enricaデザイナー町田栄子さんに聞く 人と人とを繋ぐ服 enricaデザイナー町田栄子さんに聞く 人と人とを繋ぐ服

enricaデザイナー町田栄子さんに聞く 人と人とを繋ぐ服

liflattie shipsでこの秋から新たに展開がスタートしたブランド「enrica」。日本の伝統技術や上質な天然素材にこだわり、どこまでも優しく女性らしさの薫る服は、どのようにして生まれ、作られているのか。その真相をデザイナーである町田栄子さんにうかがいました。洋服に対しての向き合い方が、少し変わるかもしれません。

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パリでの出会い、日本文化への想い

――ブランド立ち上げの経緯から聞かせてください。

2010年のAWだったと思います。その前年までパリにいたんですが、現地で出会った友達と意気投合して、「日本で一緒にブランドをいつかやりたいね」って話していたんです。というのも2人ともヨーロッパの古い物が大好きで。同じ時期に私がパリから日本に一時帰国する度にたくさんの出会いがあったんですよ。京都の染色屋さん、生地屋さん、草木染めの工房とか、向こうにいながら日本の技術に触れ合う機会があって、帰国するなら日本で昔から伝わる職人さんや技を使って何かしたいなと考えていました。ちょうどその頃、生産地とデザインする場所がすごく遠いと感じていたのもあって。彼女にもそれを話したらまたまた盛り上がっちゃって、それでちょうど私の帰国するタイミングで日本でやってみよう!ということに。帰国する前から日本とスカイプでやり取りしながらコレクションの準備を始めていて、帰国後少しで発表しました。出来る限り身近な日本の物を使って、職人さん達にお願いして。国内で作った初めてのコレクションでしたが、右往左往しながらも楽しかったですね。何もかもが新鮮で!

――パリにはなぜ、どのくらいの期間いたのですか?

13年いました。もともと遺伝子が専門分野で、環境系の会社に就職したのですが3年で退社し、その後準備期間を経て渡仏しました。2年間パリで洋服の勉強をして、その流れでブランドを立ち上げて10年くらいやっていたんですが、いろんなきっかけがあって日本に帰ることにしたんです。

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女性のたくましさと優しさが宿る服

――遺伝子の研究からファッションデザイナーへ転身、というのもまた興味深いですね! では「enrica」というブランド名の由来は?

まず出会った人や物との“縁”で仕事をしようという想いがありました。そして調べているうちにドイツの名前「ハイミリヒ」由来の「エンリカ」というイタリア女性の名前を見つけて。「ハイミ」というのは「家」とか「大地」とかの意味があって、「リヒ」が「豊かである」、「強い」、「パワーのある」という意味で、この2つの言葉をあわせた造語なんです。要は「家庭の中で支配している立場」みたいなことらしくて。女性の強さと優しさがよく出ている気がしませんか(笑)? それで“縁”(エン)という想いもあってので、ちょうどいいかなと。ちなみにイタリア人バイヤーに「どうしてこの名前にしたのか?」とよく聞かれるんですが、その時は「イタリアが好きなので!」と答えています(笑)。

――「家庭の中で支配している立場」というのは母親、つまり母性=女性に繋がるんですね。

怒られちゃうかもしれませんが、女性が幸せだと世の中幸せになるだろうと思っているんです。それはフランスで実感したんですが。男性社会で闘うっていうのはニュアンスが違う気がしていて、どちらかというと女性がのびのびいられるような気持ち良さや心地良さ、色気だったりっていうところに焦点を当ててみようと。それと、若かりし頃に学んだ生物学のことや、パリで学んだ立体としての服という感覚、パリから戻って感じた日本の自然との密接な距離感だったり…。そういう感じたこと全てを取り入れながら、パリで感じた“洋服は文化である”という視点で、日本に合った洋服を作れないかということで始めました。

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「洋服は“縁”で繋がっている」というメッセージを込めて

――すべてのアイテムに付けられている、通称「エンリカポシェット」は、ブランド開始時から決めていたのですか?

そうなんです。改良を重ねてはいるんですが、これは余り生地を使っているんですよ。生地を最後までちゃんと使おうという意味も込めて。だから一つひとつバラバラなんです。

――本当ですね。この不揃いな感じもまたすてきです。これだけでも結構な手間がかかっていますよね。

そうなんですよね。なんでこんなことやってるんだっていうくらい(笑)。どういう思いで作っているのかきちんと伝わるように形で表してみました。中には小冊子、刺繍糸などが入ってます。日本には着物という衣の文化はあっても今の生活スタイルでは着る人が少ない。でも逆に洋服を着るけれど日本の衣の文化としてはまだきちんと根付いていない感じがしました。風土に合った日本の文化として、今までずっと伝わっている技術や素材を使いながら、次の世代に伝わっていけばいいなという想いが小冊子には込められています。それと刺繍ネームが付いているんですけど、自分の名前を入れてもらってもいいし、作った人が入れてもいいし、売る人が入れてもいいんですよ。洋服には作り手から着る人にたどり着くまで、縁で、最初から最後まで繋がっているというメッセージを込めています。

――これは嬉しいですよね。愛着も沸きますし、洋服を大切にしようと思えますね。では服作りにおいてのこだわりは?

気持ち良さ、心地良さ、着心地です。結局人の肌って臓器の一部だと思うんです。だからなるべく気持ちの良いものを作りたいですね。例えば染料が肌に合わないこともあるらしいんです。ただ化学染料にも時代に合った良さはあるし、今の生活に100%天然染料がいい!って断言するつもりもないんですが、できるだけ肌に気持ちの良いと自分が思えるものを選ぶと自然と天然素材にたどり着いてしまうので、その自分の感覚に合う素材や染料等にすごくこだわっています。

――基本的には草木染めですか?

そうですね。今のところ100%天然染料です。光の屈折率が化学染料とは違って、すごく透明感も出て自然の色にしか出せない風合いがあります。ただ黒やブルーなんかは、おもしろいくらい色が変わっちゃうし色移りもしやすいんですよ。天然染料100%では無理な場合、ほんの少し化学の力も借りるようにしています。

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あくまでも主役は着る人 自分の感覚を大切に

――今シーズンのテーマについて聞かせてください。

シーズンごとに特にテーマを設けてはいないんですが、今季は「ヘレン・シャルフベック」というフィンランドの女流画家がイメージソースになっています。もともと大好きな画家なんですが、ちょうど展覧会を見る機会があって。女性の輪郭がすごく柔らかく描かれているのがとても気持ち良く、その色の雰囲気にインスピレーションを得ました。

――では今季はこの優しい色合いも楽しんでいただきたいですね。

そうですね。あとは素材の見え方の違いというか。コットンとサテンとか、そういう異素材の組み合わせも合うので、好きなようにコーディネートを楽しんで思う存分着ていただきたいですね。柔らかいイメージをあえてハードに合わせていただいたり、何にでも合わせていただいて大丈夫です。

――最後にSHIPS MAG読者、enricaファンへ向けてメッセージを。

自分が着たいものを見つけてそれを楽しんで着ていただければと思います。あくまでも主役は着る人なので、周りを見ず自分の感覚を大事にして服を選んでみて下さい。

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アルパカ素材の縮絨ニットは、肌触りの良さに病みつきになりそう。保温性にも優れ、これからの時季にぴったりな1枚。墨染めによる独特な色合いも魅力。

ニット¥27,000(+TAX)/enrica

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ヘリンボーンのジャカード織が特徴のウール100%のカーディガン。洗いをかけて縮絨させた生地が温かく、裏地はオーガニックコットンで肌触りも◎。

オープンジャケット¥34,000(+TAX)/enrica

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草木染のシルクコットンのブラウスは、背中に施した切り替え部分がカットソーになっているので動きやすいのが嬉しいポイント。もちろん肌触りの良さも抜群。

ブラウス¥22,000(+TAX)/enrica

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軽くて肌なじみの良いシルクモヘアのカーディガンは、羽織りものとしてロングシーズン活躍する1着。こちらも植物染料による優しい色が味わい深いアイテム。

オープンカーディガン各¥27,000(+TAX)/enrica

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シルク100%で作られたぜいたくなパンツ。上品な艶を放つシルクサテン生地は、洗いをかけることで自然な風合いに仕上がっている。

シルクパンツ¥34,000(+TAX)/enrica

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滑らかなシルクコットンを表地に使用したスカートは、裏地をコットンにすることで程良いボリュームを出したアイテム。

シルクロングスカート¥36,000(+TAX)/enrica

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デザイナー 町田栄子

大学卒業後、環境系コンサルタント会社へ入社。1998年に渡仏。エスモード パリに入学すると同時に、アーティスト活動を開始。
在学中は「veroniqueLeroy」のコレクションにサブデザイナーとして参加。1999 年には「Yves Sait-Laurent」 のニットデザイナーに師事。2000年にエスモード パリを卒業、ニットによる創作を開始し、ブランド「Co paris」を設立。2009年までパリの合同展にてコレクションを発表。同年に帰国し「enrica」を立ち上げる。また2010年A/Wから「L’ histire se repete」のデザイナーも務め、2013年A/Wには「L’histoire se repete eligo」のコレクションも開始。