SHIPS<strike>と</strike>の人  ブルーにこんがらがって/取締役・原裕章 SHIPS<strike>と</strike>の人  ブルーにこんがらがって/取締役・原裕章

SHIPSの人
ブルーにこんがらがって/取締役・原裕章

2015年、SHIPSは40周年という節目のときを迎える。そこで今年は、SHIPSがどんな人たちによって作られているのかを本連載を通じて紹介していきたい。トップバッターは、SHIPS取締役の原裕章。音楽好きで知られる彼の人生とファッションの関わりについて、さまざまなお話を伺った。

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思い出のエリック・クラプトン

――原さんは以前、BEAMSの青野さんとの対談(http://www.shipsmag.jp/2012autumn/article.php?no=10)という画期的な企画で登場していただきましたが、その際に音楽好きという話があって。このBARも原さんのご紹介ですが。

原: マスターとは30年くらいの知り合いで、このBARができる前からの飲み仲間なんです。以前マスターは青山の骨董通りにあった『パイド・パイパー・ハウス』っていう、輸入盤の新譜を揃えたレコード屋で働いていて。当時は知り合いじゃなかったですけど、僕は高校生の頃によく行っていたんですよね。余談だけど、『パイド・パイパー・ハウス』と『SHIPS』は、田中康夫さんの小説『なんとなく、クリスタル』(1980)でともに注釈が入っているんですよ(笑)

――あの『なんとなく、クリスタル』に出てきたということは、当時の最先端スポットだった証ですよね。ちなみに、音楽はいつくらいから好きになったのですか。

原: 小学校の高学年くらいかな。6つ上の兄の影響で、部屋に呼ばれてはヘッドホンでクリームとかレッド・ツェッペリンを聴かされていました。その後、自分から好きになったのはビートルズ。中学に入ってからはいろんなライブを観に行くようになりましたね。そのまま高校・大学から現在まで、レコード・CDを買ってはライブに行ってと、あまり変わらない生活をしていますよ。

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大切に保管されている膨大なライブパンフレットの一部。「最近は買わなくなりましたね。当時のパンフレットは文章も多くて、情報としてすごく貴重だったんです。いまも買うのは山下達郎さんくらい、濃い情報が載っているんですよ」

――――お兄さんの影響もあったと思いますが、早熟な中学生ですね。

原: う〜ん、どうだろ。でも、洋楽を聴いているのはクラスに2〜3人しかいなかったですね。中学2年生のときにエリック・クラプトンが初来日をするんですけど、それには行くことができなくて、翌年にあった2回目の来日公演は行きました。チケット発売が平日だったので、字の巧い友だちに「風邪をひいて遅刻します」って生徒手帳に書いてもらってズルをしてね。でも、結局はバレて親を呼び出されましたけど(笑)

――社員の方から「意外」っていう声があがっていますけど。

原: 僕が悪いことをしたのってそれくらいですよ。当時はチケットぴあもイープラスもなかったから。ウドー(老舗の音楽興行会社)が骨董通りにあって、ライブの情報は新聞で知るんです。新聞に載った日から整理券が配られて、後日買いに行くっていう。その整理券を取るのが大変で、新聞配達をしている友だちから最新の情報が入ったり。

音楽と服は別なものとして考えていた

――すごい話ですね。初めて行ったコンサートは誰だったのですか。

原: 中学3年生のときに行った、後楽園球場の『ワールド・ロック・フェスティバル・イーストランド』(1975)ですね。内田裕也さんのプロデュースで、ジェフ・ベック目当てで行きました。他にもニューヨーク・ドールズとか、日本からはクリエイションとか四人囃子も出ていて。このイベントが原点になって、いまも続いている『ニューイヤーズ・ワールド・ロックフェスティバル』になっていくんですよ。

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原さんが初めて行ったライブは『ワールド・ロック・フェスティバル・イーストランド』(1975)。ジェフ・ベックやニューヨーク・ドールズを始め、カルメン・マキ&OZやクリエーション、四人囃子などが参加した。

――あっ、そうなんですね。毎年、成人式のあたりに深夜放送される内田裕也さん主催のカウントダウンライブ。でも、出演者を見るとその第1回のほうがワールド感がありますね。当時、原さんはどんなファッションだったのですか。

原: 中学生だったから、そんなにオシャレじゃなかったですよ。でも、兄貴の影響でリーとかリーバイスのジーンズは履いていました。あとはVANですかね。こういう音楽を聴いていましたけど、昔からBDシャツとかトラッドが好きで。

――ミュージシャンで服装的にあこがれた人はいなかったんですか。

原: ミュージシャンではいないかな。僕が聴いている人は、服装的にはみんなかっこよくないんですよね。服と音楽は別に考えていたから。

――その感覚って今の若い人と似ているかもしれないですね。本格的にファッションに目覚めたのは高校生くらいですか。

原: 高校の頃には、渋谷の『ミウラ&サンズ』(SHIPSの前身)とかに行っていました。まだ上野・アメ横に『ミウラ』(SHIPSの原点)もあったんですけど、お店の人がすっごく恐かったので隣の『るーふ』ってお店で買っていました。

――『ミウラ』は恐かったんですね(笑)

原: これは有名な話だから書いても大丈夫ですよ(笑)。「おまえ買うの?」って感じで、勝手に商品に触るなオーラがすごくて。その頃はもう米軍のサープラス品ではなく、西海岸のデニムとか、ワークブーツ、スニーカーとかを売っていました。僕はフレアのリーバイス646に、アディダスとかコンバースとかケッズとかを履いてましたね。学校が武蔵小金井だったので、帰りに吉祥寺とか渋谷に寄って。ライブは高校時代が一番行ったんじゃないかな。

楽しくて、毎日夜まで『ミウラ&サンズ』にいた

――大学1年生から『ミウラ&サンズ』でアルバイトしていたと伺いましたが。

原: 同級生がアルバイトをしていて、誘われたのがキッカケですね。その頃は授業をなるべく午前中に組んで、午後は毎日お店に行ってました。そのまま夜までいて先輩にお酒をご馳走になったり。当時は毎日商品の入荷がありましたし、先輩がお店でかけている音楽の話で盛り上がったり、とにかく楽しかったですね。バイト代はすべてレコードや服につぎ込んでいましたよ。

――昔はお店が情報の発信基地でしたよね。

原: 最新の音楽を流してお客様に教えてあげたりとか、そういうこともありましたね。でも、インターネットがすべてを変えてしまったのかなって。昔は売り手が情報を持っていたから伝えることができましたけど、いまは誰もが狭く深い情報を掘れますから。それ以上の知識を備えるというのは難しいですし、今は別なところで勝負しないと。

――別のところってどこになるのでしょうか。

原: 本当は良くないことだけど、各社の品揃えにあまり差がなくなってきていますよね。そんな時代に、どうすればSHIPSに来てもらえるかを考えると、最終的には気持ち良く帰っていただくことが大事だと思うんです。売り場を離れて25年くらいになりますけど、いまでも当時のお客様が銀座店に来てくれていて、たまに行くと偶然会ったりするんです。そこでの会話は楽しいですし、お客様も喜んでくれていると思うんです。

――さまざまなセレクトショップが集まる「Live de Christmas」というライブイベントを毎年やられているそうですが、バンドはいつ頃始めたのですか。

原: 高校時代に楽器を初めて、バンドは大学に入ってからですね。「Live de Christmas」を始めたのは29歳の頃で、聖林公司といくつかのショップで始めたんです。いまは、ビームス、ユナイテッドアローズ、トゥモローランド、フリークスストアの人たちとやっていて。昨年で25周年、やめどきを失っています(笑)。

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さまざまなセレクトショップがバンドで参加している「Live de Christmas」。これまで、周年ごとにさまざまなグッズが作られてきた。今年も12月に開催予定。

「気にしてないよ」って言いながら、ちゃんとかっこいいのが美学

――25年続けるってすごいですね。これまでを振り返ってみて、ご自身の好きなものに共通点があるとすればどこでしょう。

原: BEAMSの青野さんとの対談でも話したと思いますけど、ルーツがあるものが好きなんです。服ならミリタリーとかキャンパスとか、ウェスタンとかね。それがトラッドをカタチづくっている。音楽に関しては黒人音楽がベースにあるものが好きですね。

――以前、ご自宅には細部が違うネイビーのジャケットがいっぱいあって、たぶん奥様には見分けがつかないとだろうとおっしゃっていましたが。その統一感のあるスタイルはいつ頃完成したのですか。

原: 性格かも知れないけど、音楽でもなんでも、こだわりを持っていると思われたくないんですよ。「気にしてないよ」って言いながら、ちゃんとかっこいいのが美学。

――でも、逆にそれってすごいこだわりだなって思いますが。

原: そこにこだわってる(笑)。ひねくれてるんですよ。

――原さんには「俺にはネイビーの血が流れている」という名言があると聞きましたが。

原: アハハハ。それはトミー・ラソーダ監督の「俺の体にはドジャーブルーの血が流れている」を真似して言っただけ。最近は違う言い方をしようと思っていて。ボブ・ディランの『TANGLED UP IN BLUE』っていう曲名から取って、「ブルーにこんがらがって」って言うようにしようかなって。

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自分の人生を評する際の原さんの名言「ブルーにこんがらがって」の元ネタである『TANGLED UP IN BLUE』は、1975年に発売されたボブ・ディランのアルバム『Blood on the Tracks』に収録されている。

――それ、かっこいいですね。

原: でしょ(笑)。ネイビーは、保守性とか清廉さとか、結果的にそういうイメージなんだけど。単純に色が好きっていうのがありますね。

――40周年を迎えましたが、この先SHIPSがどうなっていくことを期待していますか。

原: 成り立ちが同じくらいの会社がいくつかありますけど、会社の大きさはお客様には関係がない。うちは、服屋として「いいお店」と永遠に言われたいですね。

――いいお店とは何でしょう。

原: さっきも少し言いましたけど、居心地がいいってことかな。いい気持ちで帰れるとか、帰るときに楽しかったなって思えるお店ですね。

――今日はありがとうございました。

撮影協力: Sailin’ Shoes
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