1960年代半ばからフリーランスのスタイリストとして活動を始め、現在も広告やCMなどで活躍されている高橋靖子さんことヤッコさんが登場! デヴィッド・ボウイやイギー・ポップ、矢沢永吉、坂本龍一、忌野清志郎、そしてももクロまで登場するロックな交遊録と人生を語りつくしたエッセイ『時をかけるヤッコさん』が発売されたこともあり、今回はその本の内容を中心にお話しを伺いました。茂一さんも「シップスマグ読者には、是非読んで欲しい」と語る一冊。早速、対談スタートです。
「この本にはA面とB面があるね」、って言われたんです(高橋)
桑原 『時をかけるヤッコさん』は久しぶりの新刊となりましたけど、その間にも、いつかまた書こうとは思われていたのですか。
高橋 私の本業はスタイリストなんですけど、いつも何か違うことをやっているのがクセなんです。お金にはならなくても、楽しくて一生懸命になれることを常に探していて。この本も、これまでたくさんのミュージシャンとお会いしてきたので、最初は自分と音楽の関係みたいなものを書こうと思っていたんですよ。でも、書いているうちにミュージシャンの話だけでなく、宇野千代さんの話とか、夜中の3時半にゴミを捨てる話とかも浮かんできて。最初のくくりはもうどうでもいいかなって。
桑原 一番強く感じたのは、ヤッコさんの自伝的な作品でありながら、人が成長する過程を感じさてくれる本だなっていうことでした。前半は、デビット・ボウイから始まる若い時代の衝動のようなものがヒシヒシと感じられて、後半の宇野千代さんあたりになると文体まで変わってくる。そこがすごく面白いなって。その時々の気持ちを素直に書いているからこそ、文体まで変わってくるんでしょうね。これはプロの作家にはできない、最高に良いところだと思いましたよ。
高橋 そう言ってくれると嬉しい。ある方に、「この本にはA面とB面があるね」って言われて。「A面はデビット・ボウイとかイギー・ポップとかの華やかな話があって。でも、B面が泣けるんだよね〜」て仰ってくれたの。自分では全然気がつかなかった。
僕がこの連載で伝えたいことがすべて詰まっている(桑原)
桑原 この連載では、毎回さまざまなジャンルで活躍されている女性をゲストにお招きしていて。彼女たちはいまの時代で評価されているわけですけど、そういう方々にとっても人生を振り返るいいターニングポイントになる一冊だと思いますね。若い人たちには、人は歳を取るほど魅力的になれるので、恐れる必要はないということ。また、その時々で一番やりたいことをやることでしか、楽しい人生は始まらないってことを教えてくれる一冊だと思います。それはまさに僕がこの連載で伝えたいことでもあるんです。
高橋 本のなかに、こども電話相談室みたいに、質問に答えるところがありますよね。その後に、私が若い人たちに向けたメッセージを書いていて。あれは随分前にFacebookに書いたものなんですけど、タイムラインに定期的に上がってくるんですよ。それで改めて読んでみたら、「私、いいこと言ってんじゃん!」って(笑)
桑原 あははは。
高橋 スタイリストをやっていると、制作スタッフの中で一番若い子と接する時間が長いんです。もしかしたら、ディレクターやカメラマンよりも私のほうがやり取りの回数は多いかもしれない。そうやってずっと一緒にいると、いつの間にか彼らや彼女らの感覚が乗り移ってしまうんです。そういう若い子たちがこの本を買ってくれて、最初はA面から入って、何年か後にB面に気づいてくれたら嬉しいですね。
歴史に立ち会うチャンスはどの時代にもある(高橋)
桑原 亡くなったジョー山中さんのことを書いている章で、「私はスタイリストをしていたおかげで、ここでも歴史に立ち会うことができた」っていうフレーズがあるのですが。
高橋 うん、歴史に立ち会うチャンスはどの時代にもあると思うんです。そこに近づけてくれるのは、本業をまっとうしながらもその枠を超えたいという気持ち。中村のんちゃんもスタイリストなのに、大変な思いをして『70’s 原風景 原宿』のイベントプロデューサーをやっていたり。伊賀大介くんも儲からないお芝居の仕事をやっていたり。でも、よく考えてみたら日本人で初めて海外(ロンドン)のショーにチャレンジした寛斎さんも、そういう感覚だったと思うんです。いつの時代でも挑戦している人はいっぱいいるので、若いクリエーターにもたくさんチャンスはありますよ。
桑原 そうですよね。では、ヤッコさんが考えるスタイリストとはどういうものですか。
高橋 それは今も昔も変わらないと思う。カメラマンやデザイナーなど、制作スタッフはみんな何かしらのイメージを持っていて。そのモニョモニョしたものを一生懸命考えて、視覚化するお手伝いをする仕事。また、もしもラフにきっちりイメージが描き込まれている場合は、その通りに縫わないといけない。もちろんこれまでの経験による引き出しはありますけど、「私にそれができるかな?」っていうドキドキは若い人と変わらないですね。
「ヤッコがやると違うね」っていう一言がすごく嬉しい(高橋)
桑原 命題が出たときに、それをどうやって自分のものにして、相手が想像する以上のもので返せるか。それって俳優であれ音楽家であれ同じだと思うんですよ。相手が要求したものを何倍にも返せる人は、気づいたらとんでもないことをやっていますよね。でも、そんなことはいきなりできるわけじゃない。そのプロセスはどうだったんですか。
高橋 昔から何かびっくりさせたいっていう気持ちがあって。褒められたいっていうのもあるんだけど、「ヤッコがやると違うね」っていう一言がすごく嬉しい。例えば、新人の頃にお使いへ行ったとき、コップに入れると花が広がる水中花が道端で売ってたんです。そのとき私も若かったから、テキヤみたいなお兄さんに「これすごくキレイ、私にひとつちょうだい!」って話しかけて。向こうもビックリして一個くれたんです(笑)。それから仕事場に戻って、「これ貰っちゃった」って水中花を見せると、みんな「わぁ〜」ってひとつの時間ができる。そういうのが得意だったんです。
桑原 それこそ、やっこさんの魅力ですよね。
高橋 そう、すごいこと思い出した! 寛斎さんのショーの数日後に、ソーホーの大きなチャイニーズレストランでお祝いパーティがあったんですよ。ショーの当日はミック・ジャガーの結婚式だったから、観れなかった人が多くて。そこがお披露目の場になったんです。でも、寛斎さんはある女性とスペインへ遊びに行って、飛行機のトラブルで帰って来れず。そんな絶体絶命のなかで何か挨拶しろって突然言われたから、「今日は偉大な寛斎のためでなく、こんなにチャーミングでセクシーな私のために、こんなにもたくさんの方が集まってくれて私は幸せです♪」って話したんです。そうしたら、ロンドンだからみんな盛り上がってくれて、すべてがOKになっちゃった。そのとき、私は海外のほうが仕事がしやすいタイプだなって。向こうはユーモアとかウィットが大事だから。
桑原 え?っ、それは強烈なエピソードですね。そんな茶目っ気のある少女になるきっかけはあったんですか。
高橋 ほとんどないんですよ、茨城の田舎で育ってますし。
一生懸命尽くしてひとりぼっちになる(『時をかけるヤッコさん』の一節)
桑原 でも、東京を行き来する機会はあったんですか。
高橋 私は養女にいったので、本当の両親と3人の兄弟は東京だったんです。だから、家族に会いに何かしら東京には来てたんですよ。しかも、叔母がPXに勤めて国際結婚をした関係で、東京の帰りはいつも大量のチョコレートやキャンディをくれたんです。
桑原 その時点で普通の少女じゃないですよ。あの時代にそんなの持ってたら街の人気者になっちゃうじゃないですか。
高橋 あるとき、私はそのお菓子をそのまま持っていたみたいで。案の定、上野でホームレスに囲まれちゃったんです。でも、それを全部その人たちにあげちゃったんですよ。その理由は自分でもわからないの。
桑原 きっと、自分を喜ばせるより人を喜ばしたほうが、最終的にもっと自分が喜ぶってことに気づいていたんですよ。
高橋 一昨日も、湯山玲子さんの誕生パーティに行ったら、彼女に「昔、取材で見せてもらったKENZOのスカーフやストールがすごいキレイだった」って言われて。そこで思い出したんですけど、その大量のスカーフやストールも、311のときの救援物資として女性用の下着とかを包むのに使っちゃったんですよね。貰って困った人もいるかもしれないけど、私としてはロシアのお婆さんが派手なストールを巻いているイメージで、東北の方がそんな風にKENZOのストールを巻いてくれたら素敵だなって思ったんです。
桑原 その想像力がすごい。何かをやるときには、いつも完成予想図ができてるんじゃないですか?
高橋 結構浮かぶわね。
桑原 超能力を持っているとしか思えない。あと、本のなかで気になったのは、宇野千代さんについて書かれた「一生懸命尽くしてひとりぼっちになる」っていう部分。
高橋 それ、私のことなんですよ。
桑原 そこがものすごくずしんと来たんです。
高橋 宇野千代さんの世の中の評価は間違ってますよ。私が書いていることのほうが本当じゃないですかね。
桑原 そう思いますね。でも、僕は一生懸命尽くさないと何も得られないということを、やっこさんは伝えていると思ったんです。幸せになりたいなら、誰かのために一生懸命尽くさないと幸せはやってこない。。
高橋 スタイリストという仕事には向いていると思いますけど、それが家族だったらある意味でウザくなるじゃないですか。トゥーマッチになっちゃうんですよ。
桑原 一生懸命尽くすということがですか?
高橋 うん。それは前の旦那もウザかったろうなって。でも一方で、「私のおかげであれだけのことができて、別れた後にはできないんだから」っていう感情もある(笑)。宇野千代さんもトゥーマッチな人ですよね。
桑原 それと「自らが輝く」っていう部分が肝だと思いました。
高橋 人生で辛いことがあったとき、絶対に愚痴や悪口を言いたくないというのが強いんです。それよりもカッコよくなりたいし、絶対に可愛くなりたい。自分がここからまた生きていくんだ! って思うんですよ。
人間のエネルギーは枯渇しない、それをヤッコさんが証明している(桑原)
桑原 素敵です。次の本は、ジャンルでいうとカンノウ小説をやったほうがいいと思うんです。
高橋 私もそう思う。すごいエッチなことを書きたい!
桑原 いや、そういうことじゃなくて(笑)。ホームレスに飴をあげてしまうような、そういうときって脳が喜んでいるハズなんです。
高橋 あっ、そっちの感脳ね(笑)
桑原 ヤッコさんは、感脳を大事にしてきたと思うんです。「好きなことをコツコツ続けること、好奇心と情熱を持ち続けること」って書いているんですけど、その反対側に「自画自賛はいかん」とも書いているんですね。でも、本当は自画自賛はいいことだと思っているはずで。
高橋 そうなんです、本当は大好きなんです。
桑原 どちらも脳が喜ぶことですよ。でも、年齢を重ねると新しい人と出会ったり、パーティに参加したりする熱量は失われがちですよね。そのパワーはどうやって生まれるんですか。
高橋 人と会ってお喋りしたり、そういうことが刺激になるんです。そこから新たなやりたいことが生まれてくる。
桑原 つまり、人間のエネルギーは枯渇しないんですね。
高橋 そうありたいですね。
桑原 でも、ヤッコさんがそれを証明している気がします。人は何時間寝ないとダメとか、栄養を摂らないとダメとか、自分が弱いものだと規定していくのはよくないのかもしれない。そして「自ら輝く」ってことをちゃんと言い聞かせて、何か駆り立てるものを作らないと。「歳だからこれでいいんだ」って思った瞬間に、エネルギーをオフにしちゃっている。それはまずいですよね。
高橋 このままじゃ死ねないなって思うのは、家を掃除して、整理してからじゃないとってことですね。
桑原 あはは。あと、才能のある人に限って、見えない何かとか、スピリチュアルな方向に行ったりしますけど。そういう興味はこれまでなかったですか。
高橋 フリーランスで仕事をしていると、すごく人恋しくなったり、サジェスチョンが欲しくなったりするでしょ。そういうときはもの知りな編集者とかと話すと、いろんなことを教えてもらえるんです。それに、朝のテレビ番組の占いとかも好きですし、神秘体験をしたこともあります。でも、信じるっていうよりも、グッドイマジネーションをもらう感じ。未来にいいことがあるって思えることが大事だと思うんです。
桑原 そうですね、それは大事なポイントですね。早くも次回作が楽しみです。今日は本当にありがとうございました。
『時をかけるヤッコさん』の中にはいろんな歌が隠れています。
1
P. 69-73あたりで1曲目、IGGY POPの「Search and Destroy」。イギーポップと話しをしてる時、日本の宮藤官九郎さんがイギーのファンな事を話して、探してこわしてと書いて、彼のためにサインをもらいました。その後、クドカンさんがNHK朝ドラ『あまちゃん』のなかで「見つけてこわそう」という歌になって登場しました。イギーポップ、続き。クドカンさんが朝ドラ『あまちゃん』に使ったという話しをしたら、「それって、英語で?日本語で?」などと聞いてました。ドラマの中の子供番組の歌なので日本語だったと答えました。彼、笑ってました
2
2曲目、荒井由美「ひこうき雲」。少年だったチャーが、天に昇ってしまった友人のためのコンサートを開くのでそのビラを私が預かり、レオンの前で、鋤田さんに渡した事が、鋤田さんと初めてお話ししたきっかけです。その後セントラルアパートの鋤田さんの部屋で、ユーミンのひこうき雲をきかせてもらいました。ひこうき雲は天にのぼった少年の象徴のように思えました。このへんのことはP. 178-181をチェックしてください。その後も、鋤田さんは、いろんな分野のいろんな曲を、何気なく私に聞かせてくれました。
3
P. 225-230あたりで3曲目、加藤義明「村八分よっちゃん」。
4
4曲目、Pink Floydの「Alan’s Psychedelic Breakfast」。ムカシ、ピンクフロイドの、朝食の音のレコード、よく聞きました。『Atom Heart Mother(原子心母)』の中に入っている、「Alan’s Psychedelic Breakfast」それが、P. 174の「リンゴの音」に通じるのでは?
普段、聴いてるわけではないのに聞こえている日常音(環境音)。 それは、人の孤独な時間の音のような気がします。 これに通じるのが「Sunday Morning」(The Velvet Underground and Nico)何千回も聴いた曲です。 デヴィッド・ボウイの曲は、どれでも良いです、がP. 76から・・・をチェックしてください。 初期の頃のとか、ヒーローズとか。 そして『The Next Day』の「Where Are We Now?」。以上、『時をかけるヤッコさん』の中できこえる曲でした。
今夜の『Pxxxx Radio』、ここまでの選曲はヤッコさんこと、高橋靖子さんでした。まさに時代を超えたロックな選曲に、その懐かしさに胸キュンでした。さて、年上の女性との会話はとても緊張します。まるで上級者とチェスや将棋を指すように、自分の発する言葉の先をふたつもみっつも読まれている恥ずかしさとでもいえばいいのでしょうか。言葉が空回りしてしまうのです。しかも相手が自分の青春時代の憧れの方とあってはなおさらです。で、本来私は過去を振り返らないというか、“振り返れば、過去がトラクターとなってお前を踏み潰すぞ“(マーロン・ブランド)が耳元とでそう囁くのです。そもそもこの格言自体も怪しい記憶ではありますが、で、なんでしたっけ、そう、選曲です。私の青春はLOVE & PEACEそのものでした。紹介しましょう。 Pink Floyd with Syd Barrett-London66-67(Full Rare Version)です。
『Tonite Let’s ALL Make Love in London』
如何でしたか?ロックって、ほんとうにいいもん♪ですね。あなたや私の価値観をぶっ壊す。その衝撃こそがロックなのです。伝統芸能に成り下がってしまったロックと呼ばれる昨今のロックは、ロックの着ぐるみを被った(マネー集金システムに取り込まれた)迷える仔羊の香草焼きとでも申しましょうか。といって、すべてロックの精神が消えてしまったわけではありません。ジャンル分けされた「ロック」の商品棚にはないかもしれませんが、連綿とつづくロックの精神を受け継ぐ音楽はあります。どこに?いい質問です。Inter FM毎週金曜日の夜中24時から25時nonstopmixでお送りする選曲番組「桑原茂一のpirate radio」が、それです。ぜひ、一度、お試しください。http://clubking.com/archives/category/radio
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らたまいしゅう。桑原 茂→
高橋靖子 yasuko takahashi
現在もなお、広告やCMといった第一線の仕事で活躍する日本のスタイリストの草分け的存在。1971年にはロンドンの山本寛斎氏のファッションショーを成功させ話題となり、「ジギー・スターダスト」期のデヴィッド・ボウイの衣装を担当。また、デヴィッド・ボウイやT・レックスの撮影をアレンジするなど、世界的な大物との仕事も多数。また、これまでに著書『表参道のヤッコさん』、『小さな食卓 おひとりさまのおいしい毎日』、『わたしに拍手!』などを発表するなど多岐にわたり活躍中。
時をかけるヤッコさん
文藝春秋・刊
¥1,580(+TAX)
おてんば現役スタイリスト「表参道のヤッコさん」がロックな交遊録と人生を語りつくすエッセイ。スタイリストの草分けである著者が、ロックをごくごく飲みほしながら、70年代カルチャーをつくり、ミュージシャンに併走してきた日々の輝きが描かれている。フリーランスとして生きる意味、離婚や介護など人生のほろ苦さも描かれた、オトナに読み応えのあるエッセイ。