S1グランプリ優勝の優秀販売員  SHIPS Decent Loomルミネ新宿店副店長・北村麻紗実 S1グランプリ優勝の優秀販売員  SHIPS Decent Loomルミネ新宿店副店長・北村麻紗実

S1グランプリ優勝の優秀販売員
SHIPS Decent Loomルミネ新宿店副店長・北村麻紗実

2015年、SHIPSは40周年を迎えた。そこで、これまでは「SHIPSと人」というタイトルで同社と関係の深い方々に登場していただいていたが、今年は特別に「SHIPSの人」を紹介。最終回は、全国のSHIPS店舗のスタッフから最優秀販売員を決める「S1グランプリ」で優勝した北村麻紗実が登場。接客の極意について聞いた。

ベテランスタッフも数多く決勝にあがった今年のS-1

??S-1グランプリで優勝されたということですが、それはどういう大会なのですか。

北村  昨年から始まったもので、ロールプレイングを通じて接客の審査をする大会です。まずSHIPSの全店舗で予選をして、各店の代表1名が参加して競いました。主にスタッフの育成とモチベーションの向上のためにおこなわれるものなので、一般的には新人を中心としたものになりがちですが、今年はベテランスタッフも数多く決勝にあがってきて。私がいうのもおかしいですが、見所のある大会になったと思います。

??大会ではどんなところが重視されるのですか?

北村  SHIPSらしさを見ると言われました。

??その基準は曖昧で、なんか難しそうですね。

北村  ロールプレイングの大会は、ディベロッパー主催のものとかいろいろあるんです。でも、最近はパフォーマンスや個性を重視する傾向になっていて。ゆえにSHIPSでは、お客さまとの距離感や会話の間合いなど、よりリアルな雰囲気で審査するという意味に私は捉えています。

??北村さんは接客業にたずさわってから長いのですか?

北村  学生時代のアルバイトもサービス業でしたけど、アパレルの販売はSHIPSに入社してからなので今年で9年ですね。最初に二子玉川店にいて、1年半前から現在のルミネ新宿店です。

??二子玉川店は住宅街の駅ですが、ルミネ新宿店は利用者の多い大きな駅。かなりタイプの違うお店ですね。

北村  そうなんですよ。

??やはり立地によって接客スタイルは変わりますか。

北村  お客さまが何を欲しがっているのか、今日ここに来られた理由やきっかけ、そういうストーリーを聞くという基本は同じです。でも、行き交う人が多い新宿では、よりその基本が重要になってくるというのはありますね。

??それはどういうことですか。

北村  二子玉川店の場合は、年齢に関わらずお買い物慣れしたお客さまが多いので自然とお話が弾むんです。ある意味で、待ちの姿勢でよかった部分がある。でも、ルミネ新宿店に来られるお客さまは、年齢も肩書きもバラバラで一期一会の側面も強いので、どうやって話を広げるのかが重要になっきます。

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大事なのは、挨拶よりも少しだけ距離の近い関係を作ること

??初対面でまったく相手の情報がない場合、どんな会話をすればコミュニケーションが広がるのかはわからないですよね。

北村  「いつもならここで広がるのに!」っていうことはよくあります。そういうお客さまの多くは、販売員に嫌な思い出があるんです。グイグイ来られたり、購入を強要された経験があるから販売員を信用していない。また、いまはInstagramやネットなどで、事前に欲しいモノの方向性を決めて探されている方も多いので、トークはいらないっていう雰囲気になりがちで。そういう場合は、売りつける気がないことをわかってもらうのが大事です。実際に、お客さまに来ていただいて、SHIPSにある服を見てもらうだけで嬉しいですから。さらにその服の良さを知ってもらうという意味で、試着もしてくれたら本当に嬉しい。

??なるほど。北村さんは経験のない若いスタッフにまず何を教えますか。

北村  「こちら側から何かを伝えたり、喋ろうとしなくていい」と言いますね。新人のときって、何か商品のことを言わなきゃ販売員の意味がないと思ってしまうんです。そうすると、いきなりカシミヤの解説をしちゃったりとか。でも、お客さまにとっては「急にカシミヤの話をされても…」って感じですよね(笑)

??(笑)よくあります。

北村  新人は、お客さまをよく見て観察するように教わるんですけど。私は「観察したことをお客さまに教えてあげましょう」とよく言います。

??どういう意味ですか?

北村  慣れてきた人じゃないと、「髪かわいいですね」とか「ネイルいいですね」とか言えないんですよ。

??だと思います。それに、自分より年上の人に馴れ馴れしいことを言えないじゃないですか。

北村  急に言われても気持ち悪いですしね、お客さまも怖いはず。とはいえ、ただ観察しているだけでも、この子はさっきから何を見てるんだろうって。

??ありますよ。お店に入ってずっとマークされてる感じ、あれ怖いんですよ。

北村  そうそう、小さい店舗だとつい追いかけがちになるんです。とくに新人で一生懸命な子ほどやりがち(笑)。そういうときは「買い物されてきたんですね」「何を買われたんですか」とか、自然なことでいいんですよね。それくらいなら、直接的な話にはならないですし。大事なのは、挨拶よりも少しだけ距離の近い関係を作ること。そうするとお客さまのほうから「下のフロア混んでましたよ」って話してくれたり。

??「まだ雨降ってました?」っていうのもよくありますよね(笑)

北村  雨をネガティブなイメージにとらえている方もいれば、「雨だから空いてるかなって来ました」ってこともあるんです。お客さまの解釈は全然違うので、そこを知ることで会話を広げやすくなりますし、試着もしやすくなる。「雨で空いてるので、いまならゆっくり冬物見れますよ?」みたいな。

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実店舗で買い物する魅力は、予想外の出会いがあること

??さすがですね。では、北村さんがお客さんとして店に行ったときに、イヤだと思うことってありますか。

北村  型にハマった方法で来られるのはいやですね。そのブランドが好きでちゃんと調べてから行っているのに、「お似合いですよ」「こっちは新作で」「残り2個です」とか。これは私も気をつけなきゃいけないんですけど。でも、私がそのブランドの小物を取り入れたファッションをしているんだから、「そこを話題にしてくれればいいのに」とか思いますね。

??それこそ今はみんな情報を持っていて、店員さんより詳しい可能性もあるわけですよね。でも、お客さんがどこまでの知識を持った人かは見抜きづらい。

北村  本当に詳しい方が多いですよ。でも、わからないからこそ聞くしかない、わかないからってヘンなウンチクを出すとお客さまは離れてしまう。例えば、「ネイティブ柄とかお好きそうですけど、あっちにコーナーがありますよ」って言ったときの反応で、どれくらい好きそうなのかを感じたり。「古着屋さんとか行かれるんですか?」って聞いてみてリアクションを見たり。そこで「中目黒とかよく行きます」と言われたら、これはだいぶ詳しそうだなとか(笑)。

??なるほど、距離を外から詰めていくんですね。でも、そっちのほうがいいですね。

北村  すべての会話がそうやってスムーズに進めばいいですけど、新宿のような場所で、間口の狭い店舗だとなかなか突き詰めたトークをするのは難しい。スタッフとは、できる限りそういう接客ができるようにしようと話していますけど。

??先ほども少し話が出てきましたが、ネットで情報が集められて、すぐに買えるECサイトもたくさんあります。その中でショップの役割りとはどこにあると思いますか。

北村  予想外の出会いがあることじゃないですかね。「アウター ミリタリー カーキ」とオンライン検索したら、アイテムの情報はある程度わかります。でも、いろんなお店を回って、モノを触って、販売員と話すことで、実はアウター以外でミリタリーを取り入れたほうがかわいいと気づくかもしれない。つまり、より自分らしいファッションが楽しめると思うんです。ですから、私はお客さまが思いもよらないことを提案しようと常に心がけています。

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接客に向いているタイプ、向いていないタイプというのはない

??北村さんは接客に向いているタイプってあると思いますか? 素人考えでは、人好きで人懐っこい人がいいのかなと思いますけど。

北村  向いている、向いていないはないですね。洋服好きであることは大前提だと思います。でも、確かに第一印象が良くて人懐っこいタイプは、総じてお客さまの対応がうまいオールラウンダーですね。一方で販売モンスターになれるのは、接客に向いていなそうなクールな人だったりするんです。表情も硬いし、動きも鈍く見えるのに、お客さまが何も発していないのにインスピレーションで商品を勧められる人。そこで「なにこれかわいい!」って共感が生まれると、お客さまは「この人の話がもっと聞きたい!」ってなるんです。メンズのほうがその傾向は強いかもしれないですね。普段はクールに見えるのに、私にだけ見せてくれる笑顔みたいな感じ、そういうのは中毒性があるんじゃないですかね。

??アハハハ、そいう販売員の方っていますよね。つまり、どんなタイプの人が優秀販売員になるかはわからないってことですね。

北村  さまざまなスタッフがいるからこそ、そのショップが面白くなると思うんです。何回来てもいろんな表情が楽しめるというか、だからさまざまなタイプがいたほうがいいと思う。

??プライベートはどんな過ごし方をされていますか。

北村  銭湯と赤提灯の大衆居酒屋ですね(笑)。あとはひとり旅とか、友達と寝台列車でピャッと行ったり。いろんなことを知っている年配の方や、同世代の面白い人たちからユニークな話を聞くのが好きなんです。知見を広げるのに役立っています。

??最後に、S-1で求められたSHIPSらしさについて改めて聞きたいのですが。北村さんの考えるSHIPSらしい接客とはなんでしょう。 

北村  一言でいうと「私らしく」ってこと。私の場合は、二子玉川店とルミネ新宿店という違う雰囲気の中で、そのどちらにも対応できる振れ幅のあるSHIPSを伝えてきた自負がある。だから、私自身がSHIPSなんじゃないかと解釈しているんです。小手先ではなく、いつもの距離感で、何か人とは違うこと、人とは違う表現を使いながら、膨らみをもたせながらやっていく。それは「ビッグであることより、お客さまにとってグッドでありたい」というSHIPSの考え方ともマッチしているのかなと思います。

??今日はありがとうございました。

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北村 麻紗実 Asami Kitamura

SHIPS Decent Loom ルミネ新宿店 副店長
大学在学中よりSHIPSでアルバイトをスタート。映画サークルで自主制作映画に携わるなかで、ファッションがカルチャーや音楽を表現する大きな要素になっていること、シーンによって洋服を適切に選ぶことの醍醐味などに感化され入社。
2014年にルミネ新宿店へ異動後「ルミネ主催の接客ロールプレイングコンテスト ルミネスト」にてゴールド優秀賞を受賞。本年のS-1受賞に至る。旅やアート、大衆文化などから得られる知識や、人との繋がりを接客や会話に活かすべく日々奮闘中。