MEN’S EX 編集長 大野 陽氏に訊く
ダンディ男のドレスコードとは?
今聞くとなんとも新鮮な響きのある「ダンディ」という言葉。そしてそれに付随するようなドレスコードと呼ばれるルール。そもそもダンディとは、ドレスコードとはいったい何なのか? いつまでも格好よい男であるために、このキーワードの本当の意味を紐解きたい。そんな素朴な難問をMEN’S EX編集長 大野 陽氏に投げかけてみた。今見直されているダンディな男とドレスコードの新解釈とは?
??非常に大きなテーマでもあるのですが、ダンディな男やドレスコードというものを大野さんはどのように捉えていますか?
ドレスコードというとなんか堅苦しくもあるし、難しく考えてしまう人も多いですよね。ダンディという言葉も今は新鮮に感じます。最近までテレビ東京で放映されていた『俺のダンディズム』という番組を編集部で監修させていただいたのですが、それこそタイトルにあるダンディという言葉の響きは20年ぶりぐらいに聞いたような新鮮さを感じました。でも実は幣誌も最近よくダンディって言葉を使っているんですよ。見直したいものでもありますね。
??そのダンディな男像とは何か、わかりやすい指標のようなものはあるのでしょうか?
これはあるコラムでも書いたんですが、魅力ある男の3つの「G」って知ってますか? 1つは「ジェントルマン」、2つめが「ギャップ」、残りは「強引さ」(笑)。そんなちょっとくだらない話も交えながらダンディについて考えたんですね。でもこの3つの「G」は、装いにも通じるものがあるんじゃないかと思っています。TPOをわきまえるということから言えば「強引さ」は適してない部分もありますが(笑)。結局はTPOを理解した上で、お洒落するのがダンディだという話をしているんですけど。なんかダンディって表現は気分ですよね。
??なるほど。ではドレスコードに関してはいかがでしょうか? 大野さん的な基準のようなものはありますか?
ドレスコードって装いのルールみたいな意味だと思うんですけど、自分的なキーワードとしては“想像力”と“創造力”が大事だと思っているんです。TPOって言葉がありますが、まずは招かれた時間・場所・目的を“想像”したうえで、どんな着こなしで行けばいいんだろうって想定する。いろんなシーンがあると思うんですが、自分もどこかにお呼ばれしたときは、レストラン、ホテルなど、行ったことのない場所であればどんなとこだろうってまず想像するんです。結局行ってみて想像と違うってこともあるんですが(笑)。でもそうやって想像することが大事で。自分がどういう立場で呼ばれてるかとか、そこも併せて想像する。それはパーティに限らず会議もそうですし、会社の中で自分がどんな役割でどんな装いが求められている場所なのかっていうことを想像するわけです。そしてドレスコードはルールですが、ルールのなかでどれだけ個性を出せるか、遊び心が出せるかが最終的なポイントになってくる。自分という存在を、ルールのなかでさり気なく主張する、それが“創造=クリエイティビティ”を出すということですね。
??ドレスコードを決められていてもみんな一緒じゃつまらないですし、どこに個性を出せるかって重要なことですね。理想はドレスコードに収まるだけじゃなくて、自分を表現できるってことですかね。
そうですね。それが本当にダンディな人なんだと思います。どこかで自分のキャラクターを理解した上で、規定の中でどう遊べるか。そうなるとやはりキーワードは“想像力”と“創造力”なんですね。今ドレスコードも自由になってきてるので、例えば結婚式とか行くと結構みんな自由な格好になりつつあります。でもおしゃれさんのスタイルを見ると、ちゃんと型をわかった上で遊んでいる。いわゆる想像力がちゃんとあるっていうか。それで自分のキャラを出している。大切なのは、まず基本を知るってことですかね。基本を知ったうえでどうするかみたいなことですよね。
??基本を知らないでキャラだけを出すってことは難しいですよね。
最近僕が好きな言葉で「型破り」って言葉があって。ある歌舞伎の俳優さんを取材したときに、型を知っている人が型を破るから「型破り」。型を知らない人が型を破ったら、それを「形無し」っていうことを知ったんです。非常によい表現だなと思います。型を知っているか知らないかで全然違うものになってしまう。大切なのは、やっぱりルールを知った上でどれだけ常識に囚われないで楽しめるかっていうことですね。それがダンディな大人たち、型破りで格好よい大人たちなのかなって思います。どんなことでも基本をわかったうえでの応用が、一番楽しいですから。
??その主張は、大野さんの作られているコンテンツとも共通する部分がありますね。
そうですね。MEN’S EXは型を教える雑誌でもあって、21年間そういう型を教えつつもどこまで遊べるかっていうことも追求してきたと思います。ドレススタイルってもの凄く狭いというか、ルールじゃないですか基本的に。それをどれだけ自分で楽しめるかっていう提案を雑誌としても常に大切にしています。
??大野さん個人で基準といいますか、自分のドレスコードを考える上での元になっているようなスタイルはありますか?
自分は渋カジ、アメカジ、モード、クラシックなどなど多様なファッションを 幅広く体感した世代なんですね。特にアメリカものは好きでしたけど、例えば僕が普段着ているスーツは、イタリアもあれば、アメリカ、フレンチ、イギリスもあって気分によって全然変わります。これっていうスタイルに固執することは逆にないかもしれないですね。こういう仕事をしてると、たくさん素敵な人やモノに会いますから。ドレスコードではないですが、その時々で影響を受けることの方が多いですよ。
??ちなみに今日もスーツを着ていらっしゃいますが、どんなイメージの装いなのですか?
今日はベーシックなグレーのスーツですね。日本ではどちらかというとネイビースーツが一般的ですけど、グレーはヨーロッパだとエレガントな色としても見られているんです。あとグレーは昼のイメージがあって。ネイビーやダーク系のものって夜のイメージですよね。いろんな色のスーツを持っていますが、グレーを着るときは清潔感がありますから、会議にも出られて大事なお客さんにも会えるというイメージです。でも実はこのグレーは無地っぽく見えてうっすら柄が入っている。少し華やかさというか、遊び心があるのが僕なりの主張ですね。シャツは白、靴は黒の方がグレーのスーツは引き立つので、そういうセレクトをしています。ネクタイは少し華やかさのあるものを選びました。
??そんなふうに、仕事の際の装いをしっかり自分で基準を設けて着る人は日本ではまだ少ないですよね。
日本だと仕事着スーツって作業着みたいに思ってる人がたくさんいるんですね。しかし、欧米ではスーツ姿はプレゼンテーションのツールと思われていますし、装いに対する意識も高い。それなりの立場の人たちはそれがわかってますよね。仕事って第一印象で人との関わりが決まる部分がありますし。装いはその人を知る入り口でもあります。お会いした時に、この人すごく気を使っていて想像力と創造力を持った人なんだなって思うと、きっと仕事もキチッとする人なんじゃないかな、って感じますよね。
??そういうことを考えると、やはりドレスコードとはマナーっていうことですね。
もちろんマナーです。これも取材を通して聞いた話ですがマナーとは礼儀っていうふうにも訳されるじゃないですか。礼とはおもてなしの心、儀とは儀式やルールなので、即ちマナーとは、おもてなす心とルールの両方があって初めて成立することなんです。これもすごい良い言葉だと思います。マナーってイメージ的にはルールだけのような気がしますよね。そうではなくて、そこに想像力を通したおもてなしの心もなきゃいけない。でも逆に言えば、そういった想像力を働かせれば、ドレスコードとは難しいことでも堅苦しいものでもないんです。本来、自分の創造力で楽しめる自由なものなんです。実はあまりにもタイムリーなんですが、MEN’S EXも12月6日発売の1月号で『ドレスコードの新基準』という特集を組んでいます。宣伝のようになってしまいますが……(笑)、ぜひ手に取って読んでみてください!
ラルディーニのデニムジャケット
デニム地で非常にカジュアルですが、仕立ては洗練されているジャケットです。 スマートカジュアルにも通ずる1着ですね。カジュアルでありながら品をどう盛るかという意識は常に持っていたいものです。装いに遊び心を取り入れる際に重宝しています。グッチのオーダースーツ
以前オーダーメイドで作ったものです。色は少し派手に見えますが、形も柄もクラシックな“晴れ舞台”仕様のダブルブレスト。きちっとした格好で尚かつ遊び心を求められるようなシーンで活用します。ちょっと存在感を演出したいときに袖を通しています。裏地は過去のアーカイブの生地なんですよ。ラルフ ローレンのタイバー
こちらはラルフ ローレンさんからいただいた自分のイニシャル入りのタイバー。イベントやトークショーなど、人前に出る時につけることが多いです。装いの格を上げてくれるもので、Vゾーンに立体感も作り出します。これをつけると気合のスイッチが入るんですよね。愛用のポケットチーフ
日本ではポケットチーフを挿す文化があまりありませんが、便利なのでもっと活用すべきだと思います。素材で季節感が出せますし、一瞬で華やかさも出せます。冬はコートのポケットに突っ込んでもいいですから。僕が普段仕事中によく挿しているのは白にネイビーのパイピングが施されたブリオーニのものです。いわゆるTVフォールドの形にたたんで入れていますね。大野 陽(おおのあきら)
1973年生まれ。大学卒業後、世界文化社に入社。「MEN’S EX」、「家庭画報」、「Begin」の編集を経て2013年に「MEN’S EX」編集長に就任。ちなみに本日着用のグレースーツはドーメルのアイコニックという生地でオーダーメイド。ピークドラペルが品格を感じさせます。週に4日は必ずスーツを着るように心掛けているという。