タオルといえば愛媛県今治市。その公式が再び世の中に浸透したのは、ここ数年のことである。中国の輸入タオルの急増などにともない衰退の危機にさらされた地域産業だったが、2006年、中小企業庁のJAPANブランド育成支援事業による再建がスタート。佐藤可士和氏をクリエイティブディレクターに迎え、『imabari towel Japan』プロジェクトが発足した。その中心人物であり、創業80年の老舗タオルメーカー・kontexの代表取締役社長を務める近藤氏に、SHIPSスタッフがインタビューを敢行。SHIPS Daysの人気商品でもあるkontexタオルの裏話をたっぷりと伺った。
コンテックス株式会社 代表取締役社長
四国タオル工業組合理事長
近藤 聖司 Seiji Kondo
スウェーデンの街で見かけたダスタータオル。
そこからひらめいた商品が、いまではkontexのベストセラー。
SHIPSバイヤー 川崎: 私、kontexのタオルを初めて見たとき、衝撃を受けたんです。「キレイな箱にきっちり無機質に収まっている」というのが従来のタオルのイメージだったのですが、kontexのタオルは縫製後に一度洗われていて、まるで手作りのようなナチュラルな風合いで…。
近藤: 実はそのスタイルは、私がスウェーデンに訪れた際に思いついたものです。タオルは本来、使えば使うほど糸の表面が傷んで、吸水性や肌触りがよくなっていくもの。洗いざらしの服があるように、買ってすぐに肌になじむような洗いざらしのタオルがあってもいいのでは?と以前から思っていました。そんな中、ストックホルムの街でふと目にとまったダスタータオル(雑巾)があまりにも洒落ていて、この雰囲気をどうにか活かせないかと。そこから生まれたのが、kontexのベストセラー“フラックスライン”です。
SHIPSプレス 相田: フラックスラインはSHIPSでも大変人気の商品です。表面がガーゼ、裏面がパイルになっていて、コットンの微妙な肌触りの違いが楽しめるタオルですよね。
川崎: 自宅でも使っているのですが、何度洗っても形がゆがまないのが不思議。畳んだときにも角と角がぴったり合うんです。
近藤: 加工業者によっては、スピードを上げるためにタオルを引っ張りながら加工していくため、どうしてもズレが生じてしまいます。昔は弊社もそうでした。一方でこのフラックスラインは、まっすぐに織り上がったものを一度縫製して、そこから1枚ずつゆがまないように丁寧に加工しています。畳んで角がズレると腹が立ちますもんね(笑)。
川崎: そうなんです(笑)。そういう細やかなものづくりが、使い心地のよさに結びついているんですね。
今治ブランドにも、自社ブランドにも、本当は頼りたくないんです。
相田: 『imabari towel Japan』が発足して、今治タオルに認定基準が設けられたと聞きました。吸水性などの品質審査をクリアしたタオルだけが今治ネームのタグをつけられるとのことですが、kontexのタオルの中にはあえてつけていないものもありますよね。それはなぜでしょうか?
近藤: 私の立場を考えると矛盾に感じられるかもしれませんが、私はそもそも、ブランドというものをあまり信用していません。かつてタオル業界は、ライセンスブランドに依存しすぎた末に衰退の危機を迎えました。弊社はオリジナルブランドのみで何とか乗り切りましたが、自分たちでコントロールできないものに頼ることの危うさを間近で見てきたのです。もちろん今治ブランドとライセンスブランドは違いますが、冠に依存することなく、自分たちの腕で勝負していきたいというのが根底にある想い。そのため、今治ネームのタグをつける商品は15%程度にとどめています。
相田: 組合の理事長というお立場で、なかなか勇気の要る判断だったのでは?
近藤: そうですね。今治全体で今治タオルの価値を高めていきたいという想いはもちろんありますから、プロジェクトの推進活動は積極的に行なっています。ただし、弊社は弊社で自社のスタンスを貫いていきたい。とはいえ、kontexというブランドに甘んじることも本当はしたくないんですよ。私たちが本来目指すべきものは、今治やkontexの冠がなくてもお客様に選んでいただけるタオルづくりですから。
川崎: 今治タオルの知名度は日本国内ではかなり高まっていると思いますが、海外ではどうですか?
近藤: まさにこれからですね。海外のタオル製造はスピード重視の傾向にあり、特にヨーロッパではがっしりとした重量感のあるタオルが主流。日本も昔はそうだったのですが、重ければ重いほど商品価格が上がる世界なんです。しかし近年は価値観が変わってきて、日本のようにナチュラルでふわっとしたものが注目され始めています。
川崎: 海外向けにプロモーションを行なったりもしているのですか?
近藤: 組合としては様々なプロモーションを行っております。少し変わったところでは、今春に開催された全米女子ゴルフトーナメント『ANAインスピレーション』で、今治タオルのチャンピオンローブが優勝者に贈られました。この大会では優勝者がグリーン脇の池に飛び込むのが恒例で、その後バスローブとトロフィーが贈られることになっているんです。柔らかな肌触りが好評だったようで、世界に今治タオルを知ってもらういい機会になりました。私もアメリカまで行ってTVに映ってきましたよ(笑)。
相田: 今治タオルのバスローブなんて贅沢! 海外の方にも受けがよさそうですね。
用途を限定せずに打ち出すことで、タオルの可能性は広がる。
今治はこれからますます面白くなると思います。
近藤: あるとき、お客様から弊社に「犬のぬいぐるみを修理してほしい」という依頼がありました。そのぬいぐるみはタオルでできた弊社の商品で、ずいぶん前にお子様のために購入いただいたとのこと。所々が破れて中身が飛び出すくらいくたびれているそうなので、新しいものをおすすめしたのですが、どうしてもそのぬいぐるみでなければならないとおっしゃるのです。聞けば、入院を控えたお子様が「この子と一緒じゃないとヤダ!」と泣いているようで…。そんなに長く愛着を持っていただいていることに胸を打たれた私たちは、無償で依頼をお受けしました。
川崎: それは感激してしまいますね!
近藤: ええ。ぼろぼろだったぬいぐるみを何とか修理してお客様にお送りすると、後日、丁寧な感謝のお手紙とお菓子が送られてきました。あまりに嬉しかったので朝礼で社員に共有したところ、みんな涙ぐんでいましたね。長く大切に使っていただける商品をつくり続けようと、改めて決意した瞬間でした。
川崎: 私も最近同じような体験をしました。先日、金沢にSHIPSの新店舗がオープンしたのですが、一番前に並んで待っていてくださったお客様がSHIPSの数十年前のトレーナーを着ていたそうなんです。スタッフはもちろん、役員までみんな感激してしまって…。お客様に価値を提供する立場として、誇りと責任を感じずにはいられませんでした。
近藤: いいお話ですね。多くのお客様に使っていただくことも大切ですが、一人のお客様に長く愛用していただくこともまた、商品やブランドの価値向上には欠かせませんよね。
相田: kontexのタオルはサイズ表記のみで、“フェイスタオル”などの名称がついていないことが多いですよね。これは、お客様それぞれに自分なりの使い方を楽しんでほしいという想いからですか?
近藤: はい。用途を限定せずに打ち出し、こちらが思いもよらない使い方をしていただくことで、タオルの可能性はぐっと広がります。枕カバーにしたり、インテリアにしたり、最近のジムでは“見せるタオル”が流行っていたりもするんですよ。
川崎: 御社の展示会で、“サーフ”という大きめサイズのタオルシリーズをソファにかけていたのを拝見しましたが、とってもカッコよかったです! サイズ感といい、斜めのストライプといい、サイドのフリンジといい、タオルという枠ではくくれない存在感のある1枚。SHIPSでも新たにお取扱いさせていただこうと思っています。
近藤: ありがとうございます。今後も今治タオルを通じて、新たな市場を切り拓いていきたいですね。そのためにも、メーカー1社1社が質と個性を追求しながら切磋琢磨できる環境を維持していきます。地域産業は、年商1000億円の1社が牛耳るよりも、10億円規模の会社が100社あったほうが成長の余地がある。今治はこれからますます面白くなっていくと思いますので、ぜひ注目していてください。
コンテックス株式会社
本社・工場/愛媛県今治市宅間甲854-1
東京営業所・ショールーム/東京都中央区日本橋横山町8-4 KNTビル6F
福岡営業所/福岡県福岡市博多区博多駅前3-19-14 ビーエスビル博多7階-D
代表取締役社長 近藤聖司
1957年生まれ。祖父が創業した近藤タオル工場(のちの近藤繊維工業、現在のコンテックス)に1989年に入社し、2012年に4代目代表取締役社長就任。2013年より四国タオル工業組合理事長を務める。