シャツ ¥20,000(+tax)/GROSVENOR
ネクタイ ¥12,000(+tax)/Calabrese
Vゾーンの柄は2つまでが基本ルール。たとえネイビーがベースだったとしても、一番右のコーディネイトはビジネスシーンではアウトということになる。

ーーいわゆる丸の内のビジネスマンのシティルールみたいなものを常に更新しているということなんですかね。

「そういうことですね。丸の内のビジネスマンは、世界的に見てもオシャレのセンスは高いと思います。それはなぜかというと、日本のセレクトショップをはじめとするクロージング業界のレベルが非常に高いからなんですよ。それは『サルトリアリスト』という写真集を出版したフォトグラファーのスコット・シューマンも言っていますが、イギリスに行ったらイギリススタイルの人、イタリアに行ったらイタリアンシルエットのスーツを着ている人しかいないんですよ。もしくは、お洒落じゃないかですよね。でも日本の場合は多くのセレクトショップやドメスティックブランドも含めて、ファッション業界の優秀な人たちが多様なエッセンスを上手に消化したスタイルを提案しているんです。例えば、ちょっと硬い英国調の素材なんだけど、シルエットはソフトで着心地の軽いイタリアン仕立て、でも全体の雰囲気はアメリカンな感じというようなスーツを普通に売っています。実は、そんなスーツは世界中探しても日本にしかないんですよ。そのいいとこ取りをきちんとしているという意味において、日本のビジネスマンのファッションのレベルは非常に高いと言えますね。だから勇気を持って欲しいですし、日本のショップをもっと信頼してお付き合いをして欲しいと思います」

モテるとかリッチに見えるとかを意識しているビジネスマンは
5〜6%しかいない

ーーそれは日本のビジネスマンにとって誇らしい事実ですね。では、それらも踏まえて、直近の今年の冬ですが、どんなビジネススタイルが理想なのでしょうか?

「今までは男の三原色、ネイビー、グレー、ブラウンが基本であると伝えてきました。ブラウンはちょっと難しいんですけど、スーツはネイビーかグレーのみ、無地もしくはストライプのみっていうのが我々のルールだと言ってきました。でも、今年は“伝統柄のスーツあり”という言い方をしています。それをトレンドから捉えるならば英国調の台頭ですよね。平たく言いますとチェックの流行ということです。ウィンドウペーンだとかグレンチェックだとか、オーバーペーンだとか。AERA STYLE MAGAZINEでは、それを流行だから云々という紹介はしません。そういうチェック柄は、英国では例えばチャールズ皇太子も公式の場所に着ていくことも多く、古くから伝統柄として知られている。すなわち、知的で上品に見える柄なんですと伝えています」

左からグレンチェック柄、ハウンドトゥース柄、ウィンドウペーン柄のスーツ。英国調の柄は今冬のトレンドでもあるが、これらを流行としてではなく、あくまで知的で上品に見える選択肢の一つとして取り入れるのが丸の内流だ。

左:スーツ ¥90,000(+tax)/SHIPS
中:スーツ ¥120,000(+tax)/Valditaro
右:スーツ ¥74,000(+tax)/SHIPS

ーー単に流行っているから着ましょう、ではないということですね。他にキーワードはありますか?

「これも英国調の流れの一つですが、“ダブルブレストのスーツを解禁”したんです。これまでダブルブレストはAERA STYLE MAGAZINEのルールでは禁止でした。その背景には、日本の80年代のバブル時代の残像があるからなんです。“あぁ、バブル世代ね”と言われてしまうと。でも今年の秋冬、それを解禁すると明言したんです。ただ、このときに気をつけなければならないのは、サイズに対してはシングルよりもさらにコンシャスにならないといけないということです。フィット感の強いコンパクトなシルエットのダブルのスーツを選ばないと、野暮ったく、古く、バブルっぽく見えてしまう。それを注意すればちゃんと大人っぽく見えるんですよ、と提言しています」

ーーなるほど、そうやって指摘されれば自分の装いとしてもチャレンジしてみたくなりますね。

「あともう一つ加えていうならば、ベステッドスーツつまりスリーピースもありです。これは今までマーケットにあまり出回っていなかったので、我々のルールではありともなしとも言ってこなかったのですが、着こなしのバリエーションが増えるという意味でも取り入れた方がいいですよという言い方をしています。接待の席などで、ベストを着ていればジャケットを脱ぐこともできますよ、と。普通はシャツ1枚になることは、下着を露わにするということですからビジネスの世界ではありえないのですが、ベストを着ていればそれを回避できるというわけです」

ーーそれらのスーツスタイルに加えて、素材に関してはいかがでしょうか?

「素材はですね、なかなか指針を示すのが非常に難しい時期ではあるんですが、天然素材がいいと思います。クールビズが推奨されてからもう何年も経ちます。かつては化繊の機能素材に注目が集まったんですが、今は改めて天然素材の良さに多くのショップやブランドが着目しているんですね。来年の春夏には、進化した化繊混紡の流れが再び来そうですが、今年の秋冬は、長く着られる天然素材のスーツがベターだと思いますよ」

ーー秋冬のスーツのイメージはわかりましたが、改めてルール0のジャストサイズについてお聞きしたいのですが、何かわかりやすい基準みたいなものはありますか?

「それはよく聞かれるんですが、立ち上がってジャケットのボタンを留めた時に、ジャケットに横ジワが出るようでしたら小さい、縦ジワが出るようでしたら余っているということですね。すごいシンプルで当たり前の話なんです。もちろんシワが出ていなければジャストサイズというわけです」

ダブルブレストのスーツは、ジャストサイズを死守しなければならない。少しでも大きいと“バブルの匂い”が漂ってしまうためご注意を。そのルールをクリアすれば、大人っぽく威厳のあるスタイルが演出できる。

ジャケット ¥90,000(+tax)/SHIPS
シャツ ¥20,000(+tax)/GROSVENOR
ネクタイ ¥12,000(+tax)/Calabrese

スーツのジャストサイズは、上のように立ってボタンを留めてシワが出ないというのが一つの目安。下のように横にシワができるのは小さいということ。見た目にも醜く、ビジネスにおいては特にマイナスイメージとなる。

スーツ ¥120,000(+tax)/Valditaro 
シャツ ¥21,000(+tax)/GUYROVER
ネクタイ ¥18,000(+tax)/LUIGI BORRELLIMORE

ーーなるほど、非常に常識的な話ですね。これだけしっかりしたルールとその理由を聞かせていただくと、とにかく説得力がありますね。よくファッション誌で目にするモテるとかトレンドとかいうキーワードとは、受け手側も捉え方が全く変わってきますね。

「実は、これは3年前の誌面でも公開をしたんですが、丸の内エリアの主要な駅、有楽町、日比谷、東京駅などでですね、1000人のビジネスマンを対象に調査をしたんです。年齢は20代〜50代。そうすると着こなしに対して気配りをしたほうがいいと思っている人は88%もいたんですよ。これはビジネスマンがおしゃれになっている証拠なんです。そのなかで何を求めるかというと、清潔感や知的さ、大人っぽさ、という意見が大半なんですね。モテるとかリッチに見えるとか、トレンドとかいうものを意識している方は、それぞれ全体の5〜6%ぐらいしかいない。これはビジネスシーンを想定して調査していますので、ある種当たり前ではあるんですが、こういう実態をサジェストする雑誌は実はなかったんですよ。言い換えれば、雑誌を作る側はそれをサボっていたんです。そういうことに対する反省の念も我々のなかにはあるんです」

ーーそのビジネスマンの実態は、まさに目から鱗ですね。ファッションという考え方よりも、ビジネスルールに則った好感度の高いスタイルをみんなが求めているということなんですね。

「おしゃれな着こなしと言っても、それに対していくつか考え方があると思うんですね。ボー・ブランメルのように人と違った格好をして目立つというものもあれば、例えば軍服やユニホーム、そしてビジネスマンの着るスーツのように、あるソサイエティ(社会)に対する忠誠心を表したり、そこから信頼感を獲得するための装いっていうものもあるんです。その両者を一括りにおしゃれと言ってしまうから、いろいろ勘違いが生まれるわけですよね」

スーツを着ることは本来格好良いということを
みんなが忘れていたんです

ーー実はきっちりスーツを着るということの提案を、メディアもお店もできていなかったのかもしれないですね。

「そうなんです。実は、日本が高度経済成長期に突入するころまでの、1930?50年代の
ビジネスマンは、みんな行きつけのテーラーを持っていたんですよ。つまりその時代はみんなパーソナルスタイリストが付いていたので当然おしゃれなんです。ジャストサイズのスーツをみんなが着ていたわけですから。でもそこから、オフィスワーカーが増えると同時に吊るしのスーツが市場にたくさん出てきて、それを売る側もたくさん売らなければならない時代になった。そこで、ちょっと大きいものを売ればクレームが来ない、返品が減るという事情もあったんでしょうね。そのころから、街にはサイズの合っていない大きめのスーツを着たビジネスマンが溢れるようになったわけです」

ーーそれが影響してなのか、今の若い世代は大人のスーツスタイルに対してネガティブなイメージを持っている人が多いような気がします。

「そうなんです。いつのころからか、いつしかサラリーマンはドブネズミ色のスーツを着ているという言われ方をされるようになったんです。ファッション業界、サラリーマン、メディアが三位一体になって今度はスーツにその罪をなすりつけるようになっていったんです。でも本来スーツとは? と考えたときに、先ほど話したように、ソサイエティ(社会)と自分がどうコミットするかのアティテュードを示すものなんです。スーツは着て凛々しいものであり、着て勇ましいものであり、着て勇気が湧くもの。男が着て格好良いものであるのは当たり前なんですよ。それをみんな忘れていたんですね。我々の雑誌にはそれを想起させる役割があると思っています。スーツを着ることは、本来格好良いものなんだと」

ーーそう考えるとAERA STYLE MAGAZINEは、ビジネスマンにとって心強い味方であり、大切な雑誌ですね。それでは自分が格好良いスーツを着こなすために、これはやっておいたほうがよい、これは準備しておいたほうがよいというようなものはありますか? 

「そうですね、大きくいうとスーツの種類は、アメリカン、ブリティッシュ、イタリアンという3つのシルエットがあります。まずは、その各々の特徴をしっかり知るということですね。それはもう好みになってきますが、しっかりと似合う似合わないを把握するために、きちんとコンサルしてくれるお店を選ぶことが大切です。実はそこを間違えている人が多いんです。浮気をしていろんなお店に行くのではなくて、自分を客観的に見て微差をアドバイスしてくれるお店を見つけてそこにずっと通うべきでなんですよ。まずは、それが格好良いスーツのスタイルを作る第一歩ですね」

ーー確かに、シーズンごとにいろんなお店に行く人も多いかもしれないですね。やはり自分のお店をしっかりと選ぶのは、大前提なんですね。

「あとは、お店のパターンオーダーをもっと活用すべきだと思いますよ。シーズンの最初にお店に行って、フルに素材があるときに自分のサイズを測ってもらってパターンオーダーするという買い方。実は前やった調査では、オーダーの経験があるビジネスマンは52%もいるんですよ。実はみなさん気づいているんですよね、そうすることで格好良くスーツを着ることができるということに。それをどう着こなすかを、我々はこれからもしっかりと指南していかなければなりません。そもそも、スーツを着るのは格好良いことなんだということ自体をもっと浸透させることが使命だと思っています」

清潔感があって好印象を与えるスーツスタイルの基本はジャストサイズから。そのためには、カスタムオーダーを活用するのが賢明だ。言わずもがな好みの生地を選べるだけでなく、自分の行きつけのお店を作る近道にもなる。ちなみにSHIPS では、秋冬のスーツは¥82,000作ることができる。本当に自分に合ったスーツはずっと着られるため、結果コスパも高いということになる。

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山本晃弘 Teruhiro Yamamoto

AERA STYLE MAGAZINE編集長。MEN'S CLUB、GQ JAPANなどを経て、2008年より現職。最先端モードから服飾史に至るまで、ファッションに関するあらゆる見識を備えた“目利き”としても知られている。現在は、トークショーやイベントなどを通して、装いやファッションに関する素朴な疑問に対応するアドバイザーとしても活動。朝日新聞デジタルにて「男の服飾モノ語り」を連載中。
http://www.asahi.com/and_M/style/yamamoto_list.html
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=17334