“ワードローブにずっと置いておきたい服”をコンセプトに掲げ、日々の生活のなかに自然に溶け込む着心地のよいコレクションを提案している「tone(トーン)」。特にブランドのアイコンでもあるニットは、糸やテンションにこだわり、一度袖を通すと誰もが納得できる心地よさを追求している。「汎用性が高く都会的」。そんな形容がマッチする同ブランドは、デザイナー前出卓久氏のこれまでの経験とアイデアがダイレクトに具現化されている。そこに込められた思いと自身のルーツとは? 前出氏にお話を伺った。
??tone は、そもそもどういう経緯でスタートを切ったんでしょうか?
「もともと自分は販売員からアパレルのキャリアが始まっているんですね。real madHECTIC(リアルマッドヘクティク)というストリートブランドのスタッフからスタートして、それからプロダクト(生産)側に関わるようになって。その流れで、どういうふうに洋服が作られているのかを、もう少し自分のなかで掘り下げたくなったんです。それで工場の仕事のお手伝いを始めたんですが、その経験がブランドを始めるきっかけになっています」
??物作りの現場で働くようになって、それが今の中心になっているニット作りにも繋がっていったんですか?
「そうですね。そこで改めて物作りの面白さを知って、そこから何か新しくブランドを始めようと思ったときに、何か核となるもの、特化したものが必要だなと考えたんです。それで、自分が潜在的に洋服を好きになったきっかけは、いったい何だったのかと問いかけたときに、幼少期に母親が自分に作ってくれた手編みのニットに行き着いたんです。そういうところから、自分の色彩感覚や感性みたいなものが養われたのかなと改めて感じたときに、ニットから始めてみようと思ったんです」
??かつての思い出が一つのポイントになっているんですね。そこからすぐにブランドを立ち上げたんですか?
「まずはいろんな人に相談したんですが、たまたまニットのエキスパートのような方と出会う機会がありまして。じゃあ手伝うよって言ってもらえたので、少しずつ始めていったという感じです」
??やはり裏方であるファクトリーの仕事をしたことで、物作りの意識も変わったんですか?
「そうですね。それまでは(洋服を作るといっても)仕様書を出すだけだったのが、実際に工場で働くと、いろいろと問題に直面したりするんですね。素材がどうとか、もちろん細かな作りに関しても。それを現場でジャッジできることの面白さを知ってしまってからは、もう少し現場に近いところで物作りをしたいなと思うようになりましたね」
??そういう経験を経て、お一人で始めたんですか?
「そうですね。今も全部一人でやってます。自分の手が届く範囲で物作りをしているという感じです」
??お一人でやるうえで、型数やバリエーションは毎回どのぐらいとか、何か目安はあるんですか?
「最初はニット3型とニットキャップなどを合わせて5?6型だったんですが、スタイリングをイメージしていくなかで、Tシャツが欲しいとか、今季のようにパンツが欲しいとか思うようになって、徐々に増やしていきました。このぐらいの量を作るとかではなく、そういうふうにイメージができたら型数を増やして、そこから少しずつラインナップが枝分かれしたという感じです」
??スタイリングとおっしゃいましたが、toneとしてスタイルのイメージはどんなものなのでしょうか?
「こういったスタイルというような決め打ちのイメージはないんですが、洋服としてはすごくベーシックなもので、ずっとワードローブに置いておきたいもの。それは変わらないテーマなので、シーズンやスタイルに関係なく着てもらえる洋服だと思っています。もちろん自分のなかではスタイリングの色味や、こういう合わせ方をしたいというイメージはあるんですけど、特に限定的なテーマを持って洋服は作っていないですね。大枠のなかで作っている感じです」
??それはつまり、ずっと着られて何にでも合わせやすいということですか?
「そうです。それで経年劣化しても着られるようにタフであることも重視しています。仮に古着になって古着屋さんに並んだとしても、問題なく着てもらえるものを目指していますね」
??ニットに関しては、ご自身の理想としているのは、どういったものになるのでしょうか?
「ニットは、体でいうと筋肉みたいな役割だと思うんですね。その上に着るジャケットが皮膚だとしたら。その筋肉になる部分を自分は毎シーズンいろんなバリエーションで作っているような意識があって。中に着るものなので、心地よくて着やすいのが理想です。なので最初はワッフルから作り出して、ざっくりとしたローゲージも定番で作り続けています」
??色味的にはどうですか? 温かみのある、淡い色味に特徴があるように感じますが?
「そうですね。もちろん自分が好きな色味ということもあります。ただ、絶対にヴィヴィッドな色味は作らないということではないんですが、そこは気分的なものもあります。もちろんシーズンで色使いも変わりますし。おそらく、今の自分のライフスタイルに根ざしたものが、色使いにも自然に出ているんだと思います」
??かつては“裏原”と呼ばれるカルチャーの中に身を置いていたわけですが、その経験が今の洋服のエッセンスとして、どこかに入っているということはあるのでしょうか?
「それはありますね。自分が見てきたものとか、袖を通したものの影響は確実にあると思います。昔の自分を知っている人が見ると、これはあの感じだよねって、かつてのアイデアソースを指摘されることもありますし、昔の友人たちと共鳴したりする部分はこの仕事の楽しいところです」
??裏原に限らず、近年は90年代がトレンド的にピックアップされることが多いですが、それがピンとくることはありますか?
「自分は79年生まれなので、90年代の初期はまだ中学生だったんですね。なのでそこは体感していないので後追い的な部分があるのですが、90年代の真ん中ぐらいから後期になってくると、ヨーロッパのカルチャーが気になり始めて、トレインスポッティングが流行った時期のi-D MAGAZINEなどの雰囲気は、共感できる部分は多々ありますよ。それがインスピレーションというか、実際にアイデアソースになることもありますね」
??今は革靴よりもスニーカーを大人が履くようになったりとか、ウェアもスウェットやニットといったリラックス感のあるテイストを好む傾向が世の中的に強まっていますよね。
「確かにそうですね。まさにそのへんの感じはすごい好きですね。ただ90年代がどうだとか、自分は何か一つのイメージに特化して洋服を作ることはないです。なんか自分のなかで行ったり来たりするんですよ。90年代の自分を投影したりすることもありますし、70年代のすごいレトロなテニス選手の写真を見て何かを思ったりもしますし。そういういろんな時代背景を行ったり来たり繰り返しをすることで、自分の好きなスタイルを追求している感じです」
??なるほど。これからトライしたいことや目標はありますか?
「型数はもう少し増やしていきたいですが、それよりは、生地や糸だったり、そういう素材自体にもっとこだわった洋服をさらに突き詰めたいなと思っています。あとはルックブックのスタイル提案をイメージ先行で撮ってみたりとか、そういうこともやっていきたいですね」
??これからどんな人に着てもらいたいとか、そういった願望はありますか?
「自分が身を置いていたストリートファッションをよく知っている人たちにもそうじゃない人にも、自分の服を通して何かを掘り下げるきっかけになれば嬉しいですね。ただ、年齢やテイストで、こういう人たちに着てもらいたいというイメージはないです。それこそ僕の両親もすごく着てくれていますから(笑)。いい糸を使って着心地がよくて、本当に洋服自体がよいものであれば、ターゲットは限定的なものじゃなくて、広いレンジで着てもらえるんじゃないかと思っています」
プルオーバーニット 28,000(+TAX)/tone
ニット 30,000(+TAX)/tone
タートルネックカットソー 11,000(+TAX)/tone
パーカ 18,000(+TAX)/tone
ジップアップセーター 34,000(+TAX)/tone
ストールオーバーコート 46000(+TAX)/tone
前出卓久 まえで・たかひさ