Safe & Clean Vol.19?   日本赤十字社に勤務する武藤裕美さん? Safe & Clean Vol.19?   日本赤十字社に勤務する武藤裕美さん?

Safe & Clean Vol.19?
日本赤十字社に勤務する武藤裕美さん?

NPO法人 下田ライフセービングクラブの活動理念に賛同し、1995年からその発展と振興をサポートしているSHIPS。同クラブの長い歴史のなかでは、さまざまな人材が生まれ育ってきた。今回は、日本赤十字社に勤める武藤裕美さんが登場。ライフセービングと現在の仕事の関わりについて伺いました。

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ライフセービングを始めた頃は、いつ辞めるかばかり考えていた

ーーこれまでさまざまな下田ライフセービングクラブの方に登場いただきましたが、皆さん大学の新入生勧誘がライフセービングを始めるきっかけになってるんですよね。

武藤 私もそうです(笑)。高校時代はダンス部でした。コーチがいるわけでもなく、楽しく踊っている感じの。部員が多かったので上下関係は厳しかったです。

ーーでは、随分と環境が変わったんですね。

武藤 そうですね、当初はダンスサークルに入るはずだったんですけど。

ーーそれがなぜ?

武藤 よくある「履修を見てあげるよ」っていう言葉につられて(笑)。一回話を聞いてみようとついていったら、女性の先輩がすごく優しかったんですよね。じゃあ、面白そうだし、やってみたらかっこいいかもと少し不純な理由で始めたんですけど、すぐに後悔しました。

ーーそれは練習がキツくてってことですか。

武藤 そうなんですよ。これまで真面目にトレーニングをしたことがなかったので、筋トレもつらいし、1?2kmのランニングでも酸欠になるくらいで。当時は間違いなく、すぐに辞めるだろうと思われてました。先輩からも「実は・・・」と言われたこともありましたし。

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ーー新入生のなかで、一番体力がないレベルだったんですね。

武藤 そうですね。

ーーとはいえ、夏には下田での実践が始まるわけですよね。

武藤 その前に、ベーシックっていう基本的な資格を取らないといけなくて。その講習会を受けるには、最低でも400mを9分で泳げないといけないんです。それがまず私には大きな壁で、3週間くらい毎日プールに通って、講習会が始まる何日か前にどうにか切れたんです。今でもよく覚えているんですけど、タイムは8分56秒。

ーー本当にギリギリじゃないですか!

武藤 タイムを切るのも大変だったんですけど、講習会もまた大変でした。当日は台風が近づいていたので海が荒れているし、みんなで一斉に泳ぐから人にバンバンぶつかるわ、水は飲むわ、ストレスがすごくて。最終的には、みんなに置かれて戻ってくるみたいな。

ーーその状況でよく続きましたね。

武藤 負けず嫌いなんですよ。みんなから辞めるだろうと思われているのも悔しくて。最終的にはどうにか講習を乗り切り、とにかく夏の1ヶ月はやるだけやってみようと。そんな感じでなんとか続いていった感じです。

ーーそれが楽しいに変わったのは、いつくらいからですか。

武藤 競技用のボードが届いた大学2年の夏くらいですかね。それまでは、この活動を続ける理由が見つけられなくて。泳ぐのも早くない、技術もそこそこの自分に自信がなかったんです、ずっと。でも、ボードという相棒を手にしたことで「やれるだけあがいて、できないことはできなくてもいい、自分ができる精一杯をする」と思うようになり、気持ちが入ったというか。

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「人間を救うのは、人間だ」という日本赤十字社の理念に共感して入社

ーーその後、大学を卒業して日本赤十字社に入るわけですが、やはりライフセービングをやっていたことが大きいですか。

武藤 そうですね。事業のひとつに、心肺蘇生やAED(自動体外式除細動器)の使い方を普及させる講習普及事業というのがあるんですけど、それができたら面白いなと思って。本来、職員は教える側ではなくコーディネートする側がほとんどなんですけど、それも知らずに「教えたい」って気持ちで入ったんです。あとは、日本赤十字社の「人間を救うのは、人間だ」っていうスローガンに共感して。

ーー入社してみてどうでしたか。

武藤 会社には9つの事業があるので、当初は全然違う部署にいて。最初は、献血の血液事業に配属になって。そこでは血液は人工的に作ることができないことや、自分の時間を割いて献血に来てくれる方が多くいることとか、赤十字という組織は活動を支えてくれる方がいるからこそ存在するという根本的なことを知りました。献血者の方と直接触れ合うことから始められたのは大きかったですね。その後、血液事業の総務部、本社人事部を経験しました。

ーー現在はどんなことをされているのですか。

武藤 今は入社時にやりたかった講習普及事業にいます。その中に、水上安全法という講習会があって、水辺の事故防止に関する知識や技術の普及活動をやっています。指導員の資格も取ったので、コーディネートするだけでなく教えることもしています。

ーー職員の方で、指導員の資格も持っている人は珍しいんですか。

武藤 水上安全法の指導はそれなりに泳げないとできないので、競泳やライフセービングなどをやっていないと厳しいんですよね。そんなこともあって、女性職員で指導員資格を持つ人はあまりいないです。

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ーー具体的にはどういう場所でどういうことをするんでしょうか。

武藤 主にプールの監視員をする方が取りにくるような講習会なので、救助方法を教えるのがメインになります。器具を使った救助方法はもちろん、周りに何もない最悪の状態でどう助けるのかなどです。その他、小学校などから依頼を受けて、着衣泳についての講習をやったり。講習普及事業は、指導員として活動してくれるボランティアの方がいて初めて成り立つものなんです。皆さん自分の時間を割いて活動してくださっているので頭が下がります。

ーーボランティアで活動されている指導員の方はどれくらいいらっしゃるんですか。

武藤 私が勤務する東京都支部(都内の赤十字活動の拠点)では水上安全法も含め、ほかの講習の指導員を合わせで約400人います。

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いかに水に入らずに人命を救助するかという講習をやっていきたい

ーーそんなにいらっしゃるんですね。でも、赤十字って名前はよく聞きますけど、何をやっているかはあまりよくわからなかったりします。

武藤 そういう声はよく聞きますね。

ーーそういう場合はなんて答えるんですか。

武藤 私たち職員にとっても説明するのが難しくて、どうしても病院とか献血とか皆さんが知っていることを答えがちです。講習普及事業はというと、水上安全法は、救助員を養成する特殊な講習会ですが、救急法という講習は身近に感じられる講習だと思います。心肺蘇生など、救急車が到着するまでの応急手当を、市民のみなさんができるようにしましょうっていう講習なので。

ーーいまのお仕事に直接関わること以外で、何かライフセービングをやっててよかったことはありますか。

武藤 う?ん、ちょっとすぐには思いつかないんですけど。でも、もともと日本人の海に対する危機意識の低さは感じていて。大学1年生のときに、姉妹クラブがあるオーストラリアのマルチドーに行ったんですけど。

ーーえっ、辞めるか悩んでいたあの1年生のときに行ったんですか?

武藤 アハハハ、そうなんですよ。「1年生で行ったほうがいい」っていう先輩の声を信じて。でもやっぱり向こうで苦労しましたね。そう、そこで感じたのが、オーストラリアの人たちは自分が危険な場所にいることをすぐに気付いてくれるんです。笛をちょっと吹くだけで理解してくれて、嫌な顔もしないのがすごく印象的でした。日本に帰ると「楽しく遊んでるんだけど、なにが危険なの?」って感じで、もうちょっと危機意識を持って欲しいなと思って赤十字の講習事業に興味を持ったんです。

ーー今後、お仕事を通じてどんなことをやっていきたいですか。

武藤 救助員を養成するだけではなく、水の中に入らなくても人を助ける方法があることを普及していきたいですね。誰かが溺れていたら、すぐに飛び込んでしまうイメージがあると思うんですけど、それは絶対にNGなんです。一緒に溺れちゃうので。なので、いかに水に入らずに人命を救助するかという講習をやっていきたいと思います。あとは、先ほども言われたように「赤十字って何をやっているか?」っていうことを講習を通じてもっと知ってもらいたいと思います。

ーー水に入らずに溺れている人を助ける方法、すごく興味があります。今後も水上安全に関する普及活動、頑張ってください。今日はありがとうございました。

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武藤裕美 Yumi Mutoh

2006年 大学入学と同時にライフセービング部に入部
2008年 全日本ライフセービング選手権大会 2キロビーチラン女子 4位
2009年 全日本ライフセービング選手権大会 ボードレース女子 7位
2010年 日本赤十字社 入社

現在は同社において救急法等の講習普及事業に従事しつつ、週末等を利用して下田・南伊豆地区にてパトロールやジュニア活動に参加し ている。