一期一会 選・桑原茂一  ゲスト:竹花いち子 一期一会 選・桑原茂一  ゲスト:竹花いち子

一期一会 選・桑原茂一
ゲスト:竹花いち子

一期一会 選・桑原茂一

一期一会 選・桑原茂一

SHIPS'S EYE

今回のゲストは、凄腕コピーライターとして活躍後、突如としてレストラン『タケハーナ』をオープンさせた料理家の竹花いち子さん。独創的な料理と店内の雰囲気は、すぐさま多くの人に愛され人気店に。現在は不定期でのお料理教室や、ディクショナリー倶楽部でのイベントなど新たな活動へと邁進中。そんな竹花さんが、素敵で不思議なその人生を語ってくれました。

桑原 この世界に進む前は、福山雅治、徳永英明、さらにはノリピーと、作詞家として誰もが憧れる仕事をしてきたわけですよね。それを振り切って料理の道にいくキッカケをまずは教えて貰えますか?

竹花 作詞家というよりも、私としてはフリーのコピーライターという意識が強いですね。とはいえ、当初はコピーライター志望ではなかったんです。学生の頃は、企業の手先になるような感じがして広告業界は敬遠していましたから(笑)

桑原 でも、時代的には糸井重里さんを筆頭とするコピーライターブームの頃でしょ?

竹花 ブームは、ちょうど私が広告業界に入ったときに起きたんです。料理を始めれば料理の時代になったり、そこは運がいいんですよ。もともとは武蔵野美術大学でデザインの勉強をしていて。でも、当時はパソコンの時代ではなかったので線一本から手作業で。ところが、そういう細かい作業が昔から苦手で、美大でも「アイデアはいいけどフィニッシュワークが・・・」と言われ続けていたんです。

桑原 デザイナーって、昔はそこが一番大事だったもんね。

竹花 そうなんですよ。だから自分には向いていないと感じながら、大学時代は何をしていいかわからず悶々としていましたね。そもそも、美大っていうところはやりたいことを見つけて中退した人のほうが優秀なんですよ。

桑原 そうなの?

竹花 あくまでも私の意見ですけどね。本当に才能がある人は、自分でどんどんやり始めちゃう。いろいろ考えた挙げ句、自分としては立体デザインに興味を持って。何かを組み立ててカタチを作るようなことから、環境デザインのような大きなものまでやりたくて。

桑原 それは大きいね。

竹花 妄想だけは(笑)

桑原 そうか、その頃から何か人をビックリさせたいみたいな気持ちは芽生えているわけだ。

竹花 あっ、そうかもしれない! 言われてみれば、いまの料理にもつながってますね。さすが茂一さん。

桑原 だって、毎回みんなが驚くような料理を作ってくるじゃない。

竹花 それで、立体的なことをやりたいと思ったときに、あの石岡瑛子さんの妹で石岡怜子さんという方がいらっしゃって。イラストレーターとしてADCの最高賞も獲った方なんですけど。あるとき、彼女のディスプレイを渋谷西武で見かけて感銘を受けて、是非一緒に働きたいと思ったんです。そうしたら、ちょうどスタッフ募集があって。でも、募集要項は3年以上の経験がある男性でした。それでも連絡してみたら「作品を持って来てください」と仰ってくれたので面接に伺ったんです。そのとき持参した作品のなかに、学校の授業で作った広告のコピーがあって。その作品を石岡怜子さんの旦那さまで、オフィスの社長兼コピーライターの杉山さんが気に留めてくれたんです。

桑原 ほぉ、なんか面白い展開だね。

竹花 募集は予定通り経験のある男性が採用されたんですけど。キミおもしろから遊びに来なよみたいな感じで、杉山さんが進路相談に乗ってくれたんです。そこで仰ってくれたのが「あなたのアイデアは面白いけど、すぐにディレクションのような仕事はできない。そのポジションを得るまでには時間がかかるし、その過程で、自分が何をできる人かわからなくなって不安になると思うから、違うスキルをひとつ持っていたほうがいい」と。「コピーライターっていうのは言葉の仕事だけど、コピーっていうのは伝えたいものの本質を大きく考える仕事だから役立つし、才能もありそうだからやって見れば」って。

桑原 うんうん。

竹花 その話を聞いて、広告が好きなのか嫌いなのかわかるまでは、アタマで考えずとりあえずやってみようと。それで、いきなりフリーのコピーライター人生が始まるんです。

桑原 いきなりフリーランスなの?

竹花 杉山さんという素晴らしいコピーの先生がいたので、学校に行く必要はないと思ったんですよね。言葉は小さい頃から使っているし、ダメだと思ったら学校でも会社でも入ればいいかなと思って。始める前は「広告なんて」と思ってましたけど、いざやってみたら現場の仕事は楽しくて。TCCのコピーライター新人賞も頂いたんです。

桑原 すご〜い! もうトントン拍子だね、当時はギャラも良かっただろうし。でも、そこで天狗になったりしなかったの?

竹花 そこまでの才能はなかったですから。

桑原 そんなことはないでしょ。それで作詞家の仕事はどう始まったの?

竹花 昔から音楽にたずさわっている人に憧れというか、嫉妬みたいのがあったんですね。でも、自分は一生関わることのない世界だろうと諦めていて。それがあるとき、作詞家っていう可能性もあるなと思いついたんです。その話をよく行くバーのマスターに話したら、作詞家や作曲家のマネージメントをしている常連さんを紹介してくれて。そんなこんなで、アイドルのシングル曲をやらせて頂いて。それからですね。

桑原 ふ〜む。ここまでの話のなかで、一歩踏み込む瞬間っていうのが何度か起きているじゃない? 振り返ってみて、思い切る瞬間に何かをするとかってあるのかな?

竹花 人生の大事なポイントになると、ぐっと自分のなかに入って考える癖がありますね。本当の自分はどう思って言うのかを、もうひとりの自分と対話して。「そういうこと思っていたのかキミは!」って引っ張り上げる感じ。それは子どもの頃からしていましたね。

桑原 普通の人っぽく話をするし、雰囲気もすごく普通なんだけど、やっていることは人と違うよね。そのギャップが今日のポイントかもしれない。そこ行くの? っていう道を歩んでいる。

竹花 そうなんですかね。でも、それって時に人を傷つけますよね。最近やっと、みんなは自分と同じじゃないってことに気づいたんです(笑)

桑原 コピーライターから作詞家へっていう栄光の道を行って。

竹花 いやぁ〜、そこまで栄光じゃないんですよ。TCCの最高賞を獲ったわけでもないですし。ただ自分を知りたいっていう一心で生きている感じなんです。

桑原 でも、たとえTCCの最高賞が獲れたとしても、「私はそれで幸せになれると思っていない」というのが前提としてある人だよね。

竹花 その通りですね。広告業界に入るときも、なんとなく違うと思いながら、15年後にやっぱり違うと思ったわけですから。

桑原 食への道はどうして?

竹花 仕事を始めて12〜13年目くらいに、広告業界はなんか違うよなって考え始めて。あるとき、これじゃダメだという気持ちになって、次の仕事を考えようとしたんです。でも、全然思いつかなくて。どうしていいかわからなくなった。

桑原 仕事が楽しくなくなった?

竹花 仕事で楽しい部分はあるんですよ、いっぱい。それよりも意識の問題っていうのかな。人生2回目となる煮詰まった状況になって。あるとき気づいたのが、安定的な収入をキープしながら考えているからダメなんだと。もうすべてを捨てて挑もうと思ったんです。そのアイデアが3月に浮かんで、来年の年賀状には「コピーライターを辞めました」と書いてみんなに送ろう! と決心したんです。その瞬間にすごく気がラクになって、それから2週間後に「料理じゃん!!」って声が降ってきた。

桑原 えっ、そうなんだ。それは何か伏線はないの?

竹花 もともと、小学3年生くらいから料理が好きだったんですよ。でも、そのことをちゃんと真ん中に置いたことがなくて。自分ではセンスがあると感じていたし、「コピーライターの仕事より料理のほうが才能あるよね」なんて、みんなに冗談では言ってたんです。とはいえ、料理といってもいろんな方向性があるじゃないですか。これまでのスキルを生かそうとすれば、文章も書けるので料理研究家として本を出すのがいいかなとか悩んだんですけど、私は小さなライブハウスで聞く音楽が好きなんじゃん! って思って。それなら毎日がライブハウスのほうがいいと、お店を出すことに決めたんです。

桑原 それですぐにお店を出したの?

竹花 いや、最初はどこか修行に行こうと思ったんですけど、誰かの色が付くのもイヤで、自分はそういうタイプではないなと。ありがたいことに貯金はあったので、自分に3年の猶予を与えようと考えたんです。それから毎週日曜日に、友人やその友だちを4〜8人集めて家で料理をふるまったんです。そこでは毎週思うがままに違うメニューを作ろうと。でもどうせみんな褒めてくれるだろうから、ちゃんと自分も席に付いて食べて、料理はすべて写真に収めてひとつひとつ確認していったんです。そのときに作ったものを振り返ってできたのが『タケハーナ』のメニュー。そうしたら、まったくカテゴリーのない自由なものができていて。結局、そろそろ大丈夫かなと思って、仕事を辞めてから2年でお店を出すことになりました。36歳でコピーライターを辞め、38歳でお店を出して、いま58歳(笑)。

桑原 あの店(タケハーナ)に初めて行ったときは、内装も強烈だったな〜。

竹花 あれもラッキーなことがいっぱいあったんですよ。でも、誰の人生でも人に話すとドラマチックに聞こえるものですよ。それは本当にそう。道行くおばちゃんに話を聞いても絶対にドラマチックなんですよ。

桑原 よく考えると、毎週日曜に集まってくれた人たちがお客さんになるわけだから、完璧なプロモーション活動をしてたわけだね。

竹花 申し訳ないですけど、無意識にそういうことができちゃうんです。バランス感覚がいいのは私の自慢。

桑原 それはすごい。

竹花 あと、広告業界の人は新しいもの好きだから、最初のうちは絶対に来てくれると思ったんです。その代わり、近所の人は最初は来てくれないですよね。近隣の人だけを相手にするのは不安でしたし、自分がボロボロになるだろうと思っていました。

桑原 それで何年続いたの?

竹花 18年間。最終的にコピーライターの職歴を抜きました。お店は最後まで楽しかったですけど、この先を考えると肉体的にきつくなるだろうと思ったんです。料理にまつわることは一生やっていきたいので、そのためにどうするかを考えると、5年後はまだお店に立てますけど10年後は厳しいだろうと思って。それに、もっと密な距離感で料理をしたいという気持ちが芽生えたんです。それってお母さんと家族のようなものなんですけど、やっぱり料理はそれこそがいちばんなので。

桑原 料理に限らず、仕事を続けて行くためには、どうしても経営者にならないといけないけど、竹花さんは常に作家活動として生きているよね。誰かに任せるという感覚がない。

竹花 そうですね、昔から仕事している感覚はあまりなくて。だから、オンとかオフの感覚もないんです。

桑原 ここでやっと本題なんだけど。女性がひとりで働いて生きて行くことに対して、この国はそんなに温かくないじゃない? もちろん、優秀な女性は多いし、ひとりで頑張ってらっしゃる方もすごく増えているけど。でも、相変わらず政治も経済も男性が牛耳っているように外からは見える。そんななかで、誰にも寄っかからずに生きて行くにはどうすればいいと思う? SHIPS MAGを読んでくれている20代や30代の女性に、何も竹花さんが特別な存在なわけではなくて、みんなと同じで、誰でもできることなんだよって伝えたいんですよ。

竹花 なるほど、なるほど。

桑原 竹花さんは、結婚という道を選ぶこともできたわけですよね。

竹花 私は中学生くらいのときから手に職を付けようと思っていて。それは何故かというと、ちゃんと愛し合いたかったからなんです。

桑原 お〜。

竹花 親を見てて、と言うと失礼だけど。夫婦がうまく行っていないのに別れないのは、経済的な理由なんだなろうって多感な中学生時代に思ったんです。もちろん、それが本当の理由かはわからないけど、そう感じてしまった。だから、私は純粋に愛し合うために、手に職つけようと思ったんです。嫌だと思ったら別れられる状況にしたかった。

桑原 中学生でそう考えるって、甘えが許されないような教育を受けてきたの?

竹花 そんなことはないですね。ただ、甘えたいと思ったことはないかも。大学まで行かせてもらったり、結果的にはいろんなことで甘えてますけどね。そういう出発点があったので、結婚というより常に愛し合いたいんです。これまで「なんで結婚しないの?」って聞かれたときは、「結婚は老後の楽しみ」って答えてましたね。私のなかで、愛し合うことと結婚は別の話なんです。子どもを持たなきゃっていう強迫観念もなかった。

桑原 もしかすると竹花さんは大人になるのが早かったのかな? 大人になることを拒否しながら、ずるずると大人のフリしている人は世の中に多いけどね。よく思うんだけど、日本って大人になろうとしない人が生きていける社会なんだよ。それが大きな問題で。

竹花 そうですよね。確かに、本当そう思います。

桑原 竹花さんの「自分が自立しなくては、愛し合うこともできない」という立脚点に戻れば、それこそがひとりで生きて行くということじゃない? みんなそこを曖昧にしながら、なんとなく会社みたいな場所に守られながら生きている。

竹花 その土台が徐々に崩れかけているから、日本社会がバタバタしているんでしょうね。

桑原 そうそう。選挙に行かないとか、みんな外の世界に感心がないじゃない。でも、その安心感が揺らいでいることは事実だと思う。

竹花 このページを読んでくれている若い女性たちには、世の中のルールとか規範なんて一切気にしないで! と伝えたい。選挙はもちろん大事だけど、政治なんか無視して好きなことやればいいと思うんですよ。最近は女の子だけで小さなお店を作ったり、ネットでビジネスを始める人も多いですよね? そういう感じで女性たちが好き勝手やって、それが広がって古くさいもの取り囲んじゃったら面白い。そうなればいろいろ変わっていくと思うんですよね。

桑原 それは面白いね。今日は本当にありがとう。

竹花いち子

武蔵野美術大学・視覚伝達デザイン科卒。以後15年のフリーランスのコピーライターを経て料理の道へ。東京料理『タケハーナ』(1993〜2011年)をレストランとして展開したのち、現在は「キッチン☆ボルベール」の名で料理活動中。ディクショナリー倶楽部でも、「笑う竹花席」を隔月で開催中。次回第6回は5/17(土)に決定している。

ディクショナリー倶楽部 千駄ヶ谷

「偶然料理」をコンセプトとした絶品メニューが堪能できるカフェも人気。現在ギャラリーでは「ART PICNIC おっぱい展」を開催中。ー食はおっぱいから。おっぱいで平和を。おっぱいでみんな仲良く。ー「おっぱい」をテーマにした国内のトップクリエイターたちによる作品は見どころ満載。次回のおっぱい展パーティーの開催は4/26(土)に決定。歌あり、笑いあり、おっぱいグルメあり、もちろん最高のDJタイムも。
http://clubking.com/archives/category/artpicnic 

ギャラリー&カフェ ・ ディクショナリー倶楽部 千駄ヶ谷
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