ーMEN’S CLUB 戸賀敬城編集長ー 『MEN’S CLUB』60周年記念! モノ選びの基準を改めて考える
今年で60周年を迎える、メンズファッション誌『MEN’S CLUB』。その編集長を務める戸賀敬城さんの連載企画。今回は消費税増税前ということもあり、改めてモノの価値観や本当にコストパフォーマンスが高いものとは何なのかをお伺いしました。記念すべき年を迎えた新たな意気込みとともに、充実の内容となっています!
ーー『MEN’S CLUB』60周年おめでとうございます。この歴史の長さは偉業ともいえますね
戸賀 海外でも驚かれることが多いですよ。男性向けの“ファッション誌”としては世界で2番目に古いらしくて。そんな雑誌にたずさわれたことが嬉しいですし、ラッキーなことです。その反面、プレッシャーも大きくて。編集長になって4月1日で7年になりますが、最初は本当に大変でしたね。
ーー編集長になられたとき、まずはどう変えていこうと思われたのですか。
戸賀 『MEN’S CLUB』は歴史があるだけに、この本で育ったという方もたくさんいらして、大きく変えることが難しい時期が長かったと思うんです。そういう先代の方々の苦労を感じながらも、まず手掛けたことは、マスメディアからの脱却。時代的にはすでにマス向けというのは終わっていたので、そこをクラスマガジンにしようと。そこでまず、読者層がもっとも厚い30代半ばの男性をターゲットにしました。モデルのイメージも、男くさいものを柔らかく表現したくて谷原章介さんにお願いしたり。彼は雰囲気が柔らかくて、チャラ過ぎないでしょ? これまでの『MEN’S CLUB』のイメージであるバタくささを取ってくれる。でも、シフトするって大変なんですよね。
ーー60周年を迎えるにあたって、今後はどのようなことを提案したいなどありますか。
戸賀 ただトレンドを伝えるだけでなく、もう一度原点に戻って日本人のオシャレとは何か? を考えていきたいですね。実際、日本の社会って実はそんなにゆるくないじゃないですか。そういう会社や組織でも許されるドレスコードを探ったり、そのなかで楽しんだりできるようにしていきたい。最近、コスプレオヤジみたいなのが増えてきちゃってるからね。雑誌づくりで大事なのは、ただのインポーターにならないこと。今後も僕らの肌、体型、社会にフィットするトレンドを発信していければと思っています。
ーーすでに雑誌からその思いが伝わってきてますよね。
戸賀 読者の70%以上は会社務めの方ですし、やっぱりリアリティを求めていきたいですね。お金、お金ではなく、IVYが何故日本に根付いたのかを考えて、トレンドを咀嚼する作業が大事かなと思っていて。
ーー今回はそんな60周年への意気込みとともに、『MEN’S CLUB』が考えるモノの価値感やモノ選びの基準みたいなものをお聞きできればと思っています。消費税も上がりますし、コストパフォーマンスの良さって何だろうというのを改めて考えていきたいんです。
戸賀 コストパフォーマンスの高さって、その人にとって高額だとか、年収がどうだという話ではないと思っていて。20代でも40代でも同じ価値が得られるというか、年齢を越えて共感できるものなんですよ。メンクラ君たちの場合で言うと、彼らはおこずかいを比較的持っているんだけど、いわゆる富裕層ではない。でも、コスパが高ければ価格が6桁でも7桁でも紹介していく。一方で、ONLINEの強さ、SNSの強さから、40代の富裕層の方々は、今30%を超えています。そんな方々にとっても、MEN'S CLUBの考えるコストパフォーマンスは、とても思いやり、優しさを感じてもらえていると思うんです。以前ここでもお話したように、僕は大学時代、ポルシェを買って会社に通っていた。バイトの分際で。そうしたら、あの有名なモータージャーナリストの徳大寺有恒さんが「ポルシェに乗ってる新人がいるって聞いたけど、どいつだ?」ってわざわざ編集部に来てくれたんですよ。その出会いってお金に換えられないし、モノやブランドが与えてくれる効果ですよね。効果の高いものは年齢も越えちゃうわけです。だから結婚するまで一切貯金なんてしなかった(笑)。貯金で得られる効果と、モノを買う効果で考えると、僕は貯金なんてマイナスだと思っていて。さらに言えば、将来への不安や心配は成功のもとだと考えているから。
ーー確かにそういう側面がありますよね。では、戸賀さんが考える、効果のあるコストパフォーマンスが高いアイテムを紹介して頂けますか。
エルメスのバーキン
何よりエルメスは作りの良さですよね。革も厚いですし、コバの処理やステッチも美しい。でも、男性が普段使いしているとちょっと疑われるバッグでもある。僕も女子ウケを狙って、これよりも小さいバーキンとオータクロアを持っていましたけど、やっぱりチャラく見えるんです。銀座のクラブではモテるけどね(笑)。でも、色を間違えなければ、旅に使っても厭味じゃない。その代わり、旅向きの55pモデルだと重くなってしまうのがネックで。そんなときは、裏地が布のものがベストなんですよ。そうすると、通常の内貼りがレザー仕様のバーキンと比べても感覚的に2/3くらいの重さになるんです。
最初は「裏地が布なんて」と思ってましたけど、友だちのリアルお嬢に言われたんです。「トガッチ、バカじゃないの。お付きがいない人は、裏地が布のバーキンを買うものよ」って。そこで実用性がグッと上がって、僕のなかでコスパがいっきに高まりましたね。エルメスの革は雨にも強いし、飛行機に乗ればCAさんも一目置いてくれる。ホテルでも対応が違うんです。これは30代半ばで買いましたけど、長く使ってボロくしていきたいですね。
スコッティ キャメロンのパター
これはゴルフ好きなら知らない人はいない、アメリカのブランドです。他社とスポンサー契約しているプロでも、パターだけはこのブランドを使う人がいるほどで。しかもこれは、オールハンドの削り出しで作られるタイムレス3Sという最上位モデル。ほぼ一般では流通していないモデルで、業者さんに頼んで45万円くらいで入手しました。
ゴルフクラブって、一般的にどんどん新しいモデルに変えていく世界。でも、パターだけは感覚が大事だから、自分に合ったものを長く使うほうがいいんです。僕としては、これからあと30〜40年ゴルフを楽しむとして、この一本を愛用できたらかっこいいなと。その年月で割ったら、そう高いものでもないでしょ? 唯一の問題は、盗まれやすい(笑)。ランチタイムとかで離れるときは預けなきゃいけないんですよ。あと、このブランドは毎年発売されるパターカバーもコレクション的な楽しみがあって。プレミアが付くんですよね。
ロレックスのデイトナ
時計っていうのは、世代を越えて似合うものがない世界。何を選ぶかで人となりが出るし、またプライスタグがその人を選ぶものでもあって。いまの目標として、僕はパテックフィリップのノーチラスが欲しいんですよね。できれば、ホワイトゴールド。こいつはひとつの“あがり”(いっちょあがり)時計でしょ? ファッション業界のトップはみんな持ってますからね。一方で、ロレックスのデイトナは、誰もが頑張れる通過点にあるものだと思うんです。30代、40代にとっての“あがり”時計。
この右のデイトナは、エル・プリメロというゼニスのムーブメントが搭載されていた時代のモデルで。実は、これを買うために僕は月に2回もグアムに行ったんですよ(笑)。というのも、デイトナっていうのは予約販売を受け付けていなくて、日本の有名時計店でも年に数本入るか入らないかというくらいなんです。ところが、当時、グアムのカルネロウォッチセンターには月に1本入荷するという噂を入手しまして。そこで、わざわざグアムに足を運んで、滞在中に1日3回も4回もその店へチェックしに行ってたんです。でも、全然入荷しなかったので、最終日に「俺はデイトナが欲しくてここまで来たんだ」って話をして。そうしたら、店員も毎日来るから顔を覚えてて「わかった、それなら入荷状況を調べてやる」と、最終的には「いま倉庫にも到着しているから、明日来てくれ」と。明日はもう飛行機の中。「じゃあ1週間後に来てくれ」って言うわけなんです。交渉して2週間後までは待って貰って。ゼニスとロレックスのWネームとなる最終モデルですからね、そりゃあ2週間後にグアム行きましたよ(笑)。当時は円高だったから60万円アンダーだったかな、いま120万くらいします。そんな話をお義父さんにしたら、そこまで好きな腕時計だったか!ってことで、左にある現行型のデイトナをプレゼントしてくれたんです。嬉しかったですね。
でも、デイトナは着るものを選ばないし、価値も落ちない。ロレックスってコンサバなブランドですけど、クロノグラフ、サブマリーナだけは男の世界って感じがするところも好きなんです。
シスレーのシスレイヤ
この連載でもお話したように、僕はマイナス5歳肌を提唱しているんです。でも、肌を5歳若く見せるにはたいした努力は必要としない。大事なのは肌にあったものを使うことだと思います。このシスレイヤは朝昼使える自然派のクリーム。4万5000円くらいかな。僕は3〜4年前からアレルギーが出るようになったんですけど、それからは僕がよくおすすめしているドゥラメールのモイスチャークリームよりもこっちのほうが肌に合う気がして。コスメに詳しいと女の子にモテますし、知っといて損はないですね。
ライオンのデンターシステマ
歯ブラシで一番大事なのは、歯周ポケットにあるカスを出すことなんです。カスは4日経つと石になってしまいますからね。デンターシステマの超極細毛は、毛先が細くて柔らかいのが最高なんです。これは、どんな歯ブラシよりも歯周ポケットに入ってかき出してくれますよ。以前、TOD’S会長のデッラ・ヴァッレさんにもデンターシステマをケースでプレゼントしたことがあるんですけど、数年後にお宅にお邪魔したときにも使われていて。聞いたところ、日本へ出張に行く社員に買って来てもらうほどのリピーターになっていた。それほどの優れもんなんです。歯が汚い、口が臭い人はチューもできないですから(笑)。みなさんも是非、一度使ってみてください。
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戸賀敬城
1967年、東京生まれ。MEN’S CLUB編集長。レクサスマガジン「ビヨンド」編集長も兼任する。学生時代からBegin編集部でアルバイト、大学卒業後にそのまま配属となる。1994年MEN’S EXの創刊スタッフ、2002年MEN’S EX編集長に。2005年時計Begin編集長、及びメルセデスマガジン編集長兼任。2006年UOMOエディトリアル・ディレクター就任、アウディマガジン編集長も務めた。2007年4 月現職(ハースト婦人画報社)。
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